『イニシエーション・ラブ』の次に読むべき乾くるみのおすすめ文庫作品6選

更新:2016.12.14

映画化もされた『イニシエーション・ラブ』が絶賛された乾くるみですが、密室殺人ものから日常生活や恋愛小説に至るまで、幅広いジャンルにミステリーを見事に融合させています。小さな謎解きから、最後にミステリーだったことに気づかされる作品まで、あなたはどんなミステリーがお好みですか?

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プチミステリーから恋愛ミステリーまで手掛ける人気作家乾くるみ

乾くるみは1963年生まれ、静岡出身の作家で、静岡大学理学部数学科を卒業しています。1998年に『Jの神話』で第4回メフィスト賞を受賞し、34歳で作家デビューを果たします。2004年に刊行された『イニシエーション・ラブ』は「本格ミステリベスト10」で第6位となり、映画化されるなど話題になりました。

小さな日常ミステリー

架空都市である倉津市の中心部、オフィス街と飲み屋街の境目あたりに立つ、六階建て雑居ビルの最上階に、カラット探偵事務所が開設されました。所長の古谷と助手の井上は、高校時代の同級生でともに30歳。所長の美学により、宣伝を一切しない探偵事務所に、果たして依頼人はやってくるのでしょうか。

 

著者
乾 くるみ
出版日
2011-03-15


File1「卵消失事件」
依頼人は秋山雪乃35歳。2歳年下の夫が浮気しようとしているのではないかという依頼です。三鷹空というペンネームで小説を書いている夫とは、結婚3年目で子供はなし。パソコンが得意な妻が夫のパソコンメールを確認したところ、ファンの女の子と他愛のないメールのやり取りをしているだけですが、ゲーム好きでもないのに突然「電車でGO!」という中古ゲームソフトを買ってくるなど、なんとなくおかしいと言います。

ある日、夫が買ってきた烏骨鶏の卵パックが、家に帰ってきた時には、開いた形跡もないのに中身がきれいに空っぽになっていたというのです。なぜそんなことが起こったのか。その理由はなんなのか。果たして古谷と井上は、謎を解くことができるのでしょうか。果して夫は浮気をしようとしていたのでしょうか。

この本には全部で、6つの事件が収録されています。日常の小さいけれど魅力的な謎を鮮やかに解決していく連作短編集です。どれも人が死んだりするような事件ではありませんが、小さな謎解きの連続に、心を奪われます。最後の事件で思いがけない事実が明かされるので、そちらも楽しみに読んでください。

7にまつわるミステリー

タイトルの通り、「ラッキーセブン」「一男去って……」「木曜の女」など7にちなんだ7つの話が収録されている短編集です。

「一男去って……」
7人兄弟の長男春雄が中学の卒業証書を持って帰宅すると、末弟の喜雄が勝手口に倒れて死んでいました。毎年3月になると精神的におかしくなって、子供に暴力をふるう傾向があった母親が、とうとう殺してしまったのです。

そこで春雄が思いついたのは、義務教育を終えた自分を引きこもっていることにして、長男が次男のふりを、次男が三男のふりを、とひとりずつずらしていけばごまかせるというものでした。

突拍子もない展開は、果たしてうまくいくのでしょうか。

 

著者
乾 くるみ
出版日
2015-07-11


「ラッキーセブン」
私立曙女子高等学院の生徒会室に集まった役員7人の生徒たち。ひょんなことから、生き残りをかけたトランプの数当てゲームが始まります。Aが一番強くて、7が一番弱い。そんな単純なルールの中で、相手心理の裏の裏を読む心理バトルを勝ち抜くのはいったい誰でしょう。

トリッキーな世界観に加えられた、満載のクイズやパズルは、繰り返し読み直してしまうこと間違いありません。頭を柔らかくして、楽しんでいただきたい作品です。

ささやかな謎は珈琲とともに

蒼林堂古書店の店の奥には喫茶スペースがあって、店長およびマスターを務める林雅賀がいます。常連の大村龍雄、高校生の柴田少年、小学校教師の茅原しのぶは、日曜になると店に集まって、コーヒーを飲みながら、ささやかな謎解きを楽しむのでした。

14の連作短編集となっているこの作品は、各短編の後に、その短編の中で話題となったミステリーの解説がついており、ミステリーガイドブックとしても楽しめる作品です。

 

著者
乾 くるみ
出版日
2010-05-07


「秘密結社の集い」
ある日大村は、不思議な団体客に出会います。年代も性別もバラバラなその団体の会話を、耳をそばだてるように聞いていても、結局なんの集団かわかりませんでした。マスターと常連メンバーは、当てることができるでしょうか。

この本のラストにはとても心が温まる短編が待っています。しのぶがこの古書店に売っていた本には、ある秘密があったのです。その秘密は一体どんな結末を呼ぶのでしょうか。

香ばしい珈琲の香りとともに進む作品です。どうぞ傍らに珈琲を準備して、読書を楽しんでください。

謎に挑むチャップリン

「六つの玉」、「五つのプレゼント」、「四枚のカード」、「三通の手紙」、「二枚舌の掛軸」、「一巻の終わり」という6編からなる短編集です。6からカウントダウンされるタイトルの連続に、目次を読むだけでも期待が膨らみます。

全話を通して、林茶父(はやしさぶ)という小太りでちょび髭、ソフト帽にステッキという、チャップリンを思わせる人物が謎に迫ります。雪深い山荘で起きた密室殺人、大学の講義中にマジック好きの外国人教授が殺される事件、エリート会社員殺人事件など、短いながらもすべて正統派ミステリーとなっています。

 

著者
乾 くるみ
出版日
2012-03-15


最後の「一巻の終わり」は、読みかけのページを開いたまま評論家が殺されるという話なのですが、実際に読者が手にしている本との共通点もあり、最後ににやりとしてしまうことでしょう。

なお林茶父は、さぶりんという芸名で手品やパントマイムをやっていたことがある人物なのですが、『蒼林堂古書店へようこそ』の林雅賀の弟にあたる三男となっていて、四男の林真紅郎が登場する『林真紅郎と五つの謎』という作品もあるので、お時間のある方はそちらも是非読んで見てください。

再読必至のミステリー

里谷正明は、会社の先輩紀藤の誘いでスキーに行くことになります。そこで紀藤の彼女の友達である内田春香と出会います。名門大学の大学院生の春香は、まじめで美人なお嬢様といった雰囲気で、一目で好きになってしまう里谷。しばらくして二人は交際を始めるのでした。

ある日、銀座を二人で歩いていると、見知らぬ男性がはるかに詰め寄ってきます。美奈子。お前、よくもだましたな!「シェリール」というスナックに驚くほど春香と似ている人がいるという、この事件がすべてのきっかけとなるのでした。

ある日、道に迷った里谷は偶然「シェリール」を見つけ、入ってしまいます。そこには確かに春香そっくりの美奈という女性がいたのです。彼女は春香の双子の姉だと話し始めます。明るく性にも奔放な美奈。正反対の女性の間で、揺れる里谷。

 

著者
乾 くるみ
出版日
2012-05-10


一見普通の恋愛小説ですが、実は衝撃的なミステリーとなっています。美奈と春香の関係は、一体何なのか。一文も逃さずに読んでください。あなたは最後の台詞を理解することができるでしょうか?

気づいた方は、最初から読み直さずには、いられないことでしょう。

乾くるみが描くタイムトラベルミステリー

記憶を保ったまま過去に戻ることができれば、今よりも素晴らしい人生に変えることができるかもしれない。『リピート』は乾くるみがそんなテーマに取り組んだタイムトラベルミステリーです。

毛利圭介は不思議な電話を受けます。秘密を守ることを条件に過去の決まった時点に連れて行ってくれるというのです。記憶を持っていけるので、もっとふさわしい対応を取ることができたら、今よりも素晴らしい人生が送れるかもしれない。そんな思いを持ったメンバーが集められました。そして過去に戻ったメンバーたちがどうなったかというと……。

著者
乾 くるみ
出版日

過去に戻って以前とは違う行動をとった瞬間に結果も以前とは変わってしまうのです。変わった結果から発生した行動は、これまた以前とは異なる結果を生んでいきます。そうして、次々と覚えていた記憶とは異なる時間が創られていくのです。過去への入り口は同じ時間、同じ場所で開くので、「常連」達は今回の結果を振り返って、次の「リピート」に参加します。

「何度でもやり直しできる」、「やり直した瞬間から新たな人生が始まる」が『リピート』の主題ですが、「他人を信じること」がもう一つの主題です。「リピート」のことを信じないとこのツアーには参加できません。そして「リピート」のことは誰にも言ってはならないのです。戻った過去でも、次々発生する事件に、メンバーの疑心暗鬼が募ります。誰を信じて誰を疑わなくてはならないのでしょうか?すれ違いや思違いが新たな事件を生みます。

新たな人生を歩むことができるかもしれないという期待と、いずれにしろ未来を知ることはできないという矛盾を突いた『リピート』は、人の欲望をうまく取り上げた作品です。

もう一度過去のある時から人生をやり直すことが出来るとしたら、あなたならどうしますか?

恋愛小説が好きな方は『セカンド・ラブ』から、クイズが好きな方は『セブン』から。お好みに合わせたミステリーをお楽しみください。

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