好奇心と想像に溢れた日常に生きる少女の姿を描いた『リューシカ・リューシカ』は、童心に返りたい方必見の漫画です。2017年現在、無料スマホアプリ「マンガUP!」で公開されている本作の見どころと魅力についてご紹介したいと思います。
- 著者
- 安倍 吉俊
- 出版日
- 2010-06-22
空を飛ぶこと、海底を歩くこと、動物たちと話すこと。子供の頃にした自由な想像を、今再び広げることはできますか?多くの大人たちは、なんとなく心当たりのあるそれらの経験にノスタルジーを感じるくらいが限界かもしれません。
ここでご紹介する『リューシカ・リューシカ』は、主人公の少女リューシカの視線を通して、幼い頃に夢中になれた空想の世界の興奮を再体験できる作品です。この記事では、作品の見どころと魅力についてご紹介しましょう。
主人公の栢橋龍鹿(かやはしきみか)、通称「リューシカ」は、面倒見のよい姉の「あーねーちゃん」、少しいじわるな兄の「アニー」、学者の父の「ぱー」、仕事のため海外で生活している母の「まー」を家族に持つ女の子です。
好奇心旺盛で、想像力豊かなリューシカの視界は、いつも刺激と不思議と冒険に溢れています。秘密の呪文「リューシカ・リューシカ」は、彼女が摩訶不思議な想像の世界へと飛び込む合図。子供の頃に置き忘れてきてしまった「不思議」と「興奮」に再会できるような物語です。
一人遊びが得意なリューシカは、玄関のだるまを相手に「だるまさんが転んだ」をして遊んでいました。しかし、いくら振り返っても一向に動く気配のないだるまに退屈した彼女は「ころべ!」と、力ずくでだるまを転がしにかかります。
しかし、勢い余って床に落ちてしまっただるまは、ごろごろと転がってリューシカの足元へ。その顔をじっと見たリューシカは、だるまの左目がないことに気づきます。床に落とした拍子に、目玉をどこかに無くさせてしまったと思ったのです。
だるまの左目はもともとありませんでしたが、自分のせいで片目を失わせてしまったと信じ込んでしまったリューシカは大慌て。そんな彼女は、マジックで新しい目を描いてあげることを思いつきますが……。
- 著者
- 安倍 吉俊
- 出版日
- 2010-06-22
目をうまく書けなかっただけでなく、眉毛やヒゲまで新しく書き足してしまっただるまの顔は真っ黒。さらにてんとう虫のような水玉模様まで描いてしまい、だるまはどんどん毒々しいものになっていってしまうのでした。
だるまが起き上がる原理を知らないリューシカの目には、だるまは生き物のように映ります。自分に向かって転がってくるだるまに本気で驚き、物陰に隠れてしまう姿は実にキュートです。
そこへ、外出していたあーねーちゃんが帰ってきました。靴を脱ぎながらふと目にした真っ黒なだるまに腰を抜かしながら、そばに転がるペンと、床にくっついた小さくて黒い足跡を見つけます。その足跡を辿ってリューシカを見つけますが、彼女の姿は「どうしてそうなったの?」と聞きたくなるほどマヌケなものでした。
遊びのつもりではじめたことがとんだ災難を呼び、この世の終わりのように泣きわめくリューシカ。何事もすぐに信じてしまう子供らしい無邪気な心が、可愛くて可笑しいエピソードとなっています。
ある日リューシカは、テーブルの上に置きっぱなしにされたぱーのメガネを見つけます。ぱーの真似をしながらメガネをかけた彼女の視界はぐにゃりと湾曲してしまいました。メガネのせいで「ちかいのにとおい、とおいのにちかい」という不思議な感覚に陥った彼女は、その世界で冒険し始めます。
遠近感が掴めないせいで家具につまずいたり、おぼつかない足取りで階段を登ったりしながら、リューシカはぱーの部屋へと到着。しかし彼がいたのは1階です。再び降りようとした階段は、メガネをかけたままでは途方もなく高く、遠く見え、冒険をスリル満点のものにしたのでした。
- 著者
- 安倍 吉俊
- 出版日
- 2011-11-22
リューシカは、自分がかけると歪んで見えるのに、ぱーがかけるとよく見えるメガネが不思議でなりません。「自分の目が見ているものと、ぱーの目が見ているものは違うのかもしれない」。そう思いついたリューシカは、こんなことを言いました。
「ぱーは、ぐにゃぐにゃしてないと言うけれど、それはリューシカが想像している「ぐにゃぐにゃ」と違うかもしれない」、「ぱーが見ているぐにゃぐにゃのリューシカが、ぱーにとってはいつものリューシカなのかもしれない」。突然語られる難しい内容にぱーは頭を悩ませるのでした。
日常の中でたくさんの「なんで?」に出会う子供は、時々大人も唸るような哲学的発言をすることがあります。それは感じた疑問と素直に向き合う純粋なこころがあるからこそ、できることなのかもしれません。
ある夜、リューシカは月の形が日によって変わることに疑問を感じます。あーねーちゃんから「月に地球の影がかかると欠けて見える」と簡単に説明されると、今度は「じゃあなぜ太陽はいつも丸いのか」「欠けた太陽は出ないのか」「月が光るのはなぜか」と、思いつく疑問を全部並べ、あーねーちゃんを困らせてしまいました。
あにーからも納得できる回答を得られなかったリューシカは、ある時かじったビスケットを見て閃きます。「夜の中に、何かいるんだ」。そう言って彼女は急いでベランダに出て、夜に潜む「何か」を探し始めるのです。
- 著者
- 安倍 吉俊
- 出版日
- 2012-10-22
リューシカは自分がビスケットを食べたのと同じように、大きな生き物が月を食べたから月の形が変わってしまうんだと思ったのです。先日の半月から三日月に変わった月を見て「この前より食べられてる!」と気づくリューシカの着眼点は独特で、興味深いもの。
そしてリューシカは、その目で確かに夜の生き物を見ることとなりました。もちろんそれは彼女の空想が生み出した生物ですが、その大きくて恐ろしい生き物が月を丸かじりにする様子には、大人でもぞっとしてしまう迫力があります。
大人は、子供の想像の世界は楽しいものに溢れていると思うかもしれませんが、このエピソードを見ると、決してそうとは言い切れないということに気づくかもしれません。子供の想像力というのは、どんな方向にも無限大です。
家の前に置かれた、白い煙の吹き出す謎の箱を訝しんでいたリューシカの元に、近所に住む少女の猫矢さんが訪れました。面倒見のよい猫矢さんは危険なものだったら大変だと、リューシカの代わりに箱の中身を確認してあげます。すると煙の正体は、ドライアイスだとわかりました。
「冷たいのに火傷をする氷」に興味津々のリューシカは、目を離した好きにドライアイスに触ろうとしてしまいます。そんな彼女を見かねた猫矢さんは、水をいれたバケツを持ってこさせると、ドライアイスの塊を落としてみせてくれました。
- 著者
- 安倍 吉俊
- 出版日
- 2014-04-22
ドライアイスを入れたバケツがモクモクと白い煙を吐き出す様子に大興奮のリューシカは、その時ちょうど帰宅したアニーと一緒に箱の中のドライアイスをすべてバケツに投げ込み、足元が見えなくなるほどの煙を作ります。
この時のリューシカは、大空に浮かぶ雲の上に立っている気分でした。両手を広げ、体全体で風を感じるリューシカの気持ち良さそうな様子に魅了されます。
ただ、その晩の食卓はたくさんの冷凍食品で飾られることとなりました。ドライアイスをぜんぶ取り出してしまったせいで、1週間分の食品がすべて解凍されてしまったのです。げんなりするアニーの横でリューシカは、「来週もまた雲に乗れる」とウキウキするのでした。
豊かな想像力をもってすれば、空を飛ぶことさえ簡単にできてしまうリューシカが羨ましくなってしまうようなエピソードです。
最終巻には、今まで登場してこなかったある人物とリューシカのエピソードが描かれます。その人物とは「まー」。リューシカの母親です。まーは長らく仕事で海外生活をしており、しばらく家族とは会っていません。
これまでリューシカは、あーねーちゃん、アニー、ぱーの前では豊かな想像力を発揮する子供でした。そしてその無邪気な姿こそ、彼女の最も大きな魅力の一つだったと思います。しかし、まーの帰宅を待ち構えるリューシカは、家族にも読者にも、予想外の姿を見せるのです。
- 著者
- 安倍 吉俊
- 出版日
- 2015-08-22
最終10巻に描かれるのはずばり、リューシカの成長。帰ってきたまーに、一歩だけ「おねえさん」に近づいた自分の姿を見せるエピソードで、少女「リューシカ」の物語は幕を下ろすのでした。
ここまでリューシカを見守ってきたファンは、彼女の成長した姿に喜びと、少しの寂しさを感じるかもしれません。おそらくリューシカも、いつかは「龍鹿(きみか)」に戻り、想像の中で空を飛ぶことも、冒険することもできなくなってしまいます。童心とはほんの一瞬の間の、尊い心なのだと実感させられるでしょう。
嬉しさと切なさが胸に込み上げ、思わず涙しそうになる最終巻となっています。気になる方はぜひ手にとってみてください。
あの頃、確かに感じていたドキドキとワクワクに触れ、胸がぎゅっと切なくなってしまう読者も多い本作。気になる方はぜひ手に取ってみてください。