「グラウンドには銭が埋まっている……」野球選手のお金事情に焦点をあてた異色の野球漫画『グラゼニ』。今回は、その続編である「東京ドーム編」の魅力をお伝えしていきます。 超シビアな格差社会に、夢が無くなってしまうかも⁉きっとプロ野球の見方が変わるはずです。
2014年から「週刊モーニング」で連載をはじめた本作。同年に一旦連載を終了した『グラゼニ』の続編にあたります。
日本のプロ野球界の生々しいお金事情を、コミカルな作風で描いて人気を博し、2018年の春からはアニメ化もされました。
この記事では、「東京ドーム編」の魅力と最新14巻の見どころをご紹介していきます。ネタバレを含むのでご注意ください。
- 著者
- アダチ ケイジ
- 出版日
- 2015-01-23
プロ野球チーム「神宮スパイダース」に所属していた凡田夏之介(ぼんだなつのすけ)。ドラフト最下位で入団し、年俸は1800万円。ギリギリ1軍に所属している中継ぎ投手でした。このままでは、引退後の生活にも希望が持てません。
しかし、「グランドには銭が埋まっている」という言葉を胸に努力を続け、大ブレイク。チームの優勝にも大きく貢献しました。
ところが契約更改でフロントと揉めたすえ、ポスティングシステムによってメジャーリーグに移籍することに。しかしマイナー契約となり、わずか数ヶ月で解雇……日本球界に復帰します。
所属先は、球界の盟主と名高い「文京モップス」です。入団会見で監督がサプライズ同席してくれたり、球団カラーのグローブをプレゼントされたりし、すっかり心をつかまれてしまう夏之介。その一方で、チームを取り巻く環境や厳格なルールに圧倒されてしまいます。
高給取りの選手が多く、激しい競争がくり広げられるなかで、夏之介は活躍できるのでしょうか。
- 著者
- アダチ ケイジ
- 出版日
- 2015-10-23
本作の全編をとおして描かれている大きなテーマが「お金」です。とくに年俸に関する会話は頻繁に交わされ、試合中でも対戦相手と自分の年俸を比較するシーンが多々見られます。
夏之介自身が、「プロはカネがすべてだ」という考えを持っていて、なんと選手名鑑に載っている1軍選手全員の金額を完璧に暗記しているというマニアっぷり……。
ただ彼だけでなく、本作に登場するほとんどの人物が年俸をとおして野球を見ているのです。
「金銭とはいわゆる一つの野性のカンのようなものだ」(『グラゼニ~東京ドーム編~』6巻より引用)
「神宮スパイダース」のOBで今は解説者をしている徳永が、高級車を買った夏之介に言った言葉。イギリスの作家が残した名言「金銭とは第六感のようなものだ」を選手に向けてアレンジしています。
お金を稼いでいるから五感が冴え、プレーに影響してくるそうで、もちろん真偽のほどは定かではありませんが、本作を象徴しているセリフではないでしょうか。
プロ野球を題材にした漫画は他にも数多くありますが、本作ほどお金にこだわり、野球選手を職業としてみているものはないといっても過言ではありません。新しい目で野球を楽しんでみてください。
- 著者
- アダチ ケイジ
- 出版日
- 2016-01-22
作中では、主人公の夏之介以外にもさまざまな登場人物にスポットライトを当て、球界の側面を描いています。
たとえば、「モップス」の生え抜き選手で夏之介と同い年の鳥海という選手。高校時代は4番でエースという輝かしい経歴を残しましたが、プロになってからは二軍で結果を出してもFA選手や外国人選手にポジションを奪われ、なかなか日の目を見ることができません。
妻子もいるため、常に将来に思い悩み、何とか一軍に定着しようとチャンスをうかがっているのです。
やがて助っ人外国人選手が不調になり、初めて一軍にあがると、その試合で大活躍。お立ち台まで経験します。
このまま上り調子でいけるかと思いきや……頭部にデッドボールをもらい、また二軍に降格してしまうのです。競争が激しいだけでなく、運が野球人生を大きく左右するのだとわかるでしょう。
このほかにも、現役時代の通算勝利数をいまだに気にしているピッチングコーチや、契約更改の場で選手の細かいデータをもとに交渉する球団関係者など、選手以外のさまざまな立場から野球界を見ることができます。実話なのではないかと思ってしまうリアリティの高い描写は必見です!
- 著者
- アダチ ケイジ
- 出版日
- 2017-08-23
「文京モップス」に入団するまでにも紆余曲折を経験してきた夏之介ですが、いざ入団した後も浮き沈みの激しい野球生活を送ることになります。
入団と同時に行きつけの定食屋の看板娘、ユキと結婚して活躍を誓ったものの、開幕直後はなかなか期待されていた仕事をすることができません。
勝ちパターンの継投から外され、自分がアドバイスをしてあげた後輩にポジションを奪われたあげく二軍落ちしてしまいます。
しかし時間が経つにつれてチームの雰囲気にも慣れ、調子が上がってきた夏之介は、再び勝利の方程式の一角に返り咲くことに成功しました。さらにユキが子供を授かるというサプライズもあり、俄然やる気も満ちてきます。
ところが、チームが優勝争いをくり広げるなかで好調の夏之介は酷使され、その影響で肘が限界に……。手術を受けることになり、次のシーズンまで棒に振ることになってしまいました。
なにかと逆境に立たされる夏之介。しかし持ち前の冷静さと、周囲のサポートによって何度でも立ち上がるその姿は、みごたえ抜群です!
「文教モップス」で4年目のシーズンを迎えた夏之介。先発に転向し、驚異的なペースでQS(クオリティスタート)を重ね、9勝8敗という成績でシーズンを終えました。
そしてオフにはFA権を取得。身も心もすっかり先発投手となってしまった彼は、「モップス」からの「リリーフとしてチームに残留してほしい」という要請に対し、「先発をやりたい」と自らの意思を伝えるのでした。
- 著者
- 森高夕次
- 出版日
- 2019-02-23
14巻の見どころは、何といっても夏之介のFAの行方でしょう。
彼の先発投手としての能力を高く評価したパ・リーグの「仙台ゴールデンカップス」が、水面下で獲得に動きます。さらに夏之介と親交が深い徳永が、「カップス」のピッチングコーチに内定。先発を確約してくれるチームを探す彼にとって、このうえない好条件が整いました。
しかしその一方で、夏之介はいつの間にか「モップス」のファンから愛される存在になっていたこともわかります。手術からの復活がファンに与えたインパクトが大きく、期待が膨れあがっていました。
カネをとるかファンをとるか……夏之介の揺れ動く心に注目です。
15巻では、夏乃介のFA権をめぐって周囲がさらに動いていく様子が描かれます。
まずは彼に学生時代から一目おいている、徳永。彼は夏乃介が辛い時代から彼に目をかけ、育て続けてきたいわば兄貴分。
彼がピッチングコーチになった仙台ゴールデンカップスも候補ではありますが、そんな徳永に、スパイダースのスカウトである安田が直接宣戦布告します。
もともとは、夏乃介をプロの世界に導いてくれたのもスパイダース。元エースの椎名に恩を返すべきだとも言われ、さらに心が揺れ動きます。
- 著者
- アダチ ケイジ
- 出版日
- 2018-05-23
しかし夏乃介のFA権に注目しているのはこれらのチームだけではありませんでした。何と札幌のパープルシャドウズのエース則川が彼と同じチームで投げたいと要望を出していたのでした。
しかし、ついにFA権の行使が発表された夏乃介の事務所に一番最初に電話したのは……。
15巻では「東京ドーム編」が完結しますが、まだまだ夏乃介の物語は終わりません。新たな舞台で稼ぐことを決めた彼の物語に期待です!
ちなみに15巻終盤ではモップスの富士野の恋バナも収録。チキンハートの夏乃介が同じくチキンハートの彼に移籍先、移籍金を明かし、アドバイスする様子はちょっと胸が熱くなってしまいます。
『グラゼニ~東京ドーム編~』の続編『グラゼニ〜パ・リーグ編〜』の見どころを紹介した<漫画『グラゼニ〜パ・リーグ編〜』の見所をネタバレ紹介!>もおすすめです。
お金に関する話題が多い本作ですが、技術面やチームメイトとの絆など、スポーツ漫画らしい要素ももちろん描かれています。ぜひ前作とあわせて楽しんでみてください!