太宰治おすすめ作品4選。人との距離につまずいた作家

更新:2016.11.3

太宰治といえば『人間失格」、薬物中毒に自殺未遂、生きていたくないと愚痴を垂れ流した作家というイメージが強い方もいるかもしれません。太宰がつまずいたものとはいったいなんだったのでしょうか?

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人との距離の取り方でつまずく

太宰治の自伝的代表作、『人間失格』。

人が怖い、何を考えているのか想像がつかない、それでも一人で生きるのは寂しく、人に好かれるために求められることをする大庭葉蔵。そんな葉蔵が選んだ方法は、「道化」を演じることでした。自分がおどけて見せることで回りが笑ってくれる、そうやって居場所を作ろうとします。

それは、従業員や家政婦もいる裕福な家庭に生まれ、病弱な母の代わりに叔母や女中に育てられた葉蔵の、大勢の大人の中で生き抜く為の処世術でした。
 

著者
太宰 治
出版日
1990-11-20


「なんでもいいから、笑わせておけばいいのだ、そうすると、人間たちは、自分が彼らのいわゆる『生活』の外にいても、あまりそれを気にしないのではないかしら。」

それでも、生まれ持った頭の良さと女性に好かれる容姿の為に人に注目されてしまいます。それによって自分が目立ってしまい、嫉妬の目に晒されることを葉蔵は恐れます。

子どもの頃の家族との関係、小学校での友達付き合い、そして中高思春期の寮生活でより複雑になる人間関係、そして恋愛。人との距離の取り方で悩む姿には、時代を超え考えさせられる何かがあります。

親子関係でつまずく

津軽の民話を元に描かれた「魚服記」は、青森県最北端の馬禿山が舞台。スワは、父の営む茶天の小屋に父と二人きりで暮らしていました。近くには、木々と流れる険しく深い滝があるばかりです。

毎日毎日季節は移り替わってもそこには何もありません。あるのは父との生活だけです。思春期に差し掛かり情緒が安定しないスワは、少しずつ現実から妄想の世界へ逃げ込んでいきます。
 

著者
太宰 治
出版日
1957-05-06


ある日、スワはそこに植物の採集にきていた学生が滝に落ちていくのを目撃してしまします。そして、ある民話を思い出します。

弟が、兄と分け合うはずだった魚を独り占めにし、食べてしまったばかりに、その呪いから全身に鱗が生え、やがて大蛇になってしまうという話です。

「父親は炭でも蕈でもそれがいい値で売れると、きまって酒くさいいきをしてかえった。たまにはスワへも鏡のついた紙の財布やなにかを買って来て呉れた。」

「疼痛。からだがしびれるほど重かった。ついであのくさい呼吸を聞いた。」

そして、その後、スワは雪の降る中滝へと走っていきます。体には鱗が生え、そして冷たい滝に飛び込んでしまいます。

近親相姦、アルコール中毒を描いたのでは、とも言われる、一切の無駄が削ぎ落とされ、読者に解釈を預ける技法がとられた短編です。

生活能力がなくつまずく

太宰治といえば、数度に渡る自殺未遂と薬物中毒、派手な女性関係などが目に付きますが、津軽弁の影響を受けた、流れるように単語を紡ぐ文章の美しさを評価する声も高く、その中でも特に評価が高いものに『斜陽』があります。

時代は敗戦後まもなく。父がなくなり、生活に困窮した直子と母は、都会の屋敷を売り、伊豆の小さな家に引っ越します。

新しい生活に慣れない様子の母、そんな折、直子がボヤ騒ぎを起こしたことをきっかけに、母の様子が少しずつおかしくなっていきます。夜中に目が覚めるらしく、火の元を確認し、悲しそうにぼんやりしていることが増え、体も弱っていくのです。
 

著者
太宰 治
出版日


着物や持ち物を売り、財産を少しずつすり減らしながら何とかふたりは生活していましたが、今は離れて暮らしている弟の直治が、またアヘン中毒になったという話が入っていきます。その弟が家に戻ってくるというのです。

「直治の、この麻薬中毒が、私の離婚原因になった。」

直子の生々しい過去への告白が始まります。6年前、直子が出会った妻子ある芸術家への恋と破たん。直子は、過去の自分への折り合いをつける為にある人物に手紙を書くことにします。

恋愛につまずく

『ヴィヨンの妻・桜桃』より、「チャンス」。

「人生はチャンスだ。結婚もチャンスだ。としたり顔して教える苦労人が多いけれども、私はそうではないと思う。少なくとも恋愛は、チャンスではないと思う。意思だと思う。」

「恋愛至上主義」という言葉ができ、それがまるで世の中で高尚なことであるように言われているけど、そうは思わない。恋愛には、性欲は切り離せないし、お互いに恋愛がしたいという強い意思がないと成り立たないと太宰は言います。
 

著者
太宰 治
出版日


ある日、揺れる電車の中で男性がふらついて隣の女にぶつかってしまいます。その女性は、男性を汚いものでも見た目で睨み付けてくるのです。頭にきた男性は言います。

「僕が何かあなたに猥褻な事でもしたのですか?だれがあなたみたいな女に、わざとしなだれかかるものですか。あなた自身が性欲が強いから、そんな変な気のまわし方をするのだと思います。」

女性は、話を聞かずに無視をします。

恋愛と性欲は切り離せないものとして、片方が何も望んでいなければ男女には、発展ももめ事も起こらないと太宰は言います。また、心で人を愛するということ、そういう相手と出会えるということ、そして相手にも思ってもらうこと、はそうそうあるものでないのかもしれない、と考えさせられます。