スマホアプリの「マンガUP!」で掲載されているオリジナル作品『あの夏のイヴ』は、小さな村で起こる惨劇の謎を解き明かすミステリーサスペンス漫画です。 今回はそんな本作の見所をご紹介していきます。スマホアプリで無料で読めるので、ぜひご一読下さい。
- 著者
- 如月 命
- 出版日
- 2017-11-22
田舎特有の独特な風習が残る小さな村を舞台に、次々と起こる猟奇的な死亡事件の謎に迫る作品『あの夏のイヴ』は、可愛らしい絵柄とは裏腹に不気味で凄惨な描写と、不安を煽る謎の数々によって読者にじわりじわりと恐怖を与えるミステリーサスペンス漫画となっています。
また、本作は女性キャラクターの艶めかしいシーンにも力が入っており、ホラーとエロティックの融合は相性が良いことを再確認出来る作りとなっているのも特徴です。今回はそんな本作の謎を考察しつつ、魅力をご紹介致します。
1976年の7月、かなり田舎にあり、奇妙な風習の残る十恩村(とおんむら)に住んでいる主人公の17歳の少年、宮崎裕(みやざきゆう)は、1歳年下の2人の女の子、江川結衣(えがわゆい)と間宮瑠夏(まみやるか)に好意を抱かれ、平穏ながらも満足のいく日常を送っていました。
村の風習の一つである「成人の儀」が近付くにつれて、2人からの好意に決着をつけようと、裕は旧校舎で待っている2人の下へと走ります。
しかし、その途中で見たのは、無残にも縦に真っ二つに引き裂かれた瑠夏の姿だったのです。これまで楽しかった少年少女達の日常は終わりを告げ、惨劇の幕が上がります。
本作の舞台である十恩村には、おおよそ普通では考えられないような奇妙な風習が残っています。ですが、1976年という本作の時代背景と、都会から隔絶された田舎という環境によって、なんとなく「こんな風習がありそう。」という気にさせられてしまうリアリティがあります。
そんな風習のうちのひとつが、17歳という年齢になった少年少女が意中の異性を打ち明け、村人たちの前で村への忠誠の証として接吻するという「成人の儀」です。主人公の裕を含めた少年少女たちは、それぞれに意中の相手がおり、この儀式に参加することとなります。
さてこの成人の儀、儀式の上での接吻とはいえ、フレンチどころか濃厚なディープキスを行います。しかも描写がやたら艶めかしいため、ちょっといかがわしい雰囲気すら感じさせるものとなっているのです。
恋愛模様を激化させるどころか、なんともいやらしく感じるこの儀式ですが、おそらくその本質は公開プロポーズとは別にあると考えられます。
まずこの儀式ですが、そもそも意中の相手を村人の前で公表し、あまつさえ濃密なキスを行うことの目的が、「村に対して一切の隠し立てをしないこと。」を証明するためです。
では、なぜ村人に対し隠し立てをしない、などということを誓う必要があるのでしょうか。誓いを立てる、という事はつまり、村に対して正直かつ従順であることを「強要」されているともいえるのではないでしょうか。
本作中で起こる惨劇の裏に村人たちが関わっているのだとすれば、村で生活する者に対して逆らう意思が起きないよう枷が効いているかどうかを確かめる踏み絵としての役割があると考える事も出来ます。
いずれにしても、なんとも後ろ暗いものがあるように感じられてならない習わしであるといえるでしょう。
本作におけるホラー要素の主たる要因となっているのが、「どんどろさん」の存在です。成人の儀についてもそうですが、十恩村の村人たちは、何かと風習に対する信仰を口にします。その中でも最も異質かつ不気味なのが、「どんどろさん」に対する信仰です。
どんどろさんとは、大昔にいたとされる不死の力と食った者に身を化けさせる能力をもつ食人鬼のことで、村人たちを次々と食い殺し始めたところを天女が犠牲となって食い止め、その天女と食人鬼が一体となった神様であるといわれています。
そんなどんどろさんは、しっかりと信仰するものには恩恵を与え、そうでないものは食い殺すと伝えられており、今なお村人たちには強く信じられている存在となっているのです。もちろん、その土地に伝わる昔話を信仰する文化はさほど珍しくありません。
ですが、問題なのは本作における村人たちのその伝説に対する信仰心の厚さです。
まず、あらすじでも紹介した瑠夏が死亡した事件ですが、その葬儀の最中に、瑠夏の死因は信仰心が足りなかったからどんどろさんに食い殺されたのだと平気で口にするような村人が存在します。しかもその直後に、次に食い殺されるのは信仰の薄い結衣だとまで口走るのです。
いかに信仰が厚かろうと、人の葬儀の最中にここまで不謹慎な事を平然と口にする人間が、とてもではありませんがまともであるとは考えられません。
裕と共に事件の真相を究明しようと考える人物として、クラスメイトの舞子という少女が居ます。演じているのか、素の態度なのか、実に自由な言動が目立つキャラクターです。舞子はどんどろさんについてまったく信仰しておらず、節々でどんどろさんを愚弄するような発言を繰り返します。
舞子は瑠夏が殺された事件は、こうした信仰の厚い信者による見立て殺人ではないか、とまで考えているのです。このように、どんどろさんについてはどんどろさんそのものよりも、それを信仰する信者たちを中心とした村の環境そのものが恐ろしいといえるのではないでしょうか。
成人の儀から始まる、第2巻。多くの村人が見守るなかで意中の相手と接吻をするというシーンなのですが、その描写がなんとも艶めかしく描かれており、少しばかりエッチな印象を受けます。
そんななか担任教師と神社の人間がおこなっていた密会を聞いた事で、どんどろさん信仰の村人達による見立て殺人があると知った祐は、舞子とともに村の秘密を調査していく事になります。終盤では、どんどろさんに関する書物を結衣の自宅で発見する事になり、いよいよ不穏な様相を呈してくるのです。
- 著者
- 如月 命
- 出版日
- 2018-02-22
そんな本巻の見所は、秘密の書物を見つけた際に、背後から結衣にその様子を発見されてしまうシーンです。勝手に家のなかを探しをしていたので、もちろん後ろめたいところを見つかってしまったのは間違いありません。
ですが、その際の結衣の顔が、なんとも怖すぎます!ゾクっとするような狂気に満ちた表情で描かれているため、真実はともかく、怪しく見えてしまうのです。こうした画力による魅せ方も、本作の見所といえるでしょう。
- 著者
- 如月 命
- 出版日
- 2017-11-22
ご紹介したように、十恩村には数々の奇妙な風習があり、そのどれもが事件に深く関わっていそうな雰囲気を醸し出しています。
では、瑠夏が死んだ事件は、やはり信仰の厚い信者による凶行、つまり殺人事件なのでしょうか。それとも、本当に風習にある通り、どんどろさんという存在が実在でもするというのでしょうか。実は、現段階ではそのいずれも断言出来ない状態にあります。
まるでどんどろさんに食い殺されているような描写があったり、武器を持った村人たちに殺されているような描写があったりと、様々な可能性を匂わせる描き方はされているのですが、いずれも決定的ではありません。
話はまだまだこれから続いていくようですので、事件の真実はぜひご自身の目で確かめて頂きたいと思います。
田舎の村の土着信仰が好きな方にはたまらない『あの夏のイヴ』は、スマホアプリの「マンガUP!」で無料で読む事が出来ます。まだまだ新しい展開が待ち受けていそうなので、ミステリー好きな方はぜひチェックしてみて下さいね。