フィクション・ノンフィクション問わず、金融関連の作品を得意としている橘玲。2016年に発表した『言ってはいけない 残酷すぎる真実』がベストセラーとなり、その名を知った人も多いのではないでしょうか。今回はそんな彼の作品のなかから、「言ってはいけない」以外でおすすめのものをご紹介していきます。
1959年生まれの橘玲(たちばなあきら)。経済小説やノンフィクションを得意としている作家です。早稲田大学の第一文学部を卒業した後、宝島社で編集者として勤務しました。文壇各所に精通していたそうです。
2002年に経済小説の『マネーロンダリング』でデビューをし、それ以降フィクション・ノンフィクション問わず経済に関する作品を多数発表しています。
2005年に発表した小説『永遠の旅行者』が山本周五郎賞の候補に、また2016年に発表した『言ってはいけない 残酷すぎる真実』が新書大賞を受賞して話題になりました。
この記事ではそんな橘の作品のなかから、特におすすめのものをご紹介していきます。
橘のデビュー作である本作。海外への大金輸送や脱税などの問題を、作者の経済の知識をフルに活かして小説としました。
主人公は、香港で暮らしている工藤という男。日本人相手の金融コンサルタントとして生計を立てていました。ある日彼のもとに、麗子という美しい女性が訪れます。「5億円を海外輸送してほしい」という脱税の依頼でした。
工藤は彼女の要望を満たすことができる提案をしたのですが、その数ヶ月後、麗子の行方がわからなくなってしまうのです。しかも5億円ではなく、50億円という大金とともに……。
- 著者
- 橘 玲
- 出版日
- 2003-04-15
本書の見どころは、金融の世界ならではの大金を動かす緊迫感と、お金に魅了された人々によるサスペンスドラマです。
また主人公の工藤が香港と日本を行ったり来たりするスケール感も抜群。
金融と聞くと敷居が高く感じてしまう方もいるかもしれませんが、本書では基本的な知識もわかりやすく説明してくれているのがうれしいところ。スムーズに物語に入っていくことができます。
大金と麗子の行方を探るうちに、やがて工藤の身にも危険が迫ります。緊迫した展開の続くスリリングな物語をお楽しみください。
主人公は、元弁護士の真鍋。余命わずかだという見知らぬ老人から、20億円という資産を息子ではなく孫に相続したいという相談が届きました。
しかも麻生というその老人は、1円たりとも相続税を払いたくないというのです……。
複雑な家族の事情に、遺産相続と脱税が絡み合う難題に、真鍋が立ち向かいます。
- 著者
- 橘 玲
- 出版日
- 2008-08-10
本書には、日本の制度の矛盾に苦しんだり、それによって報われない思いをしたりしている人が数多く登場します。
依頼人である麻生はかつてシベリア抑留者で、その息子はバブル崩壊にともない多額の借金をして逃亡、孫は心を病んで引きこもっています。税金に苦しみ、貧困生活を送るなかで、おのおのがどうにかよい生活を手に入れようともがくのです。
注目すべきは、主人公の真鍋が彼らを見る目線。物語が進んでいくと、遺産相続と脱税問題に加え殺人事件が絡んでくるのですが、彼はどんな事件を目の前にしても常に中立的で、元弁護士らしい凄みを感じさせてくれます。
本書はフィクションですが、作中に登場する金融と税金に関する知識は本物。リアルな設定のもとで謎が絡み合うストーリーを楽しめるでしょう。
2011年、日本は東日本大震災と福島第一原発の事故に見舞われました。一連の出来事は世界中でニュースとして流れ、困難な状況のなかでも助け合いの心をもつ日本人が注目を浴びました。
しかしそれは、日本人の真の姿なのでしょうか。本書は、「日本人らしい」「日本人的な」イメージはすべて西欧社会がつくったものだとし、それらを取り除いた本当の日本人の姿を浮かび上がらせています。
- 著者
- 橘 玲
- 出版日
- 2014-08-05
「世界価値観調査」というアンケートによると、「権威や権力はより尊重されるべきですか」という質問に対して、日本人の肯定的解答はたったの3.2%。この結果はなんとタイ人ときわめて近いそうです。
また作者は、ボランティア精神や助け合いといいつつ、日本人は個人主義者だと主張。「日本人」という言葉につきまとうイメージを取り払い、これまで当事者である我々でも気づいていなかった新しい見解を教えてくれる一冊です。
衝撃的なタイトルがついている本作。
現代社会で大きな問題となっているワーキングプアや孤独死、自殺などを引き合いに出し、どうすれば幸せに生きていけるのか、新たな哲学を説いた一冊です。
- 著者
- 橘 玲
- 出版日
- 2015-04-10
本書の面白いところは、巷に溢れている自己啓発本とはまるで正反対のことを述べている点でしょう。
人は「努力すればどんなことでもできる」「できないのは努力が足りないから」と言われることが多くあります。それも確かにひとつの真理なのかもしれませんが、作者が本書で一貫して述べているのは、「やってもできない」ことがあるということ。
特に第1章では、どんな自己啓発でもセミナーで披露される思考でも、できない時は「やってもできない」と主張しています。その原因は本人の性格や環境などさまざまありますが、そこで終わらせずに遺伝子学や生物学の観点まで踏み込んで説得力をもたせているのです。
ではそれが分かった時、我々はどうすればいいのか。新しい提示をしてくれる一冊です。
1980年代に青春時代を過ごした橘。いまでこそ金融関連の書籍を数多く発表している彼ですが、その下積みはどのようなものだったのでしょうか。
バブルがはじまってから終わるまでの激動の時代を語った、自叙伝的一冊です。
- 著者
- 橘 玲
- 出版日
- 2018-01-20
「日本がいちばんきらきらしていたあの時代、ぼくは、ひたすら地に足をつけたいと願った」(『80’Sエイティーズ ある80年代の物語』より引用)
誰もが満ち足りていたといわれる日本のバブル時代。橘はさまざまな仕事を経験していました。清掃のアルバイト、泥臭いマスコミの下っ端などをしながら、80年代の日本を見ていたそうです。
彼自身、いま自分が発表している作品に書いてあることを当時実践していたら、人生は大きく変わっていたと言っています。ただ当時の経験があるからこそ今の彼があるのも事実。ほかの作品を読んで作者自身に興味をもった人にぜひ読んでほしい一冊です。