劇作家、演出家、俳優など、幅広いジャンルで活躍する前田司郎は、独自の世界観が魅力的な小説家としても、大変注目を集めています。ここでは、そんな前田のおすすめの作品を、5つ選んでご紹介していきましょう。
前田司郎は1977年、東京都に生まれました。幼い頃から、両親に本を読んでもらうのが好きだったそうで、小学生の頃には小説家を夢見るようになっていたのだとか。それでも当初は、作品を最後まで仕上げることができず、なかなか作品にはならなかったのだそうです。
中学、高校と徐々に芝居にも興味を持ち出し、1997年に「劇団五反田団」を旗揚げ。戯曲の執筆に携るようになってから、作品の仕上げ方がわかるようになり、劇団の活動の傍ら、再び小説の執筆を始めました。
2005年、処女小説となる『愛でもない青春でもない旅立たない』が、野間文芸新人賞候補に選出されると、その後も発表した作品が、たびたび文学賞候補に上がります。2009年には、『夏の水の半魚人』で三島由紀夫賞を受賞。2017年、『愛が挟み撃ち』が2度目の芥川賞候補作品にもノミネートされました。
30代も半ばを迎え、仕事を辞めてしまい時間を持て余す洞口は、大学時代の旧友たちと12年ぶりに連絡を取りました。映画監督を目指す1年後輩のフリーター大川と、洞口の同級生で、サークル仲間だった京子。そして京子の職場の同僚、楓も加わり、「凄いスキヤキ」がしたいと、4人で当てもなくドライブを始めるのです。
小田原方面に向かう車の中で、それぞれ大学時代の思い出に耽る面々は、死んでしまった峰村という仲間のことを思い出していました。本来なら、楓の場所には峰村がいるはずだったのです。
- 著者
- 前田 司郎
- 出版日
- 2013-10-04
本作は、前田司郎が自ら監督を務め、映画化もされた作品。洞口と京子が、交互に語り手となって物語が展開されていきます。
大学時代のエピソードの数々には、自身の青春時代を思い出す読者も多いのではないでしょうか。あの楽しい日々を、もう2度と体験することはできないという登場人物たちの思いには、なんとも言えない切なさを感じてしまいます。
何か事件が起きるというわけではなく、ただ淡々と、思い出や出来事が語られていくだけなのですが、それが心地よくじんわりと胸に響く作品です。つい笑ってしまうような、軽い語り口がとても読みやすく、「スキヤキをする」という当初の目的から、徐々に外れていく登場人物たちの様子にも愛着が湧いてくることでしょう。
高校生になった主人公の相原太陽は、東京から引っ越してきたばかり。一見暗そうに見える外見も相まって、イマイチ学校に馴染めないでいました。そんな中、ひょんなことから友人となった、同じクラスの渡井に相談されたことをきっかけに、オリエンテーション係の手伝いをすることになります。
実は密かに小説を書いている太陽は、オリエンテーションの出し物としてある脚本を書き、演出も担当。するとそれが大成功し、作品が面白いと絶賛されたのです。自信を深めた太陽は、演劇部に入り自分が脚本を書けば、とても面白いものが出来上がるはずだと考え、入部を決意したのですが……。
- 著者
- 前田司郎
- 出版日
- 2012-06-07
こちらは前田司郎が、自身の高校時代をモデルに描いたと言われている作品です。物語に登場する戯曲「犬は去ぬ」は、前田が高校生の時に実際に書いたもので、作品内では、様々な演劇論を交えながら、等身大の高校生たちの姿が描かれています。
登場人物たちが感じる、思春期特有のモヤモヤとした葛藤や、悩み、熱い思いなどが、視点をコロコロと変えながらそれぞれに綴られていくのですが、描き方が非常に上手く、誰が誰だかわからなくなるということがありません。
セリフの応酬もテンポが良く、最後まで飽きずに読んでいけるのではないでしょうか。演劇に興味のある方はもちろん、まったくわからない方でも楽しめる作品になっています。
豊島区に住む、少々空気を読むのが苦手な32歳の「お姉さん」と、白くて不気味な謎の生物「コロンタン」。本作はこの異色のコンビが、時空を超えて様々なものの「はじめて」を調べに行くお話です。
「ガムはいったい誰が何のために作ったのか」「ゴルフはいつどのようにして生まれたのか」など、お姉さんはコロンタンの特殊能力を使ってあちこち飛び回りますが、物語は目的を外れて思わぬ方向へと進んでいきます。ついには著者の前田も登場し、なんとかストーリーを繋げようとするのですが……。
- 著者
- 前田司郎
- 出版日
- 2011-04-19
こちらは、「脱力系」と称される前田司郎の魅力が随所に垣間見られる、一風変わった作品となっています。かつて放送されていた、教養番組をモチーフに描かれているのですが、独創的なアレンジがいたるところに施され、シュールすぎる展開に思わず吹き出してしまう方も多いことでしょう。
中世ヨーロッパでは、ヒロイン「オッパイマルダシ」と出会い、閻魔大王的な人や鬼たちと一緒に「地獄のはじめて」を体験するなど、そのストーリーはまさに前田司郎ワールド全開。不思議で不気味で面白い、圧巻のメタフィクションですから、興味のある方はぜひ読んでみてくださいね。
結婚したばかりのカップル、大木信義と咲は、同棲生活が長かったため、新婚だというのにすでに倦怠期気味。そんな2人が、なんと五反田のデパートで地獄ツアーのパンフレットを手に入れました。
しかも地獄への入り口は、五反田の駅ビルの屋上。疑問を持ちながらも、たまには旅行でも、といったノリで、2人は地獄へと観光に行くことになり、地獄の住人「赤い人」と「青い人」に出会うことになるのです。
- 著者
- 前田 司郎
- 出版日
- 2011-01-01
なんとも奇想天外な設定である本作は、前田司郎が脚本を手掛け、映画化もされた作品です。
地獄と聞くと恐ろしい場所を想像してしまいますが、作品全体にはゆるい空気感が流れており、気軽に物語を満喫することができるでしょう。地獄をさまよう主人公たちのテンションが、思いのほか低いことも絶妙に面白く、奇抜な世界観で繰り広げられるいたって日常的な会話に笑いがこみ上げてしまいます。
どこか冷めた2人が、異空間となる地獄での体験を経て、徐々に関係を変化させていく様子は読み応え充分。荒唐無稽とも言える世界観ながら、様々なことを考えさせられる物語です。前田司郎の豊かな想像力で綴った物語を思う存分満喫してみてはいかがでしょうか。
主人公の「僕」は、ごく普通の大学生。適当に大学に通い、適当にバイトをしながら、毎日をただなんとなく生きています。生活には差し当たり大きな問題もなく、くだらないおしゃべりができる友達もいれば、少々倦怠期とは言え、付き合っている恋人もいます。
それでも「僕」は、漠然とした不安や焦りが、心の奥底から湧き上がってくるような感覚に困惑していました。そんな僕は、寝ている間にたびたび夢を見ます。夢には、決まっていつもひとりの少女が登場して……。
- 著者
- 前田 司郎
- 出版日
- 2009-10-15
本作は、前田司郎の処女小説に当たる作品です。友達との何気無い会話や、主人公の取り留めのない思考が、とにかくリアルに描写されており、若者の日常を淡々と綴っている文章から、目が話せなくなってしまいます。
何も考えていないようでいて、実は周りの様子を注意深く観察しているところや、様々なところから影響を受けている主人公の姿には、つい共感してしまう方もいることでしょう。突発的に挿入される夢のシーンでは、不思議な浮遊感が独特の表現で演出されています。
ありのままの若者像を描き、それでいて、どこか知らない世界に迷い込んだかのような感覚に襲われる斬新な物語となっていますから、興味のある方はぜひ手に取ってみてください。
どの作品も、劇作家でもある前田司郎ならではの視点で描かれた、独創的な物語ばかりです。気になった作品があれば、ぜひその世界観を覗いてみてくださいね。