爽やかで、甘酸っぱくて、ほろ苦い……青春小説は魅力的な作品がたくさん。今回は、感動して泣けるおすすめの物語を5作厳選してご紹介します。
映画化もされている梨木香歩の『西の魔女が死んだ』。かなりインパクトのあるタイトルなので、聞き覚えのある方も多いのではないでしょうか。
「西の魔女」とは、主人公・まいのおばあちゃんにあたります。ある日まいが中学校にいると、母が突然迎えに来ました。
「魔女が――倒れた。」(『西の魔女が死んだ』より引用)
おばあちゃんの元へ向かう途中、まいは2年前のことを思い出していました。
- 著者
- 梨木 香歩
- 出版日
- 2001-08-01
まいは日本人とイギリス人のクオーターです。2年前に中学に入学したてのころ、友人とうまくいかず登校拒否になってしまいました。
それから母の勧めで、1ヶ月ほど田舎のおばあちゃんのもとで過ごすことにしたのです。
「西の魔女」とは、まいと母が2人だけの時にこっそり使っている呼び名です。おばあちゃんは実は本当に魔女で、まいに魔女になるための修行をつけてくれることになりました。
おばあちゃんいわく、もっとも大切なのは「意志の力」。なんでも自分で判断することを教わります。そのほか規則正しい生活をして、嫌なことにぶつかった時の対処法を習い、「死ぬ」ことについても学びました。
しかし2人はあることがきっかけで仲違いをし、そのまま別れてしまったのです。
人生は困難の連続。そこに立ち向かう術を教えてくれたおばあちゃんの死……悲しみにくれるまいでしたが、母とおばあちゃんの家に行ってみると……。
感動することはもちろん、この一冊から教訓として学べることも多いはず。小学生からから大人まで多くの人におすすめです。
誰しも1度は考えたことがあるのではないでしょうか。自分の人生ってどれくらいの価値があるんだろう……。
主人公のクスノキは金に困っていて、ひょんなことから寿命を買い取ってくれる店の存在を教えてもらいました。20歳の自分の寿命は、2億円か3億円か……妄想を膨らませていた彼に、悲劇が訪れました。
「一年につき一万円?余命三十年?」(『三日間の幸福』より引用)
自分の人生には人並みの価値すらない……。ヤケになった彼は3ヶ月だけ残し、あとの寿命を売ってしまいました。
しかしここから、彼の人生は動き出すことになります。
- 著者
- 三秋縋
- 出版日
- 2013-12-25
人生の残された時間を知りヤケになって問題を起こすのを防ぐため、寿命を売った人には監視がつきます。クスノキには、彼と同年代のミヤギという女性が派遣されてきました。
彼女は借金を返すために監視員をしているのですが、胸に刺さるセリフを放ってくるのです。
「三十年で何一つ成し遂げられないような人が、たった三か月で何を変えられるっていうんですか?」(『三日間の幸福』より引用)
クスノキは自分のやるべきことをリスト化し、残された3ヶ月を有意義に過ごそうとするのですが、なかなかうまくいきません。投げやりになってしまった時、彼を支えたのはほかでもないミヤギでした。
クスノキとミヤギの関係は徐々に変わっていくことになります。2人はどのような結末に向かっていくのでしょうか。
退廃的な雰囲気を醸し出しつつ、人間くさい語りは妙にリアルで心に残ります。誰かのために生きることの美しさを教えてくれる一冊です。
野間児童文芸賞と坪田譲治文学賞を受賞した本作。タイトルに表れているとおり、冴えない小学生の何気ない日常が描かれています。
主人公の枝田光輝は内向的な性格で、学校でもいつもひとりぼっち。小学5年生の夏休みから祖父の家で暮らすことになりました。
- 著者
- 椰月 美智子
- 出版日
- 2010-06-15
「おじいさんといっしょに過ごした日々は、ぼくにとって唯一無二の帰る場所だ」(『しずかな日々』より引用)
本作には、悪役も正義の味方も、大きな事件も、不思議な出来事もありません。ただ小学生の夏休みが淡々とつづられています。しかし読み終わるころには胸に熱いものがこみあげ、涙を誘うのです。
祖父と暮らす古い家、風鈴の鳴る縁側、よく冷えたスイカ、朝のラジオ体操……これらの描写はこれでもかというほどみずみずしく、輝きを放ちながら読者の心に響いてきます。懐かしくも優しい気持ちにさせてくれるでしょう。
「だれもが子どもの頃に、あたりまえに過ごした安心できる時間。そんな時がぼくにもあったんだ、という自信が、きっとこれから先のぼくを勇気づけてくれるはずだ。」(『しずかな日々』より引用)
ノスタルジーな気分に浸りたい方にはとくにおすすめです。
本作は、札幌の大学に通う男子学生を主人公にした長編恋愛小説。しかし甘酸っぱい恋の物語ではありません。自分よりひと回りも歳の離れた人妻と「駆け落ち」していく物語なのです。
作中に明るい雰囲気になることはほとんどなく、追いつめられ、それでも辛いことに立ち向かわなければならない2人の姿を見ていくことになります。
重い空気のなかで描写は細やかで美しく、真に迫り、一気に物語に惹きこまれていくでしょう。
- 著者
- 盛田 隆二
- 出版日
主人公の俊介は順風満帆な大学生活を送っていましたが、ある日恋人に振られてしまいます。傷心のまま入ったラーメン屋で、見覚えのある女性と出会いました。
その女性は彼がアルバイトをしているコンビニで万引きをする常習犯。どうやらラーメン屋のおかみのようで、裕里子という名前だとわかりました。
あるきっかけで、彼の義理の息子・正太の家庭教師をすることになった俊介。やがて裕里子と禁断の恋に落ちていくのです……。
本作は俊介と正太の2人の目線から物語が語られます。義理の母と自分の先生が恋に落ちていくのを、正太はどう感じていたのでしょうか。彼はストーリーにおいて非常に重要なポジションを担っています。
形としては「不倫」ですが、ずぶすぶとどうしようもないところまで落ちていく2人の様子は、ある意味「純愛」。切ない大人の物語です。
写真家を目指す大学生の慎吾と、幼稚園の先生をしている夏美。ツーリングに出かけた際に立ち寄ったよろず屋の「たけ屋」で、優しい店主の恵三と、彼の母ヤスエと仲良くなりました。
それから2人は何度か「たけ屋」を訪れ、慎吾は卒業制作のため夏休みの間居候させてもらうことになります。
恵三はかつて大病をしたため半身不随。体は弱いですが人柄がよく、親しい人からは「地蔵さん」と呼ばれていました。
- 著者
- 森沢 明夫
- 出版日
- 2014-08-23
慎吾と夏美の2人は、地蔵さんの案内で幻想的なホタルを見たり、川遊びをしたりと、楽しい夏の日々を過ごします。しかし物語の中盤、とてもショックな出来事が……。
「だから地蔵さんは、せめて写真の裏に――そう思って『ありがとう』と書いたのだった」(『夏美のホタル』より引用)
村の人々に助けられ、2人は悲しみを乗り越えていきます。
単純な恋愛小説でもないし、単純な悲しい話でもありません。最後はきっと前を向く勇気をもらえるはずです。
2016年には映画化もされていて、原作とは多少展開が異なるものの、そちらもおすすめです。
気になる小説はありましたか?ぜひ読んでみてください。