動物と話せるという特技を持つ忍者の末裔・我妻弐郎(あづま じろう)。弐郎はある日「羅睺(ラゴウ)」という黒猫の姿をした物ノ怪に出会います。本作では、この出会いを機に物ノ怪を倒すための組織に入ることになった弐郎と、その仲間たちの活動を描いています。 さまざまな事件に巻き込まれる弐郎を中心にくり広げられる、今注目のバトル漫画です!
忍者の家系に生まれ、動物と話せるという特技を持つ少年、我妻弐郎。ある日弐郎は、森の中で傷つき倒れていた黒猫を拾い、助けます。しかし、その黒猫はただの猫ではなく、羅睺という名の物ノ怪でした。この羅睺との出会いによって、弐郎は今まで住んでいた世界とまるきり違う世界に、身を投じることとなったのです。
江戸時代より続く、忍者と物ノ怪の戦い。幕府お抱えの忍者は、政府に直属の公務員になります。一方で、個の力で人間と対立していた物ノ怪は、力を集結させて人間たちを消し去ろうとします。そんな世界で描かれる、人間と物ノ怪の戦い、さらには人間と物ノ怪の愛と友情が描かれている魅力的な作品です。
王道バトルものでありながら、その世界観、さらに物ノ怪と人間、それぞれの事情が丁寧に描かれることで、まったく飽きが来ずじっくり読み進められる「ブラックトーチ」。そんな本作について、ネタバレも含め紹介いたします。
- 著者
- タカキ ツヨシ
- 出版日
- 2017-04-04
忍者の末裔として基本的な身のこなしを叩き込まれ的た、我妻弐郎。弐郎は、動物と話せるという特技を持つ以外は、少々喧嘩っ早く短気なだけの、いたって普通の少年でした。ある日森で重傷を負った黒猫を助けますが、弐郎が助けた黒猫はただの動物ではなく、その強大な力ゆえ長い間封印されていた、羅睺という物ノ怪でした。
助けた羅睺が、同族であるはずの物ノ怪に襲われている場面に出くわした弐郎は、羅睺を見捨てることが出来ず、物ノ怪同士の戦いに乱入します。挙句、胸に穴を空けられてしまいます。羅睺は、自分のせいで瀕死となった弐郎を救うため、自分自身を弐郎と同化させ、弐郎の命を救ったのです。
- 著者
- タカキ ツヨシ
- 出版日
- 2017-04-04
1巻では、物ノ怪である羅睺と同化したことにより、「公儀隠密局」に、弐郎が捕らえられてしまいます。隠密局とは、封印された羅睺を監視すること、また物ノ怪全体を監視・排除することを役割としてきた政府お抱えの秘密組織です。そんな隠密局の見張りを出し抜いて、弐郎が実家へと向かう話が本巻の見所になります。
弐郎は、飼い犬の那智が亡くなってから、祖父の寿正(としまさ)とずっと2人で暮らしていました。彼にとっては、隠密局に身を置かれることは特に問題ではありませんでしたが、ずっと育ててきてくれた祖父に対して、最後にきちんと挨拶をしていないことが心残りだったのです。
喧嘩っ早く、後先考えない出たとこ勝負な性格の弐郎ですが、人間として通すべき筋や、本当に大切なものは見失いません。このことから、寿正や那智に大切に育てられてきたことがうかがえます。
隠密局の手回しにより、すでに失踪者として処理されることが決まった弐郎が、寿正にこの事態をどう説明していいか迷っていると、そのまま広い場所へと連れていかれます。
寿正は広場に着くなり、思い切り弐郎を殴り飛ばしました。実は彼は元隠密局の人間で、弐郎の身に起きたすべてを知っていたのです。寿正が本気で弐郎を殴るのは、元隠密局の人間として組織の辛さを知っており、そんな世界に弐郎を行かせたくないからでした。
厳しくスパルタのように思える寿正の行動は、すべて弐郎への愛情だったのです。しかし、弐郎だっていつまでも子どものままではありません。祖父の想いを汲み取り、そのうえで、羅睺とともに生きる覚悟を示すのです。
弐郎と寿正の別れ、そして人間と物ノ怪が対立する世界で、協力しあっていくことを決めるシーンが魅力の第1巻。
他にもこの世界がどういう世界なのかという詳しい説明がされていたり、今後弐郎とともに隠密局の新組織「黒い灯火(ブラックトーチ)」として活動する仲間、司場と一華との出会いが描かれた巻でもありますので、1巻はじっくりと読み進めたいですね。
「公儀隠密局」特務二課課長、司場涼介のもとに身を置くこととなった弐郎。課長の司場、課長補佐の宇佐美花(うさみ はな)、以前から二課に所属していた鬼子母神一華(きしもじん いちか)、そして新人の桐原零司を加えた新組織「黒い灯火(ブラックトーチ)」として動くことになりました。
そんな中、弐郎は司場の指示のもと、初対面の零司と殴り合いをすることに。新組織を設立するにあたり、隠密局の上層部より、弐郎が局員としてきちんと働けるのか、その有用性を示すよう指示があったのです。
「物ノ怪と同化した」という弐郎に対して、零司はもともと不信感を抱いていました。それをあからさまに表に出す様子に、弐郎もつっかかり一触即発の雰囲気だったため、2人は素直にそれに従いました。
- 著者
- タカキ ツヨシ
- 出版日
- 2017-08-04
互いに気絶するまで殴り合った2人はそれぞれの強さを認め、子どものような言い合いはするものの、仲間として活動するようになりました。弐郎は零司が気にくわないと言うよりは、手の早い性格のせいで喧嘩腰になっていたので、1度拳を交えたことによって冷静になれたようです。
弐郎と零司が和解をしたことで、「黒の灯火」はあらためて物ノ怪排除の組織として動き出しました。
2巻では、「黒い灯火」の初任務が描かれています。弐郎は羅睺と出会ってから何度か物ノ怪と戦っていますが、身体能力向上機能つきの隠密局の戦闘服を着用して正式に戦闘するのは、これが初めてになります。この初戦闘が、2巻の見所です。
主に書類作成などの事務処理を担当している花は拠点に残り、責任者である司場と、戦闘員である零司、一華、弐郎の4人が、かつて羅睺が封印されていた場所へとやって来ました。
司場と一華、零司と弐郎の2班に分かれ、零司と弐郎は室内で、羅睺の封印が解かれた当時の状況について、羅睺に尋ねます。羅睺の話を聞いていた零司と弐郎が情報をまとめていると、そこに羅睺を求める物ノ怪がやって来たのです。
物ノ怪は入り口に結界を張り、邪魔が入らないようにしていました。外にいた一華は、その強力な結界に慌てますが、司場は至って冷静な様子。彼は弐郎をこの場所に連れて来た時点で、羅睺の封印を解いた物ノ怪がやってくる可能性を考えていたのです。一見冴えない中年オヤジのようですが、なかなかなの食わせ者です。
外では一華たちが結界を解く準備をしており、結界の中では、今まで戦って来たどの物ノ怪よりも強い相手に、一進一退な攻防が続いていました。物ノ怪が有利なように見えた戦況ですが、結界が解かれると、羅睺を奪うのは無理だと判断したのか、物ノ怪はあっさりと引いていきました。
特殊服を着ていなければ、間違いなく瀕死の重傷を追っていた零司と弐郎。このことから羅睺を求める物ノ怪たちは、個々が非常に強い力を有していることがわかりました。
自分の過去の記憶を幻覚として見せ、その幻覚に打ち勝つことを目的とする妖術対抗訓練を受ける弐郎たち。一華と零司は難なくクリアするものの、弐郎は羅睺と同化したせいか、自分の過去の記憶ではなく羅睺の記憶と対峙することに。
この訓練のなかで、羅睺は過去の自分、封印された理由、そして自分を眠りから目覚めさせた物ノ怪の正体を知ることになります。過去を知った羅睺は、弐郎と一緒に在ることに迷いや戸惑いを見せます。しかし、すべてを受け入れてくれた弐郎の言葉に、自分自身の意志で弐郎との同化を望んだことを思い出し、無事訓練をクリアするできました。
- 著者
- タカキ ツヨシ
- 出版日
- 2017-12-04
弐郎たちが見てきたこと、羅睺が思い出したことを司場に伝えると、司場はそれを期待していたかのように、弐郎たちの話を整理します。物ノ怪と対抗するための練習として、この訓練を実施したのも事実でしょうが、司場としては「記憶を見せる」ことで、羅睺を狙う物ノ怪たちへの手がかりが入手できると踏んでいたのです。
初任務のことといい、今回の訓練といい、真の目的は言わずに弐郎たちの様子を窺っている司場を見ていると、だんだん司場への不信感が高まっていきます……。
3巻では、そんな司馬が弐郎たちから仕入れた情報を手土産に、同じ隠密局の組織であり花形部署でもある特務一課の課長に、物ノ怪が町中の人間を食い漁っている事件への協力を提案。「黒の灯火」として2回目の任務へと赴く様子が描かれています。
この任務で、羅睺が今までとは比べ物にならないほど強い力を発揮します。隠密局が物ノ怪を排除するのは、彼らが人間を食べてしまうからです。しかしなぜ彼らが人間を食べるのかといえば、人間の生命力が妖力を底上げする、たった1つの要素だから。
羅睺は、封印中に削られていった妖力が戻っただけでなく、封印が解けた当初よりも妖力が増していることに気付いたのです。つまり羅睺は弐郎のなかにいる間、ずっと弐郎の生命力を食い続けていたのです。彼を助けるために行った行為が、逆に命を蝕んでいたという事実に、大きなショックを受けます。
最初は、ただ助けられた恩を返すために弐郎を救い、救った手前死なれては困ると物ノ怪との戦いに手を貸していた羅睺ですが、いつの間にか「弐郎と一緒」に戦い、「弐郎と一緒」に過ごすことが当たり前になっていたのです。
羅睺は、自分が生命力を奪っているという事実を、弐郎に伝えようと決意します。しかしその時、彼の封印を解いた黒幕の物ノ怪、天鬼がついに姿を現します。圧倒的な力で弐郎をねじ伏せる、天鬼。彼は羅睺に、すぐに同化を解いてやる代わりに、自分に服従しろと伝えます。そうすれば、弐郎には手出しをしないと。
天鬼とともに行くか、弐郎とともに在り続けるか、羅睺は究極の選択を迫られます。
天鬼たちによって開始された、同化解除。弐郎は羅睺が離れないよう、尻尾を掴んで最後まで争いましたが、特務一課の応援と乱入により、一瞬のうちに羅睺は弐郎の体から引き抜かれてしまいました。
弐郎の生命力を吸い、強大な妖力が戻ってきていた羅睺が天鬼の手に落ちたのは、隠密局、ひいては人間たちにとって最悪な出来事でしかありません。しかし彼は、ただ天鬼たちに奪われたわけではありませんでした。
- 著者
- タカキ ツヨシ
- 出版日
- 2018-04-04
羅睺は、弐郎が尻尾を掴んでいたのをいいことに、尻尾にすべての力を集めそれを弐郎の中に残していったのです。それを知った天鬼は羅睺を殺そうと攻撃を仕掛けますが、彼を求め続けている別の物ノ怪によって、殺し損ねます。
この物ノ怪は、「黒の灯火」の初任務で弐郎たちを襲ってきた、咬牙(コウガ)というその物ノ怪。羅睺の力が弐郎のなかに取り残されたことを知っても、同じ物ノ怪だからと羅睺を庇います。咬牙の目的は羅睺の力を自身に取り込むことですが、力のない同志相手に分け隔てなく接するなど、意外と悪いやつではない様子です。
結局、天鬼は羅睺を生かし留めておくことにしたのですが、なんだかんだ彼自身はあまり焦っていないようで、羅睺もその態度に疑問を持ったのでした。
4巻では、宿敵ともいえる天鬼についてスポットを当てた話が多く掲載されています。彼が何を目指しているのかが明かされ、他の物ノ怪とは比べ物にならないほどの残虐さも描かれるのです。
また、天鬼側の話が見所なのはもちろんですが、羅睺に妖力だけ残された弐郎の話も見所となっています。羅睺という能力制御装置がいなくなり、その力だけが残った弐郎の処遇を、隠密局は決めかねていました。
隠密局の上層部や、弐郎を保護・捕獲した特務一課の課長の心配するとおり、弐郎は羅睺の力を制御することができなくなったのです。彼をどうにか力で押さえ込もうとした特務一課のメンバーはもちろんのこと、特務一課課長の要請により呼び出された祖父・寿正に対しても、攻撃を仕掛けてしまいました。
力は制御できなくても、暴れているときのことは覚えている弐郎。このままでは、いつか誰かを殺してしまうのではないかと、自身を責めます。弐郎は今まで落ち込む人を励ます立場にいることが多かったため、こうして精神的に打ちのめされているのは、非常に珍しいことです。初めて弐郎が弱い部分を見せたシーンかもしれません。
その後の寿正からの容赦ない一撃と、変わらず自分を想ってくれる暖かい言葉をもらった弐郎は、羅睺の力とうまく折り合いをつけるべく、物ノ怪のもとで修行をすることとなりました。
自分で物事を考えられる人物に見えていた弐郎ですが、まだ精神的に未熟であり、羅睺や寿正など、自分を支えてくれる存在が必要であることがわかります。羅睺との別れが、またひとつ弐郎を強く成長させてくれたのです。
人気の要素を詰め込んだ王道ものでありながらも丁寧にストーリーを進めているため、「あるある」の飽きが来ず、先の展開をワクワクして待つことができる本作。物ノ怪側も人間側も、若い衆も老人も、みんながかっこよくバトルをする「ブラックトーチ」。バトルものが好きな方にも、まだあまり読んだことがない方にとっても読みやすい、オススメの作品です。