「時の車輪」シリーズは、大長編ファンタジー小説。不可能と言われたドラマ化も発表された本作の見所を、ネタバレ有でご紹介いたします。作り込まれた世界観や少しずつ謎や世界の真実が明らかになっていく展開がこの作品の魅力といえるでしょう。ファンタジーは、ここではないどこかの世界を舞台とした物語です。歴史も文化も、何もかもが違う世界で巻き起こる様々な出来事に、心が弾むでしょう。
「時の車輪」シリーズは、1990年より刊行が開始された、ロバート・ジョーダンのファンタジー小説です。日本では、早川書房のファンタジーレーベル、ハヤカワ文庫FTにて翻訳されています。
物語の舞台は、どこにでもありそうな小さな村、ファンタジー小説の主人公らしくないネガティブな性格のランド・アル=ソアです。
いずれ闇王が牢から出て自由となり、竜王が再来し世界を救うために破壊する。そんな予言が信じられている中、祭りの準備でわきたつ村を突然妖獣の一団が襲います。偶然この地を訪れていた異能者のモイレインと護衛騎士ランのおかげで撃退することはできましたが、村に不穏な空気が漂います。
実は、このモイレンとランには、「ある目的」がありました。
- 著者
- ロバート ジョーダン
- 出版日
それは、闇王の復活を目指す手下より早く、ある「力」を持った人物を見つけ出すこと。
二人は、ランド・アル=ソアを含む3人の若者と出会いましたが、誰が「力」を持った人物なのか、確信を持てないでいました。誰が目的の人物なのか見極めつつも世界を救うために、二人はランドとその仲間達とともに旅に出るのでした。
旅が進むごとに、世界観や歴史、そして、世界の行く末のカギを握るある「力」のことが少しずつ明らかになっていきます。
この謎解きをするような展開が「時の車輪」シリーズの魅力といえるでしょう。
アメリカでは14部まで刊行されていますが、ロバート・ジョーダン自身が執筆したのは11部まで。完結予定だった12部を完成させないまま亡くなり、未完となっていました。 残された原稿や草稿をもとに、ファンタジー作家、ブランドン・サンダースンが続きを執筆することになり、第14部まで刊行されました。
日本では、2019年8月現在、第12部まで翻訳されています。
Amazonでテレビドラマが制作されることが決定し、主演はロザムンド・パイクが務めると発表されています。
ロバート・ジョーダンは1948年10月7日生まれ。アメリカ合衆国のファンタジー作家です。本名はジェイムズ・オリヴァー・リグニー・Jr。サウスカロライナ州チャールスの出身で、ベトナム戦争への出征後、士官学校を経て海軍の原子力技術者として勤務していました。
近隣に引っ越してきた女性編集者の言葉をきっかけに小説を書き始め、1977年から作家活動を開始。
ファンタジーやロマンスとジャンルは多岐にわたり、ロバート・ジョーダンだけでなく、リーガン・オニールなどの名義でも作品を発表しました。ヒット作に恵まれない中、「時の車輪シリーズ第1部『竜王伝説』を発表。日本だけでなく、多くの国で翻訳され愛される大ヒット作となりました。
2006年、アミロイドーシスという難病にかかりシリーズ未完のまま58歳でこの世を去ります。
ロバート・ジョーダン作品の大きな特徴は、人物や世界の設定が非常に細かいというところ。作品の世界観に完成されているため、読み進めても矛盾を感じさせません。
日本ではファンタジーの世界は、漫画やゲーム、児童書で描かれていることが多く、子ども向けのイメージが強いでしょう。しかし、本作は、ファンタジー作品ですが、主軸は、登場人物を取り巻くかけ引きなどの人間ドラマ。
ファンタジー好きはもちろんのこと、『進撃の巨人』のような作品がロバート好きな人にも、おすすめしたい作品です。
本作には多くの個性的なキャラクターが登場します。その中の主要なキャラクターをご紹介します。
シリーズの主人公となるランド・アル=ソア。
物語開始の20年前に発生したアイール戦争に従軍した父親、タムに拾われてエモンズフィールド村で育ちました。羊飼いですが実は竜王のテラモンの再来で、強大な絶対力をふるうことができます。
マトリム・コーソンはギャンブルの才能を持ち、ペリン・エイバラは狼と意思疎通できる能力を持っています。ヒロインである村長の娘、エグヴェーン・アル=ヴィアを含めた4人は幼馴染で、村を訪ねてきた異能者・モイレインと護衛騎士のランとともに村を出ることになります。
ランドは、困難に立ち向かっていくというよりも、後ろ向きな性格。その言動にはハラハラさせられます。旅には、ランドとともに賢女と呼ばれているナイニーヴ・アル=メアラも関わってくるのですが、しっかり者で強気なキャラクターで、4人を引っ張っていく場面も。
冒険は様々なところから始まるものでしょう。城だったり、街の片隅だったり、きっかけがあればどこでも物語の始まりが生まれるのです。しかし、小さな村から始まる、という物語の始まりに、心が躍る読者も多いのではないでしょうか。
誰もが忘れているような、世界の端っこにある村から、世界を揺るがすような冒険が始まるスケールの大きさに、ロマンを感じるでしょう。小さな村で育った主人公たちとともに、少しずつ世界が広大であることを知り、そして広い世界に散りばめられた謎に迫っていく面白さがあります。
本作は物語が進行している世界の設定だけでなく、神話世界から現在に至るまでの歴史も細かく設定されています。過去があるからこそ現在があり、ランドたちは、その歴史の中で発生した問題に立ち向かっていくことに。
長い歴史の流れの中にある物語だからこそ、様々な伏線や語られていなかった神話の真相などが明らかになった時の衝撃は相当なもの。随所に張られた伏線を意識しながら読む楽しみもあるでしょう。
第1部はシリーズの世界観や神話、ランドたちの旅立ちが描かれています。モイレインに導かれるまま、村を出たランドたち。異能者のたちの都、タールヴァロンを目指しますが、闇の軍団の恐るべき追撃に遭ってしまいます。
- 著者
- ロバート ジョーダン
- 出版日
激しい追撃により仲間たちは3つのグループに分かれてしまいます。ランドとマットは、はぐれた仲間たちを探しながら首都シームリンを目指していました。かろうじてたどり着いた首都で、事故に巻き込まれて怪我を負ってしまいます。王城に招かれたランドは預言者に、ランドを中心として世界が動くと予言され、事の重大さに苦悩するのでした。
ランドがシームリンの拠点である宿に戻ると、モイレインたちと再会。散り散りになっていた旅の仲間がそろいます。そこで闇王の復活が迫っていることを聞いた一行は、緑の男が守る、「全界の眼」を目指し、再び旅立ちます。
無事に緑の男と出会うことはできたものの、闇王の手の者も迫ります。激しい戦いがくり広げられる中、ランドに闇王の手が迫り、そして白い光のローブをまとったランドは、自身の能力を覚醒させるのでした。
- 著者
- ロバート ジョーダン
- 出版日
戦いの他にも、道中には様々な戦いや苦難があり、出会いがあります。かなり頼りない主人公、ランドが自身の重すぎる運命に迷いながらも、覚醒するというのが最大の見所。シリーズ全体では序盤ではありますが、ランドとともに読者も大きな一歩を踏み出す気持ちを味わうことができます。
壮大な物語の中には、ランドだけでなく、幼馴染のマットやペリンといった近しい人物の苦悩や葛藤なども描かれています。異世界の物語ですが、描かれているのはそこに生きている、人間たちの物語。文字だけでイメージしていた世界ですが、この旅の映像化により、再現された世界を目で見ることができるのは嬉しいところ。配信が待ち遠しいですね。