欲望を叶える魔法のアイテムに翻弄される主人公たちの欲望の果てを描いた『楽園市場』。願いを叶えた先には何が待ち受けているのでしょうか。背筋が寒くなるサスペンスホラーな本作の魅力を、全巻ネタバレしながらご紹介しましょう。
「格好良くなりたい」「キレイになって見返したい」「お金がほしい」……そんな悩みや欲望は、誰しも持っているものですよね。では、そのような願いを実際に叶えてくれる魔法のようなアイテムがあったとしたら……?
満たされない願望を抱えた人たちが魅力的すぎる「夢アイテム」に翻弄され、数奇な運命をたどっていく様子を描いたサイコホラー漫画が『楽園市場』です。
「楽園市場」というインターネット上のショッピングサイトから、願いを叶える「夢アイテム」をゲットした彼らは、皆一様に虜になってしまいます。
「【警告】当商品は依存性が極めて高い商品です
・商品の使用は一週間に一度にして下さい
・中毒になると現実への対応能力が欠落する可能性がございます
・自己責任のもと十分注意して使用して下さい」(『楽園市場』1巻より引用)
商品にはこのような注意書きが。不穏な空気を感じますね。
今回は、人間の心の強さと脆さ、そしてその欲望の果て描いた本作の魅力を、各巻の見どころとともにご紹介していきます。ネタバレを含むのでご注意ください。
- 著者
- RUNAKO
- 出版日
- 2015-01-10
何事も思いどおりにいかず、他人をうらやみなががら日々を過ごしている人の前に、謎の通販業者「楽園市場」の営業マンが現れるところから物語は始まります。
彼らは、心の中にこっそりしまっていた欲望を叶えることができる夢のようなアイテムを購入し、半信半疑で使い始めるのです。そして期待以上の効果に陶酔し、いつしか「夢アイテム」から離れられなくなってしまうます。
イケメンになって女性にモテる「夢枕」、誰もが振り返る美貌が手に入る「夢マスク」、色んな情報を知ることができる「夢アプリ」、痛みを忘れる「夢チップ」など、与えられるアイテムは人それぞれ。欲望の果てにご注目ください。
「こんな風になるわけない」なんて、他人事ではいられなくなるかもしれませんよ。
ネット弁慶で、現実では容姿の醜さをからかわれ続けてきた田中実。彼は27歳にして童貞という、いかにも、な人物です。
ある日、ネット上で密かに思いを寄せていたゆうニャンと、リアルで会うことになるのですが、そこにあられたのは、ごつい上にデブでブスな女性でした。しかも田中を見るなり舌打ちしてくるという態度の悪さ。
それでも仕方なく彼女に付き合いますが、最後に、パソコンの中ではいいけど現実は最悪と散々罵られて、どうしようもない気持ちに陥ります。
- 著者
- RUNAKO
- 出版日
- 2015-01-10
そんな彼が購入したのが、夢枕。好みの女の子を選んで、彼女を落とすというギャルゲーを夢の中でイケメンとして体感できるというものでした。警告として「当商品は依存性が極めて高い商品です」というものがあったのですが、一度その魅力を知ってしまった田中は、盗まれた夢枕を再度購入し、さらに18禁行為は別料金ということで……。
どんどん崩れていく日常に恐ろしさを感じます。しかし本作の1話目はまさかの展開。恐ろしさを感じながらも、それを切り抜けたスリル感にさらに先を読んでみたくなってしまいます。
「夢マスク」の主人公は、お世辞にも決してカワイイとは言えない、デブスで性格の悪い横田ゆう子です。
ある日、コンビニでアルバイトをしている彼女がふと落ちていたチラシを見ると、そこには「新製品!夢マスク ただお肌に貼りつけるだけで美顔が貴女のモノに!!」と記載されていました。そんな都合のいい話があるわけないと思いながらも、「楽園市場」のサイトにアクセスします。
そして、今だけの造顔体験と銘打った「美人な顔をつくる」体験をやってみることにしました。
誰が見てもカワイイ顔を作ることに成功したゆう子は、「3000人目の訪問者なので、記念に今造顔した顔を差し上げます」というサイトの言葉に従って、無料で「夢マスク」を受け取ることに。
「私はデブでブス」
「性格もひん曲がってる」
「でもそうなりたくてなったんじゃないよおおお」(『楽園市場』1巻より引用)
しっかりと自覚のあるゆう子は、本当はかわいくなりたいという願望を持った、普通の女の子なのでした。
そして、そんな彼女のもとに、造顔したものと同じ顔をした「夢マスク」が送られてきます。付けてみると、まるで元々自分の顔だったかのようにしっかりと馴染み、別人のような美人になることができたのです。
顔だけでなく体も変化させようと考えた彼女は、50万円という大金を払って「夢ボディ」も手に入れ、全身整形したかのような美人でスタイル抜群の女性に変身することができました。
キレイになると、周囲からの注目されるようになり、「みんな私を見てる」と有頂天。「麗美」という名前で生活をするようになりました。
しかし、それが彼女の不幸の始まりだったのです……。
自らの欲のために夢アイテムを使い続けた彼女の運命やいかに?衝撃のラストから目が離せません。
- 著者
- RUNAKO, ゆうきつむぎ
- 出版日
- 2015-06-11
少しのヒマさえあればスマホを触っている人、よくいますよね。今回は、そんな検索大好きな女子高生の前野美羽が主人公です。
付き合って1年が経つ彼氏とラブラブな生活をしている美羽。ある日彼の家に行くためにバスに乗ると、「楽園市場」の営業マンが名刺とともに「夢アプリ」を紹介してきました。その時は信じていませんでしたが、後日メールが届き、「夢アプリ」の存在が本物であると理解するのです。
「夢アプリ」とは、森羅万象、世の中のすべてを暴く最強の検索エンジンで、月額1000円で知りたいことの裏も表も分かってしまうというまさに夢のようなアプリ。ただ「むやみに知ろうとしないこと」という注意事項が付いているのが少し怖いですね……。
美羽がためしに話題のスポーツ選手について検索してみると、どこのサイトにも載っていない極秘事項まで分かってしまいました。彼女はすぐに「夢アプリ」にハマり、次々と有名人の検索をしていきます。
しかし、身近な人でも試してみたいという欲求がむくむくと沸いてきて……。
ある日、「彼氏が他の女と付き合っているかもしれない」という噂を聞いた美羽は、ついに「夢アプリ」で検索をしてしまうのです。
結果は、「言い寄られているけれど、その誘いを固辞している」とのこと。ほっと胸をなでおろしますが、そのまま読み進めていくと、彼氏が以前付き合っていた女性がHIVキャリアで、もしかしたら彼や美羽自身も感染している可能性があるとのこと……。
果たして2人はどうなってしまうのでしょうか。「夢アプリ」がもたらした結末とは?見逃せない展開が待っています。
- 著者
- ["RUNAKO", "ゆうきつむぎ"]
- 出版日
- 2016-01-09
今回「夢アイテム」を使うのは、5歳の女の子、水田愛です。
愛の母親の恵は、幼いころに親から虐待を受け、「こども園」という養護施設で過ごしていました。高校生になると彼氏ができ、それなりに楽しく過ごしていましたが、ある日妊娠が発覚。すると彼氏は胎児を迫り、恵との関係も強制的に終わらせてしまったのです。
しかし胎児する時期を逃してしまっていた彼女は、「こども園」の人たちに助けられながらひとりで育てることを決意。その時に生まれたのが愛でした。
「自分が母親から受けられなかった愛情を注いでいく」と決め、大切に育てていましたが、しだいに運命の歯車が狂いだしていきます。ある日、わがままを言った愛のことをひっぱたいてしまったのです。
愛はショックを受けてトイレに引きこもってしまいました。そして彼女のもとに「楽園市場」の営業マンが現れ、「これから先も辛い出来事が続く」と予言めいたことを伝え、「夢チップ」を与えるのです。
「痛いのが来る」と思った時に、奥歯に埋めた「夢チップ」をぐっと噛むと、痛みを和らげることができるというものでした。ただし痛みが和らぐだけなので、傷つきすぎると死んでしまう可能性があるという注意書きがあります……。
その後は、恵から暴行を受けたり、恵の彼氏からもタバコの火を押し付けられたりする日々が続きました。そのたびに愛は、奥歯の「夢チップ」を噛みしめて痛みを回避するのです。
どんな暴行を受けても母親である恵に笑いかける愛の姿が痛々しく、胸が苦しくなります。
そして事態はだんだんと最悪の方向へ。愛と恵の親子は幸せな日々に戻ることができるのでしょうか。ぜひ最後まで読んでみてください。
本作の最終回を飾るのは、夢ルージュという商品。主人公の佐藤聖(あきら)は、見た目もゴツく、腕力もすごい人物。中性的な顔立ちと、気の弱さからいじめられている幼馴染の佐藤聖(たかし)をいつも守っていました。今後は分かりにくいので、それぞれのキャラをひらがな表記とします。
- 著者
- ["RUNAKO", "ゆうきつむぎ"]
- 出版日
- 2016-01-09
実はたかしは、マイノリティで、男性の体ながら、女性になりたい人物でした。そんな彼がある日注文したのが、夢ルージュ。
実はそれを塗れば、女性になれるという商品だったのですが、雨の日に宛名が濡れて見えなかったことから、隣に住むあきらのもとにそれが届いてしまうのでした。
そしてそこからあきらは女性の生活を満喫するのですが……。
3巻の最終話は、今までにまして良い結末。誤配から生まれた機会を糧に、あきらとたかし、それぞれが自分の道を見つけ、将来への夢を見つける様子が描かれます。
ぜひふたりの友情、少年たちの夢への道のりをご自身でご覧ください。
不思議な通販サイトで手に入る「夢アイテム」は、使い方次第で天国にも地獄にもなるもの。結局人生は、その人自身の行いによるものなのだという教訓にも感じられます。