ラジオが好きです。
受験勉強のお供にしてたとか、そんなベタな思い出は無くて、きちんとラジオが面白いんだなという印象を持ったのは大学生になってからだったと思います。
いまでも一番印象に残っているラジオは、『ナインティナインのオールナイトニッポン』の、岡村さんが休養後ラジオに復帰した2010年12月2日の回。
岡村さんが体調を崩して休養してたことは知っていたけど、小さいころあんなに夢中になっていた『めちゃイケ』も見なくなっていた私にとっては、復帰のニュースも「ふーん」ぐらいの印象しかなかったと思うので、なぜこのラジオを聴いたのかの記憶が定かではないのですが、初めて聴いたときは、とにかくとてもびっくりした記憶があります。
なにがびっくりしたって、芸能人って、こんなに赤裸々にしゃべるんだ、ということ。精神的にも調子も崩して休養を決めた岡村さんの、そこに至るまでの経緯を矢部さんと話しているのですが、笑いも挟みながらポップに仕立ててはいるけどかなりヤバい話のオンパレード。休養前の岡村さんのギリッギリの様子(唐突にお金がないと思い込みだしたり、自分の体臭を気にするようになったり、神経症っぽい言動)をすごく細かく語られていて、すごいな、これはテレビでは出来ない話だな、と驚いたのです。
もうひとつとても印象的だったのが、岡村さんが矢部さんに、「(休養前は)お前のこと嫌いやったけど、今は好っきや!」とはっきり言った場面。ブース内は笑いに包まれていましたが、私は感動していました。もちろん、ギスギスしていたコンビ仲がこの休養によって修復されたことへの嬉しさもあったのですが、「ラジオってこんなことも言っちゃっていいメディアなんだ」という感動の方が大きかったと思います。
その前後の『ナイナイANN』のアーカイブもいろいろ聴いた今となっては、この回の放送がとても特殊だったということもわかります。久しぶりのラジオで、緊張と興奮のあまりいつもよりハイテンションでエモーショナルになっている岡村さんの様子を、生放送でそのまま流したことで聴くことが出来た奇跡だったと思うのですが、この放送をきっかけに、私はラジオがとても好きになったのです。
- 著者
- 佐藤 多佳子
- 出版日
- 2016-09-21
「明るい夜に出かけて」は、溢れんばかりのラジオ愛に満ちた小説です。
作品の軸になるラジオ番組は『アルコ&ピースのオールナイトニッポン』。2015年まで実際に放送していたラジオです。
著者の佐藤多佳子さんは、ヘビーリスナーでもあったため、『アルピーANN』に対する愛情が異常なほどで、この番組の持つ独特な雰囲気を詳細に説明してくれるのですが、それをもってしても、さすがにこれ聴いたことない人はわからないのでは……?と思うこともしばしば(聴いたことある私からすると、そうそう、わかる!のオンパレードなのですが)。
舞台は2014年、金沢八景。ある事情で大学を休学し都内の実家を離れ、コンビニで深夜にアルバイトをしている主人公の生活を、実際にその年に流れた『アルピーANN』の放送と絡めながら描かれていきます。
バイト先で嫌な奴に嫌なことを言われて落ち込んでいたとき、ラジオをつけると、賞レースの決勝進出を逃したアルピーの2人が咆哮している。その悔しさ、怒りに共鳴した主人公は勇気を出して、次の日、嫌なことを言われた相手に抵抗をします。小さな抵抗でも彼にとってはラジオからもらった勇気でおこした大きな咆哮。そんなラジオの奇跡が、ささやかですがいくつも散りばめられています。
それにしても、『アルコ&ピースのANN』って最初から最後まで、本当にドラマチックな番組でした。フィクションよりフィクションみたいな展開で、聴視者の心を鷲掴みにし続けていたあのラジオそのものこそが、奇跡みたいなものだったのだな、とあらためて思うのでした。