木根真知子、3×歳、独身。まっとうな会社員に見えますが彼女の映画好きは普通ではなく、それゆえに毎回騒動が巻き起こってしまうのです。実際の映画をテーマにした1話完結型の『木根さんの1人でキネマ』はスマホで無料で読むことができます。
「1人でキネマ」という映画感想ブログを書いている木根真知子、30代、独身。映画好きが高じて執筆をしているそのブログは、主観にもとづいたちょっと過激なものです。
名作や古典は寝てしまうという彼女の好みは、ゾンビ映画やアクション映画。コメディも大好きです。けれど好きすぎるあまり、他人と意見が対立してしまうこともしばしば。
1話完結型で、「ターミネーター3」「スター・ウォーズ」「ジョーズ」など実際の映画をテーマにして描かれています。とりあげられている作品を観たことのある方はより楽しめるはず。そうでなくても、木根の映画愛は本物なので、彼女が言うなら……と実際に作品を観てみたくなるかもしれません。
映画をきっかけにいろんな騒動が巻き起こっていく『木根さんの1人でキネマ』、映画好きにはたまらない「あるある」もあり、おもわず笑ってしまうこと間違いなしです。
- 著者
- アサイ
- 出版日
- 2015-12-25
30代で独身の木根真知子は、会社では課長職を務め、部下の信頼も厚い女性です。しかしその裏の顔は、過激な映画感想ブログ「1人でキネマ」を書くほどの映画好き。
会社では、映画はよく知らないという「擬態」をしています。それは過去に、好きな映画を否定されるという辛い出来事があったから。
そんな彼女の元に、さほど仲が良いわけではない同期の女性・佐藤が転がり込んできて、2人は同居することになりました。佐藤は映画にはさほど興味はなく、木根ともしばしば意見が対立してしまいます。
この2人の会話で、いっそう木根の特殊性が際立つことになっていくのです。
3巻に収録されている13本目のタイトルは「ダークナイトとアメコミヒーロー」です。
木根の住むマンションに同居している佐藤は、映画に詳しくありません。これまでにも木根が薦めた作品を観たり観なかったりしていました。
同じ映画を観て「面白い」と意見が合うこともありますが、佐藤は映画を分析して語るタイプ。感情が先に立つ木根とは根本から見方が違うのです。
そんな佐藤がお風呂上がりにひと言。
「うわ またバットマン見てる」(『木根さんの1人でキネマ』3巻より引用)
しかしその時木根が観ていたのは、「キャプテンアメリカ ウィンターソルジャー」でした。
キレそうになるのを抑えて、木根はDVDのパッケージを見せて確認することに。すると佐藤にとっては、スーパーマンであろうが何であろうが、アメコミ=バットマンとのこと。
木根は昔のことを思い出します。それはアメコミ映画冬の時代。ガキ向け、マニア向けと呼ばれ、制作も低予算のB級。中古ビデオもまとめて処分品扱いになっていて、彼女の兄も「ダセえ」と言いました。
そんな時代を経験し、VFXなどの進化があり、いまはアメコミがブームといえるほどの人気になっています。それなのに佐藤はまったく興味を示さず、なんの区別もついていないのです。
この状況を笑ってやり過ごせるほど、木根は心の広い女性ではありませんでした。「木根さんvs佐藤さん シビル・ウォー」が始まります。
「まずあんなコスプレしてるのがわからない」
「それは象徴(シンボル)として悪人に恐怖を与えるためよ」
「ジョーカーも警察に任せればいいじゃない?」
「警察や法じゃ戦い切れないからバットマンが戦うの」(『木根さんの1人でキネマ』3巻より引用)
議論はテンポ良く続きます。佐藤の疑問ももっともだし、木根の答えも納得できます。
会話を続けながらも木根は、佐藤がこちらをバカにしているのではなく、本気で議論したがっていることに気づいていました。しかし、「初心者にはわからない映画の文法だ」と言い切ってしまいます。
佐藤は「分かった」と言い黙ってしまうのですが、その1週間後、山のようなアメコミ関連のDVDとコミックを積み上げて、「さあアメコミ映画の話をしようか?」と木根の前に現れるのです。
完全に据わっている佐藤の目……そこからの展開は、ぜひ実際に読んでみてください。対立していたはずの2人の意見が一致するシーンが、最大の見どころになっています。
- 著者
- アサイ
- 出版日
- 2016-06-29
中学時代、木根は好きな映画を「気持ち悪い」と言われ、さらに彼女自身も否定されたという経験がありました。そのため社会人になってからは、「映画には興味がない」という「擬態」をとっています。
7本目「ジブリ映画」では、部下たちとの飲み会で、ジブリ映画を観たことがないと打ち明けました。その擬態は完璧です。
その部下のなかには、映画好きの工藤という女性がいました。ある日、彼女がランチの席で、「面白い映画ブログを見つけた」と興奮ぎみに語るのです。悪口も多いが、褒める時は開けっぴろげに褒めて、ここに書いてあるおすすめの作品を観るのが楽しいという工藤。
さらに、「ファイト・クラブ」という映画が好きなのに、以前「女にあの映画が分かるの?」と言われて黙ってしまったことがあったと語ります。このブロガーのようなガッツがあれば、「私はこれが好きなんだ!」と言い返せたのに……と。
もちろんそのブログこそ、木根が書き続けている「1人でキネマ」。工藤は、ブログ主が木根だとはまったく気づいてない様子です。
感情たっぷりのブログに従って、工藤は同僚たちに映画を薦めるようになります。社内では映画鑑賞会も立ち上がり、休憩時間には映画の話で盛り上がるようにもなりました。
ここまではよかったのです。
しだいに工藤の暴走が始まります。お薦めの映画を観ていない人を糾弾し、吹替えを否定し、映画は必ず映画館で観るなどルールを作って人に押し付けるようになっていきました。
ブログ主として、映画好きとして、そして直属の上司として、木根はついに立ち上がるのです……。
映画「ファイト・クラブ」に登場するグループと、工藤がリーダーとなった映画集団とを重ね合わせているあたり、巧みな構成になっています。
映画をテーマにしている『木根さんの1人でキネマ』のなかで、17本目「新世紀エヴァンゲリオン」は異質かもしれません。まず前半が、TVアニメの「エヴァ」、後半が映画版の「エヴァ」を扱うのですが、比重はアニメに置かれています。
ある日、木根、同居人の佐藤、そして高校時代の友人のキョーコが飲んでいた時のこと。アニメ好きのキョーコに対し、木根は悪気なく「TVアニメって映画の2軍みたいなものでしょ?」と言ってしまうのです。
かつてアメコミを全部バットマンと言われてキレかけた木根ですが、今度は自分が怒らせてしまいました。
キョーコは布教用に持っていた「新世紀エヴァンゲリオン」のBDを渡してきます。パッケージを見て「多分ガンダムみたいなやつ」と平然と言い放つ木根に、読者も突っ込みたくなってしまうはずです。
しかし実は前から興味はあったとのことで、その日の夜に木根と佐藤は一緒に観ることにしました。
そこから5ページにわたって、アニメを観る2人の反応が描かれます。驚いたり共感したり、佐藤が泣いたり木根が叫んだり。ラストの回の前ではワクワクが止まらない様子です。
しかし次のページで、いきなりキョーコの家に殴り込みに行く2人の姿が描かれました。
「話ぜんぜん終わってないじゃーーーん!」(『木根さんの1人でキネマ』3巻より引用)
それに対して大笑いをするキョーコ。映画版で終わるから、と今度は「新世紀エヴァンゲリオン劇場版 シト新生」を渡しました。
そして次のページでやはり2人はキョーコに殴り込みに行くのです。
「エヴァ」を知っている読者は存分に楽しめる展開。落ち着いた後のキョーコの涙ながらの主張には、ほろりとさせられてしまいますよ。
- 著者
- アサイ
- 出版日
- 2017-10-27
どの話でも木根の映画愛が暴走する『木根さんの1人でキネマ』。ただ映画が好きなだけなのに、なぜこうもトラブルや争いごとが起こってしまうのかは謎ですが、好きなものを好きと言う彼女のその姿に、笑いながらも勇気をもらえる読者も多いのではないでしょうか。
戦う相手は、彼女の趣味を否定する母親や、世代が違う上司たち、映画館で物音をたてる客や、ときには台風などさまざま。どんな相手にも木根は全力で立ち向かい、好きな映画を観ることに情熱を注いでいます。
また本作はただ映画作品を紹介しているだけでなく、各キャラクターも個性的なので、実際にテーマになっている映画を観たことがない読者も存分に楽しめるのです。
そんな本作は、スマホの漫画アプリ「マンガPark」で無料で読むことができます。1話完結型なので、ぜひお気軽にご覧になってみてください。
映画愛にあふれた『木根さんの1人でキネマ』。映画好きの方はもちろん、そうでない方もきっと楽しめるので、おすすめです。