マスコットと呼ばれるペットのような生物が存在する世界で、中学生の少女ビュティに飼われている、マスコットの首領パッチ。この首領パッチを中心にくり広げられる、マスコットと飼い主たちの日常を描いています。
未確認生物のマスコットと呼ばれる、ペットのような生き物がいる世界。主人公でマスコットの首領パッチは、飼い主である少女ビュティのもとで自由奔放にふわりとハジけた日常を送っていました。
本作は、『ボボボーボ・ボーボボ』のキャラクターたちが違う世界で過ごす日常を描いた公式スピンオフ作品となっています。原作に比べるとツッコミのキレが柔和で「ふわり」としていますが、コロコロと話が変わるテンポの良さや、くだらないのに考えさせられる世界観などは、変わらない面白さがあります。
争いのない世界で、原作キャラたちが平和にのんびり過ごしている姿が魅力的な本作について、ネタバレも含め紹介していきます。
- 著者
- 澤井 啓夫
- 出版日
- 2012-11-02
本作の最大の魅力は、やはり原作キャラの、原作とは違う一面が見られるところ。違う一面と言っても、原作にある不条理ギャグはそのままに、それが平和な現代の日常という形で再度出ています。
原作ファンからすれば、まるっきり違うスピンオフというのもありですが、こういった原作の良さを引き継いでいてくれる作品というのも嬉しいものです。
キャラクターの性格も、平和な世に合わせて柔和されていますが、基本的には原作のとおり。首領パッチは、はちゃめちゃにハジけ、ビュティは首領パッチの行いにツッコミ、ヘッポコ丸は相変わらずビュティが好き……。
ただ、破天荒に関しては、原作とは少々違った性格をしているようです。破天荒は原作では首領パッチを慕い、首領パッチ率いる「ハジケ組」の一員でしたが、『ふわり!どんぱっち』では、首領パッチとの距離の詰め方に困っているよう。
マスコット専門のエステティシャンをやっているところを見ると、首領パッチを原作どおり好きになる要素はありそうですし、首領パッチと2人きりで話すシーンもあるので、時間が経てば原作ほどとはいかなくても、普通に好きになるかもしれません。
『ふわり!どんぱっち』では、原作とは違う様子を見せた破天荒。しかし、本作の続編的立ち位置となる『ほんのり!どんぱっち』では、このふわりの破天荒は消え、原作の破天荒が登場するように。
『ほんのり!どんぱっち』は一応続編という位置付けですが、世界としては、本作とは少し違う、多少被っている部分もあるパラレルワールドという立ち位置なので、こういう違いが生まれたのかもしれませんが、それを考えるとなおさら本作の首領パッチと破天荒の関係から目が離せません。
本作は原作どおりのギャグ調で進んでいくため、何も考えずパラパラと読み進められるように思えますが、時折見せる首領パッチの何かを考えている表情や、ビュティに対して気遣わしげなところを見せたりするなど、首領パッチがただはちゃめちゃな行いをしているとは思えない行動もしばしば登場。
ビュティやヘッポコ丸、破天荒が『ボボボーボ・ボーボボ』の彼らと別人であることは見ていればわかりますが、首領パッチに関しては、まったくの別キャラクターだと言い切れないような言動があるのです。
また、ビュティが頑なに首領パッチを学校に入れたがらなかったり、学区外に保護者抜きで行くことが禁止されていたりと、この世界では「学校」がずいぶんと高い力を持っていることがうかがえます。
表向きは平和そうにふわりふわりとしていますが、本当にこの世界がただ平和なだけなのか、話が進むごとに考えさせられてしまいます。
首領パッチは常にふざけていますが、そんな彼が稀に見せる気遣いとは思わせない気遣いから、彼が本当はきちんと考えて行動できる存在であることが示されているのです。このことから、首領パッチはどこか見守り役のような、ふざけることでビュティたちを楽しませているような気さえしてきます。
ただ楽しくギャグ漫画として読むのも楽しいですが、首領パッチの言葉や行動の節々に見られる、何かを考えているような言動について考えてみるのも楽しそうです。
本作の続編でありパラレルワールドでもある『ほんのり!どんぱっち』では、本作の世界観の答えが示されているような描写があります。
「ふわり」と「ほんのり」は同じであり違う世界なので、そこでの話が本作に関係するかは微妙なところですが、それを踏まえてみると、首領パッチのビュティに対する態度に納得できる部分も。本作の世界が原作からどんな影響を受けて生まれたものなのか、気になります。
未確認生物「マスコット」の首領パッチと、子どものころから一緒に暮らすビュティ。飼い主として首領パッチの面倒を見ていますが、彼の行動に常に振り回されっぱなし。しかし、首領パッチの行動にいろいろと不満はあるものの、なんだかんだ首領パッチの心配をし受け入れるなど、2人の仲はなかなか良好なようです。
本作の世界観を示した1話はもちろん見所ですが、1巻では首領パッチがヘッポコ丸のビュティへの恋を積極的に応援しているのも見所の一つです。
- 著者
- 澤井 啓夫
- 出版日
- 2012-11-02
最初からビュティへの想いを隠していないヘッポコ丸ですが、残念ながらそれに気づいていないのは本人だけ。当然、首領パッチもその恋心に気づいていて、何かとビュティの名を盾にヘッポコ丸を呼び出したて、好き勝手しています。
ただ、ヘッポコ丸の恋を応援しているのは本心のようで、ビュティに男の影がちらつけばそれをヘッポコ丸にも伝えますし、なんだかんだ2人が一緒にいられるよう仲介役になることも。
もちろん、自分中心な行動をとることも多いですが、友人のヘッポコ丸と飼い主のビュティがより仲良くなれるよう取り繕うあたり、彼の面倒見の良さが見て取れます。
また、1巻で注目したいのは、ビュティに迷惑かけてばかりで怒られてばかりの首領パッチが、なんだかんだビュティを助けるところ。となり町のお祭りに行った際、となり町の正式マスコットがビュティにまとわりついて離れないという出来事が。
最初は、困惑し助けを求めるビュティと目を合わせなかった首領パッチですが、彼女が後ろを向いたところで、すぐにマスコットを引き剥がしのです。その手さばきの慣れた様子に、首領パッチがかっこよく見えてしまうほど。
他にもこのお祭りの話では首領パッチがビュティを大事に思っている素ぶりを見せる場面がり、見所となっています。
相変わらず首領パッチに振り回されながらも楽しい日々を過ごしていたビュティ。そんなビュティに初めての後輩ができます。その後輩は「ところ天の助」というマスコットを飼っていて、家も近いことから、ビュティや首領パッチとすぐに打ち解けるように。
2巻ではやはり天の助の登場が見所ですね。彼が近所の家のポストにところてんを詰めてまわり、首領パッチが彼を捕まえようと追いかけるという、あまりいい出会い方ではないものの、波長が合うのか悪友のような友人関係になるのです。
- 著者
- 澤井 啓夫
- 出版日
- 2013-07-04
天の助と首領パッチは互いを仲良くないと言いますが、息の合いようや思考回路が同系統ということから、はたから見れば非常に仲良しに見えるのがいいところ。2人の絡みは原作を彷彿とさせて、読んでいて楽しくなります。
また、2巻では他にも注目したいところが。ビュティと、天の助の飼い主である少女ユキが出会うより前、偶然ユキと首領パッチが知り合うのですが、ユキが首領パッチを「珍しいマスコット」だと言った際、首領パッチはどこか考えるような素ぶりを見せるのです。
「…まぁ……オレがマスコットねぇ」(『ふわり!どんぱっち』2巻より引用)
このマスコットという未知の生物が受け入れられている世界で、それでも「異質」という立ち位置にいる首領パッチ。「マスコット」自体は珍しくなくても、首領パッチのような種類は非常に珍しく、首領パッチとそれ以外のマスコットには何か違いがあることがうかがえます。
首領パッチはその後マスコットではないのか問われた際、はぐらかすのですが、このことから、彼は「マスコット」として登場していたわけではない、原作の首領パッチと同一、もしくは何かしらの情報を持っていることが推察されます。
また、首領パッチとの距離を掴めきれていない、マスコット専用エステティシャン・破天荒に、特にふざけることもせず自分から絡みにいくなど、2巻では何かと原作を想像させる場面が多くなっています。
ビュティの元々の友だちはもちろん、後輩ユキの友だちや、首領パッチの人間の友だちレムなど、ビュティの周りはどんどん賑やかになっていきます。首領パッチのことを1番よく理解しているのはビュティですが、その交友関係や彼のポテンシャルなどは、まだまだ知らないことも多いようです。
3巻では原作の主人公ボーボボの兄・ベーベベが登場。今作では破天荒も働くマスコット専用エステ2号店の店長をやっていて、首領パッチのことが好きなビュティの友だちのおじさんというポジション。
- 著者
- 澤井 啓夫
- 出版日
- 2014-06-04
首領パッチは不意打ちのように始められたマッサージになんだかんだ身を任せていたものの、ベーベベ自体のことが嫌なのか、文句と悪口をぶつけるとすぐにその場から立ち去っていきました。
立ち去る際、困ったような表情を首領パッチは浮かべるのですが、これは原作の世界でビュティたちに酷い行いをしたベーベベと別人と思いつつ、割り切れなかった首領パッチの心情を表しているように感じられる場面です。
もちろん、自分のためを思って連れてきてくれたビュティの友人に対し、多少の申し訳なさを感じている可能性も否めませんが、これまで自分勝手に振舞ってきた首領パッチが突然そう思ったと考えるより、やはり彼が原作の世界を知っていると考えたほうがしっくりくるような気もします。
また、徐々に首領パッチが気になりはじめ、ついには好かれようと観察までした破天荒と首領パッチの話もあるのですが、その際、首領パッチはわざとらしく、縞々のマフラーを破天荒の前で着けて落としてみせるのです。
色合いは違いますが、そのマフラーは、原作で破天荒がつけていたものと非常によく似ています。そのうえ、そのマフラーが似合うと破天荒に言うのです。それが自然と出た言葉か、原作世界のことを思い出して言ったのかはわかりませんが、この首領パッチの思わせぶりな態度は見逃せないポイントですね。
ただの日常系ギャグ漫画かと思いきや、そこかしこに散らばる疑問……。原作を知っているとあれこれ考えずにはいられません。本作のパラレルワールドの世界であり、本作の続編でもある『ほんのり!どんぱっち』もあわせてチェックしたいところです。