日米に2人の彼氏がいる主人公「A子」の優柔不断な恋愛を描く『A子さんの恋人』。いつまでも「考え中」ではっきりしない主人公と、意地悪で半人前な友人たちとのリアリティーあふれるやり取りが魅力です。今回はそんな本作の魅力、作者の近藤聡乃についてご紹介します。
『A子さんの恋人』は、何事も優柔不断でハッキリしない主人公「A子」が3年間のニューヨーク生活を終え、日本に帰国するところから始まります。
A子の目下の悩みのタネは、実は恋人が2人いること。はっきり別れないまま、日本に置き去りにしていた「懐に入り込む男」ことA太郎。ニューヨークで出会い、A子に結婚を迫っている「懐の深い男」ことA君。
A子は2人のどちらを選ぶか決めきれないまま、ビザの失効を理由に「考え中」ということにして日本に帰ってきてしまったのです。
- 著者
- 近藤 聡乃
- 出版日
- 2015-06-15
- 著者
- 近藤 聡乃
- 出版日
- 2016-03-14
物語はA子とA太郎が在学していたT美大の同期生たちを中心に進みます。
美術予備校講師を勤める 「モテたことしかない女」U子。エディトリアルデザイナーを勤める「モテたためしがない女」 K子。「そこそこモテるが本命のA太郎にはモテない」イラストレーターのI子。そんな個性あふれるキャラクターたちの一番の魅力は、ずばり全員が 「半人前」 なところです。
『A子さんの恋人』に登場するのは、とてもアラサーとは思えない、ひねくれて性格の歪みきったキャラクターばかりです。一般的な良識のあるキャラクターはほとんど登場しません。
そして、彼らの根性の曲がりきったセリフの数々に思わずニヤッとさせられてしまいます。しかし、正直な本音を包み隠さない彼らの言葉は、時折ひどく本質を突き、どこか考えさせられるものもあるのです。
- 著者
- 近藤 聡乃
- 出版日
- 2016-11-15
近藤聡乃さんは1980年生まれ千葉県出身の漫画家です。多摩美術大学グラフィックデザイン学科を卒業し、現在はニューヨークを拠点に創作活動を行なっています。アーティストでもある彼女は、漫画だけでなくアニメーション、ドローイング、エッセイなど多面的な活動をしており、国内外を問わず多くの作品を発表しています。
元々漫画にはあまり興味がなかったそうですが、中学生のときに「月刊漫画ガロ」に出会って大きく影響を受けました。その後、「ガロ」の事実上の後継誌である「アックス」に投稿した『小林加代子』が新人賞で奨励賞を受賞。まだ大学生だった2000年にデビューを果たしました。
2008年に文化庁の「新進芸術家海外研修制度」の研修員に選ばれて以降、ニューヨークを拠点に活動している近藤さんですが、当初は1年間だけ滞在するつもりだったそうです。ニューヨークに着いたばかりのある日、ふとスーパーマーケットの前で「そうだ、このままニューヨークにいよう」と決心したと語っており、気分屋な一面が伺えます。
ドローイング作品は妖しい雰囲気が特徴的。緻密な描き込みには圧倒されます。また、おかっぱ頭の女性がモチーフにされていることが多く、その瞳を見ていると吸い込まれてしまいそうな錯覚を受けることでしょう。
漫画作品においても高い画力に裏打ちされたシンプルな描線は特徴的ですが、本作はうって変わってとてもポップな雰囲気です。皮肉の効いたセリフや精度の高いあるあるネタには、思わずニタニタと登場人物たちと同じようにちょっと底意地の悪いような笑みがこぼれてきます。
- 著者
- 近藤 聡乃
- 出版日
- 2017-09-15
『A子さんの恋人』は2018年5月現在、第4巻まで出版されており、未完。「面白い漫画を読みたいけれど、巻数が多いのはちょっと…」という方にも、丁度いいボリュームです。
他にも、「あるあるネタでよく笑ってしまう」、「性格のひねくれ方には自信がある」、「他とは一味違う恋愛漫画が読みたい」なんて方々には、自信を持っておすすめできる作品です。ぜひ一度、手に取ってみてください。
また、近藤聡乃さんの日常が綴られたコミックエッセイ『ニューヨークで考え中』もセットで読むと面白いのでおすすめですよ。