佐々木譲初心者向けおすすめ文庫ランキングベスト6!

更新:2021.12.13

北海道を舞台に綴られる警察小説の数々。直木賞作家・佐々木譲作品の魅力を、まだ読んだことのないあなたにご紹介します。迫力あるミステリーを通じて、北海道という土地ならではの面白さや怖さも同時に堪能できる”一冊で二度おいしい”作品たちです。

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直木賞作家佐々木譲

佐々木譲は1950年生まれの小説家で、直木賞をはじめ、多くの文学賞を受賞しています。

出身地の北海道を舞台にした作品も多く、なかでも北海道警察について描いた警察小説は多くのファンを生み、映画やテレビドラマにもなっています。

佐々木譲は札幌の高校を卒業後、広告代理店や本田技研で広告関連の仕事に従事するかたわら、執筆活動を始め、1979年に『オール讀物』に掲載された「鉄騎兵、跳んだ」でオール讀物新人賞を受賞し、作家としてデビュー。

1989年には『エトロフ発緊急電』で山本周五郎賞、日本推理作家協会賞、日本冒険小説協会大賞を、2002年には『武揚伝』で新田次郎文学賞を、それぞれ受賞。また、デビュー30年目の2010年に『廃墟に乞う』で直木賞を受賞します。

なお、2016年現在は執筆を続ける傍らで東京農業大学の客員教授もつとめ、講演も開いています。

6位:佐々木譲が描く、警官3代の物語

3部構成で、警官を描いた物語です。1部は祖父、2部は父、そして3部は子供。親子3代に渡る約60年間を描いた作品となっています。

警察小説となると、勧善懲悪のストーリーを予想される方がいらっしゃるかもしれませんが、この作品はそれに当てはまりません。

正義とは何か。正義の為に、小さな悪は見逃せるのか。また、親子3代に渡って受け継がれるものの強さ。そういったものを描いています。

著者
佐々木 譲
出版日
2009-12-24

 

戦後間もなくの日本、東京の天王寺周辺地域。そこで1部の主人公である「清二」が警官の採用試験を受けるところから物語が始まります。無事警官となった清二は天王寺の駐在へ。

ある夜、駐在のすぐそばにある五重塔に火災が発生します。火災騒ぎの陰で清二は謎の死を遂げることに。物語は清二の息子である民雄を主人公に、2部へ。そして最終的には、清二の孫にあたる和也を主人公とした3部へと突入していきます。

それぞれの章で主人公と共に時代も移り変わります。事件内容もその時代独特のもの。1部では戦災による浮浪者や強盗グループ・詐欺グループによる事件や抗争。2部では昭和の学生運動・過激派の活動が主になります。作中では実際にあった事件にも触れる部分があり、その時代の空気がどんなものであったのか、生々しく見事に表現されています。

また、時代だけではなく、主人公の個性も三者三様。謎を引き継ぎつつも、それぞれがどう生きたのか、そして何を感じたのかが描かれており、1つの章が1つの物語として独立しています。しかしながら、主人公3人の根底にあるのは、自身の信念を貫く強さ。読んでいる内に、タイトルに込められた本当の意味がわかります。

この作品はミステリーではありますが、同時に人間ドラマでもあります。最後の1文を読み終えた時には、清々しさを感じられる作品です。

5位:もう結婚という鎖に縛られない!

目を背けたくなるような凄惨な殺人現場から本作は始まります。こんな事件描写が続くのなら読み進めるのは厳しいな、と思ってしまうくらいです。でも、安心してください。本作は勧善懲悪の物語です。
 

著者
佐々木 譲
出版日


警察官の夫のDVに悩み、5歳の息子を連れて旭川から逃げた主人公の祐子。

見ず知らずの若者に妻と娘を殺され、家族で住んでいた函館を離れた男・真鍋。

ふたりは縁あって札幌の波多野工務店に拾われ、住み込みで働くことになります。

社長の波多野は、長年連れ添って来た妻に最近逃げられたばかりで、ワケありのふたりに同情的。家族同然に面倒を見てくれます。

しかし、旭川からは祐子のDV夫が、函館からは真鍋の仇である殺人犯が、それぞれ札幌にやってくることにより、平穏だったふたりの暮らしは終末を迎え、2組の敵味方がごちゃまぜになった壮絶なラストを迎えます。

物語の終盤、「何も家庭はいったん作ったが最後、構成員が死に絶えるまで家族でなければならないということはあるまい。(略) 関係の組み換えがあっても、悪くはなかったのだ」というセリフが出てきます。

これは本作のタイトルでもある「ユニット(複数のメンバーによって活動をする組織)」に通じるセリフで、結婚が決してゴールというわけではなく、別れて違う人と家族になることがあっても良いではないかという意味です。

本作を読んでいると、この言葉にはすごく納得出来るのではないでしょうか。

4位:ある刑事のトラウマ克服を追う物語

本作の主人公・仙道は3年前に担当した事件のトラウマによって自宅療養中の刑事です。

医者からは仕事を忘れてゆっくり身体を休めるように指示されていますが、かつての同僚や知人から持ち込まれた事件に非公式に首を突っ込んでしまいます。

仙道が休職中に関わる事件は、女性が被害者であったり、殺害手口が残酷であったり、解決後もなにか胸に残る、あまり後味の良いものではありません。

しかし、事件の解決が必ずしも皆に幸せをもたらすわけではないことや、いち警察官として出来ることには限界があると理解することこそ、彼にとってのリハビリだと読み手は気が付いていきます。それほどまでに、最終話で明かされる仙道がひきずっている過去は重くやりきれないものだからです。
 

著者
佐々木 譲
出版日
2012-01-04


警察は完全無欠のヒーローではない。ひとりの生身の人間なんだ!

当たり前だけど大切なその事実にはっとさせられる、少し切ない短編集です。

なお本作は6編からなる連作短編集で、最終話である「復帰する朝」は、文字通り仙道がトラウマから立ち直り再び職場に戻ることを決意するストーリーになっています。

スキー場、漁村、厩舎など、北海道を象徴する舞台の数々は、北海道を訪れたことのある人にはもちろん、縁遠い人をも惹きつける魅力があります。

3位:都会の刑事が田舎町の駐在さんに転身!?

本作は5本の短編からなる連作短編集です。

どのストーリーもスリリングな展開とドキッとさせられるエンディングを持ち合わせ、なおかつ5作すべてにおいて大きなテーマを共有しているので、読み応えは充分です。

都会の刑事だった川久保は地方の駐在所に単身赴任で勤務することになり、田舎ならではの閉鎖的な空気の中、新任の「駐在さん」として次々と起こる事件の解決に奮闘します。

はじめは突然赴任してきた川久保に冷たい町の人たちが、川久保の誠実さや勘の良さに負け、次第に協力的になっていくのです。
 

著者
佐々木 譲
出版日
2009-01-28


とはいえ、川久保は妻と子を都会に残して来ている身。やはり彼自身の幸せはこの町にはないのかも、と感じさせる切ないシーンも垣間見られます。

また、川久保が、所轄の刑事に「制服警官がおれの捜査に難癖つけてるのか?」と嫌味を言われるシーンがあります。警察内部の上下関係を感じさせるシーンです。

その刑事を一蹴する川久保からは、巡査であろうと刑事であろうと人を救う仕事に変わりはないという信念が見えます。

「よそ者」だからと卑屈にならず、地元の権力者たちに屈することもせず、ただまっすぐ弱者に寄り添う川久保にあたたかな魅力を感じずにはいられない作品で、のちに続編が書かれたのにも納得がいきます。

2位:巨悪と戦う熱い警官の物語

本作は、四十路警察官の主人公・佐伯が、過去の同僚である津久井にかけられた婦人警官殺しの容疑をなんとかして晴らそうと、警察組織相手に奮闘するサスペンスです。

2009年に映画化され、その後ドラマ化もされており、警察小説にあまり触れたことのない読者にもわかりやすく親しみやすいストーリーになっています。

著者の佐々木譲は北海道の出身。ですから、描くのは北海道警察です。

執筆当時に道警から実際に発覚した「稲葉事件」と「裏金事件」というふたつの事件が作品に色濃く反映されています。
 

著者
佐々木 譲
出版日


「うたう」というのは警察用語で「警察内部の不正を外部に漏らすこと」。

「うたう」者への口封じが容赦なくおこなわれようとする緊張感が絶妙で、誰が犯人?誰が密告者?この人はシロなの?と脳内で展開を予想しているうちに、あっというまに読み終えてしまいます。

終盤、「うたう警官は、無実と言えるか?組織を売るんだぞ。(略)警官としてあるまじきことをやろうというんだ」と咎められる佐伯。それでも屈することなく戦う佐伯には、心の中で拍手を贈りたくなります。

なお、本作はこの後続く「道警シリーズ」7作の1作目にあたりますが、警察内部の闇と真っ向勝負する熱血警官が友を救う気持ちのよい展開には、次作も読みたくなること間違いなしです。

1位:前作をさらに掘り下げた佐々木譲作品の真骨頂

本作は、先ほど紹介した『笑う警官』に続く道警シリーズ第二作目です。

前作でも活躍した佐伯と津久井のふたりが、再び北海道警察本部の闇を暴こうと大奮闘します。

すすきのの暴力団と北海道警察が一部でつながっているのでは?そんな疑惑を解明していくストーリーです。
 

著者
佐々木 譲
出版日
2008-05-15


佐伯の捜査と津久井の捜査が別々の場所、同時進行で行われ、多方向から明るみになっていく事件の真相に、読み手はハラハラさせられること間違いなし。サクッと読めるミステリーです。

タイトルにある「警察庁から来た男」というのは、東京から北海道警察の調査にやってきた監察官の藤川のことなのですが、彼がまた典型的なキャリアで、相当な切れ者。しかし、現場に揉まれ辛酸を舐めてきた刑事たちを呆れさせるような呑気な発言をすることも。

そんな藤川と佐伯・津久井のやりとりが面白く、ラストもとてもドラマチックに仕上がっています。

また、道警シリーズを語るに欠かせないのが総務の小島百合という婦人警官です。藤川のもとで彼女は道警本部のデータを洗い、事件解決につながる大きな鍵を見つけ出します。

剣道の達人でもあるという彼女が、凛とした媚びない雰囲気をまとい佐伯たちのチームで活躍する姿には、男女問わずファンになってしまう魅力があります。佐伯との関係も気になるところです。

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