【AD】主人公の女装アントワネットに、大量のゾンビ。地下室で眠る謎の美女に、陛下の愛妾の陰謀……。『ベルサイユオブザデッド』は、ひとつでも十分お腹いっぱいの設定が、これでもかと詰め込まれたゴシップ心をくすぐられる作品です。この記事では、豪華なのに、下世話なゴシップ心もくすぐられる本作の魅力をご紹介します。
- 著者
- スエカネ クミコ
- 出版日
- 2017-01-12
女装アントワネットの秘密に、謎めいたナポレオンの登場、韓流ドラマ並にコテコテ&ドロドロの宮殿内のカースト争い……。大きなものから下世話なものまで、これでもかとゴシップが詰め込まれているのが、『ベルサイユオブザデッド』の魅力です。
森の中でのゾンビ大量発生から始まり、人々の陰謀うずまくベルサイユ宮殿へと舞台を移す物語は、設定が詰め込まれすぎて重苦しく聞こえるかもしれません。けれどもこれが、意外にもサクサク読み進められる内容なのです。
それは生々しい展開と、フランス文化の華麗さ、宮廷女性たちの美しさが、互いの良さを引き立てているから。体に良くないと分かっていても(というか分かっているからこそ)甘〜いスイーツが美味しいように、毒っ気ある展開で描かれた豪華絢爛な世界には(怖いもの美しいものみたさで)どんどん引き込まれてしまいます。
この主人公、めちゃくちゃにしてみたい!
そんな気持ちにさせられるのが、主人公・アントワネット、のふりをしている彼女の弟・アルベール。物語の最大の謎、ジョーカー役とも言える存在です。
彼は外交のため、死んでしまった姉の代わりにフランス君主公認で「アントワネット」として嫁ぐことになりました。いわば偽アントワネット。
偽アントワネットは、本人ではないものの、人を惹きつけるスター性を持った存在です。冷酷な顔を見せたかと思えば、急に無邪気に笑うなど、豊かな表情で読者をも虜にします。しかしどこか人をひやりとさせる掴みどころのなさもあり、油断なりません。
その怪しい魅力は、ストーリー上で他の謎が徐々に明かされる中、彼の情報だけがほとんどないのが理由かも。怪しい表情を見せることがあっても意味が明かされることはなく、物語が進むにつれて、どんどん彼のミステリアスさが際立っていくのです。
すました顔の裏に何を隠しているのか、その表情を崩してみたい!
そんなゴシップ心をくすぐられる人物です。
ミステリアスな偽アントワネットについて分かっていることは、実は一度死んでいるということ。そして、生き返った時に驚異的な身体能力を手に入れたようだということと、姉の代わりをしても問題ないくらいに美しいということ。これだけです。これだけしかないからこそ、魅力的にみえるのかもしれません。
彼は人を惑わす魅力を利用し、事実を知らない男や、周囲の女性たちを虜にしていきます。しかし計算尽くの性格かと思いきや、所々で切なげな表情を見せたり、「友達が欲しい」と無邪気に発言したりと、拍子抜けさせられるような一面もあるのです。
ある日、偽アントワネットは護衛のバスティアンに「男として」友達になることを拒まれ、その夜に仮面舞踏会でさっそくフェルセンという他の男をひっかけます。
しかしマリー・アントワネットだと明かされて身分差から一気に距離を置こうとする彼。偽アントワネットはこう言います。
「フェルセン、顔をお上げになって
私ほんとに…お友達になって欲しいのですよ
いけませんか?」(『ベルサイユオブザデッド』1巻より引用)
上目遣いに見つめられれば、フェルセンでなくとも「そんな美しい顔で言われましたら…私は…」とどもってしまいます。とにかく可愛い。
しかし可愛いと思わせられたすぐ後に、偽アントワネットは豹変。不死者が乱入したパーティー会場で血まみれになりながら、笑って彼らを処分していきます。
怖すぎます……。怖すぎるけど、なぜかその美しさをもう少し見ていたい気分になるのです。
もっと無邪気な笑顔を見たい、それでいてその裏にある彼の真の姿も見たい。なぜ生き返った時に姉の代わりをしてまでフランスに来たのか、なぜ宮殿の謎を知っているようなのか、友達が欲しいというのも、何か意図があってのことなのではないか……。
読めば読むほど女装アントワネット=アルベール沼にハマっていくこと間違いなし。中毒性ある魅力に注意してください。
※以下、コミックス最新2巻のネタバレを含みます!
本作では、アントワネットvsジャンヌダルクという、日本人が知っている有名フランス人の、夢の対決という豪華な展開があるかもしれません。
どうして「夢の対決」なのかというと、この2人の時間軸は史実では異なっているから。少し史実にのっとってご説明させていただくと、諸説あるものの、マリー・アントワネットは1755〜1793年、ジャンヌ・ダルクは1412年〜1431年の間を生きた人物だと言われています。そしてアントワネットがルイ16世との結婚式を行ったのが1770年。
ふたりの間には約350年のひらきがあるのですが、気になるのは、物語で登場した1つの「謎」です。
物語のベルサイユ宮殿には、様々な秘密が隠されています。そのうちのひとつが「地下室で眠る謎の女性」。その女性はただ眠っているだけのような姿で水中に浮かんでいます。そして、彼女はある者から「我が光」、「救世主」、「聖女ジャンヌ・ダルク」と称される人であることが明かされていくのです。
ある人物は、今のフランスを救うためには彼女の復活が必要で、そのためにある特別な宝石を集めなければならないと言います……。
実在のふたりの間には約350年のひらきがあり、その間に百年戦争の最後の戦いや、ルイ13世の政権奪回、西仏戦争など様々な歴史的事件がありました。
これは物語ではなく史実の話ですが、もし歴史がこれからの展開のヒントとなるのであれば、ジャンヌダルク没後からアントワネットが嫁ぐまでに、何かフランスを救わなければならないような事件が起きたことを歴史から考察することができます。
物語中のある人物は、ジャンヌが復活すればフランスを救うこと、病気の陛下を助けることに繋がると言います。生きているかのような状態で存在する彼女の存在が、不死者であるゾンビたちの大量発生に繋がっているのかもしれません。
しかし、もしその関係性に史実が関わっていたら……。そう考えるとさらにこの謎を考察するのが面白くなってきます。
2巻では、偽アントワネットがジャンヌダルクの復活に協力したいと言いだします。しかし彼が大人しく手伝うだけとは思えません。
もしかすると現実では会うことのなかったふたりが、この作品上で対決するという豪華な展開もあるかもしれません!
果たしてフランスの危機、ジャンヌがそれを救うということ、彼女と宝石の繋がりとは一体何なのでしょうか?そしてそれを知った時、偽アントワネットはどうするのでしょうか?
- 著者
- スエカネ クミコ
- 出版日
- 2017-01-12
本作の魅力は、主人公アントワネットだけではありません。その周りをとりまく人々の、ドラマチックな展開も、ついつい気になってしまうのです。
なかでも韓流ドラマでも見ているかのように、コテコテ、ドロドロに物語を盛り上げるのが、デュ・バリー夫人。現陛下の愛妾として、身分が低いながらに愛嬌で彼に取り入っているという設定の、実在の女性です。
デュ・バリー夫人は物語の始まりとも言える人物でもあります。アントワネットと弟のアルベール(偽アントワネット)が宮殿に来るために乗った馬車を、手下のドミニクとアンジェロに襲わせたのが彼女なのです。
これがきっかけでアントワネットが死に、不死者の偽アントワネットが誕生するのですが、物語上重要なように見えて、意外にもデュ・バリー夫人はTHE小物なキャラ。
デュ・バリー夫人は、ドミニクとアンジェロが絶対に生き残れないと豪語した暗殺計画なのに、なぜターゲットが生きているのかという重大な謎には気を向けません。それゆえに相手が偽物だということにも気づくはずもなく、とにかく彼を殺して宮殿内での自分の地位を守ることしか考えていないのです。
暗殺が失敗した時に憎々しげに表情を歪め、手下のふたりにあたる様子もテンプレ感があり、そのあとも偽アントワネットが自分に挨拶せずに通り過ぎたり、周囲の婦人方の噂に腹を立てたりするだけ。
しかしそんなデュ・バリー夫人も、物語の謎に知らず知らずのうちに巻き込まれていきます。
彼女は今まで何度も陛下に「宝物」を見せてほしいと言っていました。その度に断られていましたが、ついにそれを見られる時がくるのです。
しかしなぜかデュ・バリー夫人はそれをただの宝石としか思っていません。実はそれをほしがっていたのは、ドミニクとアンジェロだったのです。
小物感あるデュ・バリー夫人に気を取られていたら、彼女を隠れ蓑にして暗躍しているドミニクとアンジェロが登場するという驚きの展開です。
狭い世界でのカースト争いという、チープなゴシップ展開を見せてくれるのがデュ・バリー夫人。そして彼女に隠れて目的をなそうとする、影のボス感があるのが、ドミニクとアンジェロ。宮殿内に渦巻くドロドロの思惑を、さらに複雑してくれる登場人物です。
- 著者
- スエカネ クミコ
- 出版日
- 2018-01-12
この他にも本作には「ナポレオン」と呼ばれる人物が登場したり、アルベールに疑念を抱いていたバスティアンが最悪の災厄に見舞われたり、善悪の立場を判断しかねる司教が意味深な言葉を言ったりと、気になる展開が満載。
ぜひその様子は作品でご覧になってみてください。狂気と美しさに溢れたベルサイユ宮殿の謎、「女装アントワネット」アルベールのミステリアスさに、読むのをやめられない中毒性を感じること間違いなしです!
©スエカネ クミコ/小学館