文芸

山田詠美のおすすめ作品10選!さまざまな形の恋愛を描き出す直木賞受賞作家

更新:2020.12.2 作成:2018.3.22

『ソウル・ミュージック・ラバーズ・オンリー』で直木賞を受賞したほか、数々の文学賞を受賞している山田詠美。大学入試センター試験の問題文にも作品を引用されるなど、多くの人から高い評価を得ている作家です。登場人物の心理描写が繊細で、特に恋愛小説を書かせたらピカイチ。彼女の作品のなかでもおすすめのものを厳選してご紹介していきます。

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山田詠美とは

1959年、東京生まれの山田詠美。恋愛小説や青春小説を得意とする作家です。

幼い頃は父親の仕事の都合で、各地を転々とする生活だったそう。高校時代はボリス・ヴィアンやフランソワーズ・サガンなどを愛読し、明治大学に進学します。漫画研究会に所属し、在学中にデビュー。その後もいくつか作品を発表しました。

小説家としてデビューしたのは、1985年の『ベッドタイムアイズ』にて。文藝賞を受賞し、芥川賞の候補にもなりました。その後1987年に『ソウル・ミュージック・ラバーズ・オンリー』で直木賞を受賞。その他さまざまな文学賞を受賞しており、幅広い作風と確かな技量を持っている作家です。

デビュー作をはじめ初期の作品は日本人と黒人との男女関係を描いたものが多いのが特徴。彼女自身が黒人男性と交際していたことが大きく影響しています。

また文学評論家としての一面ももっており、芥川賞選考委員の常連でもあります。

読んでおきたい!山田詠美の青春恋愛小説『放課後の音符』

女子高生の繊細な心情を綴った8編を収録した恋愛小説です。

まだ大人じゃないけど、もう子供でもない……高校生たちの恋に揺れる日々を描いています。

著者
山田 詠美
出版日
1995-03-01

本作の登場人物は皆、大人びた言動や仕草に憧れています。小さな子供が大人のすることを真似したがるように、女子高生たちもまた少しでも大人に近づこうと背伸びをするのです。

恋愛や友情に青春を捧げる彼女たちの姿は、かなりリアル。学生時代を経験した人なら誰しもが1度は抱いたことのあるような不安や焦り、葛藤が見事に描かれています。

主人公は、まだ恋愛経験のない「私」。彼女が憧れているのは、同級生ながら大人びた恋をし、年上の男性と付き合っている「カナ」です。彼女は経験豊富なだけでなく、自分に妥協をしません。たとえば「泣いて男性の気を引く」などの行為は「子供っぽい」から絶対にしないのです。

女子高生から見た「大人」の世界をキラキラと描いた一冊です。

山田詠美の直木賞受賞作!『ソウル・ミュージック・ラバーズ・オンリー』

ソウルミュージックの有名曲を生み出したアーティストの人生や、創作経緯を熱く綴り、小説の形にした本作。山田はあとがきで次のように述べています。

「ひとりの男を愛すると三十枚の短編小説が書ける。この法則を私は最近知った」(『ソウル・ミュージック・ラバーズ・オンリー』より引用)
著者
山田 詠美
出版日

山田にとってソウルミュージックを生み出す黒人アーティストたちは、創作意欲を掻き立てる素晴らしいテーマだったのでしょう。本作はそれを形にしたものなのです。そして文学の形を1歩進めた作品として、直木賞を受賞します。

彼女は学生時代からソウル・ミュージックに慣れ親しみ、黒人の知人も多くいたそう。山田にとってはそれが日常であり、刺激でもありました。

弱冠28歳の彼女が描いた熱すぎる音楽への愛を感じてみてください。

家族のあり方と幸せを問う『明日死ぬかもしれない自分、そしてあなたたち』

東京郊外の一軒家にすむ2組の親子の物語。

再婚してひとつ屋根の下で暮らすことになった彼らが、悲しい出来事を経て「本当の家族」になるまでを描いています。

著者
山田 詠美
出版日
2015-08-05

物語は、2人の子供を持つ母親と、1人の息子を持つ父親の再婚から始まります。さらに新しく娘が生まれ、幸せな家庭が再興されると思ったその矢先……長男の澄生が落雷に打たれ、亡くなってしまいます。

残された者たちは、彼の存在が自分たちをひとつの家族たらしめていたことに気づくのです。しかしその穴は埋めることができず、家族はバラバラになっていきます。

心を病んだ母親はアルコール依存症になり、父親の連れ子である創太は、義母からの愛情を受けられず苦しむのです。

見どころなのは、3人の子供たちの「愛」に対する考え方。長女は大切な人を失うことを恐れて男性と深く付き合うことができず、次男は刹那的な恋愛ばかりにはしり、そして次女は自分を必要としてくれる存在を求めて邁進するのです。

彼らがどのように成長していくのか、残された者たちで「本当の家族」になれるのか、考えさせられる一冊です。

山田詠美が少年少女の揺れる心を描く『学問』

仁美、心太、無量、千穂という4人の少年少女たちの物語。

彼らの友情とも恋愛ともつかない特別な絆が揺れ動きます。

著者
山田 詠美
出版日
2012-02-27

本作では各章の冒頭で、主要人物それぞれの死亡記事が挿入されています。それをきっかけに、彼らの人生が語られていくのです。

なかでも注目したいのが、グループの中心人物だった心太の物語。彼はハッキリとした物言いをするため、仲間からは信頼される反面、反感を買いやすい性格でもありました。

「おれは、今のが大事だな。今、欲しいものが手に入っていればいい。だって、明日、死んじゃうかもしんないら?」(『学問』より引用)

堂々とこんな風に言えることもすごいですが、そもそも理想の生き方をを持っていること自体、彼の芯の強さを感じます。

そしてそんな心太に好意を抱いているのが、仁美です。2人は恋愛として付き合ったことは無いですが、もはや親友よりも恋人よりも特別な間柄になっていました。

物語は高校時代で終わりますが、読んだうえでもう1度冒頭の死亡記事を見てみると、その後の彼らの人生を辿ることができる仕組みになっています。

人の心の弱さと強さを描く『色彩の息子』

全12編の短編小説を収録した本作。

人の心の闇、不安、そして強さが綴られた一冊です。

著者
山田 詠美
出版日
1994-05-30

1編目は「陽ざしの刺青」という物語。テーマは不倫です。

主人公の女性は、同僚の既婚男性と肉体関係を持ってしまいました。当初は割り切ったライトな関係を楽しんでいた2人ですが、しだいに男性のほうが主人公にのめり込んでいきます。

彼は妊娠している自身の妻を放っておき、主人公との関係をもっと深めようと躍起になるのです。禁断の恋愛だからこそ深みにはまってしまう……まるでスリルな感情を得ることに恋をしているように見え、危なっかしくも引き込まれてしまいます。

しかし男の子供がいざ生まれると、この関係は終わりを告げました。

不倫であろうと男女の想いには差があること、そしてそんな禁断の恋のはじまりから終わりまでを描いた大人の物語です。

山田詠美が描く大人の恋愛小説『無銭優雅』

人生の後半に差し掛かった男女の恋愛物語。

「心中する前の日の心持ちで、これからつき合って行かないか?」(『無銭優雅』より引用)

この言葉から始まった彼らの恋は、どこへ向かっていくのでしょうか。

著者
山田 詠美
出版日

友人と花屋を営む42歳の女性、慈雨。ある時バツイチの予備校講師、栄と出会い、恋に落ちました。

通常であれば恋愛のゴールは結婚や家庭に入ることが多いですが、彼らはそれを望みません。2人の間には相手を想う気持ちがあるだけで、いつまでたっても「恋愛」の域を出ないのです。

人生の残された時間を考え、死を意識するほどに、その恋愛は盛り上がります。

「生涯、もうこの人以外の男は入らないな、と思った。ここに辿り着くまでに、ずい分と無駄足を踏んだもののだ。少しくたびれた、けれども清潔な布団の中で、抱き合って眠ること。この、世にも簡素な天国を知るために、長い年月をかけた」(『無銭優雅』より引用)

酸いも甘いも噛み分けた大人が、ただ純粋に「好き」という気持ちにはしる姿はある意味とてもピュア。どんなエンディングを迎えるのか、注目してください。

不倫関係から4人が見つける未来『A2Z』

文芸編集者の女性と、年下の郵便局員の恋を描いた小説。読売文学賞を受賞しました。

恋愛、結婚、仕事に関するリアルな目線を、AからZまでの26文字に散りばめて記しています。

著者
山田 詠美
出版日
2003-01-15

年下の男性と恋に落ちてしまった夏美。職場には同業者の夫がいます。しかし夫にも不倫相手がいることが発覚。お互いに公認のダブル不倫状態になってしまいました。

しかし夏美は大人の女性。恋愛に溺れきることができない自律心をもっているところが魅力です。

一方で夫の不倫相手である冬子は、当初こと愛人という立場に満足していたものの、しだいに夏美への嫉妬の炎を燃え上がらせていきます。家にまで乗り込んでくるようになり……。

4人の男女の気持ちが交錯。最終的に彼らはどんな未来を選択するのでしょうか。

山田詠美が描くさまざまな恋のカタチ『風味絶佳』

人を狂わせる恋愛の恐ろしさを描いた短編集。

最初に収録されている「アトリエ」は、少し歪な夫婦の物語です。

著者
山田 詠美
出版日
2008-05-09

本作の魅力は、なんといっても歪んだ愛の恐ろしさでしょう。愛し愛されているはずなのに、どこかギクシャクとしている2人が描かれます。

妻の麻子はデリケートな心の持ち主。ちょっとしたことで頻繁に元気をなくしていました。彼女のそばにはいつも献身的に支える夫の姿があり、一見仲のよい夫婦に見えます。

しかしその実、夫は妻を支える自分にこれ以上ない満足感と悦びを感じていました。彼女が元気になることではなく、自分がいなければ何もできない存在がいるということが彼を悦ばせていたのです。

夫は麻子を愛しているのか、それとも麻子を愛している「自分」を愛しているのか……変わらぬ優しさを注ぎ続けるその姿に、思わず背筋が凍ってしまう物語になっています。

そのほか、当人たちにしかわからないような「愛」を描いた作品が5編収録されているのでお楽しみに。

正義と悪を持つ男『ジェントルマン』

タイトルが示すとおり、容姿端麗で頭もよく、才能にあふれたひとりの青年の物語。

みんながうらやむ彼の本当の姿が、同級生の目線をとおして暴かれます。

著者
山田 詠美
出版日
2014-07-15

主人公の夢生は、美貌も優しさも兼ね備え「ジェントルマン」と呼ばれる漱太郎のことを、どこか胡散臭く感じていました。しかしある時、漱太郎が学校の教師を強姦しているのを目撃してしまい、同性愛者であった夢生は彼に恋をしてしまうのです……。

それからというもの、漱太郎は夢生にだけ「ジェントルマン」ではない一面を見せるようになりました。夢生の部屋で数々の悪事を語るので、そこは「懺悔室」と呼ばれるようになります。

しかし恐ろしいのが、漱太郎は自分の行為をまったく「悪」だと認識していないところ。彼は女性を精神的にも肉体的にも支配することを「趣味」としていて、時には犯罪まがいの行動もします。

彼はその一部始終を、反省としてではなく唯一の共犯者として夢生に語っていました。漱太郎のなかには一体どんな闇があるのでしょうか。ページをめくる手が止まらなくなる一冊です。

山田詠美が黒人男性との恋愛を描く『トラッシュ』

ニューヨークを舞台に、黒人男性のリックと日本人女性のココの恋愛を描いた物語。

愛してるはずなのに傷つけてしまう、切ない姿が印象的です。

著者
山田 詠美
出版日

リックはアルコールに依存しており、ココの待つ部屋に毎晩泥酔状態で帰宅しています。ココはそんな彼を受け入れ、愛していました。一方でリックはというと、そんな彼女のことを愛する反面疎ましくも思っていて、素直になることができません。

見どころは、あんなにリックを愛していたココが別の男性と恋に落ち、リックとの関係を清算するシーン。自分以外の男を好きになるはずがないと高をくくっていたリックは茫然自失となり、自分を責め続けるのです。

ありがちといえばありがちな終わり方。弁解できないほど傷つけて、でも別れた後に本当は愛していたことに気がつく……すべてはあとの祭りです。

ニューヨークという雑多な街で、人種の壁を越えて愛し合ったはずの2人。終わってしまった後に、あの時の気持ちは本物だったんだと知るのです。

山田詠美の描く恋愛小説は、人の心を揺さぶる切なさや力強さに溢れています。読者を引き込む繊細な描写は、彼女に作れない世界観を形成し、読む人に感動を与えてくれるのです。気になった方はぜひお手に取ってみてください!