葉室麟のおすすめ6作品をご紹介!男の覚悟・男のロマン・女の生き様を描く!

更新:2016.7.15 作成:2016.7.15

困難の中で生きていく人間を書き、『蜩の記』などの映像化作品も多く、今、日本で最も注目されている時代小説の人気作家といえば、この人、葉室麟です。著作も多く、出版ペースも速いので、時代小説ファンを喜ばせてくれています。

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書くことは心の歌をうたうこと!短歌や俳句の素養もある葉室麟

葉室麟は、1951年福岡県生まれの時代小説・歴史小説作家です。西南学院大学卒業後、地方新聞の記者をしながら書いた『乾山晩愁』で歴史文学賞を受賞し、作家となりました。2007年に『銀漢の賦』で松本清張賞を、2012年には『蜩の記』で直木賞を受賞しました。

葉室麟は作品の中で、時代や環境に翻弄されながらも決してあきらめることなく果敢に立ち向かう人間や、人生を達観して穏やかに生きる人間の姿を描いています。また、記者時代に出会った、職業も年代も様々な多くの人達から得たものが、作品にリアリティを生み、生き生きとした人間描写につながっているとのことです。

そんな葉室麟は、子どもの頃、貸本屋に通い、手塚治虫や白土三平の漫画をよく読んだといいます。また、若い頃から和歌・俳句も詠んでおり、作品にも和歌や俳句が効果的に使われているのです。

武家社会を描いた作品の他に、彫刻家や茶人、俳人など芸術家の心情や芸術作品を緻密に表現した作品も多くあります。そこには、“生きていくうえでの切なさや苦しみ”を繊細に受け取って作品として昇華する芸術家を書くことで、人生において大切なことを読者に伝えたいという彼の思いが感じられます。

近年は、先輩や同世代の作家仲間が次々と倒れていく中、“自分に託されたもの”があるなら、限られた残り時間の中でできる仕事はやろう、という気持ちのもと、精力的に新しい作品を生み出しているとのことです。

自分が生きていく意味は先祖が生きてきた歴史の中にこそある、という葉室麟。彼が思う本当の日本人のあるべき姿を表現できるのが、時代小説や歴史小説なのでしょう。

また、葉室麟は、インタビューの中で、「書くことは心の歌をうたうこと」、「文章は、何かを説明すればいいというものではない」と言っています。確かに、彼の作品には、行間からにじみ出てくるものがあり、それによって読者は、心を動かされるのです。
 

知恵と度胸で大切の人を守ってみせる!女の心意気!

菜々は、藩士であった父親がいわれのない罪で切腹してから母の実家である元庄屋に身を寄せていましたが、母も病気で亡くなった後は、16歳で、城下にある風早家という武家に奉公に行くことになりました。

風早家は、主人の市之進、妻の佐知、4歳になる正助と3歳のとよ、という4人家族で、家族みんながドジな菜々にも優しく接してくれ、菜々の憧れの家族でした。まさに清貧を地でいく生活で、ぜいたくはできないけれど思いやりのある家庭だったのです。

ところが、まだ若い佐知が結核で亡くなり、主人の市之進もあらぬ疑いをかけられ、遠い親戚のいる土地へと島流しのようになってしまいます。市之進から幼い子どものことを頼まれていた菜々は、正助ととよが食べるのに困らず暮らしていけるよう奮闘します。
 

著者
葉室 麟
出版日
2015-11-12


次々と苦労を強いられる菜々が、苦労をものともせずいつでも明るく前を向いて何事にも当たっていく姿がとても魅力的です。お金はなくても知恵を絞って自分の力で運命を切り開いていく菜々は、不可能と思えることにも挑戦していきます。人は、守るべきものがあると、こんなにも強くなれるのかと胸が熱くなります。

明るい菜々でしたが、ずっと心の奥に秘めていることがありました。そのために、剣術指南から剣術の稽古まで受けていたのです。菜々が成し遂げたいこととは、何なのでしょうか。

この作品には、他にも魅力的な人物が多く登場します。剣術指南、塾の先生、質屋の女、やくざ者の男、みんなはじめは菜々につっけんどんに接していましたが、菜々のひたむきさに心を動かされ、いつしかみんなで菜々を応援し、力を貸すようになります。

読んでいる最中も菜々に勇気づけられ、読後感も最高のストーリーです。大切な人にプレゼントするのにもおすすめできる本です。

江戸から明治、激動の時代を生き抜いた2人の男!心に迫る歴史小説

“月の章”、“神の章”の2つの章から成る物語です。

前半の“月の章”の舞台は福岡藩。藩士、月形洗蔵は、尊皇攘夷派の中心人物として福岡藩を盛り上げようとしますが、藩主である黒田長溥は、西洋文化に傾倒し、蘭学を取り入れたり西洋式の軍隊訓練を取り入れたりと、洗蔵の考えとは相容れないものがありました。

尊皇派の活躍をうとましく思っていた長溥は、尊皇派の藩士達を幽閉したり、都合のいいときだけ、人望の篤い洗蔵を利用したりして翻弄した挙げ句、最後には、洗蔵達を斬首の刑に処したのです。親類ということで投獄されていた、洗蔵の従兄弟である潔は、壁1枚隔てた向こう側から、洗蔵の処刑の様子を聞いていました。

“神の章”は、舞台を北海道に移し、潔の生き様を描いています。時を経て、子どもの頃から年長の従兄弟である洗蔵に憧れていた月形潔は、北海道へ行く船に乗っていました。政府の役人として北海道の地に大きな集治監(監獄)を建設するためです。これが、潔の北の大地での苦難の日々の始まりでした。

監獄をどこに建設するかを探すのも、北海道の自然に慣れていない潔達にとってはひと苦労です。森で出会ったアイヌと日本人とのハーフであるレコンテという青年やその祖母の助言を聞いたものの、アイヌの考えでは、木を伐採することも自然に反することでした。それでも、アイヌの人達の話も真摯な姿勢で聞き、真っ直ぐな心の潔は、頑ななレコンテからも好意を持たれます。

囚人達を獄舎の建設工事に働かせ、また、囚人も看守達も同じ施設で暮らすからには衝突は避けられず、毎日のように脱走者が出る始末でした。凍てつく寒さの中、問題の起こらない日はありません。囚人達も看守達も身体が弱っていく中、典獄(監獄の長)としての任務に邁進する潔。

かつては投獄されたこともある自分が、政府の手先となって監獄を作っていることを情けなく思う潔でしたが、遠く福岡からついてきた妻は、潔の仕事を認め、よけいな口ははさまず自分にできることを探して、いつも穏やかに潔を支えます。
 

著者
葉室 麟
出版日
2015-08-07


洗蔵も潔も実在の人物です。潔達が作った監獄には、何度捕まっても脱走を繰り返したことで有名な“五寸釘虎吉”が囚人として投獄され、剣術指南として新撰組副長の永倉新八が勤めていました。リアルな歴史の読み物としても、興味深く読むことができます。

潔が少年だった頃に洗蔵が言った「わしら月形家の者は夜明けと共に昇る陽を先導する月でなければならん。」という言葉が響きます。

数えきれないほど多くの先達の働きが土台にあって、現在、私達が生かされていることを感じる、重厚な作品です。

遺言に隠された妻の本当の思いが胸を打つ!

故郷を遠く離れた京都で、病のためにひっそりと亡くなった篠。

実家の庭にある椿の散り際を見に行ってほしいという、亡き妻、篠の遺言を果たすために、もう帰る事はないと思っていた故郷に帰ってきた新兵衛。藩の不正を糾弾したことがもとで藩を追われて以来の帰郷でした。篠の妹である里美の夫は切腹して亡くなり、その息子 藤吾は父親の分も出世しようとひたむきに頑張っています。藤吾は、側用人である采女(うねめ)のようなクールで仕事ができる男に憧れていましたが、突然現れた伯父の新兵衛の存在が、自分の出世の足を引っ張りかねないと心配になります。
 

著者
葉室 麟
出版日
2014-12-25


新兵衛は、篠が自分と結婚する前に自分の友である采女と結婚する約束があったことを、篠が亡くなった今でも気にしています。新兵衛、采女、藤吾の父親の源之進、藤吾の許嫁の父親である三右衛門、この4人は、若い頃同じ道場に通った仲間であり、道場の四天王とも呼ばれるほどの腕前でした。そして4人を待ち受けていた運命は、それぞれに厳しいものでした。

朗らかな新兵衛とは対照的に、若い頃から優秀でありながら自分を出すことが苦手だった采女。同じ女性を愛した2人は、藩に昔から存在していた疑惑のベールをはがしていくのです。人生は思うようにいかないことの連続だと実感しながらも、夫婦の愛、友情、家族の情愛に心を打たれ、読んでいて胸が熱くなるポイント満載のストーリーです。若々しい藤吾の成長が作品に爽やかさを添えています。

自分は裏切り者なのか?知るのが怖い真相を探る男

37歳という若さで藩の執政に就いた桐谷主水(もんど)。下級武士の家に生まれ、早くに両親を亡くして孤独に生きてきた主水は、長年の苦労が実ったその日、晴れ晴れとした気持ちで城の階段を昇りました。ところが、他の年かさの執政職の面々は誰ひとりとして主水の出世を祝ってくれないばかりか、冷たい視線を送ってくるだけです。

家に帰ると、17歳も年の差がある若き妻・由布も、朝とは打って変わって沈んだ表情をしています。そもそも主水と由布との結婚には、悲しい経緯がありました。それでもお互いに思いやり、ようやくこの頃は夫婦らしく心が通うようになったと感じていた矢先にふたりを深く悩ませることが起きたのです。
 

著者
葉室 麟
出版日
2016-04-15


藩に流れるいやな空気は、主水への疑いの目を増やしていきます。真相を明らかにするために自ら動き始めた主水は、自分が巻き込まれている一連の出来事が、少年時代のある事件からつながっていたことを知るのです。主水の監視役として行動を共にせざるを得なくなった与十郎の正体は?自分の周りには敵しかいないと孤独感に苛まれる主水に救いの道は開かれるのでしょうか?

ミステリーの要素も絡んでいるので、のめり込んで読んでしまいます。権力を持った者の周りがイエスマンしかいない状況の悲劇。自分の利益にとらわれることなく公平な目でものを見る主水のような人間はどんな時代でも必要だと思わされます。主水の生き様には、『散り椿』に登場した采女と通じる潔さがあるのです。

異色な2人の正義漢が大活躍!故郷の藩の行く末は?

剣術の腕前は一流ながら弟子もおらず、自身の道場は閑古鳥の鳴く始末。月に数回の出稽古で生計を立てている弥市。一方、武士の身を捨てて飛脚問屋の主人となった喜平次。久しぶりに会ってもお互いに憎まれ口をたたき合うこのふたりは、16年前に共に藩の不正を追及して脱藩し、江戸に流れてきた過去を持っていました。

故郷とは縁を切ったはずのふたりでしたが、行方不明になった夫を捜すために江戸へ出てきた萩乃の警護を頼まれたことから、運命の歯車は再びふたりを故郷の藩の政争へと巻き込んでいくのです。
 

著者
葉室 麟
出版日
2015-06-10


萩乃は、16年前弥市と喜平次を利用して裏切った勘定奉行の娘でしたが、まだ少女だった萩乃の可憐な美しさにふたりは惹かれていました。久しぶりに会った萩乃は大人の女性になり、美しさに磨きをかけています。人妻である萩乃に心を奪われながらもお互いにそれを否定するふたりと、無意識に思わせぶりな態度でふたりを振り回してしまう萩乃。そんな3人を取り巻く人間模様が滑稽で、ユーモラスに描かれています。(萩乃のような女の子、今でもいるよなあ)と思ってしまいます。

萩乃の夫が行方不明となった背景には、未だ故郷の藩に渦巻く不正がありました。弥市、喜平次はそれぞれの持ち味を生かして悪事に立ち向かっていきます。妻とふたりの子どもがいて安定した家庭を築いている喜平次と、思いがけず見合いの話が転がり込んでくる弥市。ふたりの萩乃への思いはどうなるのでしょう。

悲哀に満ちた人間を軽いタッチで描きながらも、藩の不正を糺していくシーンは臨場感があり、読み応えがあります。弥市の見合い相手の女性がこの作品にいっそうの温かみを与えています。

武士の真っ直ぐな生き様に心揺さぶられる

豊後国(現在の大分県)羽根藩。主人公、檀野庄三郎(だんのしょうざぶろう)は、ある出来事をきっかけに、向山村に幽閉されている藩士、戸田秋谷(とだしゅうこく)の見張り役を申しつけられます。秋谷は過去に犯した罪によりこれより3年後切腹することが決まっていました。それまでに家譜(家系図)を書き上げるよう命じられていたのですが、切腹を恐れ逃げ出さないように見張り役をつけられたのでした。

しかし、庄三郎は秋谷とともに過ごしていく中で、秋谷が無実であることを確信します。なんとか秋谷の切腹を回避できないか試みる庄三郎ですが、黒幕の力によりかないません。秋谷は切腹を免れることができるのでしょうか。

著者
葉室 麟
出版日
2013-11-08


とにかく秋谷が真っ直ぐでかっこいいんです。自分で信じたものを貫く生き様は、いつの時代も忘れてはいけない大和魂を思わせます。切腹されることが分かっている人生。死が刻一刻と迫る中でも筋の通った生き方は美しく、庄三郎も感化されます。

秋谷は、かつての藩主の側室と不義の内通をし、それを目撃した小姓を殺害した罪に問われました。そしてその10年後切腹するよう命じられたのです。しかし、庄三郎は秋谷の人柄を見て、秋谷は無実ではないかと疑い始めます。秋谷の切腹を回避しようと試行錯誤する中で、秋谷が有罪とされた事件には裏があることに気づくのです。奇しくもその事件の鍵は、秋谷が任されている家譜。ほのかなミステリー要素が、本作をひと味違った時代小説にしているのです。

登場人物がみんな人間らしく、優しさ、強さ、憎悪、嫉妬などさまざまな感情を見ることが出来ます。秋谷の息子郁太郎やその友人源吉は子供ながらにいい子たち。秋谷の幼なじみお由の方と、お美代の方の物語も必見です。

風景、心情など丁寧に描かれていてとても読みやすく時代小説になれない方も入り込みやすいでしょう。ぜひ武士の熱い心に触れてみてはいかがでしょうか。

葉室麟の6作品をご紹介しました。自分に定められた道の上をしっかりと歩いて行く人間の生き方に感動させられる作品を楽しんで下さい。