『ドラえもん』に欠かすことが出来ない準レギュラー、野比家を代表(?)するのび太のママ。何かとのび太を叱る、怖いお母さんイメージがありますが、彼女には知られざる一面があるのです。
秘密道具で悩みを解決する「すこしふしぎ」が魅力の『ドラえもん』。そんなドラえもんの日常を支える名脇役と言えば、野比家の頼れる主婦のび太のママです。
もちろん、のび太のママというのが本名というわけではありません。彼女の名前は野比玉子と言います。年齢は38歳で、配偶者ののび太のパパことのび助が36歳なので、姉さん女房ということになります。
- 著者
- 藤子・F・不二雄
- 出版日
- 1974-07-31
よくのび太やドラえもんに雷を落としていることから、教育熱心で厳しい性格と思われがち。実際にそういった場面が多いことは確かですが、それはあくまで我が子を想うがゆえの裏返しです。ママの性格は連載当時の時代背景を反映して、少しずつ今の形に変化していきました。
実家の家族構成は両親と弟の4人。弟の名前は玉夫と言います。後述しますが、結婚前のママは今では想像出来ないような女性でした。
現在放送中のテレビアニメ版の声優は、セーラームーン役で知られる三石琴乃です。ママ役としては3代目に当たります。『ドラえもん』はトヨタの実写CMでも話題になりましたが、実写ママは登場していません。実質的に実写といえる『ドラえもん のび太とアニマル惑星』舞台版では、澤田育子が演じました。
ママと切っても切り離せないのが、のび太にお説教するシーンと言っても過言ではないでしょう。劇中ではやや過剰気味に描かれはしますが、昨今何かと問題となるドメスティック・バイオレンスほど手酷くはありません。
叱る内容も勉強宿題、お遣い掃除などの家事手伝い、道草の注意に終始し、一般家庭でもよく見られるごくごく普通の指摘です。たまに虫の居所が悪いママから、理不尽な雷が天災のごとく降り注ぐこともありますが。
問題なのはその回数です。のび太は非常に高い頻度でママからガミガミと言われています。実際に数えてみると明かになりますが、その数なんと『ドラえもん』全45巻、全1345話中実に327回ものび太はママに叱られています。実に4話に1回の割合です。
さすがに多すぎるとは思いますが、ほとんどの場合でのび太が悪いので、仕方ないのかも知れません。
ママは動物嫌いということでも有名です。時折『ドラえもん』のエピソードで、しずかちゃん、スネ夫、ジャイアンがペット自慢をしてのび太が羨ましがることがありますが、それもこれもママの動物嫌いに原因があります。
野比家ではママが動物を苦手としている、という一点だけでペット禁止の家庭なのです。
犬猫に限らず、ペットと名の付くものは全て禁止とされるため、ママの動物嫌いは徹底されています。ドラえもんの道具関連でこっそり飼っていた恐竜から、無生物の台風に至るまで一律アウト。後のことなどお構いなしに、見つけ次第ママは目の色を変えて追い出そうとするのです。
ここまで嫌い抜いていると、逆に感心してしまいます。
- 著者
- 藤子・F・不二雄
- 出版日
- 1976-04-25
意外と言うか、ある意味それらしいというか、ママの酒癖の悪さは尋常ではありません。
昭和のお父さんらしく酒好きなパパに対して、ママは普段好んでアルコールを口にすることはありません。晩酌でよく出るビールも嫌いな様子。ただ、高級ウィスキーなどは嗜むので好みが煩いのかも知れません。
それだけならばよいのですが、一度アルコールを口にしたが最後、うわばみもかくやという飲みっぷりを見せて大酒乱に変身。ひたすら飲み続けて狂態を演じ始めます。これは水を酒に変える秘密道具「ようろうおつまみ」(『ドラえもん』10巻)の話で語られました。
滅多に見られる光景ではありませんが、普段の教育ママとはかけ離れた暴れっぷりは一見の価値があるでしょう。
冴えない女子がメガネを外すと、見違えるような美人になる――というような展開は、今や手垢が付いて逆に見られなくなった表現です。のび太もそうですが、ママがメガネを外すと、その目は数字の3のように描写されます。これもまたよくある漫画的表現。
しかし、それはあくまで現代に限った話です。結婚前、ママが若かりしころはまったく違いました。ママの素顔は、しずかちゃんもびっくりな美人だったのです。昔のママはとてもかわいい女性でした。加齢による変化では説明出来ないくらいで、まったくの別人と言われた方が納得するほどだったのです。
ママの旧姓は片岡玉子です。最初に書いたようにパパとママは2歳差で、2人にはまったく接点がありませんでした。これこそまさに人に歴史ありといえるのですが、パパとママの出会いにはちょっとしたエピソードがあるのです。
パパは今でこそ、うだつの上がらないサラリーマンです。しかしかつては、画家になるという夢を抱いた青年でした。コンクールで賞も獲ったことのある腕前で、後に有名となる本物の画家に師事していたこともあります。
当時、パパは父(のび太の祖父)から反対されて美術学校への進路は閉ざされていましたが、幸運にも後援者となってくれる富豪と巡り会うことが出来ました。パパは画家への道を掴みかけていたのです。
しかし結局は、他人の助力で夢の実現をすることに疑問を持ち、パトロンの申し出を断りました。
自らの道を決めたその帰り道、パパは偶然すれ違ったママとぶつかって、2人は知り合ったのです。
この出会いこそが運命でした。平凡な野比家とは思えないドラマチックなエピソードです。
最初に連載当時の時代を反映してママの性格が変わった、と書きました。実は連載初期のママは、我々のよく知るママと全然違ったのです。
1人息子ののび太を猫可愛がりし、逆マザコンとも言うべき有様でした。そこに教育ママの片鱗はどこにもありません。連載当時の人物紹介では、絶対にのび太を怒らない、などとされていたのです。
とても信じられませんよね。
いかがでしたか? 『ドラえもん』はサブキャラクターも魅力溢れる作品なのです。