敗戦によって母国を追われた王太子が、自ら母国奪還のために奔走する物語『アルスラーン戦記』。田中芳樹が作り上げた壮大なスケールの世界観を、荒川弘がリアリティの高い描写力で見事に表現しています。 両作家のファンを中心に人気を集め、単行本が9巻まで発売中です。
大陸公路の大国パルスの王太子・アルスラーンは、侵攻してくるルシタニア王国を迎え撃つべくアトロパテネ会戦にて初陣を迎えます。パルス軍は無敗を誇っており、この戦でも勝利を確信していました。ところが、ルシタニア軍の罠とパルス軍の万騎長・カーラーンの裏切りによって大敗を喫してしまいます。
初陣ながら、鍛錬の甲斐あって乱戦を切り抜けていくアルスラーン。しかし、その前に敵軍の兵士を引き連れたカーラーンが立ちはだかるのでした。
- 著者
- 荒川 弘
- 出版日
- 2014-04-09
『アルスラーン戦記』は、原作者・田中芳樹により古代ペルシャをモデルとした歴史や政治、文化などが丁寧に作り込まれています。そして、その原作小説とペルシャに関する資料をもとに、漫画家・荒川弘が独自の描写力で表現しているのです。アルスラーンは奪われた母国を奪還すべく味方を集める旅をすることになるのですが、その旅を通して作品の世界を体感できます。
旅の中でアルスラーンが出会う仲間たちは、十人十色。彼らとの出会いにより、パルスの政治や制度に疑問を抱くようになります。そして、パルスをよりよい国に変革しようという大志を抱き、王位を継承する人間として研鑽を重ねていくようになるのです。
そんなアルスラーンの行く手には、彼を排除しようとする敵、利用しようとする者、あるいは魔術を操る謎の集団などの、さまざまな人物達が現れます。彼らそれぞれの思惑がからみ合いながら、壮大なスケールで描かれる大河物語は、読者の心を掴んで放しません。
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荒川漫画の魅力といえば、登場人物の心情の機微を巧みに表現しているその表現力です。
たとえば、アトロパテネでパルス軍を裏切るカーラーンは、アルスラーンを殺そうとしますが、
「哀しくあわれな王子よ、
あなたは何も悪くはないがここで死んでいただこう」
(『アルスラーン戦記』1巻より引用)
「このカーラーンを醜悪な裏切り者と信じて死んでいくがいい」
(『アルスラーン戦記』3巻より引用)
などと、複雑な心境をうかがわせるような発言が目立ちます。どこかアルスラーンを気づかっているような言い方です。カーラーンが何らかの事情を知っており、それがアルスラーンにとって都合の悪いものなのだろうと推測することができます。
このようなキャラクターのセリフだけでなく、彼らの表情や仕草などにも人の心情がよくにじみ出ています。時にはそれらが後の展開の伏線になっていることもあるので、ぜひ注目してみてください!
本作は2015年にアニメ化され、2018年6月時点では、コミック版の方がストーリーの後追いをする形になっています。では、コミック版を読む意味はないのかというと、そういうわけではありません。コミックならではの魅力もあります。
たとえば、本作がペルシャをモデルにしているということもあり、作中では軍人の肩書きに関する呼称や用語などが独特です。
また、政治や戦略に関する話が多いので、アニメ版だけを見ていた方には、なかなか把握し切れなかった情報も多かったのではないでしょうか。その点、コミック版なら、文字で説明されているため、ものごとを整理しやすいです。たとえ忘れてもすぐに読み返すことができますので、自分のペースで物語を楽しむことができるでしょう
さらに、アニメ版は割愛されているシーンや改変されているシーンが多くあります。アニメ版とコミック版を比較して、違いを探してみるという楽しみ方もオススメです。きっと物語をより深く理解できることでしょう。
- 著者
- 荒川 弘
- 出版日
- 2017-11-09
アトロパテネ会戦にて敗れ、アルスラーンと忠臣のダリューンは、隠遁生活を送るダリューンの友人・ナルサスのもとに身を寄せます。ナルサスの知略を買ったアルスラーンは、彼に頼み込んで協力を得ることに。彼の侍童・エラムも加えた4人でカーラーンの軍勢と戦うことになります。
ナルサスの策によって、有利な場所にカーラーン軍を誘き出すことに成功。さらに、アルスラーンを守るためにやって来た女神官・ファランギースと彼女についてきた旅の楽士・ギーヴの協力により、見事カーラーンを討つことに成功するのでした。
その後もルシタニア軍の追撃を受け分断されながらも、アルスラーンたちは親交のある万騎長・キシュワードのいるペシャワール城塞にたどり着き、パルス奪還の拠点とします。旅の疲れを癒すアルスラーンでしたが、ルシタニア軍に協力する銀の仮面をつけた男・ヒルメスが襲来。それにより、アルスラーンは衝撃の事実を知ることになるのです。
ヒルメスを撃退したものの、今度はシンドゥラ国の第二王子・ラジェンドラが、兵を率いて攻めてきます。パルス奪還の障害になりうると考えたアルスラーンたちは、戦いに勝つとラジェンドラと半ば強引に同盟を結び、奪還に協力してもらう代わりに、ラジェンドラの王位継承を手助けすることになるのでした。
神前決闘や第一王子・ガーデーヴィの暴走がありつつも、何とかラジェンドラに王位を継承させることに成功したアルスラーンたち。シンドゥラを後にし、3ヶ月ぶりのペシャワールへの帰路につきます。ところが、ラジェンドラがあっさりと裏切り、奇襲を仕掛けてくるのでした……。
- 著者
- 荒川 弘
- 出版日
- 2018-05-09
9巻ではパルス王家の過去について、アルスラーンの父王・アンドラゴラスの口から語られます。
アンドラゴラスは敗戦の後、ルシタニア軍に捕らえられ、地下の牢獄に幽閉されています。そんな彼のもとを、ヒルメスに忠誠を誓ったパルス軍の万騎長・サームが訪れ、アルスラーンが生まれる前に起こったある「事件」について問うのです。その「事件」は、パルスが侵略を受けることになった理由とアルスラーンがペシャワールで知ったことにも関係しています。
物語の核心に繋がる、パルス王家の血塗られた過去に注目です。