作家であり、エッセイストまた映画監督など多くの顔を持つ椎名誠。彼の描く世界は一体どのようなものなのでしょうか?あらゆる事柄において中途半端を許さない全力な彼の作品7冊をご紹介します。
作家でありエッセイストの椎名誠は、映画監督、雑誌編集など多くの分野をわたりあるきました。そしてそんな経歴を活かした感性によって小説、エッセイなど独自の世界観で多くの作品を出版しています。彼の代表作である『怪しい探検隊』シリーズでは、大人が真剣に遊びに打ち込む姿を描き人気を博しました。
1989年には小説『犬の系譜』で吉川英治文学新人賞を受賞。その後は純文学、エッセイだけでなくSF小説の世界でも評価されるに至ります。ここではそんな仕事に遊びに、真面目で真剣に取り組む大人の遊び方を知った男、椎名誠を取り上げていきましょう。
就職難と食糧難の中、可児才蔵は島田倉庫の最終面接に合格し他の従業員たちと共に倉庫に併設された事務所の中で暮らし始めます。倉庫に運ばれてくる荷物は普通の資材もあれば、見たこともない食料であったり凶暴な魚であったりと様々でした。
ある日、道中で盗賊団に襲われたという装甲貨物車が島田倉庫にやってきた事から、従業員達に武装が義務づけられます。しかしその後は何事もない日が続く中、生き物専門の業者から大きな荷物が届けられました。2日後に引き取りに来るというその荷物は厳重に梱包されており、正体の分からない生き物を預かるのは不安だという倉庫長の指示で可児が中を調べることになります。何とか梱包に隙間を作りそこから覗くと、中に入っていたのは人間の女でした。そしてその夜、とうとう島田倉庫に盗賊団が襲撃してきます。
- 著者
- 椎名 誠
- 出版日
- 2013-11-06
表題作「武装島田倉庫」の後、5つの短編が続きます。恐ろしい魚や得体の知れない生物が潜む危険な川を船で渡す商売を始める男の話や、住んでいた土地を捨てて命がけで険しい道を進んでいく部族の話など、島田倉庫とは関係のない話が続くのかと思ったら、実は全ての話は繋がっていて最後に舞台はまた島田倉庫に戻るのです。
異様な生物と非現実的な展開がまるで日本の昔話のように描かれており、違和感と親近感の交錯する不思議な描写に読者の平衡感覚は崩されてしまいます。しかし、その崩された世界感こそが本作の舞台である混沌の世界なのです。常に揺動しているような異様な世界の中で力強く戦う人々は、その奇妙な風体にも関わらず読者に爽快感を与えてくれます。
椎名誠ならではの個性溢れる本作の独特な世界感は、読み返すたびに新たな味わいがあり、飽きることがありません。
物語の舞台は、大量発生した凶暴な虫に浸食された世界です。虫たちは鋼鉄を食べ建物を破壊し、人間を襲い死に至らしめるのでした。ライフラインの供給が絶たれ交通も分断された地方の街の片隅に生きる安東マサルは、あるものを探すため弟の菊丸と共に大都市を目指します。
マサルが子供の頃は平和で安全だった世界は、菊丸が物心つく頃にはすでに虫に侵され、幼い頃に虫に襲われて死にそうになった経験を持つ菊丸は極度に虫を恐れていました。そんな菊丸をかばいつつ、途中で出会ったキンジョーという小太りの男に助けられ、凶暴な虫たちや途中で立ち寄った街のならず者のような男達から逃れ、マサルはとうとう目的の大都市にたどり着きます。大都市にはおびただしい広告が溢れ、アンドロイドとロボットが動きまわっていましたが、なぜか人間の姿はまったく見当たりませんでした。
- 著者
- 椎名 誠
- 出版日
- 1997-03-11
謎の宗教団体や過激な市民団体が強引にその思想を押し付け、非常時の不安な人間の心を不穏な方向へと駆り立てていく様子は、現実の世界にも当てはめることができます。また現代の社会はすでに至る所に様々な広告が氾濫しており、その世界を壊れているものとして描くことにより椎名誠は現代社会に対する痛烈な皮肉を込めているのです。
マサルが探し求めるものに近づくにつれ、大都市が無人である理由や世界が虫に破壊されてしまった原因が徐々に明らかになっていきますが、そこにもまた現代社会に対する作者の批判や警告が含まれています。
SFと社会風刺を融合させ奇想天外な構想で読者を引きつけ、疾走感と緊張感で一気に読ませる、椎名誠ならではの大作です。
この本は、椎名誠の長男、岳の成長を綴る物語です。岳は父親の事を「おとう」と呼びます。旅で長く家を開けることが多いおとうは、帰ってくる度に息子の成長ぶりに驚かされます。
- 著者
- 椎名 誠
- 出版日
- 1989-09-20
「おとうなんてエラくない!」
岳は坊主頭でケンカばかりして家に帰って来るやんちゃ坊主。持ち前の向こう気の強さで、おとうにもかかっていきます。生意気盛りの小学生でプロレスと釣りが大好きです。釣りに至っては自分のお小遣いで様々な道具を揃え、自分の好きな事には深く没頭します。
そんな自由で勝ち気な我が子をおとうは様々な感情の中、揺れ動きながら見つめます。1989年の発売当初から変わらない親子愛は普遍的な優しさを感じます。有名な作家である著者のまた違う一面が垣間見れる貴重な一冊です。
南極近く、見渡すかぎりの氷の世界である南米大陸最南端パタゴニア。そこを作家椎名誠が数々の困難を乗り越えて冒険する旅を描く作品です。彼は「パタゴニアの旅はそれまでの旅と比べると、ひどく心に重い旅でもあった」と振り返ります。
- 著者
- 椎名 誠
- 出版日
椎名誠はチリの内陸でジープに乗って雄大な大自然の中を駆け抜けていきます。しかしそんな広大な冒険の中で彼の胸には、日本に残してきた愛する妻が絶えず付いて来る影のように去来しました。彼の妻は、こうして旅をしている間にも精神的な危機とも呼べる状態にあり予断を許さない状況だったのです。
旅は休みなく続いていきます。チリの海軍の古びた軍艦に乗り込み、マゼラン海峡を超えてビーグル水道へ。荒れ狂うドレーク海峡でのひどい船酔いに悩まされる一行は次第に衰えていく気力と体力の中やっとの思いでパタゴニアへと至ります…。
この作品は、荒野の中での冒険と、繊細な妻への思いが振り子のように彼を揺さぶるさまが描かれた、味わい深い作品です。この作品を機に彼の作風が変わる転換点となった重要な一冊です。
椎名誠は旅の紀行文や純文学で有名ですが、小説『アド・バード』で第11回日本SF大賞をとったほどのSFの名手でもあります。この作品はそんなSF作家としての手腕を見せつけた傑作です。
主人公の青年ハルは、水に覆われた世界の中生まれました。視界には果てしない水平線が広がり、水のうねりに翻弄され続けるといった過酷な環境の中暮らしていきます。
- 著者
- 椎名 誠
- 出版日
そんな環境の中で美しいズーという女性と出会い、2人の暮らしが始まります。しかし、黒い男たちの襲撃によって恋の季節は終焉を迎えてしまいます。過酷な状況下で、儚く消えてしまった恋。理不尽な現実の仕打ちに絶望した彼は、ある時出会った七本鰭の怪魚によって次第に生きる活力を取り戻してくのですが…。
不思議な水に覆われた世界での夢の様な儚くも美しい物語です。ファンタジックなSFの世界で、椎名誠の愛と冒険のエッセンスが楽しめます。
椎名誠率いる怪しい探検隊が今回向かう先は、愛知県田原市の太平洋と三河湾に接する渥美半島先端の岬です。この『怪しい探検隊』シリーズの中でも特にハチャメチャな大冒険が繰り広げられます。この作品によってファンになった読者も多く、アウトドアの趣味に目覚めたという人も多くいるくらい、大人の男が遊びを楽しみ尽くしている様子が見られます。
- 著者
- 椎名 誠
- 出版日
大の大人がまるで子供のように珍騒動を巻き起こす、ある意味男のロマンです。「東日本をケトばす会」なるものを勝手に結成し、大人のくせにといいますか、大人だからこその大暴れを繰り広げてくれます。日々の仕事に疲れ、今ある現実を変えてみたいという人にとって憧れと嫉妬を感じるであろう作品なのではないでしょうか。
何の囚われもなく、縛られるあくせくした生活もない彼らの姿。今を楽しむということに特化様子が生き生きと描かれています。
東京の江戸川区小岩のアパート「克美荘」で繰り広げられる椎名誠の青春時代のエッセイです。若気の至りを代表するかのような四人の若者たちは、思わず本当に!?と突っ込まずにはいられない笑える事件を次々と起こします。立地的にも最悪といえる克美荘に住みながらも、若さゆえの根拠なき熱さと希望を描いています。
- 著者
- 椎名 誠
- 出版日
- 2014-08-05
演劇学校に通いながらも生活のためバイトに明け暮れる椎名誠。そして大学生である沢野ひとし、弁護士を目指し試験勉強に励む木村晋介、サラリーマンのイサオ。これら目指す将来も夢も違う仲間が繰り広げる青春の季節を描いた最近では珍しいような泥臭く男っぽい物語です。
何かというと酒を飲み、バカバカしくもどこか切実な彼らの青春が余すこと無く描かれます。熱さや大胆さ、男気など最近のトレンドには合わないかもしれない物語です。しかしその熱い気持ちは間違いなく誰しも心揺さぶられるものがあります。
大人になると、仕事や家庭生活、その他諸々の事柄に縛られ、思いついたことをすぐさま実行に移せなくなっていしまいがちです。しかしそんな大人が大半になっていく世の中で、ためらいもなく思いついたアイデアを行動に移せる人がいます。そんな代表格が作家、椎名誠と言えるのではないでしょうか。彼は他の人なら損得勘定で思いとどまるようなバカバカしいと思える事柄でも迷うこと無く飛び込んでいきます。
そんな椎名誠の勇敢な様子が伝わる作品を通じて、今一度自身の生き方を見返すのはいかがでしょう?