眉村卓といえば、ジュブナイルSFの巨頭として有名です。名前は知らなくても、『ねらわれた学園』や『なぞの転校生』をご存知の方は多いことでしょう。 日本SF第一世代と呼ばれる眉村卓の作品を是非読んでみてください。
1934年生まれのSF作家です。1961年に『下級アイデアマン』が第1回空想科学小説コンテストに佳作入選してデビューしました。
1963年に仕事を辞めて専業作家としての活動を開始してからは、1979年に泉鏡花文学賞及び星雲賞を受賞、1987年に日本文学大賞、1996年に2度目の星雲賞を受賞するなど高品質なSF作品を多く執筆しています。
最近のSFは派手なアクションがあったり、独特の世界観がある作品が多いですが、眉村卓の作品は、ありふれた日常を基盤とした話が多く、戦後から始まった日本独特の社会派SFが楽しめるものが多くあります。
1973年に出版された作品ですが、薬師丸ひろ子主演で映画になった後も、何度も映画化、テレビドラマ化されているので、ご存知の方も多いのではないでしょうか。
関耕児が通う中学校で行われた生徒会役員選挙で、それまで目立たない存在だった高見沢みちるが会長に当選し、生徒会による構内パトロールを提案します。当初はたばこを隠れて吸っている生徒や、口紅をつけている生徒を摘発する程度でしたが、だんだんエスカレートしていき、廊下で遊んでいる程度でもつるし上げられるようになっていき……。
- 著者
- 眉村 卓
- 出版日
- 2012-09-14
反発を覚える耕児でしたが、みちるの不思議な力で、身体を痛めつけられてしまいます。そして耕児のクラスが立ち上がり、みちるとその背後にいる存在と対決するのですが……。
果たして学園は、その不思議な力を持つ支配者たちから抜け出せるのでしょうか。
十代を対象とするジュブナイル作品でありながら、広い世代にわたって長く愛され続けているSF作品です。派手なアクションなどが出てくるわけではありませんが、多数派意見が必ずしも正しくはないのだというメッセージは、現代社会にも十分通じるのではないでしょうか。
この作品もテレビドラマ化されているので、ご存知の方も多いのではないでしょうか。岩田広一が通う中学に山沢典夫という転校生がやってきます。美男子の上に成績優秀、スポーツ万能で、謎めいた雰囲気を持っていたため、クラスの人気者になっていきます。
ところが、そんな山沢には奇妙なところがあり、雨に打たれるのを極度に嫌がったり、ジェット機の音に驚いて、逃げ出してしまったりするのです。彼は、「次元放浪民」だと告白します。核戦争で滅んでしまった世界から、岩田のいる世界「D-15」の世界で、みんなとうまく暮らしていくつもりだったと。けれど別の「D-26」という世界に移ることを決めたと言い……。
- 著者
- 眉村 卓
- 出版日
- 2013-12-13
もともとSFを知らない中学生を対象に書かれたということですが、理想の世界とは何か、世界にあるいは社会に適応するとはどういうことかなどといったことも考えさせられる深いテーマを持った作品です。
物語の主役は、架空世界での冒険小説を書いている作家で、もうすぐ70歳になる福井一男です。ある日、客員教授を務めている大学の学生、若葉快児から手紙が届きます。
そこにはなんと、自分の架空世界に行きたいから、念力修行のために98万用立てて欲しいということ、それが叶うなら、先生の家で架空世界行きを手伝ってほしいということが書かれていました。
福井は迷ったものの、応じることにしたのです。その結果、若葉が作り上げた「カイジ・ワールド」に一緒に入ってしまいます。何が何だかわからないまま、奇妙奇天烈な日常に流されていくうちに、猫とロボットを味方にして……。
- 著者
- 眉村 卓
- 出版日
「カイジ・ワールド」や猫やロボット、それぞれが非常にユーモラスで、なんとなく笑ってしまわずにいられないあたりが、タイトルである『いいかげんワールド』につながるのではないでしょうか。
老人を主役にした、わくわくするようなSF冒険小説は、他にあまりありません。分厚い本ですが、堅苦しくなく、さらりと読めるのでおすすめです。
15編からなる短編集。そのどれもが日常からいつの間にか少し違う世界に入り込んでしまうようなお話です。ここでは第2話の「ピーや」をご紹介します。
人付き合いのあまりない男は、猫を飼っていました。猫には男だけが日常でしたし、男には猫だけが日常でした。そんな中、男は交通事故で死んでしまうのです。
猫は男を待ち続けます。やがて月の光が猫の瞳を照らし、猫は自分を撫でてくれる男の手のことを考えました。すると、手が浮かんでいました。ひたすら男のことを考えると、五体揃った男のシルエットが浮かび、男と猫の生活は続いていくのですが……。
わずか4ページという非常に短い話ですが、涙なしには読めません。特に猫好きにはおすすめです。
- 著者
- 眉村卓
- 出版日
- 1994-10-20
そのほか、無能な新入社員と蝶の関係を描いた「蝶」、鳥取に左遷されたサラリーマンが砂丘で不思議な美しい女と出会う「砂丘の女」など、どれも少し不思議で素晴らしいお話ばかりです。短い作品が多いので、時間があまりない方にもおすすめの作品です。
この本で描かれているのは、上司との付き合い方や、昼休みや、職場恋愛など、ごく普通の職場なのですが、ちょっと不思議な展開を見せていきます。どんでん返しが待っていたり、急展開を見せたりするわけではなく、自分の周りにもこんな人がいるなぁと思えるような、淡々とした短編集です。
若い新人だったころ自分が魔女と呼ばれていたけれど、新人が入るにつれ、いつの間にか自分のニックネームが消えていく「魔女のとき」、お金があるのによれよれの恰好をする男を素敵だと言う同僚と、そうは思えない自分を比較する「同僚」など、39編が集められています。
- 著者
- 眉村 卓
- 出版日
- 2013-11-14
文庫版背表紙にはオフィスSFという表記もありますが、SFという気負いはなしにして、まったりと読むことができる短編集です。お昼休みの合間に、お茶を飲みながらまったりと読んでいただきたい作品です。
以上、5作品をご紹介いたしました。眉村卓は非常に作品数の多い作家です。40年ほど前のものであるにも関わらず、違和感なく読むことができるのは、普遍的なテーマを扱っているからではないでしょうか。短編も長編もありますが、どうぞまったりと読んでください。