傑作ハードボイルド・アクション・コメディ漫画『シティーハンター』!それを語るうえで欠かせない重要人物が、ヒロインの槇村香(まきむら かおり)です。今回は、知られているようでなかなか知られていない彼女についてご紹介しましょう。 香が登場する『シティーハンター』は、スマホアプリから無料で読むこともできますよ!
ハードボイルド・アクション・コメディ漫画の金字塔『シティーハンター』。1985年に「週刊少年ジャンプ」で連載された本作は、4度のアニメシリーズ化、4度の映画化など多くのメディアミックス作品となりました。
2019年にはフランス版実写映画と、アニメ版キャストおよびスタッフ再結集の新アニメ映画が放映されました。今までのキャストに加え、ゲスト声優で女優の飯豊まりえや、お笑いコンビ・チュートリアルの徳井義実が出演しました。
- 著者
- 北条 司
- 出版日
- 2003-12-15
そんな話題の作品『シティーハンター』本編の物語は、名うての掃除屋(スイーパー)、通称「シティーハンター」の冴羽獠(さえば りょう)が、深刻な悩みを抱えた数多の美女を愛銃コルト357マグナムで悪漢から華麗に守り抜くという、ボディガードもしくは何でも屋となって活躍するストーリーとなっています。
そして本作を語るうえで欠かせない人物が、ヒロイン・槇村香(まきむら かおり)。掃除屋「シティーハンター」とは、獠とパートナーである彼女の2人で1組のコンビ名なのです。
香は、1965年3月31日生まれ。初登場の時点では20歳を目前に控えた19歳でした。アニメの声優は伊倉一恵。それは続編、またスピンオフとされる『エンジェル・ハート』でも変わりませんでした。
彼女の戦闘力は獠におよびませんが、登場人物のメンタルケアから歯止め役、コメディリリーフまで勤める、実に多彩なキャラです。今回は、そんな彼女の実像に迫ってみたいと思います。
スマホアプリからは無料で読むこともできるので、そちらから懐かしのキャラに会いにいくのもおすすめですよ!
シティーハンターのストーリーをおさらいしたい方は<漫画『シティーハンター』を最終回まで本気でネタバレ考察!2019年映画化>がおすすめです。
今でこそ、シティーハンターとしてコンビを組む獠と香が強い絆で結ばれていることは、よく知られています。
ですが作品が始まる前、読み切りとして描かれた『シティーハンター -XYZ-』や同「-ダブルエッジ-」では、少し設定が異なりました。基本的な人物や物語の形式は同じなものの、香は単なる助手の女の子として設定されていました。
本編ではご承知のとおり、2人の関係性は異なります。「週刊少年ジャンプ」本誌での連載に移行するに当たって、ハードボイルドな人間関係を構築する狙いがあったようです。
物語の冒頭、獠の元相棒で香の義兄・槇村秀幸が凶弾に倒れたため、香を保護する形で2人の同居は始まりました。
が、実は彼らの初対面は、この時ではありません。後に明かされたところによると、2人は物語開始時点より数年前、香がまだ高校生だったころに出会っていたようです。獠と彼女がコンビとなったことは運命的な巡り合わせでもあったわけですね。
連載が進むと2人は友人以上、恋人未満な、歯痒くも微笑ましい関係となっていきます。その変化が楽しめるのも本作の醍醐味でしょう。
冴羽獠については<漫画『シティーハンター』冴羽りょう6の事実!名言や過去、愛車…かっこいい>の記事で紹介しています。気になる方はぜひご覧ください。
コメディリリーフを勤める香の代名詞といえばもちろん、100tハンマーです。
主に獠が依頼人の美女に対して不埒を働く時、伝家の宝刀よろしくどこからともなく取り出して、彼に天誅を加えるシーンは『シティーハンター』の名物にもなっています。
未遂や、香の早とちりで食らわせることもあり、そんな時には獠が不憫に思えますが、結局は普段のおこないが悪いから起こることなので自業自得。
ハンマーには100t以外にももっと軽い「1t」や「10t」、「無量大数t」、もしくは状況に応じてツッコミに相応しい文言の入ったものなど、多くのバリエーションが存在します。
ちなみに、このハンマー、1Lあたりの密度は165㎏なのだとか。これは、もっとも密度の高い金属であるオスミウムと比べて7.3倍もあり、地球上には存在し得ない代物です。
いつも軽々と香は獠を叩いていますが、シチュエーションによっては富士山の7合目から真っ逆さまに落ちたのと同じだけの威力が備わっているそう。香、おそるべし!
獠制裁用の装備としては、他に特大トゲ付き鉄球があったり、行動不能にさせるため布団で簀巻きにするなど、香は数々の手法を駆使。どんな風に獠を戒めるかも、見所の1つです。
次からの項目では、香と獠に関するおすすめエピソードを紹介!じれったい2人の関係にヤキモキしたり、ドキドキしたり……!?
獠が香を家族以上の存在として大切に想っていることは、もはや周知のとおりです。しかし、普段は微塵もそんな態度を見せず、彼女のことは弟分として扱っています。物語終盤になればその真意がはっきりしますが、それ以前にも2人がかなりいい雰囲気になったエピソードがありました。
それには香の親友・北原絵梨子が関わってきます。ファッションデザイナーの彼女は、ある事件を機にシティーハンターの活動を知りました。その事件の後、香の獠への気持ちに気付いて一計を案じます。
気持ちに素直になれないのなら、別人として理想の一時を過ごせばいい。そんな意図で、獠と香のデートを仕組みました。
絵梨子の見立てで、長髪のカツラや洋服を纏った香。普段とはまるで違う、セクシーな美女になりました。
そして2人は、盛り上がってキスする寸前までいくのですが……。
描写されない獠の心境を、いろいろと想像してしまうエピソードとなっています。作中屈指の名場面です!
ある日、家がめちゃくちゃになってしまい、結果的に2人で一緒に寝ることになってしまった香と獠。ベッドも壊れてしまって、2人一緒に1枚の毛布で眠ることになります。
誰がどう見ても、獠を意識している香。そんな彼女に気がないような発言ばかりしてしまう獠は、香から攻撃される始末。相変わらず、読者をヤキモキさせます。
- 著者
- 北条 司
- 出版日
- 2004-10-15
なかなかいい雰囲気にならないなか、話し続ける2人。話題は、獠の飛行機恐怖症についてになりました。最初はそれをからかっていた香でしたが、ふと彼の幼少時の飛行機事故が原因ではないかと思い至るのです。
彼のつらい過去に思いを馳せる香……そんななか、獠は知らないうちに眠りに落ちていたのでした。そして、香は彼の頭を自分の膝に乗っけて、優しく微笑むのです。普段は素直になれない彼女の、その本当の一面が垣間見える名シーンでした。
いつもは命をかけて戦う獠が、完全に安心仕切って香に体を預けている様子も、見ていて思わず胸キュンしてしまうポイントでしょう。
獠と香のじれったい関係が、話のなかでついに大きく動いたエピソードがあります。
獠の親友にして、アメリカ時代のパートナーだった男・ミック・エンジェルが登場した回です。彼は獠に並ぶ腕前で、現アメリカNo1スイーパーでもあります。スケベ心の方も獠並みなのが、残念ですが……。
ともあれ、そんなミックが、獠の暗殺を依頼されるのです。ターゲットを始末する前に、その恋人を狙う(口説く)のがミック流。彼は仕事として香へアプローチするのですが、段々本気になっていくのです。それを、獠が快く思うはずがありません。
彼はミックに釘を刺し、決着を付けてからあらためて、二重の意味で香をパートナーとして認めます。
おれの おまえへの…愛(あ)…だ…
(『シティーハンター』29巻より引用)
この台詞は「愛」の下字が半分が消されている表現がされています。肝心なところで噛んでいるということなのですが、獠の素の不器用さが出ているようで、微笑ましく思える名シーンです!
先述した出来事があってから、2人の関係が劇的に変わったかというと、そんなことはありませんでした。そこには、物語が最終盤であったためという事情があります。
しかしその後、宿敵ユニオンテオーペとの決戦では、沈む寸前の船上で、獠と香が生存を誓ってガラス越しにキスするシーンが描かれました。
結局、2人の関係に踏み込んだ描写はされません。ですが、その関係を仄めかすヒントのようなものが、劇中にはちりばめられています。
たとえば、扉絵などで香がブラインド越しの光を、はだけた姿で浴びるセクシーなカット。劇中では何度か2人の部屋が出てきていますが、ブラインドがあるのは獠の部屋だけなのです。あられもない姿の香がブラインドの影に浮かび上がっているということは……?考察のしがいのあるカットですよね!
2001年、『シティーハンター』完結から10年を経て『エンジェル・ハート』の連載が始められました。あの懐かしい顔ぶれと再会出来ると旧来のファンは喜んだものですが、蓋を開けてみれば、そこには驚きの内容が。
なんと、主要人物の香がいきなり死亡するという衝撃の幕開けが描かれていたのです。
パラレルワールドの物語とはいえ、あまりにもショッキングな出来事でした。しかし、こうなった経緯にはちゃんと理由があるのです。
- 著者
- 北条 司
- 出版日
- 2012-03-19
本編の物語において結婚こそしなかったものの、2人の間にはこれ以上ないほど深い絆が生まれていました。作品を1番近くで見てきた担当編集者が語るに、『エンジェル・ハート』でより強い絆を描くには、香が亡くなった悲しみと喪失感で表現する以外なかったのでは、とのこと。
悲しながらも、ストーリーを展開するうえで外せない要素だったのですね。
ちなみに、『エンジェル・ハート』もスマホアプリで無料で読むことができます!
冒頭で、感情のない人間兵器だった主人公・香瑩(シャンイン)は自殺しようと投身し、偶然にも事故で亡くなっていた香の心臓を移植されることで生き返ります。
その心臓の影響で、彼女は徐々に人間的な感情を獲得していき、獠や仲間とともに人間らしく生きていくように成長していくのです。彼女は、獠を爸爸(パーパ。中国語で父)、香を媽媽(マーマ。同じく母)と呼びます。子供のいない2人にとって、彼女は娘も同然でした。
当初、香瑩は心臓から自身に語りかけてくる香に導かれるままで、まさに子供だったわけですが、それが終盤に至ると大人へと成長し、香と重なって見えるような描かれ方になていきます。
そして、あるエピソードでは、どこかで彼女と香の目が同じになる瞬間があるのだとか。
- 著者
- 北条司
- 出版日
- 2017-07-20
どういうことかというと、香と香瑩の目が、北条司によって同じ描かれ方をされている時があるというのです。北条の絵は、ある程度女性キャラが似通ってしまうこともありますが、担当編集者によると「気持ちで描き分けている」とのこと。
そして、あるエピソードで2人の目の描き方が同じになっている時があり、唯一担当編集者だけがそのことに気づきました。それを受けて北条は、「わかっちゃった?」と返したそうです。
香と同じ目をするようになる、香瑩。それは、つまり子供時代を脱して、彼女が香と同じ大人に成長したことを意味しているのでしょう。
それに気づいた担当編集者の、作品に対する観察眼はさすがですね。
いかがでしたか?ともすれば粗雑なヒロインとして見られがちな香ですが、『シティーハンター』の世界を語るうえでは、なくてはならないキャラなのです。