文芸

野坂昭如のおすすめ書籍10選!映画「火垂るの墓」の原作者

更新:2020.11.24 作成:2018.3.30

あの有名な映画「火垂るの墓」の原作者で、その他にも数々のヒット作と伝説を残した小説家の野坂昭如。タレントや放送作家としても活躍するマルチな才能を発揮し、昭和時代の文化を牽引した人物です。今回はそんな野坂が残した作品のなかから特におすすめの10作をご紹介していきます。

野坂昭如とは

1930年、神奈川県生まれの野坂昭如。彼が生まれる前に両親が別居、さらに実母が彼が生まれてまもなく亡くなったため、神戸の家へ養子に出されました。神戸と疎開先の福井で戦争を経験。戦後は大阪の中学校へ入学しました。その後新潟の高校、東京の早稲田大学に進学します。

1956年に中退した後は放送作家としてコントをつくるほか、CMソングの作詞家として活躍しました。そのかたわらで雑誌などにコラムも寄稿しており、1963年の『エロ事師たち』で小説家デビュー。1967年には『火垂るの墓』、『アメリカひじき』で直木賞を受賞しました。

テレビタレントとしてお茶の間にも登場するようになり、文壇きっての動物好き、酒好きとして個性的なキャラクターとして知られています。そんな彼自身を表すかのように、その著作は戦争時代の体験をもとに綴ったシリアスなものから、笑いを誘うコミカルなものまで多岐にわたります。

数々の名作を残して、2015年に帰らぬ人となりました。

野坂昭如の代表作であり不朽の名作『アメリカひじき・火垂るの墓』

「火垂るの墓」は、スタジオジブリが制作した映画で一躍有名になった短編作品。妹を疎開先で栄養失調で亡くした野坂自身の経験をもとにした半自叙伝で、戦争時代を生きる少年少女の力強さと悲壮感が切々と描かれています。

原作となる小説は読んだことがなくとも、映画を見たことがある人は多いのではないでしょうか。

そこで今回は、「アメリカひじき」を詳しくご紹介しましょう。

著者
野坂 昭如
出版日
1968-02-01

「アメリカひじき」は、「火垂るの墓」では最後に力尽きてしまった清太が生きていた場合の、パラレルワールドを描いた作品です。敗戦国である日本の社会を、ひとりの男が生き抜いていくさまを描いています。

物語の舞台は終戦から20年ほど経った日本。俊夫という30代なかばになった男が、妻とハワイ旅行へ行くところから始まります。そこでとあるアメリカ人夫婦と出会い、交流を深めていくのですが、そのなかで俊夫は敗戦によるコンプレックスを呼び覚まされていくのです。

かつて日本の勝利を信じていた少年。戦争が終わってからは、惨めさと恥ずかしさを感じながら劣等感のなかで生きていました。

実際に戦中、戦後を体験した野坂だからこそ綴れる筆致で、いくら時が経っても戦争がひとりひとりの人生に色濃く影響を残していることがわかる作品になっています。

野坂昭如のデビュー作『エロ事師たち』

デビュー作でありながら、文壇でも非常に高い評価を受けた本作。

世の中にある「エロ」を扱い、提供し続ける男たちの物語です。

著者
野坂 昭如
出版日
1970-04-17

主人公は、スブやんという中年男。戦後にさまざまな闇の仕事を経験し、現在はアパートの住人の性行為を録音したテープを売ったり、エロ写真を売ったり、女性を調達したりと「エロ事師」として活動しています。

しかし彼の行動はなんとも滑稽。愛する女性が病で亡くなった際、棺のある部屋の壁にポルノ映像を流して供養をしたり、理想の乱交パーティーを開こうと奔走したり、勃起不全になった局部を月夜で照らしたりと、いやらしさよりも切なさが勝ってしまうのです。

昭和という時代は、さまざまな風俗が倦厭されつつも許容されていた時代。猥雑な生命力を感じてみてください。

昭和作家たちのリアルな文学論争『文壇』

雑誌「文学界」において2001年から2002年に連載されたものをまとめた一冊。野坂昭如が親交を持っていた三島由紀夫や吉行淳之介、大江健三郎などとの文学的論争の回顧録です。

銀座や新宿の薄暗い酒場で交わされたリアルな会話が、ほとんど手を加えることなく記されています。

著者
野坂 昭如
出版日

文体としては野坂独特の、句読点や助詞を省いた形態。少々読みづらい部分もありますが、きわめてリアルな文学論争を垣間見ることができます。

野坂の各作家に対する素直な評価が書き綴られていて、特に彼が憧れていたという三島由紀夫に関しては、次のように述べています。

「敗戦直後、三島の名を知り、天才と認めた、以後「金閣寺」までまず読んでいた。「夏子の冒険」、「美徳のよろめき」、「美しい星」、「永すぎた春」がおもしろかった。何となく遠ざかり、久々に見参、精力枯れたことを自覚の男が、必死に妄想かきたて、苛立ち、絶望を隠すための、これみよがしに華麗な文体、「荒野にて」の青年を連想した」(『文壇』より引用)

書評ではなく、本書のように気兼ねなく同業者について述べている作品は貴重であるとともに、豪快で素直すぎる野坂の人間性も存分にあらわれた一冊になってます。

「死」を独特の感覚で綴る『とむらい師たち:野坂昭如ベスト・コレクション』

表題作のほか、初期の野坂作品を代表する数編が収められた短編集です。

「とむらい師たち」は、彼の終末観をもとに個性豊かなキャラクターたちの奇行を描いた物語になっています。「死」という未知のものに対する想像力をかきたてられるでしょう。

著者
野坂 昭如
出版日
2017-06-06

本作に登場するのは、万博に対抗して「葬儀博」を実現しようとする者、葬儀をレジャー化しようとする者など、一風変わった人たちばかり。

彼らはみな、「死」に対して独自の考えと解釈を抱いており、それは戦争体験で培われました。彼らの行動はコミカルで笑える部分も多いですが、「とむらい師」として葬儀を産業化しようと思うほど「死」が身近にあることもまた事実。

ある意味これもリアルな戦後なのかもしれません。

好色作家・貝原北辰の一生『好色の魂ー野坂昭如ルネサンス』

本書は、昭和初期時代に好色作品で一世を風靡した「貝原北辰」の生涯を描いた長編作品です。

野坂は貝原の生きざまに敬意を表しながら、彼に似た作家人生を送った自身の体験を挿入して異色の長編を書き上げました。

著者
野坂 昭如
出版日
2007-05-16

本作で描かれている貝原北辰は、梅原北明という実在する人物がモデルになっています。昭和初期に好色作品を数多く出版した作家で、戦争の影響でたびたび発禁処分を受けていました。それでも貝原は文章を生み出しつづけたのです。

見どころは、力強く華やかだった全盛期を過ぎ、執筆活動が失速しはじめた後半の部分。軽快でテンポのよい文体から、陰鬱な印象に変わり、貝原が意気消沈していくさまを見事に表した野坂の真骨頂ともいえるでしょう。

昭和時代の東京の姿を描く『東京小説』

1988年から1989年にかけて雑誌「小説現代」で連載していたものをまとめた一冊。

全14編それぞれで語られる人々の身の上話が、昭和時代の東京の姿を浮かびあげてくれます。

著者
野坂 昭如
出版日
2005-06-11

なかでも注目は、13編目の「東京小説 私篇」。野坂昭如自身の告白をテーマにした作品で、幼少時代の経験をテンポのよい文体で綴っています。

描かれているのは、いかにも少年がやりそうないたずらや失敗の数々。また見逃すことができないのが、戦争体験に関する文章です。本書は1990年に発表されたものですが、やはりいつまで経っても「戦争」というのはついて回るテーマなのです。

野坂昭如が見た三島由紀夫の姿『赫奕(かくやく)たる逆光』

本書は、野坂と親交の深かった三島由紀夫について綴った一冊です。17回忌に「あえて」描いたといわれています。

三島は作家陣のなかでも非常にファンが多いですが、その一方で謎も多い人物でもあります。野坂からはどのように見えていたのでしょうか。

著者
野坂 昭如
出版日

1970年11月25日、陸上自衛隊市谷駐屯地で、演説の後切腹自決をした三島由紀夫。彼の死は全国を震撼させると同時に、作家たちの創作意欲と使命感を掻き立てました。三島を知る多くの人がその人物像を綴り、死を悼んだのです。

三島と野坂は6歳差。しかし三島は若くから天才的な活躍を魅せており、野坂は彼の作品の素晴らしさに打ちのめされたそう。一方の野坂自身はまだ作家としてまだ名を挙げていません。接点など無いと思われましたが、野坂のデビュー作である『エロ事師たち』を三島が絶賛し、交流が始まったのだとか。

彼の存在が、野坂の人生や作品にどれだけの影響を与えたのか、考察できる一冊です。

東日本大震災を経て野坂昭如が伝えたいこと『しぶとく生きろ』

まだ記憶に新しい「3・11」東日本大震災について、野坂の想いを綴った一冊です。

彼は未曾有の災害に何を思い、何を伝えようとしたのか、野坂らしいストレートな文体で書かれています。

著者
野坂 昭如
出版日
2011-10-22

本書は、毎日新聞にて連載されていた小文を一冊にまとめたもの。3月11日に起こった未曾有の震災を得て、人間がこれからどう生きていくべきなのか。作家として、そして戦争という死と隣り合わせの時代を生きた人物として、丁寧に語っています。

特に若者に向けて書いた文章が多く、そのなかでもあとがきの一文をご紹介しましょう。

「若者よ、目を見開き、もっと怒れ、そしてしぶとく生きろ」(『しぶとく生きろ』より引用)

昭和と比べると「死」が生活から遠いものになった平成。死を身近に感じた世代だからこそ言える切実なひと言ではないでしょうか。

ファンとの往復書簡『男の詫び状』

本書は野坂昭如とファンの間の手紙のやり取りを記した一冊です。

かしこまった文体ではなく、特定の人に向けた文章をそのまま載せることで、素直な人柄が垣間見えます。

著者
野坂 昭如
出版日
2016-06-07

「手紙」というものは、メールよりもその人本来の「素」を表してくれるのではないでしょうか。言葉選びや文体だけでなく、筆圧や筆選び、また丁寧さなど手紙でなくてはわからない要素が魅力です。

特に注目したいのは、ファンからの手紙に対して野坂がしたためた「返事の手紙」。

作品の感想に対する感謝、手紙を通した文学論争、小説に隠された「反戦」に対する思いなどを、優しさに溢れた言葉で表し、野坂昭如という人物の温かさを感じることができるでしょう。

野坂昭如、最晩年の作品『絶筆』

2003年に脳梗塞で倒れてから亡くなるまで、およそ12年間。

野坂は作家であり続けました。

著者
野坂 昭如
出版日
2016-01-22

2015年、85歳の生涯に幕を閉じた野坂昭如。2003年に脳梗塞を患ってからはほとんど筆も持つことができず、妻の暘子夫人の手を借りて執筆していたといいます。

本作は雑誌に掲載された日記形式のコラムをまとめたもので、なんと野坂が亡くなる数時間前に綴った文章も。

病気になってから始めたコラムなので、書かれていることのほとんどは食事かテレビからの情報によるもの。しかしそのなかでたびたび、少年時代の戦争の記憶が語られます。幼いころに戦争を体験した野坂の中には、死を前にしてもやはり戦争があったのでした。

生涯をとおして書き続けた彼の思いを感じてみてください。

野坂昭如は『火垂るの墓』のほかにも文学的に非常に評価の高い作品を数多く残しています。彼の文章から昭和という時代に触れてみてはいかがでしょうか。