おばあちゃんが孫に「今日は何を殺すの?」と聞く本作……しかしホラーではありません。主人公のしょーこがするテレビゲームを見ながら、祖母のハルはゆっくりと孫の世界を理解し、ついには参加するまでになるのです。
『おばあちゃんとゲーム』の舞台は1990年代後半。一風変わったホームドラマのような作品です。
家庭用ゲーム機の初代プレイステーションなど懐かしのゲームを通じて、祖母と孫の関係を描いていく斬新なストーリー。ほのぼのとした雰囲気のなかにも、登場人物たちの家族への思いや絆がしっかりと織り込まれています。
各話に登場するゲームは、プレステ以外にも友人から借りたり、誕生日プレゼントに「白サターン」をもらったりと、当時を知る読者にとっては「あるある」なことだらけ。かと思いきや、2巻ではおばあちゃんがVRを体験する様子も描かれているのです。
この記事では、読めば心がほっこりする本作の魅力と、各巻の見どころエピソードをご紹介していきます。
- 著者
- 瀬野反人
- 出版日
- 2016-08-12
主人公のしょーこは10歳のテレビゲーム好きな女の子。祖母のハルは少し前まで田舎に住んでいましたが、最近近所に引っ越してきたため、頻繁に彼女の家を訪ねるようになりました。
ただ顔を合わせてもゲームばかりしている孫に、はじめは心配したり寂しい気持ちになったりします。それでもそばで見ているうちに、しだいに世界観を理解するようになり、時にはしょーこと一緒にプレイするまでに。
懐かしいゲームが多数登場する、1990年代の日常です。
「今日は何を殺すの?」
これは、ゲームをしているしょーこに向かってハルがよく言う言葉。どうやら「ゲーム=殺す」という図式がハルの頭にはあるみたいです。
年齢差を考えれば仕方のないことですが、祖父母と孫のこのような会話のすれ違いはよくあることですよね。本作ではそんなリアルがほのぼのと描かれています。
「しょーちゃん CD聞くの?『スピード』?」
「ううん、これは『I.Q』ってゲーム」
「テレビで見たわよ 4人で歌う女の子でしょ?」(『おばあちゃんとゲーム』1巻より引用)
SPEEDが出てくるのも懐かしいところですが、2人のイマイチかみ合っていない会話が、味を出しています。
ハルの定位置は、ゲームをしているしょーこの左側。真隣というよりは半歩ほど下がったところに座っています。彼女はそこからテレビ画面を眺め、しょーこに話しかけるのでした。
ロールプレイングゲームをしている時は、斧を持っている仲間のキャラを指して「主人公の隣に包丁持った人がいるわよ!!」と忠告したり、恋愛シミュレーションゲームをしている時は、一緒に遊んでいたしょーこの友人と好きなキャラで意気投合したり……ゲームの世界を通じて斬新な体験をしていきます。
フライトシューティングゲームをしている時は、画面を見て乗り物酔いをおこしてしまいましたが、そんな彼女を見たしょーこは症状が治まるように飴玉を渡す優しさを見せるのでした。
ちょっとしたやり取りで2人の仲が深まっていくのが本作の見どころです。
また、ルマンド、シルベーヌ、フィンガーチョコなど懐かしのお菓子が出てくるところも必見ですよ。
本作はゲームに詳しくない読者でも問題なく楽しめ、笑えるシーンがたくさんあります。
たとえばしょーこが「I.Q」というゲームをしているシーン。これはプレイヤーがヒトのキャラクターを動かして、迫りくるキューブを押しつぶされないように注意しながら捕獲していくというもの。しかしハルはその設定が理解できず、目を回してしまいます。
そして数秒後。
「しょーちゃん 、おやつ食べる?」(『おばあちゃんとゲーム』1巻より引用)
これぞわからない話を無かったことにする「おばあちゃんリセット」。妙にリアリティのある展開に笑ってしまいます。
また「ダイナマイト刑事」というゲームを2人が一緒にプレイしている時のこと。本来はプレイヤー同士で協力して敵を倒すのですが、ハルは敵と味方の区別がつかず、しょっぱなからしょーこのキャラクターに攻撃を仕掛けてしまうのです。
しかも運よく協力な武器を拾い、しょーこは巻き込まれてGAME OVER……。知らないとはいえ容赦のないハルの攻撃が面白いエピソードになっています。
ちなみに1巻に出てくるゲームは、「幻想水滸伝」、「I.Q」、「俺の料理」、「アンジェリーク デュエット」、「SIDEWINDER2」、「ポポロクロイス物語」。
2巻は「マリーのアトリエ」、「がんばれ森川君2号」、「キングスフィールドIII」、「ぼくのなつやすみ」、「ダイナマイト刑事」、「電脳戦機バーチャロン」です。
ゲームの簡単なあらすじは作中で説明されますし、その内容を知らなくてもしょーことハルのやり取りだけで十分楽しめるのが本作の魅力です。
さまざまなゲームをするなかで、ハルが特にハマったのは「がんばれ森川君2号」。いわゆる育成型ゲームで、AI搭載のロボットである森川君を育てていくものです。
キャラクターの名前とタイトルを変更することができるので、ハルは自分の息子の名前である「タケル」と名付け、感情移入していきます。
ハルの息子は、つまりしょーこの父親。その場には本物のタケルも居合わせていたのですが、ハルはゲームと現実をごちゃ混ぜにして昔の恥ずかしい思い出話をするので、彼はもう落ち着きません。
母と息子、父と娘がひとつのゲームに夢中になる、ほっこりするエピソードです。
ハルは、いつもゲームばかりしているしょーこのことを心配し、当初は外で遊ぶように説得する場面もありましたが、実際に体験して孫の夢中になっていることを知ることで、いまでは理解を示してくれるようになりました。
1巻の冒頭は、田舎から越してきたハルが、しょーこの家を訪ねてくるところから始まります。
ゲームをしているしょーこにあれやこれやと話しかけ、ついにはプレイ中にメモリーカードを抜きそうになったため、しょーこがつい声を荒げてしまいました。
「おばあちゃんあっちいってて!」(『おばあちゃんとゲーム』1巻より引用)
寂しそうな顔を見せて、おばあちゃんは帰ってしまいました。反省するしょーこですが、どうやらおばあちゃんも孫を怒らせてしまったことを気にしていたようです。後日、新しいメモリーカードを買って彼女の家を再訪しました。
もちろんしょーこはメモリーカードが好きなわけではなくゲームが好きなのですが、この時のハルはまだその違いが理解できず、メモリーカードを買ってくれば孫が喜ぶと思っていたのでした。
- 著者
- 瀬野反人
- 出版日
- 2016-08-12
また、高校生の姉が自身の学校の文化祭にしょーこのことを誘います。ただ彼女は、休みの日でないとゲームをできないし、姉とは毎日一緒にいるのになぜ付き合わないといけないのかと不機嫌になってしまいました。
「それもずっとじゃないよ」(『おばあちゃんとゲーム』1巻より引用)
姉はこう言いますが、小学生のしょーこはまだこの言葉の意味がわからないようです。
ゲームに夢中になっている幼い彼女が、ハルや姉の気持ちを理解するのにはまだ時間がかかりそう。そんな家族の少しもどかしい関係が描かれています。
2巻ではおじいちゃんが登場。体験型ゲーム「ぼくのなつやすみ」で、クワガタなどで勝負をする虫相撲に挑戦します。
そのまま実際に庭で虫とりの技を披露するなどして、しょーこと意気投合する姿も見られました。
- 著者
- 瀬野反人
- 出版日
- 2017-10-12
また、ハルがおやつに「シルベーヌ」を買ってくる場面が。これにしょーこの友人のテンションが急上昇します。おやつのなかでもシルベーヌはケーキのような高級感があり、少し特別な存在。こういうところでは子ども心をわかっているおばあちゃんなのでした。
特別編では、そんなハルが「プレイステーションVR」に挑戦。初めてのバーチャルの世界に翻弄されてしまいます。海の中にもぐると息を止めてしまったり、大きなサメに驚いたりもしますが、その後すぐにカニを見つけて心躍らせるなど、彼女らしい楽しみ方を見つけていきました。
『おばあちゃんとゲーム』はごく平凡な家庭の物語ですが、だからこそちょっとした家族のつながりにほっこりできる作品です。
テレビゲームを題材にした新しい作品ですが、本質は家族のあたたかさ。のんびりとした雰囲気をお楽しみください。