島田荘司の初心者おすすめ文庫ランキングベスト5!代表作は御手洗潔シリーズ

更新:2021.12.12

本格ミステリーの父と言われる島田荘司。今回は、まだ島田作品を読んだことがないという方におすすめしたい作品・シリーズを集めました。

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本格ミステリーの父、島田荘司

島田荘司は1948年に広島県福山市に生まれ、武蔵野美術大学へと進学した後、ダンプカーの運転手やライター、ミュージシャンなどを経験し、1981年に小説家としてデビューしました。江戸川乱歩賞に『占星術殺人事件』で最終候補作となり惜しくも受賞は逃してしまいますが、その文才を買われデビューに至ったとされています。デビュー当時からコンスタントに推理・ミステリー小説を発表し続け、エッセイやノンフィクションなども含めると2016年現在までに100作以上の作品を送り出してきました。

また、小説の執筆以外の活動にも精を出しており、本格ミステリーの裾野を広げる活動にも取り組んでいます。推理小説の新人の推薦や発掘、そのほか文学賞の選考委員なども積極的に務め、「新本格ミステリー」という新たなジャンルを開拓しています。さらに、日本だけではなくアジアをも視野に入れ、日本・中国・タイの出版社が協同で開催する選考会なども行っているそうです。

そんな今でこそ本格ミステリーの父として認められる島田荘司ですが、デビュー当時の文壇の評価はあまり芳しくないものでした。しかし、コンスタントに作品を発表し続け、後世の育成にも力を注ぐことで、世間の評価は着実に良くなっていったのです。ジャンルは別であるものの、伊坂幸太郎は島田から絶大な影響を受けたと語り、その他中尾彬や伊東四朗など著名人のファンも多くいます。

5位:漱石×ホームズ、夢のタッグ!?『漱石と倫敦ミイラ殺人事件』

漱石とはあの夏目漱石、実在の人物がこの物語の主人公です。漱石は20世紀初頭に英語研究のために文部省からイギリスへ留学するように命じられます。国家の使命を背負ってイギリスにわたる漱石でしたが、経済的にも精神的にも参ってしまい、果ては下宿先で妙な亡霊に悩まされるように。そこで漱石はある人物に助言を乞うことになるのです。

その人物というのが、かの有名なシャーロック・ホームズであり、もう一人の主人公になります。実在した夏目漱石と、架空の人物でありながら現代でも圧倒的な存在感を放つホームズの数奇な出会いが本作品の見どころのひとつといえるでしょう。

ふたりの周りで起こる事件をホームズがことごとく解決していくその様は、ホームズの視点でワトソンが書いた章と、漱石の視点で書いた章とが交互に記されることで描かれていきます。ワトソンと漱石が残した手記を元に記憶をたどっていく、という流れなのですが、同じ事件に立ち会っていてもホームズと漱石では注意するポイントや思考が違っており、興味深いものになっています。
 

著者
島田 荘司
出版日
2009-03-12


ホームズは創作上の人物でありますが、漱石の描写については史実に忠実に基づいているものであり、漱石史を丹念に調べ上げていることがよく分かります。その漱石のエピソードからかけ離れることなく、ホームズとの出会いややり取りをうまく絡めるその手法は、まさに名人芸と呼べるでしょう。

また、ホームズに関しても原作で用いられている推理や作戦などを彷彿とさせるシーンがいくつもあります。ホームズの熱狂的なファンのことをシャーロキアンと呼ぶそうですが、そのシャーロキアンも満足できるくらい、ホームズのことに関してもしっかりとした記述になっています。漱石、シャーロック・ホームズへの敬意をこめたパロディといえるでしょう。二人のやり取りもユーモアにあふれたものが多いです。

本作品は文庫サイズでページ数も272ページとお手軽に読むことができます。

4位:実際の未解決事件を描いた意欲作『切リ裂きジャック』

19世紀末のロンドンを恐怖の底に陥れた、かの有名な「切り裂きジャック事件」をモチーフとした作品です。前作の『漱石と倫敦ミイラ殺人事件』のユーモアさは感じられず、なかなかスプラッタなシーンが多いのが特徴です。

物語の舞台は20世紀末のベルリン。東西に分裂し、混乱を極めていた西ドイツで連続殺人事件が発生します。それは、ちょうど100年前にロンドンで起こった切り裂きジャック事件と、何から何まで同じような殺人事件でした。凄惨な方法で次々と市民が葬られていきますが、警察はなかなか事の犯人を追い詰めることができません。そんな警察の元へ、切り裂きジャック研究家を自称する人物が助け舟を出してきます。100年前の事件から見えてくる犯行の手口や事件の全貌……果たしてその真相やいかに。
 

著者
島田 荘司
出版日


切り裂きジャック事件に関しては、実際に研究が数多く行われており、様々な見解が飛び交っています。本作品も小説という形をとりながらも、その研究のひとつといえるかもしれません。

この事件には、娼婦ばかりが狙われたこと、腹部を切り裂かれていることという共通点と、5人目を殺害してからぱったりと後続が現れないことが未解決の謎とされてきましたが、島田荘司はこの作品を通してこの謎に明解な論理を働かせています。無理のない論理的なトリックや心理描写は、「ゴッド・オブ・ミステリー」たるゆえんですね。実際に遭った未解決事件に小説を通してひとつの答えを出している点が、この作品の面白い所です。

ボリュームも277ページとサクサクと読みやすいのも魅力ですね。

3位:少しめずらしい、江戸時代のミステリー『写楽 閉じた国の幻』

写楽とは、江戸時代中期に存在したとされる絵師です。江戸には10か月ほどしか滞在していませんでしたが、その間に役者絵を次々と送り出し、その数は百数十点に及んだとされています。そんな彼に関する情報は白霧に包まれたように謎とされていて、その正体はおろか、出自や経歴さえも分かっていません。様々な研究がなされており、数多くの見解がなされていますが、数百年経った今でもわかっていないのです。まさに、日本のミステリーですね。

この物語はそんな写楽の正体を追い求める人々のお話です。時に現代で写楽の研究家が写楽の秘密を追いかけ、時に江戸時代へと移っていくなど、時空を超える展開を繰り広げていくことになります。そして多くの伏線を回収しながら、最後には驚きの結末が待っています。
 

著者
島田 荘司
出版日
2013-01-28


本作のおもしろい所は、『切り裂きジャック・百年の孤独』と同じように現実にある未解決事件に、島田荘司の緻密な研究と練り込まれた論理でひとつの答えを導き出している所です。島田荘司はこの作品を執筆するにあたり、かなりの時間と労力を写楽調査にあてたことがうかがえます。作者は自身のその姿を、登場人物たちに投射したのでしょう。その熱意溢れる研究意欲と、持ち前の推理小説としての面白さに脱帽です。

上下巻に分かれていて、中身としては450ページほど。手軽すぎることも重すぎることもなく、ちょうどよい読み応えのある作品となっています。

2位:島田荘司が贈る、本格警察刑事もの『寝台特急「はやぶさ」1/60秒の壁』

島田荘司の手がける二大シリーズのひとつ、「吉敷竹史」シリーズ。全部で16作品にまとめられており、日常に潜むミステリーに島田の筆力が光る作品です。研究家や漱石、ホームズといった少し特殊な人物が捜査にあたるわけではなく、ある警察官をその中心に据えている点が他の作品と一線を画するポイントでしょう。

主人公は東京都杉並区荻窪に住む一介の警察官、吉敷竹史です。警視庁捜査一課殺人班に所属する彼の元には、奇怪な事件が次から次へと舞い込んできます。強引な捜査に疑問を覚える吉敷であるため、時に上司から不当な扱いを受けることもありますが、不器用なりに真相解明に努めるのです。色気のある外見と、少し陰のある過去……なんとも魅かれるキャラクターですね。
 

著者
島田 荘司
出版日


本作品のポイントとしては、吉敷竹史が島田荘司の考える理想の警察官像を投射した人物という点です。推理小説作家という職業上、刑事関係のことには造詣が深い作者であるかと思いますが、その第三者の立場から描かれる理想の警察官とはいかなるものか、と気になるところです。

また、冤罪事件やいじめなどの社会問題や、実際にある各地の伝承や伝説をモチーフにしている点も現実との生々しい交差が感じられて面白いです。

ミニ情報として本作品での男女にまつわるお話を。作者いわく「本作品は女性の読者を意識して執筆した」とのことですが、作中の女性はほとんどが少し性悪な感じに設定されています。そのためか、作者の意図は外れて男性のファンの方が多いみたいですね。また、7作目『灰の迷宮』では珍しく魅力的な女性が出てきて、吉敷のためにラーメンを作ります。こちらは少し感動的なお話です。

また、3作目『北の夕鶴2/3の殺人』は伊坂幸太郎が大絶賛するというお話です。どんなものかとても気になるところですね。

1位:世界が認める島田荘司のデビュー作『占星術殺人事件』

島田荘司が30歳の時にデビュー作として世に送り出した、記念すべきシリーズです。第1作の『占星術殺人事件』は惜しくも新人賞を受賞することはありませんでしたが、ミステリー作家としてのセンスが選考委員会で認められ、続編を含む本シリーズは作者の代表作となったのです。

全部で30巻ほどになりますが、中でも『占星術殺人事件』が出てきた時の衝撃がミステリー文学界を震撼させるほどのものだったとのことで、ファンの中でも絶大な人気を誇ります。

物語の主人公は「探偵が趣味の占星術師」と自らを称する御手洗潔(みたらいきよし)。幼少期より卓越した頭脳を発揮し、15歳でアメリカの名門大学へ入学し、20代半ばで助教授となった後に世界を放浪し、京大医学部やミュージシャンを経て占星術師となるという、数奇で恐るべき経歴を持つ変人です。

そんな変人・御手洗と同じ釜の飯を食うのが、石岡和己という男です。御手洗が携わった事件を本にして出版しているうちに、御手洗の伝記作家となってしまいます。御手洗潔シリーズは、この石岡の目線で物語が進んでいきます。
 

著者
島田 荘司
出版日
2013-08-09


本作品の見どころはなんといってもこの個性あふれる登場人物と、そこで起こる事件とトリックの斬新性にあるでしょう。その斬新さはあまりにも行き過ぎて現実味がなさすぎると評価され、それが元で受賞を逃しているほどです。また、かの有名な『金田一少年の事件簿』などにもトリックを模倣されたことがあるくらい、ミステリー界へと与えた影響は計り知れないものでした。

第1作『占星術殺人事件』は2014年に、イギリスの大手紙「ガーディアン」において「世界の密室ミステリーベスト10」に選ばれています。島田の強すぎる個性と筆力によって、デビュー時の選考は順風満帆とはいきませんでしたが、それだけに新人作家の新鮮なエッセンスがつまった作品として今や世界的に認められるようになったのでしょう。

また、御手洗潔というキャラクターの命名は、島田荘司が幼少期につけられたあだ名に由来しているとのこと。作者としても思い入れの強いキャラクターなんですね。

記念すべきデビュー作であること、その特徴的な登場人物や時に奔放なアイデアによる緻密なトリックから生まれる推理小説としての面白さ、世界が認める推理小説であること、そして作者の思いが特にこもっていることから、島田荘司のおすすめランキング第1位にふさわしい作品といえるでしょう。

全30巻を制覇するのは長い道のりのようにも思えますが、第1作『占星術殺人事件』を開けばそんな思いは霧散してしまうはずです。ミステリーを読んだことがある人も、ない人もぜひとも一読する価値のあるシリーズです。

以上、初めて島田荘司を読む方へのおすすめランキングのご紹介でした。実際にあった事件や実在した人物を作品に応用するあたりは、作者の熱心な研究に感服してしまいますし、個性的なキャラクターや意表を突くトリックを創造するあたりは、その想像力と知識量に圧倒されてしまいます。

後世の作家のために活動しているところも、作家として魅力的ですね。次の展開、結末がなによりも気になってしまうミステリー。あなたも島田荘司の世界で、時間を忘れて推理してみませんか。

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