踏切待ちの最中に起こる日常を切り取った『踏切時間』。ひとつひとつは短いストーリーですが、ほのぼの、ギャグ、ときにはホラーなどさまざまな物語が巻き起こっています。2018年春からはアニメ化も予定され、今後さらに注目度が高まること間違いなし!今回は、そんな本作の魅力と見どころをお伝えしていきます。
「月刊アクション」で連載中の里好の作品。美少女たちが多数登場するいわゆる日常系ですが、物語の舞台はすべて踏切。遮断機があがるのを待っている短い時間の出来事をショートショート風にまとめていて、他の日常系作品とは一線を画しているといえるのではないでしょうか。
ストーリーのジャンルはほのぼの・ギャグ・ホラーなど多岐にわたり、短いながらも飽きさせません。
2018年4月からはアニメ化も予定されていて、今後さらに人気が出ることを予感させる作品です。
今回は、そんな本作の魅力と各巻の見どころをご紹介していきます。ネタバレを多少含むのでご注意ください。
- 著者
- 里好
- 出版日
- 2016-12-12
街中に点在している踏切と、そこで足止めをくらう少年少女たち。「カンカン」という遮断機の音をBGMにして描かれる日常系ショートストーリーのなかには、小さなドラマがたくさん詰まっています。
甘酸っぱい青春を体験する少女、憧れの女子高生を見つめる男子生徒、声をかけたい不器用な先生と声をかけられるのを待っている風紀委員長……さまざまな人間関係が短いあいだに浮かんでは消えていく、どこか不思議なオムニバス漫画です。
本作の秀逸な点は、やはりストーリーのすべてが踏切の待ち時間中に起こることではないでしょうか。限られた時間のなかで、その時ににしか見れない光景があり、その時にしか話せない言葉があるのです。
また登場するキャラクターたちも、個性豊かですがどこにでもいそうな人たちばかり。中高生がメインになる話が多いのも、ノスタルジックさを高めています。
遮断機が開くのを待っている時間は、ものの数分。そのなかでさまざまな人間関係が交錯します。余韻を残すものもあれば、少しファンタジックなものもありますが、各話はあっというま。それでいて、踏切を待っているその空間だけ一種の異世界に迷い込んだかのような感覚にも襲われるのです。
少年少女たちが次はどんな物語をくり広げてくれるのか、続きが楽しみになる作品です。
作中には多数の踏切が登場しますが、それぞれにモデルとなった実在の踏切が存在します。
たとえば1巻の1話と4話で、2人の女子高生が甘酸っぱい青春を過ごす踏切は、西武池袋線の池袋駅と椎名町駅の間にあるもの。憧れの女子を見つめて男子生徒が悶々としている踏切は、東武東上線のときわ台駅と上板橋駅の間に実際にあるものです。
モデルに忠実に描かれていて、周りの情景なども各話の間にイラストを挿入して解説されています。物語を読んだ後に実際にその場に行って雰囲気を感じる楽しみ方もできますし、行ったことのない人も妙にリアルな風景に親近感が沸くはずです。
1巻の冒頭は、「青春をしたい」と考えている2人の女子高生の物語からはじまります。青春を力説する先輩のアイと、物静かな雰囲気の後輩のトモが登場人物です。
踏切をただ待っているだけじゃもったいない、この時間を使って恋愛とか失恋とかしないといけない気がするとアイは言いますが、男がいないことに気づきました。
「うわーそうかー男がいない 女同士じゃ恋愛できねーや」
「女同士だって 恋愛できます!」(『踏切時間』1巻より引用)
突然すごい剣幕で叫ぶトモに、アイも思わず納得してしまいました。
- 著者
- 里好
- 出版日
- 2016-12-12
その後アイの提案で、電車が来た時にお互い好きな人の名前を叫ぶことに。しかし彼女はいたずら心で自分は叫ばず、トモが叫んだ名前を聞いたのです。
「すいません 先輩のこと好きでした」(『踏切時間』1巻より引用)
この2人のストーリーは中盤にも載っていて、少しぎこちないながらも相変わらず一緒に登下校している姿が見られます。
女同士の甘酸っぱいシチュエーションに混乱ぎみのアイですが、トモがその耳に何かをささやきました。ちょうど電車が通過して、轟音にかき消されたと思ったら……。
彼女たちの関係は、1巻では百合未満といったところ。2巻にも登場するのですが、果たして恋の行方はどうなっているのでしょうか。
2巻は前巻に比べてギャグテイストが多い印象。一緒に登校しているのになぜかスマホのメッセージで会話をする兄と妹、酔ってズボンを失くしたおじさん、ぎっくり腰になったうえにカラスに襲われるゴスロリ少女など……。
なかでも異彩を放っているのが、「踏切で変なおじさんと出会いがちな女子高生」ではないでしょうか。
酔っぱらって路上で眠ってしまいズボンを失くしたというおじさんから、声をかけられた彼女。パンツの代わりになればと、紙袋を差し出しました。
するとおじさんがお礼にくれたのが、果物のはっさく。しかもそれを使って一発ギャグを披露してほしいと懇願され、渋々ながらもやることになるのですが……。
- 著者
- 里好
- 出版日
- 2017-05-12
その後彼女は、『史記』に登場する君主「重耳」の姿をしたおじさんに出会います。彼は置いてけぼりをくらってしまった映画の出演者で、女子高生はさっそくその姿を写真に撮り、ツイッターにアップするのです。
メインキャラクターならともかく、知名度の低い重耳なんて誰もわからないとおじさんは落ち込み気味なのですが……。女子高生の投稿を見て、驚きの事実が発覚します。
踏切を待つ短い時間のなかで起きる妙にドラマチックな展開に、どんどんページをめくりたくなる作品です。
個性的な新キャラクターが多数登場する3巻では、これまでに比べて思わせぶりな描写やお色気が増量されています。
また女子高生カップルやSNS兄妹も健在。ぎっくり腰になってしまったゴスロリ少女は、いまだに踏切で固まっていました。
- 著者
- 里好
- 出版日
- 2018-03-12
まずは「背がでかい」男子高生の山田と「声がでかい」女子高生の香花(このか)の物語。香花はなぜか、いつも山田が踏切待ちをしている場面に鉢合わせてしまいます。ある雨の日、傘を持っていない彼を自分の傘に入れてあげようとしました。
しかし山田の身長が高すぎるため、上手く雨を防ぐことができません。業を煮やした香花は、なんと山田におんぶをしてもらって傘をさすのですが……体を押し付けられた彼は、急に意識をしてしまうのです。おまけに2人とも雨で体が濡れていて……。
「わあ 山田 緊急事態だ!」
「お前の水が 私のパンツまでしみてきてる!」
「そんなとこまでひっつけんな!」(『踏切時間』3巻より引用)
とんでもなくエロいシチュエーションになっていることに気が付いた香花は、急にしおらしくなり、彼の背中から降りようとするのですが、今度は制服が引っかかってパニックに。エロくてドジなハプニングに見舞われた2人が、最終的にはちょっといい感じになるのが見どころです。
また、女の子のような可愛い見た目をした陸上部の高崎小太郎と、先輩の木山琢磨にもご注目。
ランニングコースに踏切があり、足止めをくらった2人。小太郎はこの間に柔軟体操をやりたいと言います。背中合わせになって体を伸ばすのですが、彼は引っ張られるといちいち変な声を出したり、木山に向かって意味深な言葉を投げかけたり。
それを見た木山は、イケナイと思いつつ「ズキュン」としてしまう純朴っぷりです。
後輩に散々振り回され、踏切が開くと、木山は青春ダッシュで逃げ出してしまいました。それを追いかける小太郎。
さらにそんな2人の後ろ姿を、女子マネージャーがキラキラとした笑顔で見守っているのです。こんな風に男子高校生を見ていたい女性読者も多いのではないでしょうか。
既存のキャラクターを上回る勢いの濃い人物が続々登場し、ストーリーの幅が広がっていく3巻でした。
これまでの巻にも一風変わったキャラクターがたくさん登場しましたが、『踏切時間』第4巻は濃いキャラクターたちがさらにこれでもかと登場します。
たとえば、とあるギャル高校生。彼女はなぜか、黒タイツを配って回る僧侶に絡まれてしまいます。そして、踏切を挟んで向かい合う2人の女子高生たち。彼女たちは謎のコントを披露して電車内をざわざわさせ……。
- 著者
- 里好
- 出版日
- 2018-06-12
踏切のカンカンの中で、ますます奇天烈な世界観が強調されています。かつて、踏切をここまでネタとして昇華した漫画があったでしょうか?
もちろん、これまでにお馴染みのキャラクターたちも登場。濃い新キャラクターたちに彼らの存在が霞んでしまうかと思いきや、決してそうではありません。もはやお約束というか、いつもの彼ららしい日常を垣間見せてくれます。
踏切が好きな人もそうでない人も、いい思い出がある人も特にない人も、一冊まるまる「踏切」に浸れる舞台設定は健在です。笑った後に、少しだけ郷愁を感じてしまうのが、この『踏切時間』なのです。
読後に不思議な余韻を残す『踏切時間』。独特の世界観がアニメではどのように表現されるのかも楽しみですね。各地の踏切でくり広げられている日常に触れてみてください。