読みやすい近代文学おすすめ10作品!この作家だけは知っておきたい

更新:2021.12.10

漫画やスマホゲームなどでも題材にされ、最近再び注目を集めている近代作家たち。しかし実際に作品を読むのは敷居が高いと感じている方も多いのではないでしょうか。ただ実際は教科書にも掲載されるなど、本来であれば読みなれていない人でも手に取りやすいものが多いのです。今回は近代文学のなかでも特に知っておきたい、必読の作品をご紹介しましょう。

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近代文学の代表作!夏目漱石の『こころ』

夏目漱石作の『こころ』は、中高の国語の教科書にもっとも多く使用されている題材で、読んだことがある方も多いのではないでしょうか。

しかし教材として採用されているのは作品のうちごく一部。通読してみるとずいぶん印象が変わってくるでしょう。

著者
夏目 漱石
出版日

1914年に朝日新聞で連載された小説で、当時から人気が高く、現在まで続く不朽の名作となっています。

3部構成になっており、主人公の青年と先生が出会う「上」、父親の体調が悪いため帰省をしていた青年のもとに先生からの手紙が届く「中」、遺書である先生の手紙の内容が綴られる「下」に分かれています。ちなみに教科書に載っているのは、「下」の部分が多いです。

「人間とはいつもはいい人が、いざという時には突然悪人になる」(『こころ』より引用)

本作のテーマともいえる、先生の言葉です。先生はかつて信頼していたはずの叔父に裏切られた経験があるにも関わらず、自身も友人だったはずの「K」を裏切り、死に追いやってしまった過去がありました。

もう何十年も昔のことですが、彼はこのことをずっと悔やんでいて、明治天皇が崩御したことを受けて自ら死を選択するのです。

先生が自殺をした理由は、一見友人への贖罪のように思えますが、このほかにもさまざまな解釈をすることができます。ぜひ上から通読して、考察してみてください。
 

人間らしさとはを問う近代文学。芥川龍之介『蜘蛛の糸・杜子春』

「蜘蛛の糸」は児童向けの短編小説。1918年に発表されました。

殺人や放火の罪で地獄に落ちたカンダタという男が、生前に唯一おこなった善行を認められ、釈迦から救いの糸をもたらされます。男はこの糸をのぼっていけば地獄から出ることができると思うのですが……。

教訓として子供に読み聞かせられている名作になっています。
 

著者
芥川 龍之介
出版日
1968-11-19

「杜子春(とししゅん)」は、中国の伝記小説を芥川龍之介が童話にしたもの。

主人公の杜子春という若者は、もともとは裕福な家庭に生まれましたが、親の遺産を使い尽くして乞食同然になっていました。ある日暮れに佇んでいると、不思議な老人に出会います。指示された場所を掘ってみると、そこから黄金が出てきて、杜子春は大富豪となるのです。

しかし彼は、またしても遊び暮らして一文無しになってしまいます。再度老人に会い黄金を与えられ、また散財。3度目に老人に会った際、彼はいくら黄金を持っていても人は自分自身を愛してはくれないことに気づき、仙人だという老人に弟子入りをすることにしました。

杜子春は試練として、何があっても喋ってはいけないと命じられます。紆余曲折を経て地獄に行ってもひと言も話さない彼を見て、起こった閻魔大王は彼の両親に暴行をはじめました。

「心配をおしでない。私たちはどうなっても、お前さえ仕合せになれるのなら、それより結構なことはないのだからね。大王がなんと仰っても、言いたくないことは黙って御出で」(『蜘蛛の糸・杜子春』より引用)

母親のこの言葉を聞いた杜子春は、思わず「お母さん!」と叫んでしまうのです。その後気が付くと、彼は夕暮れのなか佇んでいました。すべては仙人が見せた幻。そして彼は、これからは人間らしくまっとうに生きると誓うのです。

人間の汚さを知った杜子春は仙人になろうとしましたが、結局は人間の愛に触れて留まることになる……童話ですが、大人が読んでも考えさせられる内容でしょう。
 

少女の成長を描いた太宰治の『女生徒』

太宰治作の『女生徒』は、いわゆる思春期の少女の成長過程における心のゆらぎと、世間を悲観的に見る視線を主人公の独白のかたちで綴ったもの。1939年に発表されました。

女性読者から太宰のもとに日記が送られてきたことが執筆のきっかけだったそう。少女が朝起きてから夜寝るまでの1日を男性が書いたとは思えないほどリアルに記しており、当時の文豪・川端康成などからも高い評価を受けています。

著者
["太宰 治", "くまおり 純"]
出版日

14歳の少女が朝起きて電車で通学し、学校で授業を受け、家に帰れば犬をかわいがる……何気ない1日ですが、彼女が物思いにふけるさまは実にリアル。

「あさ、眼をさますときの気持ちは、面白い」(『女生徒』より引用)

あえて「面白い」と表現するところに、まだ子供らしい一面を見ることができます。その一方で、

「学校の修身と、世の中の掟と、すごく違っているのが、だんだん大きくなるにつれてわかって来た。学校の修身を絶対に守っていると、その人はばかをみる。変人と言われる。出世しないで、いつも貧乏だ」(『女生徒』より引用)

このような気付きも綴られていて、大人になる過程で「賢い」振る舞いを身に着けていくのです。繊細な心理描写が高い評価を受けている作品です。
 

川端康成の初期代表作『伊豆の踊子』

1926年に発表され、川端康成の代表作のひとつとなった『伊豆の踊子』。彼が19歳の時の実体験がもとになっています。

一人旅で伊豆を訪れた青年が旅芸人の一座と出会い、踊り子の少女に恋をします。人生に悲観的で憂鬱な気分に苛まれていた青年の心は、彼女によって解きほぐされていくのですが、やがて悲しい別れが訪れてしまうのでした……。
 

著者
川端 康成
出版日
2003-05-05

青年と踊り子は、お互いによく思っているものの、彼女の母親の反対などもあり決定的な仲になることはありません。見どころは、そんな状況で青年が東京へ帰らなくてはならなくなった、別れのシーンです。

好意があるのに何もできなかった自分に対し、青年はまたうなだれ落ち込んでいました。船の乗船場に行くと、そこには踊子の少女ががうずくまって待っていたのです。

彼女は何も言わず、ただ頷くだけ。しかしその想いは青年にも伝わっていました。

「私は涙を出委せにしていた。頭が澄んだ水になってしまっていて、それがぽろぽろ零れ、その後には何も残らないような甘い快よさだった」(『伊豆の踊子』より引用)

東京行きの船に乗った青年は、伊豆の島が消えるまでずっと海を眺め、こう思うのです。繊細すぎる彼の恋心を川端康成らしい叙情的な文体が引き立てます。
 

これは安楽死なのか?森鴎外『山椒大夫・高瀬舟』

「山椒大夫」「高瀬舟」ともに森鴎外の代表作です。

「山椒大夫」は説話「さんせう太夫」を、「高瀬舟」は江戸時代の随筆「流人の話」をもとにして描かれました。
 

著者
森 鴎外
出版日

罪人を島流しにするために、京都の高瀬川をくだる舟がありました。そこに、弟を殺した喜助という罪人が乗せられてきます。罪人たちはみな暗い顔をしているのに、彼だけ晴れやかな顔をしていることを不思議に思い、護送役の羽田は訳を尋ねるのです。
 

喜助は両親を亡くしたうえに弟が病になり、苦しい生活をしてきたのだと話しました。それと比べれば、罪人として役所から生活が保障されるのはありがたいと言うのです。

そのために弟を殺したのかと聞くと、それもまた違いました。

「早く死んで、少しでも兄に楽をさせたい」(『山椒大夫・高瀬舟』より引用)

彼の弟は、自分のために懸命に働く兄に対し、申し訳ない気持ちを抱いていました。そして自らの首に剃刀を刺します。そこへちょうど居合わせた喜助は、弟から剃刀を抜いてくれと頼まれるのです。

苦しんでいる弟を助けてやりたい、しかし剃刀を抜けば大量出血で弟は死ぬ……喜助は悩んだすえ、剃刀を抜くことを選びました。

何が正しくて何が間違っているのか、答えを出すのは難しい問題を、鴎外は読者に問いかけてきます。

日本が誇る近代文学の名作。三島由紀夫『金閣寺』

海外でも高い評価を受けている三島由紀夫の『金閣寺』。1956年に雑誌「新潮」で連載され、単行本ははベストセラーになりました。

実際に起きた「金閣寺放火事件」をもとにして、金閣寺の絶対的な美とそれにとりつかれた人間の苦悩を描いています。
 

著者
三島 由紀夫
出版日

主人公は、貧しい寺に生まれた溝口という青年。僧侶である父より、幼いころから金閣寺ほど美しいものはないとくり返し説かれていました。

一方彼自身は吃音症のため自分の感情を表に出すことができず、極度のコンプレックスを抱えたまま内向的な性格になります。女性と触れ合うこともありませんでした。

やがて彼にとって金閣寺は美の象徴となり、彼の人生を阻みはじめるのです。

「いつかきっとお前を支配してやる」(『金閣寺』より引用)

金閣寺の美しさにとらわれた彼の思考は、もはや正常ではありません。しかし何かを過剰に意識してしまううちに、離れたくても離れられない状況に陥ってしまう心理は理解できるでしょう。自分から捨てることができず、いっそのこと相手から自分を捨てて離れてほしいと思うのです。

やがて溝口は、「金閣を焼かねばならぬ」という思いに縛られるようになりました。

「この火に包まれて究竟頂。金閣寺最上階で死のう」(『金閣寺』より引用)

こう考えるのですが、いざその時最上階の扉は開かず、彼は拒まれていると感じて外へ逃げ出すのです。そしてタバコを吸い、「生きよう」と思うのでした。

最終的に彼を生かしたのは、金閣寺でしょうか。それとも彼自身なのでしょうか……。
 

黄昏の雰囲気漂う内田百閒『冥途・旅順入城式』

内田百閒の短編集。ノスタルジックな雰囲気のものが多く、読む人を幻想の世界へと連れていってくれます。

なかでも1921年に発表した「冥途」は、芥川龍之介が絶賛したことで有名。5ページにも満たない小文ですが、世界観が美しい一遍です。

著者
内田 百けん
出版日
1990-11-16

「冥途」はタイトルのとおり、あの世とこの世の境目を扱った作品。

主人公がある飯屋で数人の客と出会うのですが、そのなかに懐かしい父がいることに気づくのです。「お父様」と泣きながら呼んでもその声は届かず、一行は店を出ていってしまいました。

外には土手があり、上の方だけ明るくなっています。そこに数人が歩いているのが見えますが、どれが父親なのかはもうわかりません。そして主人公は土手を背にし、暗い道へ帰っていくのです。

おそらくこの土手があの世とこの世の境目。父親と主人公と、どちらが冥途の住人なのでしょうか。
 

美しさが心を救う。梶井基次郎『檸檬』

1925年に発表された梶井基次郎の『檸檬』。国語の教科書にも採用されることの多い代表作です。

「えたいの知れない不吉な塊」に苛まれていた主人公が、ひとつの檸檬を手にしたことでそれまでの憂鬱が払拭され、心にみずみずしさを取り戻していくさまが描かれています。
 

著者
梶井基次郎
出版日
2011-04-15

主人公は、好きな音楽を聴いても癒されず、お気に入りだったはずの文具書店に行っても楽しめないほど心を病んでいました。

そんな時、果物屋で檸檬が売られているのを見かけます。ひとつ買ってみると、不思議と心の憂鬱が晴れたのでした。

しかし、そのまま文具書店へ行ってみるとやはり不吉な塊が襲ってきます。そこで檸檬を書棚の前に置いてみると……先ほどの軽やかな気持ちが戻ってきました。

「心というやつは何とも不可思議なやつだろう」(『檸檬』より引用)

憂鬱とは対極にある、檸檬の単純な美しさが主人公の心を解放したのです。 「えたいの知れない不吉な塊」というほど、人の心は複雑で掴みどころのないもの。それなのにたったひとつの檸檬でこうも変わってしまうなんて、やはり不思議なものです。

切ない恋心を描いた近代文学。樋口一葉『にごりえ・たけくらべ』

「にごりえ」「たけくらべ」ともに、樋口一葉の代表作です。
 

「にごりえ」は銘酒屋街に住む遊女のお力と、彼女に惚れ込んで没落していった客の源七が、やがて心中を果たす物語。
 

「たけくらべ」は、吉原に住む美登利と、僧侶の息子である信如の淡く切ない恋物語です。
 

著者
樋口 一葉
出版日

「たけくらべ」は、14歳の少年少女の物語。当時、子供から大人へと変わっていく思春期の心理を描いた小説はほかになく、樋口一葉の名を一躍有名にしました。

子供たちの間でリーダー格だった美登利は、内向的な性格の信如を気にかけていますが、周りに冷やかされるのを恥じてつい邪険な態度をとってしまいます。一方で信如も、彼女からの好意を素直に受け取ることができず、無視をしてしまうのです。

見どころはなんといってもクライマックス。美登利が髪を島田髷に結ったところでしょう。これは当時未婚の女性や花柳界の女性がしていた髪型です。

吉原に住む彼女は、将来遊女となることが決められていました。友人からの誘いも受けなくなってしまいます。

着々と準備がすすめられるなか、彼女の家の前に水仙の造花が届けられました。送り主はわからないものの、美登利はそれを一輪挿しに飾るのです。その日は、信如が僧になるために吉原を旅立った日でした。

面と向かって思いを伝え合うことができなかった2人。離ればなれになる時にやっと自分の気持ちに素直になれるのですが、実ることのないであろう恋心を思うと切ないです。
 

読んでおきたい近代文学。中島敦『李陵・山月記』

中国の説話をもとにした中島敦の短編小説「李陵」と「山月記」。

なかでも1942年に発表された「山月記」は、国語の教科書の教材として扱われることが多く、聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。

「李陵」は中国の前漢時代を舞台に、李陵・蘇武・司馬遷の生きざまを描いた作品です。

著者
中島 敦
出版日

時の長・武帝の命令で敵国に戦いを挑んだ李陵。捕虜となって敵地に潜入し、寝首をかこうと画策していました。しかしその事情を知らない武帝は、彼が捕まったと知って怒り狂います。
 

状況を知っていた司馬遷が必死に彼を弁護するのですが、聞き入れてもらえません。司馬遷は刑に処され、李陵は祖国に残した家族を殺されてしまうのです。

これを受けて、李陵は敵国に寝返る判断をしました。しかし同じく捕虜となっている蘇武が、自分の信条を守りとおしている姿を見て、罪の意識に苛まれます。

やがて和平が訪れると、厳しい扱いに耐えた蘇武は、祖国へ帰ることができました。

本作では、3人の男たちの苦悩と葛藤が描かれます。とくに李陵と蘇武の振る舞いは正反対で、どちらが正しいかはわかりませんが、それぞれに自分の意思で自分の運命を切り拓いていくアツい物語です。


教科書に扱われることも多い近代文学。人の苦悩や葛藤を力強い筆致で描いた名作ばかり。短編も多いので、まずは気になったものから気軽に読んでみてください。

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