本稿は、内々けやき『バスケの女神さま』の紹介記事となっております。「少しでもいいから変わりたい!!」そんな少女がバスケットボールを通じて成長する姿が描かれた作品です。コートの中で繰り広げられる女の子たちの熱き戦いをご覧ください。
- 著者
- 内々 けやき
- 出版日
- 2015-03-09
今回ご紹介させていただくのは、内々けやき『バスケの女神さま』。バスケットボールに青春をかけた女子高生達の時に激しく、時に切ないスクールライフを描いた本作の魅力を全巻ストーリーと共にお届けしたいと思います。
主人公、新海深雪は盛大な失恋がきっかけで島根県の太舎高校に進学します。東京とはまったく違う町の風景に戸惑う新海でしたが、入学して間もなく迫水翔と知り合いバスケ部へ入部することに。こうして新海の波乱に満ちた高校生活が始まるのでした。
女の子らしい友情や思いやりも随所に散りばめれており、本格スポ根漫画とは一味違った、少女達の青春の一幕が描かれた味わいのある作品となっております。
中学時代最後の日、思い切って告白した男子に盛大にフラれてしまった新海深雪は、ショックのあまり東京で暮らすことすら嫌になり、父の転勤先である島根県の太舎高校に進学することを決意します。
新たな高校生活に期待と不安でいっぱいの新海ですが、そんな彼女の前に迫水翔という同い年の少女が現れます。コッテコテの出雲弁を操る翔に最初は戸惑ったものの、近所に住んでいるということもあり、2人は間もなく友達関係に。
翔は生粋のバスケット少女で中学時代はMVPに選ばれるほどの実力の持ち主です。運動が超苦手(なにもないところで転ぶレベル)な深雪は自分とは対照的な彼女に憧れを抱くようになります。
- 著者
- 内々 けやき
- 出版日
- 2015-03-09
第1話で深雪は翔に誘われてフリースローを教わるのですが、美少女2人によるいやらしくない絡みが非常に魅力的です。手取り足取り、身体を密着させたシュートの指導は、読んでいて微笑ましくなります。まさに絶妙な匙加減ならぬ百合加減といえるでしょう。
深雪は素人ながらも見事に初ゴールを決め、その時の快感がきっかけとなりバスケ部に入部することを決意します。実は翔の巧みな勧誘も大きく影響したのですがここは面白いシーンなので、ぜひ皆様に確認して頂きたいです。
こうして、深雪は翔や先輩達と共に太舎高校女子バスケットボール部で新たな高校生活をスタートさせます。ハードな練習とバスケならではのチームワークに悪戦苦闘する彼女でしたが、少しずつ上達していきました。
「自分ダメダメなんだけど、頑張るんだ!!」という姿勢に深雪の精神的な強さが感じられ、読者も勇気をもらえるでしょう。また、登場する少女達のなんと健康的なことか!漫画を読むと分かって頂けると思うのですが、非常に肉感的な色気を各々のキャラクターが醸し出しているのです。
決してスタイル抜群という描かれ方はされていません。けれども、そこがイイのです!!バスケはとかく足腰を酷使するスポーツであります。つまり自然と下半身は太く、丈夫になっていくのですが、そのあたりが絶妙なタッチで描かれているのです。
バスケにひたすら情熱を注ぐスポーツ女子たちの魅力を堪能できることも、本作の大きなポイントと言えるでしょう。
さて、1巻の最終話では、深雪達に練習の成果を試す最初の機会が訪れます。
‘中国高等学校バスケットボール選手大会’
インターハイ前に行われる大きな試合に1年生も参加することになるのですが、初戦から太舎は苦戦を強いられます。
公式試合独特の雰囲気に飲まれた深雪は、大切な場面でパスミスをおかしてしまい、メンタルがズタボロに......。プレッシャーに耐え切れず一度コートを出ようとする新海でしたが、翔の言葉によって思いとどまりました。
「深雪ちゃんなにがあっても“キュー”見れるようについて来てごいた」(『バスケの女神さま』第1巻より引用)
俺の背中についてこいと言わんばかりのカッコいい台詞。性別関係なく、この時点で惚れてしまいそうです。深雪&翔コンビ誕生の瞬間は名場面のひとつと言ってよいでしょう。
そして、初の試合はついに終盤戦に突入!次巻へと続きます。
貴重な初試合を終えた太舎高校女子バスケ部は、さらなるレベルアップを目指して練習に励みます。深雪も一日でも早く素人から脱却するべく翔との朝練に参加するのですが、ここで彼女に思わぬ出会いがありました。
翔の幼馴染で2年生の九重勇馬が練習に参加してくれることになったのです。深雪にとってはどストライクな憧れの先輩とのレッスンに彼女のテンションは一気にヒートアップします。このような女の子らしいときめきがキッチリ表現されているあたりも本作の魅力のひとつです。
先輩との甘いひと時を過ごす深雪でしたが、早速試練が訪れます。そう、誰もが避けて通ることのできない“定期試験”シーズンの到来です。「中間」or「期末」という言葉を聞くとなんとなく恐怖心を煽られる方もいらっしゃるかと思います。
太舎女子バスケ部は伝統的に「テストで赤点とるような奴はIH予選には出場させない」という掟があり、深雪や翔を含めた新入部員は焦ります。なんと優等生の榊以外は全員ボーダーすれすれの成績......。学生の本分に立ち返り、みんなで榊の家で泊まり込みの勉強会が始まりました。
ところが、仲間が次々と幽霊に襲われて気絶するという事件が発生し、勉強会は思わぬ方向に進展します。果たして深雪たちは怪奇現象の謎を解くことができるのでしょうか?そもそも仲のいい女の子たちが一堂に会して勉強になるのでしょうか?ほっこりした結末に癒されること間違いなしです。
- 著者
- 内々 けやき
- 出版日
- 2015-07-09
第2巻の後半では、いよいよIH予選に向けた練習が行われます。チームの結束も強くなりつつあるなか、3年のキャプテン、一ノ宮草子の提案で島根県中の女バスを集めた合同練習合宿に参加することになるのですが、部費が足りないという衝撃の事実が発覚しました。
そんなわけで、少女達は合宿が始まるまでに神社でアルバイトをしてお金を稼ぐことに。他県から大勢やってくる参拝客のために部員たちは受付をしたり、境内を掃除したり、少女達の忙しい日々が始まります。
バイトするシーンなのですが、ぜひ1ページたりとも飛ばさずに読んで頂きたいところであります。スポーツとはまったく趣の異なる巫女服を着た少女たちが慣れない仕事を一生懸命こなしていく姿は必見です。
特に第2巻の最後に催し物として深雪と翔が大勢の前で踊りを披露することになるのですが、この振り付けがなんとも愛らしいのです。しかもこの時に限っては深雪が翔をリードするというコートの上とは真逆の展開になっている点にも注目してみてください。
果たして、大勢のギャラリーの前で2人は無事に踊りきることができるのか?また、太舎女子バスケ部は金欠を乗り越え、合宿に参加することができるのか?笑いあり、感動ありの第2巻の展開も大いに楽しむことができるでしょう。
順調に実力をつけていく太舎の面々でしたが、彼女たちの前に強敵が現れます。松枝商業1年の田宮杏佳。強者揃いの松商の中でも彼女の実力は群を抜いていました。案の定、練習試合では瞬く間に点差をつけられてしまいます。
ちなみに杏佳と翔は古い付き合いです。特に杏佳は翔の実力を高く評価しており、自分こそ翔の相棒にふさわしいと考えています。それゆえに深雪の存在を快く思っておりません。
「明日の試合で勝った方が......翔と一緒にバスケやる権を得るってどう?」(『 バスケの女神さま』第3巻より引用)
などとかなり無茶苦茶な勝負を深雪にふっかけるシーンもあり、杏佳の翔に対する執着ぶりが窺えます。少しアプローチは異なっているものの、翔のことを特別な存在だと認識している点は深雪と共通しており、対立しながらも思うところは一緒、というのが深雪と杏佳の関係性の面白い点です。
新見と翔ペアの活躍もあってダブルスコア(一方のチームが相手チームの倍以上の得点をとること)は阻止することに成功した太舎高のメンバーたち。さらなるレベルアップを図り、独自に開発したトレーニングに励みます。
バスケの女神さま(3) (講談社コミックス)
全巻通じてそうなのですが、コーチ不在の中で一生懸命になって部員同士がフォローしあったり、工夫したりする姿には心打たれるものがあります。「強豪校ではないけれど、精一杯バスケしている」描写が読者の共感を得るのです。こうした構成力の良さからも本作の高い完成度を感じるでしょう。
さて、試合を通じて太舎は選手層が非常に薄いという弱点が浮き彫りになります。そこで2年生の坂本蓮がかつて喧嘩別れした3Pシューター、水あかりを呼び戻すことを決意しました。
以降、3話に渡ってあかり復帰編が描かれるのですが、本作の中で最もシリアスであり、読んでいて気分が暗くなる展開が待っています。重要部分なのであまり詳しく述べることはできないのですが、あかりは大切な人を亡くしたばかりで心に深い傷を負っていました。
一見するとお姫様気質で周囲を寄せつけないオーラをまとっている彼女なのですが、事情を理解したうえで読んでみると本当はものすごく繊細な少女であることが分かります。第27話での蓮とあかりの掛け合いは必見です。スポーツマンならではの、真っ直ぐな友情を垣間見ることができるでしょう。
様々なイベントを経て、ついに迎えたIH予選。物語は最終回を迎えます。初戦を順調に勝ち進んだ太舎の2回戦目の相手はあろうことか優勝候補の松枝商でした。
こうして最終回にふさわしい因縁の対決が始まるのですが、非常に熱い!もう熱盛りかってぐらいに凄まじい攻防を繰り広げます。チームのみんなが1年間の成長を見せつける描写からは、まさにスポーツ漫画でしか感じ取ることのできない胸の高まりを味わえるでしょう。
特筆すべきはやはり深雪の活躍。点差が次第に縮まっていくなか、ついに深雪は覚醒、いわゆる‘ゾーン状態’に入ったのです。時間がゆっくりと進んで、まるで自分だけ違う次元の世界にいるような不思議な感覚。そんな感覚に身を委ね、深雪は翔からパスを受け取り渾身のシュートを放ちます。
試合後、しばらく経って深雪と翔は満月のきれいな夜一緒に下校することに。深雪は松枝高との試合を振り返りつつ、あの時の体験から今の自分が抱いている正直な気持ちを翔に打ち明けるのでした......。
ここで語られる彼女の気持ちというか、心境の変化はまさに深雪の成長を表現した場面であり、最終話にふさわしい締めくくりであるといえます。
深雪のいいところは「自分の弱さとちゃんと向き合っている」点にあります。運動も勉強もダメダメ、恋愛に関してもイマイチ......でも腐らない。そんな彼女のひたむきさが、本作最大の魅力であるといっても過言ではないでしょう。
果たして、深雪はその夜、翔に何を語ったのか?
バスケを通じて、昨日よりも少しずつ前に進んでいく少女の物語とその結末をぜひ、手に取って確認してみてください。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
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