路地を奥へ入った古民家にある甘味処「鹿楓堂」。タイプの違う4人のイケメンがそれぞれ得意な分野を活かし、料理をとおしてお客さんの笑顔を作り出します。食の大切さをあらためて感じさせてくれる『鹿楓堂よついろ日和』の魅力をご紹介しましょう。
2013年から「ゴーゴーバンチ」で連載をしている本作。古民家の和風喫茶で出される質の高い料理と、着流し姿の4人のイケメンが魅力的な喫茶店漫画です。2018年4月からテレビアニメが放送されることも決まりました。
基本的には1話完結型。「鹿楓堂(ろくほうどう)」で働くスイ・ぐれ・ときたか・つばきの話はもちろん、メニューとお客さんのエピソードも多々あり、食と人の繋がりというものを感じられるでしょう。出てくる料理はどれも美味しそうで、読んでいるとその味が口に広がってくるようです。
今回はそんな本作の魅力を、各巻の見どころとともにお伝えしていきます。ネタバレを含むのでご注意ください。
- 著者
- 清水 ユウ
- 出版日
- 2014-07-09
小道の奥にひっそりと佇む趣ある喫茶店「鹿楓堂」。店長のスイ、ラテ担当のぐれ、料理担当のときたか、お菓子担当のつばきとタイプの違う4人のイケメンが経営しています。彼らの容姿と、提供される料理の質の高さから老若男女問わず人気のお店です。
味も雰囲気も抜群のなかで、ひとつだけお客さんとギョッとさせるのが、ぐれのラテアート。一見しただけでは何が描かれているのかまったくわからず、またわかったところで到底そのようには見えない、なんとも不思議な印象を抱かせるのです。
- 著者
- 清水 ユウ
- 出版日
- 2014-07-09
本作の舞台は喫茶店なので、食事やお菓子の描写、食べ物の味の表現が豊かなのが特徴です。いろいろな意味で目を引くぐれのラテアートですが、味は抜群。ラテ画を見たときのお客さんの表情と、飲んだあとの表情の変化からも、その美味しさがうかがえます。
「なにこれ!ミルクふわふわでうす甘くって そこに香ばしい珈琲が混ざって…すごく美味しい!!」
「見た目はこんななのに…!!」(『鹿楓堂よついろ日和』1巻より引用)
腕は一流なのに画力にはあまり恵まれないぐれ。もしかしたら彼の美的センスのせいかもしれません。春らしいものを探しに出かけたかと思いきや、よくわからないキャラクター商品を「かわいい」と言って買ってしまうのです。かっこいい見た目からは想像できません……。
そんな無邪気で純粋なところも彼の魅力なのでしょう。
和菓子も洋菓子も、お菓子づくり全般を担当しているのがつばきです。他の3人に比べると目つきも悪く、言動などが少々きつい印象を受けますが、実は休日にはカフェ巡りをして甘いものを食べまくるスイーツ男子。お店で提供する甘味にも一切妥協を許さない職人気質です。
甘味に対する情熱は誰よりも強く、24時間365日、彼の生活は甘いもの中心で回っています。
- 著者
- 清水 ユウ
- 出版日
- 2015-03-09
甘いもののためならなんでもやるつばき。女性ばかりのカフェにも迷わず入り、ひとりでいくつものケーキを注文します。
男性の知り合いに頼まれて一緒にカフェに行った際、相手が名物のスイーツではなく軽食を頼もうとしたところ、一刀両断しました。
「そんなのは間違ってます ワッフル頼んでください」(『鹿楓堂よついろ日和』2巻より引用)
なんとも男らしい……。たくさん甘いものを食べて研究し、自分ならどうするか、鹿楓堂に合うお菓子はどんなものか、お客さんに喜んでもらうにはどうすればいいか……常に考えているからこそ、彼のつくる甘味を食べたお客さんも笑顔になるのでしょう。
ちなみに、かなり人見知りでツンデレな性格も魅力的です。そんな彼がオープンキッチンでの調理を余儀なくされたときに、気持ちを強く持てるきっかけになったのもお客さんの喜ぶ顔でした。
ランチなどの軽食を担当しているときたかは、「鹿楓堂」で働く以外に、陶芸教室の先生もしていました。「鹿楓堂」を訪れるご年配のお客さんの多くは、彼の生徒のようです。
料理の提供に使っている食器も、ほとんどときたがが作ったもの。季節や料理によって小物やお皿を変えるなど、気を使っていることがうかがえます。
- 著者
- 清水 ユウ
- 出版日
- 2015-11-09
3巻では、彼の新しい陶芸の生徒として、中年の男性が登場します。ふくよかな見た目をしている男性は食べることが大好きなようで、ときたかが普段は喫茶店に勤めていることを知ると、連日訪れるようになりました。
しかしこの男性、実は夫婦でダイエットをしている真っ最中。家では奥さんの監視のもと粗食に努めているようで……「鹿楓堂」のメンバーが心配をしていると、いいタイミングで奥さんがお店にやって来てしました。
呆れる奥さんに、男性はあるものを見せます。陶芸教室で彼が作っていた大皿で、ダイエットに成功したらこのお皿で好きなものを食べると言うのです。本末転倒な気もしますが、男性の表情を見ていると、咎めることができません。
お皿ひとつで料理の印象は変わりますし、お皿が形として残ることで料理に付随する記憶を思い出すこともできます。食事がより楽しくなりそうですね。
「鹿楓堂」はもともとスイの祖父が営んでいた喫茶店。祖父が亡くなり一時は閉店したものの、いつかまた再開できればという想いからコーヒーなどの研究を続けていました。
ある日、カップが割れてしまったため工作物を販売している地元の市に行くことにしたスイ。そこで彼が手に取った湯呑みが、ときたかが作ったものだったのです。2人は中学時代の同級生で、「鹿楓堂」メンバーのなかではもっとも古い付き合いなんですね。
- 著者
- 清水 ユウ
- 出版日
- 2016-04-09
いまの「鹿楓堂」ができるきっかけが語られる4巻です。
後日スイのもとへ、ときたかが自分の作品をまとめて持ってきました。そこへ、祖父がお店を経営していた時代の常連さんがやってきます。閉店してしまったことを知ってがっかりするお客さんに、スイは軽食とお茶を出すことを提案しました。
彼が店の再開になかなか踏み出せなかったのは、祖父と同じ味が出せる自信もなく、祖父が大切にしていたものを壊すことになるのではないかと不安だったから。
この日は、料理オンチなスイの代わりにときたかが軽食を作り、彼はお茶を淹れて提供しました。
ひと口飲んだお客さんが漏らした言葉は、「祖父とはやはり違う」……しかしこの言葉の真の意味を知ったスイは、ついに「鹿楓堂」を再開する決意を固めるのです。またときたかも、自分の作った料理で笑ってくれたことに喜びを感じたようでした。
いくつかの偶然が重なって生まれた現在の「鹿楓堂」。きびきびと即断即決をするいつものスイとは違う一面を見れるエピソードです。
『鹿楓堂よついろ日和』は、メインとなる4人のイケメンはもちろんですが、お客さんとしてお店にやってくるキャラクターたちも魅力的。以前登場した人物が別の巻でまた登場したりと、名前の出てくるキャラクターはすべてチェックしておくと読むのが2倍楽しくなりますよ。
5巻では、そんなお客さんのエピソードが数多く収録されています。
2巻でつばきとともにカフェに行った男性の話、学校に行かず周りの環境に馴染めない中学生の話、仕事に忙殺されつつ奮闘する姉妹の話など、人と人、人と食のつながりの大切さを感じさせてくれます。
- 著者
- 清水 ユウ
- 出版日
- 2016-12-09
不登校の中学生の少年は、ご飯ではなくちょっと大人にくエスプレッソを飲んで元気になります。美味しいものは、たったひとくち口にするだけで幸せになることがわかるでしょう。ぐれが若い時のエピソードもあわせて語られ、彼がいま明るく笑っていられる理由を考えると、胸が熱くなります。
仕事に疲れている姉妹のは、喫茶店ではおなじみのナポリタンを注文。「お母さんの味」だと感動するのです。「鹿楓堂」の面々が「喫茶店のナポリタン」にかける並々ならぬ想いと、疲れた心を癒す「家庭の味」が重なり、感動の味に。表紙のイラストもインパクトがあります。
心が疲れていたり、モヤモヤとした悩みを抱えている時に、美味しいもののパワーは絶大なのだと再認識させられるでしょう。
6巻では、これまでほとんど出てこなかった同業者が登場。「鹿楓堂」の周りにはそんなに飲食店が無いので、初めてのライバル店です。
以前よりランチの数が出ていないことに気づいた「鹿楓堂」の4人。常連客から聞いたイタリアンのお店が原因だと考え、休店日にみんなで偵察に行くことにしました。
そこは、「鹿楓堂」同様、1度閉店した後に再開したレストランでした。
- 著者
- 清水 ユウ
- 出版日
- 2017-06-09
オーナーは神子という男性。従業員は千利という青年のみで、2人きりで運営していました。
実は千利も「鹿楓堂」に偵察に来ていて、ライバルとしてかなりの意識をしているよう。一方の神子は、「鹿楓堂」のメンバーと和気あいあいとした雰囲気。ランチタイムのお客さんが流れているのは事実ですが、「鹿楓堂」は本来甘味処で、イタリアンとは明らかに違いますからね。
その数日後、今度は神子がお客として、娘のまりを連れて「鹿楓堂」を訪れました。実はまりは、猫好きのスイとお友達。頻繁に店にも顔を見せている少女です。
こうして、家族・従業員ぐるみで顔見知りとなった両者。ライバル店といえどメニューはまったくの別物なので、このままよい関係が築いていければいいですね。
ちなみに「鹿楓堂」の新メニューであるパンケーキは、まりの好みを参考にしたもの。イタリアンレストランの面々はおそらく今後も登場するキャラクターになるので、注目していきましょう。
「鹿楓堂」では、できる限りお客さんの気持ちに寄り添い、本来メニューにないものを提供することもあります。また賄いにも工夫を凝らし、日々みんなの笑顔を作れるメニュー作りを心掛けているのです。
ある日ぐれは、「鹿楓堂」にはサンドイッチが無いと気づき、パン作りを始めました。
- 著者
- 清水ユウ
- 出版日
- 2017-11-09
酵母液から手作りし、生地ももちろん手ごね。時間がかかるのがネックですが、提供する曜日を限定し、メニューとして登場させることになりました。
基本的に彼ら4人は、自分たちが美味しいと思ったものは他の人にも提供したいと考えていて、常にお客さんのことを1番に考えていることがわかります。だからこそ多くの人が常連になるのではないでしょうか。
常に楽しんで幸せな気持ちになってもらえるように考え、工夫を凝らす彼らの姿は、ある意味「職人」のようなカッコよさがあります。本作を読んでいると、1度は「鹿楓堂」に行ってみたくなってしまいますね。
本に載っていることと比べると、いろいろと成長が遅れているように感じている母親。泣く我が子をあやそうと新米ママとして頑張るものの、どう対処をしていいのか困っています。そこでスイが声をかけ、店内へと案内をしました。
- 著者
- 清水 ユウ
- 出版日
- 2018-04-09
今まで子育ての経験があれば別ですが、初めて子を持つと、ついつい本などの情報ばかりに目を奪われてしまいますよね。不安な母親の気持ちを払拭するように、スイ・ぐれ・ときたか・つばきは、赤ちゃんと接していくのですが、やはり、ぐれはお兄ちゃん肌。非常に面倒見がいいです。
子どものいいところをちゃんと見て、褒めてくれて、笑わせる手伝いをしてくれる。こんないい喫茶店はないですよね。今まで見たことない4人が見られる回でもありますので、ぜひ注目したいですね。
本巻では、登場人物達の過去のエピソードも紹介されます。彼らは一体どんな高校生活を送っていたのでしょうか。もしかしたら、意外な一面が見られるかも!?
読んでいるうちにお腹が空いてくるような描写が魅力的な本作。作中にはメニューが記されているものもあるので、自分で作ることもできますよ。また本作の前身となる『甘美男子茶房』『甘美男子』という作品もあるので、気になった方はそちらもぜひ読んでみてください。