フランス文学おすすめ10選!読みやすい初心者向けから、必読の名作まで。

更新:2021.11.12

本は好きだけど海外文学、それもフランス文学ともなると、敷居が高くてどれを読めばいいのかわからない……そんなお悩みをお持ちの方も多いのではないでしょうか。フランス文学とひと括りにしても、初心者向けの読みやすいものから不朽の名作、またジャンルもさまざまあります。今回は、フランス文学を読みはじめてみたい、という方に向けて必読の10冊を厳選しました。ぜひ参考にしてみてください。

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誰もが知るフランス文学!『悲しみよこんにちは』

 

読んだことはなくても、おそらく多くの人が1度は耳にしたことのある有名作といえば、フランソワーズ・サガンの『悲しみよこんにちは』でしょう。

なんと作者が18歳の時に出版された処女作で、世界的に大ヒットしました。1954年に発表されて以降現在でも読み継がれていて、世界20ヶ国以上で翻訳されています。

また映画化やドラマ化などもされました。

 

著者
フランソワーズ サガン
出版日
1955-06-25

 

18歳の少女セシルは、父親のレイモン、彼の愛人のエルザとともに避暑地の別荘で夏を過ごしていました。彼女は近くに滞在している大学生のシリルに恋心を抱き、やがて交際するようになります。

自由で幸せな日々を送っていましたが、彼女たちが過ごす別荘に、亡き母親の友人であるアンヌという女性がやってきたことで、その歯車は狂いだします。

アンヌは美しく聡明な女性で、レイモンは彼女と再婚をする素振りを見せました。そして2人は、セシルとシリルとの交際を禁止し、私生活を厳しく指導してくるように。

これまでの幸せな暮らしを取り上げられたセシルは、アンヌの存在を恨み、父親の愛人だったエルザとともに2人を別れさせる画策を始めるのです……。

物語は、セシルの精神的な成長を中心に描かれます。まだ少女の幼さを持つ彼女と、容姿も頭脳も完璧なアンヌ。お互いを嫌いながら、心の内ではお互いを慕ってもいました。

「私、とても大げさに言ったのよ。ねぇ、アンヌと私、うまく行ってるのよ。本当は……お互いが譲り合えばね」(『悲しみよこんにちは』から引用)

この印象的な言葉から、物語は悲劇的な結末へと向かっていきます。若さゆえの残酷さ、独占欲、嫉妬、コンプレックス……18歳の少女はさまざまな感情を抱いて、成長していきます。

 

戦時中に出会った男女のラブロマンス『ピエールとリュース』

 

第一次世界大戦期という激動の時代を舞台に、切ない恋を描いた本作。男性は戦地へ赴き、女性は軍需工場で働きます。

恋愛小説であると同時に、反戦小説の一面も持ち合わせた、まさに名作というにふさわしい一冊でしょう。

 

著者
ロマン ロラン
出版日
2015-12-16

 

ピエールは、裕福な家に生まれた18歳の男子学生、そしてリュースは軍需工場で働く貧しい家の少女です。ピエールは召集命令を受け、リュースは母親の再婚を目の当たりにし、2人とも人生に絶望していました。

空襲下で出会った彼らはやがて恋愛関係に発展し、お互いにのみ救いを求めて生きていきます……。

ストーリーは重たいですが、その一方で本作の魅力は、まるでロミオとジュリエットを彷彿とさせるピュアなやり取りにあります。

なかでも、なかなか気持ちを伝えることができないピエールのセリフは秀逸。

「『いつ、ぼくは君のものになる?』ピエールは言った。(彼は、『いつ、君はぼくのものになる?』とは、ききかねた)」(『ピエールとリュース』より引用)

読んでいるこちらが恥ずかしくなってしまうようなセリフが随所に散りばめられていて、恋愛小説として人気を博している所以がわかるでしょう。

 

10歳の少女と叔父のドタバタコメディ『地下鉄のザジ』

 

地下鉄に乗るのを楽しみにしている10歳の少女ザジ。パリに住む叔父のガブリエルのもとへ預けられましたが、なんとせっかくの地下鉄は、ストで運行していませんでした……。

くすりと笑えるユーモアがたっぷり仕込まれていて、ザジとガブリエル以外にも個性豊かな登場人物がたくさん。まるでドタバタコメディのような一冊です。

 

著者
レーモン・クノー
出版日
1974-10-10

 

叔父のガブリエルに連れられて、地方から憧れのパリにやってきたザジ。彼女の夢は、地下鉄に乗ることでした。しかし運転手のストライキで運行は中止しています。

この後2人は友人の家を訪れるのですが、なんとザジは地下鉄めがけて大脱走!そして彼女をさらおうとした男が逃げ帰るザジを追いかけて友人宅に突撃……と目まぐるしく物語は展開していきます。

なかでも印象的なのが、疲れて眠ってしまった彼女をガブリエルが地下鉄に乗せて帰った後のエピソード。2日間離れていた母親が娘に「地下鉄に乗れた?」と尋ねると、ザジはこう答えました。

「乗らない、疲れちゃった」(『地下鉄のザジ』より引用)

あれだけ大騒ぎしたのに……!と心のなかでツッコみたくなるセリフですが10歳の女の子らしさが表れているといえるでしょう。

文学的要素もさることながら比較的読みやすい内容なため、これからフランス文学を読みたいという方におすすめの一冊です。

 

世界を旅する冒険小説『八十日間世界一周』

 

誰もがワクワクするような冒険が楽しめるのは、ジュール・ヴェルヌの『八十日間世界一周』です。

イギリス人資産家のフィリアス・フォッグが、ビクトリア朝時代の世界をたった八十日間で一周しようとする冒険譚。当時の世界観や雰囲気がふんだんに楽しめる一冊となっています。

 

著者
ジュール・ヴェルヌ
出版日

 

主人公のフォッグは、イギリス領に新たな鉄道ができたことで世界一周ができると主張。仲間たちに疑われたため、全財産をかけて世界一周に挑むことにしました。

旅はフォッグと執事の2人きり。危機一髪の展開が連続し、手に汗握ること必死のエンターテインメントが続きます。

なにより、八十日間で世界一周を達成できなければ全財産を失うわけですし、彼らの旅を追跡する刑事も現れ、いろいろな意味でドキドキです。

そのなかでも冒険小説らしいシーンが、列車が鉄橋を渡ろうとするところ。たった数本のロープで繋がれただけの吊り橋で、それも壊れかけていました。一同が諦めかけたその時、フォッグが言います。

「全速力で突っ込めば、橋が落ちる前に渡りきることができるはずだ」(『八十日間世界一周』より引用)

勇気と力を結集し、世界一周旅行に立ち向かう彼らの旅路を見守りたくなる一冊です。

 

王政復古時代を奔走する人間喜劇『ゴリオ爺さん』

 

本書は1800年代前半に連載小説として発表されたもの。作者のバルザックの表現方法である写実主義の典型としても有名です。

子煩悩なゴリオ爺さんと、上流階級の地位を確保しようと奔走する青年たちを描いた作品で、当時の階級制度や貴族制度などがリアリティ豊かに描かれています。

 

著者
バルザック
出版日
2016-09-08

 

主人公のラスティニャックは、田舎から出てきた青年。上流階級との交流に憧れ、処世術を学びながら社交界で成功するために奔走します。

彼と対照的なのが、ゴリオ爺さんの存在。かつて会社を営んでいましたが、2人の娘の結婚生活にお金を工面したせいで、貧しい生活を送っています。

そんなゴリオ爺さんの人間味が表れているセリフがこちらです。

「あの子たちが暖かくしていればわしは寒くない、あの子たちが笑えば、わしも退屈しませんのじゃ」(『ゴリオ爺ちゃん』より引用)

娘を自分の人生そのものだと主張し、稼いだお金のほとんどを娘たちのドレス代などに惜しみなく使っていきます。

一方のラスティニャックは、上流階級になるために野心を抱くものの、結局は女性や仲間にほだされて非情になりきれません。

登場人物たちが皆人間らしく、ふっと笑えてほろりと泣ける人間喜劇が楽しめます。

 

ロマンスを夢見た少女の結末『ボヴァリー夫人』

 

甘い蜜には毒がある、と言わんばかりにとある女性が恋愛によって崩壊していくさまを描いた『ボヴァリー夫人』。

ヒロインのエマは恋愛に夢見がちな少女ですが、町医者のボヴァリーと結婚したことで、その理想が崩れていきます。やがて不倫劇に陥り……。

 

著者
フローベール
出版日
1960-06-25

 

恋愛に夢を見ていたエマ。どんな男性も好きな女性に対し積極的なものだと考えていましたが、結婚したボヴァリーはあまりにも控えめな男でした。

そこでエマは不倫にはしり、やがてレオンという男と部屋を借りて密会するようになります。しかしその資金繰りに困って知人から借金をするようになり、その額は自身で処理しきれないところまで膨れあがります。

痛い目にあいながらも、エマはレオンとこんなやり取りをするのです。

「あたしをじっと見て!あんたの目から、なにかしら楽しいあまいものが出てきてあたしとてもいい気持ち」(『ボヴァリー夫人』より引用)

事態は日を追うごとに悪化し、どうにもならなくなった彼女は、最終的に服毒自殺を図ります。一方で夫のボヴァリーは、彼女の不倫など露知らず、ただ茫然と事態を見守るのみ……。

恋愛小説ですが、エマをはじめとした当時の女性の縛られた生活や生きづらさが招いた崩壊劇でもあります。フランス文化に触れてみてはいかがでしょうか。

 

飛行士だった男の命がけの体験を綴ったエッセイ『人間の土地』

 

作者のサン=テグジュペリが、飛行士として働いた15年間の経験を振り返って綴ったエッセイ。過酷な職務をするなかで培った同僚との友情や、自身の生き方について語っています。

発表されたのは1939年ですが、彼が当時抱いていたさまざまな葛藤は、現代にも通じるものがあるでしょう。

 

著者
サン=テグジュペリ
出版日
1955-04-12

 

彼の経験にもとづいた知見・発見が項目別にまとめられています。そのうえで全編をとおしてテーマになっているのが、「人間の使命」について。

サン=テグジュペリは冒頭で次のように記しています。

「ぼくら人間について、大地が、万巻の書より多くを教える。理由は、大地が人間に抵抗するがためだ。人間というのは、障害物に対して戦う場合に、初めて実力を発揮するものなのだ」(『人間の土地』より引用)

また、リビア砂漠に飛行機が墜落し、遭難してしまったエピソードも興味深いでしょう。当時は整った空港もなければ航路もなく、飛行機の安全も保障されたものではありませんでした。そのため彼ら飛行士は命がけで航路を開拓し、飛行機の未来を作っていったのです。

生死をさまよう体験が書かれたエッセイ集には歴史とロマンが詰まっており、まるで冒険小説のように楽しめる一冊です。

 

野心家の青年を翻弄する愛と恋『赤と黒』

 

スタンダールの『赤と黒』は、実際に起きた事件を扱った長編小説。

支配階層に対する批判が込められており、さまざまな国で映画化や舞台化がされました。

 

著者
スタンダール
出版日
1957-02-27

 

主人公のジュリアン・ソレルは、貧しい家に生まれながらも類まれなる才能と美貌を持ってり、立身出世しようと日々勉強に励む青年。その頭脳を買われ、町長の家に家庭教師として雇われるのですが、なんと夫人と不倫関係になってしまいます。

やがて不倫は密告され、彼は引き裂かれるように神学校に入学しました。卒業後は、雇われた伯爵家の娘と恋愛関係に至るのです。結婚を決め、貴族の地位と財産を受ける際のセリフが印象的。

「ぼくの物語はこれで完結だ。何もかも、ぼく一人の手柄だ。自尊心の権化のような女にも愛されることができたんだし」(『赤と黒』より引用)

勉学をすることで出世を望み、恋愛をすることで堕落した彼が、人生の絶頂にいることが伝わってきます。

ただこの状態は、そう長くは続きませんでした。かつて不倫関係にあった夫人が、伯爵にジュリアンの野心ぶりを密告してしまったのです。

結婚はご破算。憤ったジュリアンは夫人を射殺しようと試みます。しかし失敗に終わり……。最後にすべてを受け入れて死を覚悟した彼は、絶頂期とはまるで別人のようでした。

「死がぼくを待っております。それも当然の報いでしょう」(『赤と黒』より引用)

 

空想空間に生きる姉弟愛『恐るべき子供たち』

 

子供たちの驚くべき空想空間をつづった小説『恐るべき子供たち』。

姉弟と、その友人たちの5人を中心に物語は進行していきます。現実とは別に子供たちだけの空想世界が存在し、そこは彼らだけが行くことが許された場所……まさに「恐るべき」力をもった空間なのです。

 

著者
コクトー
出版日
2007-02-08

 

姉のエリザベートと弟のポールは、2人だけの空想世界に生きる姉弟。しかしそこに現実世界の友人、ジェラール、アガート、ダンジェロが加わったことで、やがて崩壊へと向かっていきます。

5人の関係はなんとも子供らしいもので、男女の区別もありません。ポールのことを好きだったジェラールはやがてエリザベートを、エリザベートのことを好きだったアガートはやがてポールを好むようになり、しかし姉弟だけの空想世界を壊されたくないエリザベートは、アガートとポールを引き裂こうと画策するのです。

幼い子供たちの間の複雑な愛憎劇。作者のコクトーは詩人でもあり選ぶ言葉の美しさが彼らの残酷なまでの純粋さをいっそう引き立てています。

 

フランス文学を読むなら触れておきたいおすすめ作品『モンテ・クリスト伯』

 

日本では「巌窟王」という名でも有名な、アレクサンドル・デュマ・ペールの『モンテ・クリスト伯』。

無実の罪で監獄生活を余儀なくされた主人公のドモン・ダンテスが、脱走のすえに巨万の富を手にし、復讐を成し遂げるストーリーです。

 

著者
アレクサンドル デュマ
出版日
1956-02-05

 

船乗りだったダンテスは、とある会計士の謀略にはまり、無実の罪で投獄されてしまいました。さらに、一生涯出所できないように手引きされ、生活のすべてが奪われます。

しかし投獄中に出会った神父から学問を学び、14年の歳月をかけて脱獄に成功。その際に訪れた島の財宝を手に入れ、最終的には貴族の身分にまで上り詰めるのです。

ダンテスが被った苦労は並大抵のものではありませんが、彼はどんな局面に立たされても信心深さと誠実さを忘れませんでした。

それがもっともよく表れているのが、脱獄中に出会った夫婦の危機を救った後のこと。彼は手紙を残してその場を去るのですが、その手紙は次の言葉で締めくくられていました。

「待て、しかして希望せよ!」(『モンテ・クリスト伯』より引用)

無実の罪で投獄されてもなお、自分を信じて行動し続けた彼だからこそ、説得力のある言葉。フランス文学を読むにあたって触れておいてほしい一冊です。

 

海外文学というと近寄りがたく感じるかもしれませんが、馴染みやすい作品も数多くあります。気になったものからまずは一冊、手にとってみてくださいね。

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