小説を読みたいけど時間がない……と諦めていませんか?短編小説やショートショートに焦点を当ててみると、どれも名作揃い。各出版社も豪華作家陣の作品を収録したアンソロジーを出版しているんです。今回はそのなかでも厳選に厳選を重ねた10作をご紹介していきます。
伊坂幸太郎や朝井リョウ、あさのあつこなど青春小説に定評のある作家の作品を集めた短編集。「少年」というひとつのテーマをもとに、おのおのの視点から多彩に表現しています。
人気作家陣が描き出すそれぞれの「少年」像は、大人になりきれない繊細な表情と背伸びをした力強さが輝き、読む人の心を暖かくする珠玉の一冊です。
- 著者
- ["伊坂 幸太郎", "あさの あつこ", "佐川 光晴", "朝井 リョウ", "柳 広司", "奥田 英朗", "山崎 ナオコーラ", "小川 糸", "石田 衣良"]
- 出版日
- 2017-05-19
なかでも人気なのが、伊坂幸太郎の「逆ソクラテス」。学校という狭い環境だと、「先生」は絶対的なものだと信じて疑わない生徒がほとんどでしょう。広い世界を知らないのだから当たり前かもしれませんが、もし大人に対しても自分の意見を言える子が存在したら……?
安斎という少年は、先生を相手にしても「俺はそうは思わない」と言うことができる子どもでした。
そんな彼に感化されたクラスメイトたちは、先入観にとらわれて生徒のことを見ている担任教師の思い込みを崩す、ある計画を実行していきます。
自分の本音を言うことができないのは、実は大人も同じこと。安斎の少年らしい強さに触れて、読者も自身の現状を考え直すきっかけになる一遍になっています。
片思いというと甘酸っぱい印象がありますが、大人だからこそ自分の気持ちを隠してしまう「片思い」があるのではないでしょうか。本作は、石田衣良や角田光代、三崎亜記などほろ苦い大人の恋愛を描くプロの作品を集めたアンソロジーです。
大人ならではの要素である「結婚」「歳の差」「秘密の関係」などを題材にし、夜も眠れない燻ぶった想いを抱えた人たちを個性豊かに描いています。
- 著者
- ["石田 衣良", "栗田 有起", "伊藤 たかみ", "山田 あかね", "三崎 亜記", "大島 真寿美", "大崎 知仁", "橋本 紡", "井上 荒野", "佐藤 正午"]
- 出版日
- 2009-05-01
大人だから恋をした、大人だから積極的になれない、そんな片思いを描いているのが山田あかねの「やさしい背中」です。
気がついた時には生まれしまった恋は、かならずしも前進すればいいとは限りません。既婚者を好きになってしまったリエコは、彼の背中を抱きしめたいという思いを吐露しながらも、次の言葉を自身に言い聞かせます。
「実らない方が甘美な恋もある。そっとしておくのがいい思いもある。」(「やさしい背中」より引用)
両思いになることだけが大人の恋ではない、大人だから理解できる事情もあり、理性もある……そこにある種の甘美さが宿るのかもしれませんね。
「日本SF作家クラブ」の50周年を記念し、1963年からの10年間に発表された短編を収めた一冊です。星新一や筒井康隆など、日本のSF小説の歴史を築いた名作が集っています。
SF小説のファンはもちろん、これからSFに触れていきたいという方にもおすすめです。
- 著者
- ["光瀬龍", "豊田有恒", "石原藤夫", "石川喬司", "星新一", "福島正実", "野田昌宏", "荒巻義雄", "半村良", "筒井康隆"]
- 出版日
- 2013-02-22
筒井康隆の「おれに関する噂」の主人公は、ただの一会社員。しかしある日の朝から、テレビや新聞が彼のことを大事件として報道するようになりました。会社でも上司や同僚が彼の噂をしています。その内容は、女の子にデートを断られたというようなくだらないことばかり……。
「マスコミが報道すれば、なんだってビッグ・ニュースになるんです。報道価値なんて、報道した後からいくらでもついてくるんです」(「おれに関する噂」より引用)
筒井康隆のブラックユーモア的世界観ですが、現代日本でも同じことがいえるのではないでしょうか。現実の対象は芸能人や有名人が多いですが、プライベートな出来事がメディアに娯楽として消費されていくことを、先だって記しています。
ちょっぴり奇妙な世界観のなかに深い意味がある、日本のSFらしい一遍だといえるでしょう。
このほか星新一の「鍵」など、1度は読んでおきたい作品が勢ぞろいしています。
岸本佐知子が編訳した短編集。どこれもこれもが「変」な愛に満ちています。
恋愛は人と人がするもの、それは誰が決めたものなのでしょうか。恋の相手がバービー人形でも、木でもいいじゃないか、と奇妙ながらも愛おしくなる一冊です。
- 著者
- 出版日
- 2014-10-15
なかでもA.M.ホームズの「リアル・ドール」は、衝撃的な冒頭文が印象的。
「僕はいまバービー人形とつきあってる。」(「リアル・ドール」から引用)
この言葉どおり、主人公の男は、恋人のバービー人形と日々を送っていました。人形の持ち主である妹と三角関係になったり、バービーのボーイフレンドのケンと恋敵になったりします。
あくまでも人形としての彼女に恋をする主人公の姿は、滑稽でもあり、純粋。読み進めるごとにチャーミングさが増していくのです。
奇想天外な愛のカタチを覗いてみませんか?
猫に不思議な魅力を感じる人は、読者のなかにも多いのではないでしょうか。本書は、猫に魅了されてしまった作家たちの作品集。
もっと猫を愛したくなってしまうはずです。
- 著者
- ["大佛 次郎", "有馬 頼義", "尾高 京子", "谷崎 潤一郎", "井伏 鱒二", "瀧井 孝作", "猪熊 弦一郎"]
- 出版日
- 2009-11-24
猫と暮らし、溺愛していたことでも有名な谷崎潤一郎。飼っていたペルシャ猫が亡くなった時には、はく製にしたほどだそうです。
そんな彼が手掛けた「客ぎらひ」には、猫好きならではの着眼点が光っています。眠い時には返事の代わりに尻尾を揺らすを見て、
「自分にもああ云ふ便利なものがあったならば、と思ふことがしばしばである」(「客ぎらひ」から引用)
また帯には谷崎の言葉を借りて、「美しくしなやかでお上品、さうかと思ふと悪魔のやうに残忍」と評されていました。
猫を飼っているのか飼われているのか、わからなくなってしまいそう。このほか井伏鱒二や柳田邦男など、近代文学を代表する作家たちの「猫愛」をぎゅっと詰め込んだ一冊です。
顔や声は忘れても、「香り」の記憶はなくならない、人間とはそういう生物なのだそうです。
忘れられない母親の甘い香り、別れた彼女の香水のにおい、大切な場所に漂っていた切ない香りなど、思わず共感できる「香り」をテーマにした短編集になっています。
- 著者
- ["阿川 佐和子", "角田 光代", "高樹 のぶ子", "熊谷 達也", "重松 清", "小池 真理子", "石田 衣良", "朱川 湊人"]
- 出版日
- 2011-10-07
重松清の「コーヒーをもう一杯」は、なんとも切ない雰囲気の漂う作品。主人公は、六畳一間の狭いアパートで彼女と同棲をしている青年。洗濯機などの生活必需品も揃っておらず、そんな2人をあたためてくれるのがミルで入れる一杯のコーヒーでした。
ある時、彼女が遠い地元で就職することが決まり、暗黙のうちに別れが近づきます。彼女の次のひと言から、大切な話ははじまりました。
「ねぇ、もう一杯お代わりしない?」(「コーヒーをもう一杯」より引用)
言いたくないけど言わなきゃいけない、でもどちらからも言い出すことができない別れは、一杯のコーヒーの香りに優しく包まれていきます。
五感に深く刻まれる一冊です。
中学校や高校の教科書に採用され、誰もが1度は目にしたことのあるであろう夏目漱石の『夢十夜』。「こんな夢をみた」という冒頭文はあまりにも有名です。
本書は、その『夢十夜』にインスパイアされた10人の作家たちが、同じ一文を使用してそれぞれの「一夜」を綴っています。
- 著者
- 出版日
- 2009-05-28
漱石の『夢十夜』は、ファンタジー色の強いものからホラーテイストの物語まで、さまざまなジャンルの短編が収録された作品。作家陣のなかにも、多くのファンが存在しています。
萩原浩の「長い長い石段」は、ホラー色の強いもの。本書では3つ目に掲載されているのですが、漱石の『夢十夜』で3つ目に収録されているものも、思わず背後が気になってしまう物語なのです。
ほかの作品も漱石を思わせるような構成や描写が取り入れられ、そのなかに作者独自の色が光ります。
また『夢十夜』を読んだことのない方にも、ライトな分量とファンタジー色の強い本書は読みやすくておすすめです。
教科書に載っているものは退屈、つまらない……そんな先入観はありませんか?侮るなかれ、本書には、大人が読んでもハッとさせられること必至の名短篇が収められています。
子どものころにはわからなかった、あの作品に込められた本当の意味、もう1度解読してみませんか。
- 著者
- 出版日
- 2016-04-21
収録作品の作家としては森鴎外や菊池寛、梅崎春生など名だたる大御所が名を連ねています。
森鴎外の「高瀬舟」は、島流しにされた罪人を護送する船上の物語。タイトルは知っていても、文体が多少古いこともあり未読の方も多いかもしれません。
護送役を任されている役人は、罪人の喜助が楽しそうに振る舞うのを見て不審に思い、そのわけを尋ねます。
「私の半生はあまりに辛かったので、島流しにされても大して変わるまいと思うからです。お金まで貰えました」(「高瀬舟」から引用)
そこで彼の半生を聞いてみると、両親を早くに亡くして弟と暮らしてきたが、その弟も病気で働けない体になってしまたそう。喜助は、迷惑をかけたくないと自殺を図ったものの死にきれなかった弟を楽にしてやったというのです。
殺人なのか、安楽死なのか……学生のうちは理解できなかった物語も、大人になってから読めばまた違う意味を持つのではないでしょうか。
このほか梅崎春生や野坂昭如の戦争小説など、もう1度文学に触れたい方は必見の一冊になっています。
対照的な2人の人物の心情を描いた一冊。バーで出会った男女がそれぞれ抱える思惑など、かみ合うようでかみ合っていないさまを見事に表現しています。
自分の発した言葉が、相手にはどのように受け取られているか、面白くも考えさせられる内容のものばかりです。
- 著者
- ["吉田 修一", "森 絵都", "佐藤 正午", "有栖川 有栖", "小川 洋子", "篠田 節子", "唯川 恵", "堀江 敏幸", "北村 薫"]
- 出版日
- 2005-03-01
三浦しをんや北村薫、小川洋子など12人の作家が作品を寄せています。篠田節子の「別荘地の犬」は、迷い込んできた犬を預かる女性と、飼い主のお話。片方だけの物語を読むのではわからない仕掛けに驚くどんでん返しが仕込まれていて、読みごたえ抜群です。
このほか有栖川有栖や伊坂幸太郎など、名前を見ただけで手に取ってみたくなる作家人が揃っています。誰かの裏の顔をのぞき見るようなドキドキ感を味わうことができるでしょう。
最後にご紹介するのは、ミステリー。中山七里や林由美子などの豪華作家陣の作品が収められています。
共通しているのは、どれもクライマックスにどんでん返しがあること。何かをひっくり返されるとわかっているのに、思わず叫びたくなってしまうものばかりです。
- 著者
- 出版日
- 2016-06-07
島津緒繰の「アーティフィシャル・ロマンス」では、高校生のあきらがとあるチラシを見つけるところからはじまります。
「人造人間を無料でプレゼントします」(「アーティフィシャル・ロマンス」より引用)
一冬の間だけのレンタルだそうで、彼は自分の好みにあった彼女をつくるのです。5分で読めるとだけあって文章量は少ないですが、長編小説にも引けを取らない読み応え。ちょっとした空き時間で物語の世界観にトリップできるでしょう。
時間がない、忙しいと思っている人にこそおすすめの一冊です。
ちょっとした空き時間で手軽に読める短編集は、どれも通勤、通学のおともに最適!珠玉の一冊をカバンに忍ばせて、出かけてみてはいかがでしょうか。