鎌倉時代に成立し、軍記物語として後世にも多くの影響を残した平家物語。平氏と源氏の戦いが描かれていますが、その根底には仏教の価値観や美学があります。この記事では概要とあらすじを紹介し、冒頭の「祇園精舎の鐘の声~」や名シーン「源氏の兵ども」をわかりやすく解説。あわせておすすめの関連本も紹介するので、ぜひチェックしてみてください。
鎌倉時代に成立したとされる「軍記物語」です。軍記物語とは、歴史上の合戦を題材とした作品のことで、今風にいうと「バトルもの」といったところでしょうか。
その内容は、平安時代に武家貴族として台頭した平家の、栄華と衰退が描かれています。ほぼ史実に即しているのも特徴。まるで大河ドラマの脚本のような怒涛の展開をみることができます。
さて平家物語の作者ですが、諸説あり、正確なところはわかっていません。ただ吉田兼好の『徒然草』に信濃前司行長(しなののぜんじゆきなが)という人物が作者であるという記述があり、有力な説となっています。
平家物語は、平安時代に活躍した盲目の僧、琵琶法師によって広められました。彼らは全国に存在していたので、物語も全国に広まったと考えられています。
ちなみに、平氏のいわずとしれたライバルは源氏ですが、光源氏を主人公とした『源氏物語』は軍記物語ではありません。色恋沙汰が多く描かれているのが特徴です。
1:「保元の乱」と「平治の乱」を経て、平家は強大な権力を得て、全国の半分近くを治めるようになる。 特に平清盛は武士で初の太政大臣にまでのぼりつめた。
2:しかし、威張り散らす平家に世の中の不満が爆発。以仁王(もちひとおう・後白河天皇の第3皇子)の令旨を受けた源頼朝が、「富士川の戦い」で平家に勝利。頼朝は鎌倉で東国の長になる。
3: 源義経の快進撃が始まる。「一の谷の戦い」「屋島の戦い」で平家を追い詰め、「壇ノ浦の戦い」でついに決着。平家は徳子(清盛の娘)を残して滅亡した。
4:「壇ノ浦の戦い」で活躍し、平家滅亡に大きく貢献した源義経だったが、頼朝に恨まれて殺されてしまう。
平家物語は、ヒーロー的存在として描かれた義経が平家を滅ぼして「めでたしめでたし」では終わらず、兄の頼朝に殺されてしまうラストになっています。
これもまた「無常観」を表していて、この物語が人々を苦しめていた悪者である平家を倒すヒーローものではなく、あくまで仏教観にもとづいたものである証拠になっています。
「祇園精舍の鐘の声、諸行無常の響きあり。娑羅双樹の花の色、 盛者必衰の理をあらはす。奢れる人も久しからず、ただ春の夜の夢のごとし。猛き者もつひにはほろびぬ、ひとへに風の前の塵に同じ。」
こちらは平家物語の冒頭部分。学生の時に暗記した方も多いのではないでしょうか。口に出して読みやすく、琵琶法師が語って広めたというのも納得の一文です。
「祇園精舎の鐘の音は、諸行無常を表している。沙羅双樹の花の色は、盛者必衰の理を表している。威張っていた平家も今では懐かしい。まるで春の夜の夢のようだ。どんなに勢いのあった者でも最後には滅びるさまは、風に飛ばされる塵と同じだ。」
という意味。平家の時代が終わり、世の中があっという間に変わった様子を見て、この世は常に変わりゆくという「諸行無常」と、どんな人も必ず衰えるという「盛者必衰」を表しています。
「諸行無常」も「盛者必衰」も仏教の価値観で、平家物語はこのような「仏教観」が軸になっていました。
平家物語には、「源氏の兵ども、既に平家の船に乗り移りければ……」という文章から始まる「先帝身投」という章があります。
「壇ノ浦の戦い」で勝利を収めた源氏の兵たちが、平家の船に次々と乗り込み船員たちを殺していく様子が描かれているのですが、そんななか、平時子は敵の手にかかるくらいならと入水を決意し、当時8歳だった安徳天皇を抱いて心中しようとするのです。
時子に抱かれた安徳天皇は、「私をどこに連れて行こうとしている」と聞きます。時子は幼い天皇に向かって運が尽きたことを説明し、「ここはつらい場所ですから極楽浄土に行きましょう。波の下にも都があるのです」と泣きながら話しました。
そして安徳天皇を抱いたまま船から飛び降り、ともに命果てたのです。安徳天皇は平清盛の孫であり、このシーンはまさに平家の終わりを告げる象徴的なもの。
平家は確かに憎たらしい存在だったかもしれませんが、8歳の子どもが無理心中で命を落とすという事実は、源平の勝敗などの次元を超えた強烈な余韻を残しています。
- 著者
- 出版日
- 2001-09-01
古文の入門として発表されている「ビギナーズ・クラシックス」シリーズ。原文のほかに現代語訳と解説がついていて、意味を確かめながら読むことができるので、初心者におすすめの内容となっています。
全容がコンパクトにまとめられており、物語の流れをつかむのに最適な一冊でしょう。
- 著者
- ["名古屋 裕", "伊部 太朗", "薙澤 なお"]
- 出版日
- 2014-07-29
古文に苦手意識のある方は、まずは漫画で平家物語に触れてみるのはいかがでしょうか。漫画ながら「無常観」はしっかりと描かれていて、世の儚さや虚しさといった本作の醍醐味を味わうことができます。
内容を補足するコラムもついているので、大人の方でも満足できる一冊です。
- 著者
- 吉川 英治
- 出版日
- 1989-03-24
作者は『宮本武蔵』が大ベストセラーとなった歴史小説家の吉川英治。本作はおよそ7年をかけて完成させた大作になっています。
ただ原文を現代語訳したのではなく、源平の武士たちの栄枯盛衰のドラマを描きつつも庶民の人生にも焦点をあてており、大きな時代の流れのなかで人々がどのように生きたのかを存分に感じることができるでしょう。
文庫で全16巻というボリュームですが、読後は満足感を得られること間違いなし。ぜひチャレンジしてみてください。