未知なる地で、未知なる怪獣と戦うSF漫画『絶望のイヴ』。何もわからない状態で、彼らは「生」を掴むことができるのでしょうか。待ち受ける結末は絶望か、それとも希望か……。ぜひ皆さんの目で確かめてみてください。
ある日目覚めると、見知らぬ地へ飛ばされていた……。『絶望のイヴ』は、すべてが謎だらけの状況から始まります。
ここはどこなのか、あの巨大な怪物は何なのか。読者はもちろん、登場人物たちも何もわかっていません。ただ殺されないために、人々は用意された戦闘用スーツ「シノビ」と「巨大ロボット」を駆使して戦います。
謎に包まれたサバイバル、彼らは最後まで生き残り、この土地の謎を解き明かすことができるのでしょうか。
- 著者
- ["黒井 嵐輔", "海童 博行"]
- 出版日
- 2014-10-11
本作の魅力は、登場人物ひとりひとりの「生」への執着がしっかりと描かれていることです。自ら危険に飛び込みたい人などいません。それでも彼らは生きるために、恐怖と戦いながらも怪物へと挑みます。
キャラクターたちの複雑な想いがわかるからこそ、読者は物語の世界へと引き込まれ、彼らに共感することができるのです。
また謎が徐々に明かされていくことで、我々読者は登場人物と足並みを揃えて未知の世界を疑似体験することができます。
この記事ではそんな本作の魅力を、全4巻の見どころとともにお伝えしていきます。ネタバレを含むのでご注意ください。
物語は、月島光希(つきしまみつき)が見知らぬ部屋で目を覚ますところから始まります。大きな窓の外には荒野が広がっていて、場所の検討もつきません。さらにどこからか「ピーピー」という耳障りな音が聞こえてきます。
室内には彼同様、なぜ自分がここにいるのかわかっていない者が30人ほどいて、皆戸惑っている様子です。
冷静になって部屋を調べてみると、なにやらボタンが。ある人物が勝手に押してしまうと、側にある扉が開きました。パニックになりかけていた者も多く、大半の人がその扉をくぐり部屋を出ていってしまいました。
光希もその集団についていこうとしましたが、品川明日美(しながわあすみ)という女性に引き留められ、部屋に残留します。
しばらくすると、窓から見える外の景色に、先ほど出て行った者たちが見えます。やはりあの扉が外へ脱出する道だったのかと思った時、彼らが次々と倒れていきました。さらに、なにやら触手のようなモノに体を貫かれているのです。
結局、外に出た者は全滅。そして割れた地面から、人の大きさをはるかに上回る怪物が現れたのです……。
「ピーピー」という警告音のような音で目覚めた月島光希。そこは倉庫のような大きい部屋で、窓の外は見渡す限りの荒野です。
きのうもいつもと同じようにカラオケボックスでアルバイトをしていたはずなのに、夜寝る前のことがどうしても思い出せません。
ほかにも30人ほどが部屋の中にいて、目覚めた彼らは、光希同様この状況を理解できない様子です。
扉が見つかると、「この部屋にいても安全とは限らない」と考える大半の者が外へと出てしまいました。光希も続こうとしますが、明日美という少女に引き留められ、部屋に残ることになります。
「どうして…どうして僕を引き止めたんだ?せっかく行こうと決めたのに」
「……止めたのは私じゃない…止めたのは 私の心」(『絶望のイヴ』1巻より引用)
外へ出た者たちのことを見ていると、彼らは苦しそうに倒れていきます。さらに巨大な怪物が現われ、次々と捕食していったのです……。
部屋に残った者たちも、茫然自失。するとそこへ、1体の小型ロボットが現われました。
「緊急事態発生!!緊急事態発生!!」(『絶望のイヴ』1巻より引用)
そのロボットは猫のような犬のようなかわいらしいフォルムで、首元にLYB(ライブ)と書いてあります。
「これより起動準備に入ります!!」(『絶望のイヴ』1巻より引用)
ライブが告げると、部屋の中には奇妙な機械が現われました。
「至急 本機の起動を開始して下さい」(『絶望のイヴ』1巻より引用)
何が何だかわからない一同。しかし、なぜか明日美だけは起動方法を知っているようなのです。疑問だらけですが、いまはすぐそばに怪物が迫っていて一刻を争う事態。ライブと明日美の指示のもと、彼らはその機械に乗り込み、怪物に立ち向かっていくのです。
- 著者
- ["黒井 嵐輔", "海童 博行"]
- 出版日
- 2014-10-11
とにかく我々読者も、そして登場人物も、状況を理解することができないまま物語が進んでいきます。
ここはどこなのか、あの怪物は何なのか、ライブという話すロボットは何なのか、突然現れた機械は何なのか……。
唯一何かを知っていそうな明日美も、「心が理解している」と言うのみで、頭では理解できていない様子。しかしやるしかないので、彼女の指示のもと機械に乗り込みます。
どうやら、彼らがいた倉庫のような部屋は巨大なロボットの一部で、機械のようなものはコックピット。明日美はこのロボットを操縦できるようなのです。
ここから、「巨大ロボット」VS「巨大怪物」という現実離れしたバトルが勃発します。わけも分からないまま戦いに巻き込まれた光希たち。果たしてこの戦いの結末は?
謎が山積みのまま、1巻は終わります。
2巻では、巨大ロボットに積まれていた「シノビ」という戦闘用スーツを着て、光希ともうひとりの男性がロボットの外へ出て、周辺の調査を始めます。彼らも前巻の明日美同様、知るはずのないスーツの使い方をなぜか理解したのです。
本人たちが忘れているだけで、記憶のどこかに過去の経験が残っているのかもしれません。
外に出た2人の前に見たこともないキューブ型の機械が現れ、「お前たちは味方か?」と聞いてきました。またも言葉を話すロボットの出現に驚く彼らですが、それもつかの間、巨大怪物が現れます。
シノビと巨大ロボットの力でなんとかその場をしのぎますが、結局現状に対する手がかりは掴めないままです。しかし留まっていても何もできないということで、彼らは巨大ロボットに乗り込み、前に進んでみることにしました。
しばらくして表れたのは、巨大な壁です。てっぺんの様子もわからないので、シノビを着た光希を含めた5人が、再び外に出ることになりました。
やっとのことで壁の頂上まで辿り着きますが、体力とシノビの動力を使い果たした彼らは休息をとらなければなりません。ひと休みして目を覚ますと、奇妙な武装をした集団に取り囲まれていたのです……。
どうやら彼らは、以前見たキューブ型の機械に載っていた者らしく、再び問いを投げかけてきました。
「お前たちは人間か……」(『絶望イヴ』2巻より引用)
- 著者
- ["黒井 嵐輔", "海童 博行"]
- 出版日
- 2015-01-10
巨大ロボットに加えてシノビという新たな力を得た一行は、この地の調査を開始します。光希はシノビの使い方を覚えていますが、そのほかに複雑な通信機を扱えるものなど、それぞれ適合者がいる様子。
そしていよいよ、巨大怪物以外の生命体とも接触します。光希たちを取り囲んでいたのはやや耳の長い人間のような生物。彼らの問いに「人間だ」と答えると、歓喜してみせました。
どうやら、見た目に多少の差異はあれども彼らも人間のようで、100年もの間光希たちが現れるのを待っていたと言い、「神」とまで崇めてくるのです。
未知の地で、「味方」と思える存在と出会えたことは、精神的にもだいぶ楽になるはずです。『絶望のイブ』というタイトルで、まだ物語の詳しいことはわかっていませんが、わずかながら「希望」が見出されてきました。
この後光希たちは、彼らの後をついて「スティアガーデン」というところへ移動します。またも謎の土地ですが、今後はどのように展開していくのでしょうか。
スティアガーデンに到着した光希たち。なんでも100年前の出来事を知っているという長の元へと案内されました。
当時のスティアガーデンは小さな集落で、怪物の脅威にさらされながらもなんとか生き延びていました。すると100年前、光希たちと同じような若者が巨大ロボットに乗って突然表れ、「知識」と「材料」を与えたそう。さらに、「100年後に我々と同じような者たちが再び現れ、その者たちは自分たちを超える希望になる」と予言をしていたというのです。
これを聞いたスティアガーデンの人々は、この地を繁栄させ、「神」が現れるのを待ち続けていました。
そんな話をした後、長は光希たちに「50年前のもの」だというビデオを見せます。そこには、怪物による残虐な殺戮の様子が記録されていました。
さらにその映像を見た光希の頭のなかに、何かが流れ込んできました。
アリスという犬、シノビを着て戦う自らの姿、巨大な怪物……
この光景はいったい何なのでしょうか。
- 著者
- ["黒井嵐輔", "海童博行"]
- 出版日
- 2015-03-11
3巻にして、ようやく物語に輪郭が帯びてきました。この地はどうやら地球のようで、100年前にも光希たちと同じ状況の者がいたようです。しかも彼らには、いまの光希たちと違い、明確な目的がありました。
彼らは、殺戮をおこなう巨大怪物の殲滅を目指していましたが、その目的を果たすことができず、100年後の光希たちに託す形になっていたのです。
光希たちからすれば、勝手に押し付けられたようなもの。ここから彼らは、生き残るために怪物と戦うか、被害者面をして戦いを避けるか、選択を迫られます。これは自身の命にも関わる問題で、まさに分岐点といえるものなのですが、ここで彼らが葛藤する様子は想像を超えるものがあるので必見です。
「生きるために何を選択するか」、これこそが『絶望のイヴ』が問いかけたいことであり、本作の肝だといえるでしょう。読者の皆さんも「生」ということについて、考えてみてください。
光希たちは、スティアガーデンの人々が開催してくれた宴で、怪物討伐への英気を養っていました。ひとりひとりが「生きる」ための選択をした結果、全員で納得して巨大生物への戦いに挑むことになったのです。
調査のとおり襲撃してきた怪物に、彼らは巨大ロボットで応戦します。そして戦いの最中、光希は再びデジャヴを感じ、過去の記憶を蘇らせるのです。
かつて彼は、対特殊生物組織に所属していた軍人で、いまと同様に怪物と戦う日々を過ごしていたのです。実はいま共に戦っている仲間もその時のメンバー。さらに明日美との関係も思い出し、光希は巨大怪物の攻撃を受けながら涙を流すのでした……。
- 著者
- ["黒井 嵐輔", "海童 博行"]
- 出版日
- 2015-08-11
全4巻ということで、この巻で完結する本作。なぜ光希たちが選ばれたのか、巨大ロボットとは何なのか、100年前に現れた人物は誰なのか、巨大怪物とはいったい何なのか……これまでの謎が、すべて「なるほど」という形で収束されていきます。
さて本作は『絶望のイヴ』というタイトルですが、結末は、その名に反したものになっているのではないでしょうか。
巨大な怪物と戦うことで、登場人物も読者も何度も絶望を与えられますが、そのなかにも「希望」があることがわかるはずです。また、ひとつの決断をくだすということ、ひとつの選択をするということは、人生において大きな分岐点を果たしているということも再認識できるはずです。
『絶望のイヴ』は全4巻と短いながらも凝縮された内容です。そのなかで読者に問いかけられるさまざまな問いを、ぜひ考えながら読み進めていってください。