実在した紀州藩士、酒井伴四郎が勤番中に書き残した「酒井伴四郎日記」をもとに描かれたグルメ漫画『勤番グルメブシメシ!』「おかわり」。歴史的資料をもとに描かれた本作では江戸当時の空気がリアルに表現されており、読む者を引き込みます。2018年1月にはドラマ新シリーズの放送を控えた人気作です。
酒井伴四郎(さかいはんしろう)は、江戸後期に生まれた紀州藩士。紀州藩の勤番(日本各地の諸大名の家来が、江戸や大阪などの遠方に単身赴任すること)として江戸に訪れていた彼は、勤番中の日々の出来事を詳細に書き記した「酒井伴四郎日記」を残しており、現在(2017年12月)も当時の生活風景を知るための貴重な文献として大切にされています。
その日記を元に、江戸時代の武士や町人たちの生活風景を描き出した作品が『勤番グルメブシメシ!』。続編の「おかわり」とともに、酒井伴四郎が過ごした江戸の日々を追体験できる歴史・グルメ漫画となっています。
作者は『食キング』などで知られるグルメ漫画の第一人者、土山しげる。心の底から料理の美味しさを噛み締めているかのような登場人物たちのリアクションの描写が見事で、思わずお腹が鳴りそうになります。
2017年1月には『幕末グルメ ブシメシ!』としてドラマ化され、2018年1月からは新シリーズ『幕末グルメ ブシメシ!2』として再びドラマ化がされることが決定しました。この記事では原作漫画の見どころ、魅力をご紹介していきたいと思います。
- 著者
- ["土山しげる", "酒井伴四郎"]
- 出版日
- 2015-12-28
時は幕末。主人公の酒井伴四郎(さかいはんしろう)は勤番として、江戸・赤坂の紀州藩中屋敷の勤番長屋に身を置いていました。伴四郎の好きなことは「食べること」。日々さまざまな場所におもむき、美味しい食事を楽しんでは日記に事細かに書き残すことが日課です。
伴四郎たちがひたすらに楽しむ、素朴で美味しそうな江戸時代の料理は、読んだ人の胃袋を刺激します。さまざまな国の食文化が浸透した現代、あらためて日本食のよさを知ることができるグルメ漫画です。
江戸時代を舞台としているため、取り上げられる調理は当然昔のものばかり。海外の食文化もそれほど多く流入してきていない頃なので、和食がメインです。伴四郎たちは米を主食に、魚介や山菜などの食材を使った料理を楽しんでいます。
昔の料理なので、味付けもシンプルなものが多くなっています。ポピュラーな調味料は塩や醤油で、砂糖を使った甘い味付けは江戸料理の特徴です。こういった当時の食文化に触れられるのも、大変興味深い部分といえるでしょう。
昨今のグルメ漫画は特殊な食材や調理法を取り上げたものが多く、シンプルな調理で、素材の味の生きた料理を楽しむ本作は逆に新鮮です。江戸時代の食文化から学ぶことで、粋な食通になれるかもしれません。
同じ料理でも、江戸時代と現代とでは目に見える違いがある料理があるところも面白いところです。たとえば寿司(作中では「鮓」と書かれています)は、ネタや食べ方にも多少の違いはありますが、最も目につくのは大きさの違い。江戸時代に握られる寿司は現代の倍以上に大きく、成人男性である伴四郎の手のひら半分が埋まるくらいに大きいのです。
大人の男が向かい合って、将棋でも打つかのように悩みながら鮓を食べる姿は平和そのもの。1巻の4話に収録された可愛らしいエピソードとなっていますので、ぜひ注目してみてください。
また、伴四郎たちが王子の有名な料理屋を訪れた際には、名物ともいえる「釜焼玉子」を食べますが、これがまたなんとも分厚くて大きいのです。当時はまだ珍しかった釜焼玉子の見た目と味に伴四郎たちも大興奮。あっという間に平らげてしまうのでした。
料理だけでなく、食べ方や、料理での客のもてなし方、作法の違いまで知ることができる本作。後で誰かに話したくなるような豆知識も満載です。
物語は、井伊直弼が暗殺された「桜田門外ノ変」以降の歴史を主軸として進んでいきます。当時起きた事件がもたらした影響やその後の動向、江戸に住む人々が何を思って過ごしていたかなどを詳しく知ることができるため、本作を読むことで江戸の空気を肌で感じることができるのです。
また、赤坂に住む伴四郎たちは仕事・プライベート問わず江戸の各地に足を運びます。浅草の浅草寺、吉原の花魁道中、両国の見世物小屋など、町ごとに異なる雰囲気を楽しむ伴四郎たちと一緒に、江戸を観光している気分になれるでしょう。
今自分が住んでいる町が、江戸時代ではどんな様子だったのかを本作を通して知るのも面白いかもしれません。グルメ漫画でありながら、江戸時代の庶民的な歴史も学べる作品となっています。
本作は酒井伴四郎と、叔父などの同伴者が食事を楽しんでいる風景にスポットをあてたグルメ漫画です。恋愛劇やちゃんばら要素は一切なく、とにかく穏やかな生活が流れていきます。
風邪を引いたら、歩き売りの豆腐屋から買った豆腐で湯豆腐を作ったり、同僚と風呂屋に行った帰りに鶏鍋をつついたり、当時は捨てるものとされていたマグロのトロの部分をこっそりと炙って、口の中でじゅわりと溶けるのをいたずらっぽく楽しんだりと、伴四郎たちの生活は気ままにゆったりと進んでいきます。
武士や商人が垣根なく交流している様子も実に和やか。居合わせた来客に昼食を勧めたり、逆に他所でご馳走になったりと、美味しいものを皆で共有し合う様子を見ると、心がほっこりすること間違いなしです。
- 著者
- ["土山しげる", "酒井伴四郎"]
- 出版日
- 2017-01-20
グルメ漫画としても、歴史漫画としても楽しめる本作。ドラマを見られる前、または見られた後でも、原作漫画を読めば作品をより深く楽しむことができます。気になった方はぜひ、この機会に楽しんでみてください。
いかがでしたか?手の込んだ料理も美味しいですが、素材そのままの味や新鮮さがダイレクトに伝わるような料理もまた、素敵な料理だと思います。
二度にわたるドラマ化を果たそうとしているこの『勤番グルメ ブシメシ!』「おかわり」を読み、古さが逆に新鮮なグルメ漫画を楽しんでいただければと思います。