魂の移植が可能になった遠い未来のSFラブストーリーの魅力を、2nd シーズンまでネタバレ紹介しちゃいます。現実にはありえない設定なのに、今を生きることの大切さをしっかりと胸に訴えかける名作。
『人間でした』は、原作・百雷、漫画・きこのみによるSFラブストーリーです。「魂の移植」というシビアなテーマを扱いながらも、甘酸っぱくさわやかな青春ストーリーも織り交ぜられています。
キャラクターもかわいらしく、悪役のいないほのぼのとした雰囲気のなかに、いまを生きることの大切さがしっかりと描かれた心に響く作品。
最後の最後までどうなるかわからない展開に、一気読みしてしまうことまちがいなしです!
きこのみのほかの作品も気になる方は『土方さんは嘘だらけ』を紹介した<漫画『土方さんは嘘だらけ』の魅力を全2巻ネタバレ紹介!>もおすすめです。
- 著者
- きこのみ
- 出版日
- 2014-06-09
西暦222x年、魂の移植が可能になった遠い未来。街の中心には巨大な「溶魂炉(ようこんろ)」がそびえたち、ニュースでは今年189例目の魂移植が行われたと大々的に報じられていました。
一時的に魂が停止してしまう魂停止、これが起こると、魂は身体から離れてしまいます。これを「離魂(りこん)」とよびます。
離魂した魂をQAEDという装置により確保できた場合、再び身体に戻すことが可能です。しかし、身体に戻す「魂移植」は身体に大きな負担がかかりますし、そもそも魂停止状態となった身体もダメージを受けているため、移植に向け体調を万全にするためには時間が必要となります。
その間、救助された魂は、他の健康な生体に仮移植されることとなるのですが、魂タイプの合う人間がいない場合、他の生物に仮移植されることもあるのです。
こうした魂の移植を行っている病院、それが「溶魂炉」であり、ある都市を実験都市として、研究がすすめられているのです。
- 著者
- きこのみ
- 出版日
- 2017-03-09
夏休み。園芸部の万波(まなみ)は、サッカー部のくしゃくしゃひまわり頭・一砂(かずさ)を見かけるたび、なぜかハッとする自分を不思議に思っていました。
とあるきっかけで二人は初めて話をしますが、一砂の態度はつっけんどんとして失礼そのもの。出会いは最悪でした。
翌日、部活動中に突然一砂は倒れ、魂停止を起こします。近くにいた万波がとっさに魂救助を手伝い、魂の確保に成功。一砂の魂と身体は溶魂炉へと運ばれました。
幸い一命をとりとめた一砂。しかし、魂移植までの1週間のあいだ、一砂の魂は魂タイプが適合した健康な生体……ハムスターに仮移植されることに。
- 著者
- きこのみ
- 出版日
- 2014-06-09
仕事で忙しい一砂の両親に変わって、一砂の世話をすることになった万波。
ある日二人は、10年ほど前に犬に魂移植されたという男性に出会いました。身体の損傷が大きく、人間の身体に戻れなくなってしまった彼は、犬の姿になったからこそ見えるようになったものがあるといいます。
そう話す彼が遠くに目をやると、屈託のない笑顔で手を振る妻の姿が。
「離れていく者も確かにいましたが 変わらない心も見えましたよ
きっと化石になっても私のそばにいてくれる」(『人間でした』1巻より引用)
今したいこと、今だからできること、失って気付くこと……犬になった彼の話はほんの数ページのエピソードなのですが、心に強く訴えかけてきます。
一砂もまた、離魂を体験し、人間に戻れない可能性があると知ったからこそ、自分が本当にやりたいことを見つけたのです。
万波は、次第に一砂への恋心を自覚します。一砂も、そっけない態度ではありますが万波を大切に想っている様子が見てとれます。
しかし、残酷な事実が……。魂が身体に帰ると、ハムスターだったときの一砂の記憶はすべて失われるというのです。
二人は、最後の一日まで、想い出を濃くしようと大切に過ごし……。
「いま」を後悔なく生きていかなければと考えさせられる作品です。
ことい、自由(じゆう)、ヤスタカの3人は、陸上部の仲間であり幼馴染の間柄。
ある日、自由とヤスタカは、こといの誕生日プレゼントを買いに来た先で事故に巻き込まれます。自由は軽傷で済みましたが、重傷だったヤスタカは、身体の回復を待つ間、魂を鷹に仮移植することになりました。
ハイジャンプの選手であるヤスタカは、すぐに空の飛び方のコツをつかみ、大空を飛びまわります。鷹の姿となり、思いのままに自由に飛び回るうちに、ヤスタカは人間に戻りたくないと思うようになりました。
- 著者
- きこのみ
- 出版日
- 2017-03-09
驚くこといと自由。なぜ人間に戻りたくないのかと聞いても、考え直してほしいと言っても、ヤスタカは何も話さず、また、考えなおす様子もありません。
どうすればいいかわからないこといを、自由はそばで励まし、勇気づけます。
どうやら、ヤスタカと父の間にはこの数年のうちに大きな溝ができており、それがヤスタカが人間に戻りたくない原因のようなのですが……。
ヤスタカの父が仕事中に倒れたと連絡が入り、自由、そして鷹の姿のヤスタカは病院へ向かいます。
ヤスタカの母によると、父はある想いからここ数年、必死になって働いていました。それはすべてヤスタカのため。変わってしまったと思っていた優しい父は、ちっとも変わってなどいなかったのです。
そして、ヤスタカと父の間を取り持つためにこといが探してきたのは、とある親子の絆。
この出来事をきっかけに親と子の数年間のわだかまりはとけ、ヤスタカは人間に戻ることを決めました。
しかし、大きな問題が浮上します。
眠らせたはずの鷹の魂が目覚め、次第にヤスタカの魂を侵食してしまう「魂侵食」が起こったのです。
ヤスタカは、もしも自分の魂が侵食され、すべてを忘れて鷹になってしまうとしても、移植当日まで自分らしく過ごしたいと願います。
みんなその想いを受け入れ、ヤスタカの身体が回復し魂を戻せる日が来るまで、これまでと変わらずに学校へ行き、笑って過ごすことを決めました。
- 著者
- きこのみ
- 出版日
- 2017-03-09
そんななか、揺れる3人は、腹を割って話しあうことにします。
こといは、2人のことが本当に大切なのです。たとえその気持ちが、片方は恋でなくとも。
そして、ヤスタカと自由は、お互いのことをずっとうらやましいと思っていました。その想いをぶつけあったのです。
「バラバラだった三角形は もう一度組み直して また元の三角形になった」(『人間でした 2ndシーズン』2巻より引用)
このモノローグが示すとおり、自由が起こした事件は、これから先も変わらないであろう3人の関係を、新たに確かめあう出来事となりました。
ヤスタカの魂侵食は、予想よりも緩やかで、このままいけば問題なく元の身体に戻れるはずでした。
しかし、興味本位に近づいた男たちからこといを守ろうとしたことで、鷹の本能を一気に高め、魂侵食をすすめてしまったのです。
もうこれ以上は待てない。ヤスタカの魂は、まだ完全に修復していない身体に、イチかバチか戻されることになりました。
移植直前。もはや言葉を失い、なくことしかできず、こといにすらも襲いかかるほど鷹に侵食されてしまったヤスタカに、こといはこれからもずっと一緒にいることを約束します。
最終回、時は流れ、こといの入社式の日です。実はこのエピソードのなかに、1巻の主役だった万波と一砂が登場していますのでお見逃しなく!
「桜咲く日も 雪の舞う日も 僕たちは一緒にいたよね
特別な用事なんて作らなくていいよね
“そばにいたい”それだけで会いに行ける
これからもずっと一緒だよね」(『人間でした 2ndシーズン』1巻より引用)
美しくも意味深な、2ndシーズン1巻冒頭の印象的なプロローグ。果たしてこの願いは、叶ったのでしょうか。
ほんの少し悲しみも含んだ、でもあたたかな結末。
魂移植なんて、遠い未来か、あるいは訪れない未来の出来事のようにも感じます。
そんなありえない設定の物語だとしても、やはり『人間でした』同様、2ndシーズンの物語も、今を生きることの大切さをたしかに私たちに教えてくれるのです。
- 著者
- きこのみ
- 出版日
- 2014-06-09