『liar』(ライアー)は、小説投稿サイト「エブリスタ」で1位を獲得した、大人気小説のコミカライズ版です。原作者もぁらすと作画の袴田十莉が描く本作の最大の特徴は、ザッピング(視点変更)ストーリー。 ひとつの出来事をふたりの主人公それぞれの視点から読むことで、彼らの心情と物語をより深く知ることができます。ちなみにスマホアプリで無料で読むこともできるので、気になる方はそちらからどうぞ。
本作はプライドの高い上司・市川一哉(通称、イチ)と、彼の部下・成田美沙緒のこじれた大人の恋愛漫画です。
人前ではニコニコしているものの、美沙緒の前では悪態をつく市川。美沙緒も負けじと強気な態度で応戦します。
相性が悪そうな彼らの共通点は「外面がいいこと」。興味関心のない人からの言葉は聞き流し、気になる人にはあからさまに取り繕う美沙緒。市川も同じようで、研修のときとは打って変わって、彼女にはツンケンした態度をとります。
しかし上司と部下として、食事を共にしたり出張中のやりとりを繰り返すことで、美沙緒は市川のことを意識してきます。しかし市川には彼女がいることが判明して……!?
そこから始まる「身体の関係」。市川の思わせぶりな態度に、美沙緒は振り回されることになります。仕事はできても素直になれない市川と、どんどん自信を失っていき疑心暗鬼になる美沙緒。そんな彼らの姿が、両者の視点から描かれます。両者の気持ちを知るのは読者のみ。そのもどかしさにハマってしまうでしょう。
プライドが邪魔をする、大人の恋愛模様をリアルに描いた本作。ダメ男と分かりつつも、「こんな男にハマってしまう……」そんな経験がある人もいるのではないでしょうか。
そんなもどかしい『liar』の作品の魅力を解説します。すでに作品を読みたい、と思った方は下のボタンからスマホアプリに移動してみてください。
本作の主要な人物は3人です。それぞれ
成田美沙緒
東洋コーポレーションに勤める新社会人で、市川の後輩。気を遣うことができ、物怖じしない態度で人間関係も仕事も要領良くこなせるタイプです。しかし恋愛面では、市川には振り回されるなど、泥沼にハマってしまう弱さもあり……ついには彼女のいる市川と関係を持ってしまいます。
市川一哉
イケメンで成績優秀な東洋コーポレーションの営業マン。過去に付き合った女性に振り回されたことで、少し歪んだ女性像を持っています。自分の予想外の反応をする美沙緒に惹かれていきますが、子供っぽい性格もあり、なかなか素直なアプローチができません。
美沙緒の気持ちに気づくことが出来ない不器用な面もあり、肝心なことを素直に表現出来ないダメな部分が、女性の母性をくすぐります。
田所裕子
東洋コーポレーションの取引先である百菱商事に勤める、市川の恋人。弱さとしたたかさを武器にして、市川をどうにかして繋ぎとめようとします。
公共の場で泣いたり、自殺未遂をしたり、市川の父親を巻き込んで美沙緒を異動させたりと、市川と美沙緒の関係を阻むキャラクターです。しかし彼女にも不幸な過去があり……憎むことができないキャラクターです。
様々なバックグラウンドを持った大人たちの、複雑な恋愛模様が描かれている本作。
話の大筋は、好きな女性に真っ直ぐなアプローチができない市川と、彼女がいるとわかっていながら市川に惹かれてしまう美沙緒の物語です。それを「美沙緒視点」と「市川視点」で描くことによって、こじれた理由が徐々に明かされる……というストーリー。
美沙緒の視点では、市川からの思わせぶりな態度に「振り回せされるものか」と奮闘しながらも、彼のことで一喜一憂してしまう彼女の姿が描かれます。仕事に集中できなくなる姿や、恋愛に疲れてしまう姿は、共感できる女性も多いはず。
美沙緒の目線だけで読み進めると、「好きでもない女性と結婚を前提に付き合う」「軽く『好き』と言ってくる」市川の態度は最悪です。
しかし市川の視点でも描かれることで、また見え方は違います。過去のトラウマから、辻褄が合わないような行動に出てしまう彼の様子が描かれています。
とくに市川は、大人のダメな部分がリアルに描かれています。「いざというところではっきりしない」「その場しのぎなことをしてしまう」「好きな人に意地悪な態度をとってしまう」という姿は、読むのが辛い……という方もいるのではないでしょうか。
大人になることで、素直になれなくなった様子がリアルに描かれている本作。何度もすれ違うその様子に、目が離せなくなる作品です。
様々な障害を乗り越えて、二人は無事に結ばれるのでしょうか……?
- 著者
- ["袴田 十莉", "もぁらす"]
- 出版日
- 2017-02-22
美沙緒から「好き」と言われた市川は、田所と別れることを決意します。
しかし結局彼女と別れることができなかった市川。そんな状況にも関わらず、美沙緒の部屋へ上がります。
一方の美沙緒も、彼女がいるとわかっていても想いを止めることができず、ふたりで夜を過ごすことを選んでしまい……。
本作では、交際よりも先に身体の関係がスタートしてしまいます。大人になったら珍しい話ではありませんが、市川と関係を持ったら、美沙緒は浮気相手です。
浮気はダメと理解しながらも、好きな人が目の前にいるという状況。美沙緒はギリギリまで葛藤しますが、それでも「好きな人と身体を重ねる幸福」に負けてしまいます。そのシーンは切なくも、色気たっぷりに描かれています。
そして市川視点では、彼女を「大事にしたい」「ちゃんとしよう」と思うが故に、空回りしてしまう様子も描かれます。双方の気持ちが描かれながら身体を交えるシーンは、胸が締め付けられます。
そして巻を追うごとに身体を重ねるシーンが激しくなっていくのも、本作の見所の1つ。美沙緒から身体を求めたり、市川から強引に求められたり……そんな展開も見逃せません!
本作は美沙緒と市川が付き合う前の前半と、付き合ったあとの後半に分かれています。
後半では、想いが通じ合った二人は、一見、順風満帆に見えます。
しかし、美沙緒のことを良く思わない市川の父が立ちはだかります。息子に美沙緒のことを釘さしますが、軽くあしらわれてしまいました。そして市川の父は、彼女を直接呼びつけることに……。
市川の父は、東洋コーポレーションの重要な取引先相手でもある百菱商事の役員。田所との交際を後押ししていただけあって、彼女を擁護します。
そして美沙緒と対面し、思わぬことを知らされることに……。
自分が原因で、田所が自殺未遂をしたことを知った美沙緒は、市川の父に「市川と別れる」という約束をしてしまいます。
一方、市川は結婚まで考えて、想いを伝えますが、美沙緒は「他の人が好き」と嘘をついて別れようとして……。しかもその相手は、成績優秀な市川でも「敵わない」と自覚していたこともあり、市川の嫉妬は膨れ上がります。
何としてもうまくいかない2人にやきもきしながらも、どうにかしてうまくいってほしいと願わずにはいられない本作。「どうしても離れらない恋愛」がリアルに描かれ、胸が締め付けられるようです。
時にはムカムカしながらも、彼らを応援する気持ちでページを捲る手が止められなくなってしまう作品です。
最新刊までの情報をまとめて、本作の魅力についてご紹介しました。美紗緒と市川は、甘くとろけるような日々を送れるのか、はたまた一転、地獄へ向かうのか……。
普通の恋では物足りない、大人の恋愛が読みたい、そんな読者にぴったりな本作。あなたも市川と美紗緒の甘く切ない恋に浸ってみてはいかがでしょうか。
- 著者
- 袴田 十莉
- 出版日
- 2019-06-17
「どうしてもダメ男が好き」「忘れられない相手がいる」……そんな人はぜひ読んでみてはいかがでしょうか。共感できる気持ちがたくさん詰まっています。