多くの謎と伏線があり、魅力的なキャラクター達が活躍する、世界的に有名なSF小説。そんな『星を継ぐもの』は、イギリスの作家ジェイムズ・P・ホーガンの処女作です。 続編には『ガニメデの優しい巨人』『巨人たちの星』『内なる宇宙』『Misson to Minerva(未訳)』があり、「巨人たちの星」シリーズと総称されています。本作はミステリーの要素の多いので、SF小説に馴染みがない方でも面白く読み込む事ができるでしょう。 ここでは、そんな本作の魅力をご紹介。ぜひ、その魅力を感じてみてください。
本シリーズは、続編のうち『ガニメデの優しい巨人』『巨人たちの星』までが3部作となっており、ストーリーは一旦そこで1つの結末を迎えます。
そして、後日談的な内容の『内なる宇宙』、日本では未訳となっている『Misson to Minerva』とシリーズが続き、これらは総称して「巨人たちの星」シリーズとして知られているのです。
作者のジェイムズ・フィリップ・ホーガンは、1941年イギリス生まれのSF作家。設計技術者などの職を経て、デビュー作『星を継ぐもの』を発表後、専業作家となりました。
彼は日本において、『星を継ぐもの』を含め星雲賞を3回受賞。「ハードSFの巨匠」と言われるほどの人気を誇りますが、2010年、心不全により死去。享年は69歳でした。
著作は創元SF文庫にて出版されており、2015年までに累計45万部を売り上げ、創元社最大のヒット作となっています。
- 著者
- ジェイムズ・P・ホーガン
- 出版日
- 1980-05-23
まずは、「巨人たちの星」シリーズのあらすじをご紹介させていただきましょう。
2028年、星間飛行の技術が発達し、木星まで半年で到達できるようになった地球。そんななか月面にて、真紅の宇宙服を着た人物の遺体が発見されます。行方不明になっている国連の月面基地スタッフは1人としておらず、彼は基地にいるスタッフの誰でもありませんでした。
彼は一体、誰なのでしょうか?
謎を解明するためにおこなわれた綿密な調査の結果、仮として「チャーリー」と呼ばれる事になったその人物は、なんと5万年前に死亡していたという事が判明するのです。
現在の科学技術では再現不可能な装備、解読不可能な文字らしきものが並ぶ手記……。調査の結果は新たな謎を呼び、各種専門分野から人員が派遣され、数々の仮説・検証が続けられていく事になります。月で発見されたその人類は「ルナリアン」と呼ばれる事になりますが、それは一体何者なのでしょうか……。
ミッシングリンク、月の起源、一般にも知られる多くの謎にSF的解釈を加え、張り巡らされた伏線がミステリー要素も交えて展開されていく、推理ゲームのようなストーリー。
いくつもの仮説が立てられは棄却されていくなかで、浮かび上がる事実。ルナリアンは、火星と木星の間にかつて存在した惑星ミネルヴァの住人だったのです。そして、そこから遠く離れた地球の衛生、月にいたルナリアンのチャーリー……。
彼はなぜ、月にいたのでしょうか?
「プロジェクト・チャーリー」に関わる事となった原子物理学者ヴィクター・ハント博士は、生物学者クリスチャン・ダンチェッカーらとチャーリーの謎を追ううちに、知られざる人類の進化の軌跡を知る事になるのでした。
そして、その軌跡は、新たな謎である惑星ミネルヴァ固有の知的生命体ガニメアンの存在へと繋がっていくのです。
『星を継ぐもの』冒頭に登場する「巨人コリエル」、そして3部作において1番最初の謎となる「チャーリー」の存在。これらを少し考察してみましょう。
「巨人」とは、このシリーズに登場する異星人「ガニメアン」を指して使われます。彼らは惑星ミネルヴァ(火星と木星の間に存在したとされる架空の星)で発生・進化した、ミネルヴァ固有の知的生命体です。
身長3メートル近くと大柄で、外見も地球人類とはかけ離れており、その事から「巨人」と称されています。2万5千年前に、惑星ミネルヴァからいなくなってしまったと推測されています。
そして巨人コリエルですが、彼は月面上で発見された正体不明の人物チャーリーが所持していた手記に登場する人物です。チャーリーは5万年前に死亡している事から、コリエルも同じ年代に生きていたと思われますが……。
月で発見されたチャーリーは、「ルナリアン」と呼ばれます。「巨人」と言われるコリエルは「ガニメアン」?それともチャーリー同様「ルナリアン」なのでしょうか?
このプロローグが一体どういう場面だったのか、それはチャーリー調査チームの言語学班が「チャーリーの手記」を解読する事で明らかになります。しかし、コリエルが巨人(ガニメアン)だったかどうかは、まだはっきりしません。
ルナリアンとは、何者だったのか?それは、木星の衛生ガニメデで墜落した異星人の宇宙船が発見された事で、意外な方向性から解明されていくのです……。
チャーリーらルナリアン、そしてコリエルですが、『星を継ぐもの』最終盤にハントやダンチェッカーらの推理で、驚くべき事実が明かされます。彼らの、もう1つの正体とは……?
ぜひ、ご一読して確かめていただけたらと思います。
『星を継ぐもの』は、第1巻ですべての謎が完結するわけではありません。むしろ、この第1巻の謎が3部作すべてに繋がっているのです。多くの疑問は『星を継ぐもの』から表出していますが、すべてが解明、明言されるのは『巨人たちの星』での事になります。
現れては消える仮説、推論、くり返される検証……難しい説明や解説、論拠が続くと少し飽きてしまったり、読むのが億劫になってしまったり……そんな時もあるかもしれませんが、大丈夫です。そこは理解できなくても面白い!
推理小説のように、今まで出てきた事柄を見て「これはどういう事だろう?」「もしかしてこういう繋がり方をするのでは?」とワクワクしながらストーリーを追う事が出来るのです。
ミッシング・リンクの存在、月の起源と月半球不整合、火星と木星の間に存在する小惑星群ーーそれらの謎に加えられていく、物語独自の解釈。多少なりともお馴染みの言葉が出てきたら、興味をもって読み進められるかもしれません。
「事実」とされている事柄に「虚構」である物語上の説明が付けられていくのですが、科学者や生物学者ら各分野のスペシャリストが語る推測や解説は、思わず「本当の事なのでは……」と考えさせられてしまうでしょう。
この本を読んでから、自分の記憶知識のどこまでが現実の知識で、どこからが本作の創作部分なのか自信が無くなってしまうかもしれませんが……それをあらためて調べてみるのも面白く、いろんな意味で多面的に楽しめる要素が盛り込まれています。
『星を継ぐもの』は、漫画版で読むのもおすすめです。『宗像教授伝奇考』などで知られる漫画家・星野之宣(ほしの ゆきのぶ)による、新たな切り口で描かれた漫画版は全4巻。
「巨人たち星」シリーズの続編『ガニメデの優しい巨人』『巨人たちの星』の内容までカバーしながら原作をスピーディにまとめつつ、独自の展開も盛り込み進むストーリーはテンポよく、読みごたえもあります。
原作とは少し違った趣ですが、原作の難解なSF部分に苦手意識を感じてしまう、という方には導入としてもおすすめです。また小説版読者の方にも、原作にはない展開があり新鮮な驚きが感じられるのではないでしょうか。
- 著者
- 星野 之宣
- 出版日
- 2011-06-30
漫画版は、クロマニョン人、ネアンデルタール人が生きていた時代背景の説明から始まります。そして、原作との大きな違いは「国連平和委員会」の存在でしょう。『巨人たちの星』で明らかになる「地球規模の秘密組織」の陰謀……これが、すでに第1巻から匂わされているのです。
原作を読破された読者の方には、『星を継ぐもの』第1巻において国連平和委員の肩書きを背負ってニールス・スヴェレンセンが登場している事に驚かされるのではないでしょうか。
そして「まさかあの人がこんな事に!?」と思わずにはいられないのが、国連宇宙軍航行通信局本部長グレッグ・コールドウェルです。
原作では短く刈ったごま塩頭に、ずんぐり体型の男性……ですが、漫画版では彼の役割を果たす人物は、グレース・コールドウェル……なんと、颯爽とした理知的な美女に変身しているのです!グレッグはもちろん格好いい上司ですが、女上司グレースも捨てがたい……悩ましいところです。
そして、ルナリアンのチャーリーは地球に移送されることなく月面で調査がおこなわれ、何者かの手によって焼失する事態へと展開していきます。惑星ミネルヴァの存在、ルナリアン人=ミネルヴァの人類であるという仮説、浮かび上がる核戦争による惑星破壊の事実と、月が地球の衛生となった経緯の推察……。
第2巻では、冒頭から続く「月が存在しなかった地球」を考察するなかで、恐竜達の驚くべき生態が生き生きと描かれます。この場面は、漫画版の画面迫力に思わず説得力を感じずにはいられません。
また、ガニメデで発見される宇宙船は、原作と違い100万年前のものとされています。探索をおこなうのもハント博士、ダンチェッカー教授ら自らとなっている点にも注目です。そして、お互い反目しあっていたこの2人がようやく愛称で呼び合うようになる場面は、緊迫した展開のなかでほっと和む一幕といえるでしょう。
さらに、3部作を統合するエピローグ。原作とは違った趣はここにも表れていますので、ぜひこちらも確かめていただきたいと思います。
月面で発見された5万年前の遺体、チャーリーと呼ばれる事になった謎の人物の正体ーーそれを解き明かすため、各専門分野の識者達が招集されることになります。
物質の透過撮影が可能な装置・トライマグニスコープの開発者である原子物理学者ヴィクター・ハントも、自らの開発した装置とともに調査・研究チームに携わる事になりました。
チャーリー発見から前後して、木星の衛生・ガニメデに派遣された調査隊は、さらに驚くべきものを発見します。それは、かつて火星と木星の間に存在した惑星・ミネルヴァの知的生命体の宇宙船でした。
ガニメデで発見された事から、その大柄な異星人はガニメアンと呼ばれ、その宇宙船内には地球の古代生物がサンプリングされていたのです。そして木星での新発見は、ルナリアン・チャーリーの謎に解決の糸口を与える事になるのでした。
しかし、チャーリーの謎が解き明かされると同時に、今度は新たな謎が浮上するのです。2万5千年前にガニメアンが地球に飛来していた事、そして地球から各種生物をサンプリングしていた理由……。新たな謎が浮かび上がるなか、ハントとダンチェッカーはある衝撃の事実に辿り着くのでした。
「巨人たち星」シリーズ3部作、多くの謎の起点となる第1巻です。
- 著者
- ジェイムズ・P・ホーガン
- 出版日
- 1980-05-23
作中で注目していただきたいのは、主人公ヴィクター・ハントと、生物学者クリスチャン・ダンチェッカーの2人です。
1巻から登場して、このシリーズの核心部分に必ず関わってくる彼ら。初めはまったくウマが合わずに反発し、特に読者は主人公・ハントの側から物語を見ていくので、ダンチェッカーはいけすかない存在だと思うことでしょう。
しかし読み進めていくうちに、少しずつ歩み寄っていくこのおっさん2人。いつの間にか愛称で呼び合う絶妙なコンビとなって、力を会わせて謎を解明していく過程は、必見です。頑固で融通がきかないダンチェッカーが、いつの間にかものすごくかわいく見えてくるでしょう。
「ルナリアン・チャーリーとは何者なのか?」という問いに始まり、「惑星ミネルヴァはなぜ滅んだのか?」「ガニメアンとは何者だったのか?」と数珠繋ぎに持ち上がる謎。そして解が与えられれば、それに付随する新たな謎が浮かび上がっていく展開に、続きが気になって、ついつい惹き込まれしまいます。
終盤判明するセリオス人の行く末、そしてランビア人の存在と、謎のままの彼らの行方……。ぜひ、これらを頭の片隅に置いておいて、3部作を読み進めていっていただきたいです。
ルナリアン・チャーリー(セリアン人)ーー彼らは現在の地球人類の祖だったという真相に、ハントとダンチェッカーは行き着きます。
その後も、ガニメデにて調査に携わっていた彼らは、思いもかけない出来事に遭遇する事となるのです。遥か宇宙の彼方からガニメデに接近する、正体不明の飛行物体……それは、任務のため大昔に太陽系を離れた、ガニメアン達の宇宙船「シャピアロン号」だったのでした。
なぜ、ガニメアン達は2万5千年の時を経て、帰り着いたのか?かつてのガニメアン達は、一体どこへ消えてしまったのか?
ルナリアンの起源に連なるガニメアン達の登場で、解き明かされていなかった謎にスポットが当たり、新たな見地が開かれていく「巨人たち星」シリーズ3部作、第2巻です。
- 著者
- ジェイムズ・P・ホーガン
- 出版日
- 1981-07-31
未知との遭遇が描かれる本巻。注目の存在は、なんといってもガニメアン達です。
遥か昔、ミネルヴァを飛び立った宇宙船「シャピアロン号」の乗組員達……代表のガルース、冗談や皮肉を理解する「シャピアロン号」のメインコンピュータ・ゾラック。地球人類とは異なる精神構造を持ち、穏和で優しく理性的なこの巨人達は、本当にユーモアで愛すべき隣人です。
彼らの登場で謎の解明は大きく前進しますが……地球生物がミネルヴァに移入されたのは、ガルースらが母星を発った後の出来事でした。
「なぜ地球生物をサンプリングしていたのか?」「ミネルヴァへ移入した地球生物には、特異な酵素が存在するのはなぜか?」「ガニメアン達は一体どこへ行ってしまったのか?」ガニメアン達と協力し合い、その謎を追ううちにハントとダンチェッカーが辿り着く、ガニメアンにとっての悔恨を想起させる事実とは……。
そのために、愛すべき友人となったガニメアン達は、再び宇宙へと飛び立ってしまうのです。一体どんな事実が待ち受けているのでしょうか?切ない友情の幕切れと、少しの希望が見いだされるラストに心を打たれるはずです。
かつて母星ミネルヴァを滅ばしたルナリアンの凶暴性は、ガニメアンの遺伝子操作がもたらしたものだったーーその事実に気が付いた「シャピアロン号」のガニメアン代表・ガルースは、地球を去る決意をします。
ルナリアンの資料から「巨人たちの星」という記述が見つかったことで、そこにミネルヴァを去ったガニメアン達が移住したのではないかという僅かな希望を感じ、旅立ったガルース達。
ハントらは、その「ジャイアンツ・スター」と呼ばれるようになった場所に信号を送り、「シャピアロン号」の事を伝えようと試みます。その直後にジャイアンツ・スターから、返信の信号が届きーー。
しかし、ハントは早すぎるその返信信号に違和感を覚えるのです。
地球は何者かから監視されているのではないか?
煮えきらない国連の態度がとある疑いを深める一方で、地球の歴史を裏で操ってきた存在の影がちらつき始めます。
ついにハントらは、ナヴコムを通じジャイアンツ・スターと独自の交信を試みるのです……。その事が「シャピアロン号」の命運を分け、地球人類、ひいてはジャイアンツ・スターの未来をも左右する事実に繋がっていくのでした。
「星を継ぐもの」……その名が何を意味するのか、ついに明かされる3部作最終巻です。
- 著者
- ジェイムズ・P・ホーガン
- 出版日
- 1983-05-27
ルナリアンの片割れであるランビア人の行方、妨害されるジャイアンツ・スターとの交信、暗躍する謎の組織……。今までの謎、伏線がすべて回収されていく第3巻です。
本巻は前作までと違い、張り巡らされた権謀術策のなかを掻い潜り、地球存亡を賭けて機転とハッタリで戦う、スピード感のある展開が見所といえるでしょう。
そしてジャイアンツ・スターで繁栄するガニメアンの子孫・テューリアン人達との出会いは、ハントら地球人類をさらに進歩させる事になっていきます。
テューリアン人達の星、その描写、ガニメアン達からまた数段進歩した技術。想像が追い付かない程の情景が展開され、そのなかで多くの謎が氷解していくさまは、まさに圧巻です。
ハント、ダンチェッカーのコンビに加え、コールドウェルやリンも大活躍する3部作最終巻。ハードボイルド、そして緊迫感のある展開をぜひ味わっていただきたいと思います。
この項では本作のまとめと、続刊のご紹介をさせていただきたいと思います。
まず『星を継ぐもの』は、1巻のみで読むのを止めてしまってはもったいない作品といえるでしょう。第1巻のみでも、もちろん面白いのですが……3部作で完結する、という意味が3作目『巨人たちの星』を読んで始めて理解できる作りになっているのです。
第1巻では判明した事実を検証、新たな事実により先の仮説が崩れ、新たな説が浮上し……という事のくり返しで、読み進めるのが辛かったり、うっかり眠くなってしまうかもしれません。
しかし、ここで言及されている事が第2巻の謎に繋がっていき、未知との遭遇、地球人類に関する衝撃的な事実が判明するという展開を経て、第3巻では長大な計画の陰謀が明らかになっていくのです。
1度展開の波に乗れれば、あとは続きが気になるばかり!繋がっていく謎から謎へ、どんどん読み進める事が出来るようになっていきます。
SFらしい未知との遭遇はもちろん、タイム・パラドクス、タイムリープ、すべての謎が明かされ、そして永遠に解けない、解かなくても構わない謎が残されるというラスト、魅力的なキャラクター達のやりとり……SF初心者の方にも読みやすいお話をいえるのではないでしょうか。
- 著者
- ジェイムズ・P. ホーガン
- 出版日
そして3部作以降の続編もありますので、もし気になった方は第4作『内なる宇宙』もおすすめです。テューリアンからの独立と、地球制圧を目論んだジヴェレンの野望が断たれた後のジヴェレン人達が描かれる本作は、また趣の違った作品となっています。
士郎正宗の『攻殻機動隊』を思わせるサイバー世界が登場し、ハントはガルースらと協力しながらその電脳的世界へとダイブするという、これまでからすれば意外な方向へとお話が展開していくのです。
Mission to Minerva (Giants)
第5作『Mission to Minerva』は日本では未訳の続編となっており、邦訳が待たれますが……翻訳の予定は未定との事。いつか翻訳される日を、楽しみに待ちたい作品です。
難しいと言われがちですが、SF初心者の方にもおすすめできる作品です。ぜひ!