美しく儚い世界感を描く漫画家 緑川ゆき
緑川ゆきは熊本県出身の少女漫画家で、1998年にララDX『珈琲ひらり』でデビューしました。少女マンガですが恋愛を全面に出した作品は少なく、繊細なタッチと印象的なモノローグが特徴です。
また、流行に流されない素朴ながらも魅力的な絵柄も、幅広いファンに支持される理由の一つでしょう。気持ちを隠したような微笑や憂いを含んだ横顔など、画面から漂う色気にはっとさせられることも多いです。
そんな作風と魅力的なキャラクターの心情や関係性を描いた作品はどれも男女問わず夢中になれるもの。以前は絶版のため入手困難な書籍もありましたが、その後文庫化や増刷・電子化されたため手に取りやすくなりました。ぜひこの機会にお気に入りの作品を見つけてみませんか?
アニメ化もされた、人と妖の優しい物語『夏目友人帳』
主人公の高校生、夏目貴志は天涯孤独で、妖怪が見えることから気味が悪いと親戚をたらい回しにされます。その後亡き祖母縁の地へ引き取られ、名を記すことで妖を縛る友人帳で彼女が妖と交流していたことを知ります。
友人帳を巡り夏目の元を訪れる妖たちとのトラブルや、心通じる穏やかな瞬間、ようやく築け始めた人間関係についてなど、一話完結や三話前後の集中連載といった形で多角的に、丁寧に描かれています。
そんなそれぞれの気持ちで胸がいっぱいになるようなストーリーですが、用心棒として夏目の傍にいる「ニャンコ先生」と呼ばれる斑の招き猫の形をした妖がコミカルで、気軽に読める良いアクセントになっています。
当初読み切りから始まったこの作品も、いまや20巻を超える代表作となりました。どこか懐かしい風景の中で繋がる優しい物語、読後に残る愛しさと物哀しさをぜひ味わってみてください。
夏目友人帳の原点とも言える世界観。人と妖の切ないラブストーリー『蛍火の杜へ』
夏休みに祖父の家を訪れた少女・竹川蛍が迷い込んだのは、妖怪たちの住むと言われる「山神の森」。森の中で疲れて泣き始めた彼女に声をかけたのは、狐面を被ったギンという青年でした。毎年夏の逢瀬を重ねる内に二人は心が通じ合いますが、彼には人間に触れると消えてしまう妖術がかかっており、触れ合うことが出来ません。
短編集に収められた読み切りのため、緑川作品の入門にはうってつけの作品です。狐面のギンとコロコロ表情が変わる蛍。毎年成長する姿を見せる蛍と、出逢った頃からほとんど姿の変わらないギン。住む世界の違いをさりげなく表現する二人の対比が絶妙です。お互いに触れたいと思う心と、絶対に触れないでという願いが、どちらもヒシヒシと伝わってきます。
二人を優しく見守ってくれる妖怪たちの中で、二人の恋の切なさが際立ちます。胸に残るラストは必見です!