漫画家を目指すアレックスと、彼女と共に学ぶマンガ専門学校生の生徒たちの、恋模様と日常を描いた『さよならセプテンバー』。日本でも活躍中のスウェーデン人漫画家が描いたビターな恋物語の日本語版が、面白い!
- 著者
- オーサ イェークストロム
- 出版日
- 2015-07-27
漫画家を目指す専門学校生が、過去を忘れ現実から逃げようとするなか、優しい友人たちに支えさられ、過去から脱却し漫画家という夢を追いかけていく本作。
「恋愛」「夢を追いかける」というキラキラと輝くような明るい部分だけでなく、「心の闇」や「傷ついた過去」など人の精神的な、深い人間性を垣間見ることができるのが魅力となっています。
作者のオーサ・イェークストロムはスウェーデン人で、『セーラームーン』を観て漫画家になることを決意したそうです。それからスウェーデンで、漫画家、イラストレーターとして活動し、日本に引っ越してきたのだとか。
本作は、彼女がスウェーデンにいるときに執筆した作品ですが、作中には何度か日本が登場します。そんな本作の魅力を、ネタバレ含め紹介していきます。
マンガ専門学校への入学が決まったアレックス。寮ではジャンネ、クリストファーという同居人がいて、学校ではリリアンという同性の友だちもでき、夢を叶えるための楽しい学校生活が始まったかのように思えました。
漫画家と夢を叶えるため、それぞれがそれぞれ努力を重ねていくなか、アレックスの様子がどこかおかしくなっていきます。そんなアレックスを助けるため動こうとするジャンネですが、気づけばアレックスは別の男性に慰められていました。
漫画家を目指してマンガ専門学校への入学を決めた女の子、アレックス。2人のルームメイトとともに慌ただしくも楽しい学校生活が始まったように見えますが、アレックスには何か暗い過去があるようで……。
専門学校の学生寮はボロボロで、1人だと思っていた部屋は2人の男性、ジャンネ、クリストファーとのルームシェア……。1巻から、日本では考えられないような生活、展開が目白押しとなっています。
- 著者
- オーサ イェークストロム
- 出版日
- 2015-07-27
もともと日本の漫画と会話のテンポやストーリーの展開が異なり、突然の場面転換や、言葉の投げかけなど、翻訳された漫画らしい特徴が多々ありますが、その中でも目を引くのは、突如として挟まれる主人公アレックスの心の闇が垣間見える場面。
アレックスが突然部屋に引きこもったり、誰もいない場所で誰かと会話していたりなど、何か抱えているものがあることがすぐにわかります。
そのアレックスの過去らしいものがわかるのが、漫画のコンテスト用にアレックスが描いた漫画です。その漫画の中に出て来る少女の名前が「アレックス」となっていたり、見た目がアレックスにどこか似ているため、「この話はノンフィクションなのでは」と思わされます。
漫画の内容は、2人の少女が互いの絆をより強い形で確かめあおうとするものですが、その暗い感じとどこか切羽詰まった雰囲気が、「友情」を超えたどこかゾッとするような感覚を抱かせます。
いつもは明るく、頑固でお調子者のようなアレックスが、人には見せない部分にどんな過去、思いを隠しているのか、気になるところです。
また、1巻ではアレックス以外の、同居人2人、ジャンネとクリストファーの漫画も出てきますが、これも2人の人柄、心の内が見えるようなものとなっています。作風がまったく違う漫画を見比べるのはとても面白いですよ。
アレックスの過去に何かあると思ったジャンネ、アレックスには何かあると感じているクラスメイトのリリアン、大らかな心でアレックスたちに寄り添おうとするクリストファー。それぞれがアレックスを心配するなか、アレックスの過去を知るジェシーという少年が訪ねて来ます。
アレックスは突然訪ねてきたジェシーに冷たい態度を取り翌日には帰しますが、ジャンネはアレックスの目を盗んでジェシーにアレックスの過去を聞きます。
- 著者
- オーサ イェークストロム
- 出版日
- 2015-07-27
アレックスにはミリという親友がいました。ミリは最初、アレックスを男の子と勘違いし告白しますが、そこからどんどん距離を縮めていくように。アレックスとミリの出会いは12歳のときですが、それからずっと、中学、高校も一緒にいたそうです。
順風満帆に見えた関係ですが、高校時代になるとミリの腕のリストカットが目立つようになります。そして、アレックスが専門学校に入学する半年ほど前、ミリは自身で命を絶つことに。
ミリはアレックスを拠り所にする反面、依存しきれずにいたのではないでしょうか。最後に残った理性でアレックスを突き放し、それから消えることにしたのです。しかし、アレックスにとってはそれが執着する要因となったように思います。
アレックスがミリに囚われていること知ったジャンネ、クリストファー、リリアンはアレックスを呪縛から解放すべく寄り添いますが、ジャンネの空回りとも思える行動で、ジャンネとアレックスの間にはヒビが入り始めるように。
そんななか、アレックスの元に一本の電話がかかってきます。それはアレックスの漫画家としての人生を左右するものでした。
アレックスは過去を払拭し、夢を叶えることができるのか、そしてこの話のテーマである恋模様はどういう結果を迎えるのか、ただの「恋愛漫画」で終わらないのが『さよならセプテンバー』の面白いところ。最後まで目が離せません。
日本でいう冬休みを終え新学期を迎えたある日、アレックスは専門学校の2年生コウジと出会います。すでに漫画家として一定の評価を得ているコウジにアレックスは興味を持つように。
アレックスとコウジがどんどん距離を縮めるさまを、特に慌てる様子もなく見ていたジャンネですが、とある春の日、アレックスとコウジが体の関係まで行ってしまったのを目撃し、アレックスと周りの溝がどんどん深くなっていきます。
- 著者
- オーサ イェークストロム
- 出版日
- 2015-07-27
3巻ではこの話のテーマである「恋愛」が全面に出てきます。アレックスがコウジに執着するのはミリが原因でした。アレックスはミリの面影をコウジに重ねていたのです。
アレックスとコウジは決して恋人にはならず、ただ友だちというわけでもなく、時間が合えば互いのベッドで抱きしめあう日々。アレックスは、ミリと過ごした日々の続きを過ごすように、コウジにだけ目を向けるようになります。その一方で、ジャンネが苦しんでいることを知らずに。
ジャンネはずっとアレックスが好きだったのです。しかし、過去を払拭できず、コウジに依存しているアレックスにとって、ジャンネのその想いは受け入れがたいものでした。アレックスは全力でジャンネを拒否します。
アレックスのはっきりとした物言いや、思ったことを包み隠さず伝えて衝突する姿は海外漫画らしいと言えるかもしれませんね。心理描写が多く見られる日本の漫画との違いが顕著に現れていて、新鮮な面白さが感じられます。
アレックスはあることがきっかけで過去から抜け出す覚悟をしますが、その頃にはジャンネは1人苦しんでいる状態でした。アレックスがジャンネの優しさに気づくことができるのかが、アレックスとジャンネが救われる鍵になります。
アレックスが最終的にどういう道を選ぶのか、漫画家として花を咲かせることができるのか、注目したいところです。
ただの「恋愛」「漫画家を目指す」というだけで終わらない、人間の精神的な深い繋がりを描いた『さよならセプテンバー』。内容はもちろんのこと、日本の漫画との描写の違いも見所ですよ。