初連載作品『鋼の錬金術師』でブレイクし、アニメ化、実写映画化も獲得した、天才漫画家。その迫力ある戦闘描写は、思わず息を呑むほどです。原作の田中芳樹とタッグを組んだ歴史漫画『アルスラーン戦記』や、実体験を元に描いた農業漫画『百姓貴族』など、荒川弘の作風は実にさまざまです。 今までに彼女が手掛けた連載作品は、実はそこまで多くありません。今回はそんななかから、荒川弘のおすすめ漫画をランキング形式でご紹介いたします。
名前の印象とは逆に、作者は女性漫画家です。荒川弘(あらかわ ひろむ)という名前なので、勘違いしていた方も多いのではないでしょうか。1973年、北海道で生まれ。実家が農家であるため、そこで得た経験は『銀の匙』や『百姓貴族』などの作品に反映されています。
漫画家になりたての頃はアシスタントをしていたようです。『STRAY DOG』や『突撃となりのエニックス』などを「月刊少年ガンガン」で読み切り掲載したのち、2001年に『鋼の錬金術師』の連載が始まります。
荒川弘にとってこの作品が初の連載でしたが、類を見ない「錬金術」というテーマと、酷な描写も含む内容が功を奏したのでしょう。話題騒然、空前絶後の大ヒットとなりました。
2007年、2011年、2014年と出産しており、2017年時点で3児の母としての一面も持っています。出産の関係で一時活動休止することはありましたが、引退することはありませんでした。2018年現在は『アルスラーン戦記』や『銀の匙』などの作品を連載して、多くのファンを楽しませています。
本作は、黄金周という荒川弘を含めた複数人によるグループで原案が練られ、テレビアニメと漫画をほぼ同時期に発表したものとなっています。全5巻の作品で、2007年から「ガンガンパワード」、2009年から「月刊少年ガンガン」で連載していました。
この作品の世界では、7つの紋様(北辰)が存在し、それぞれを持つ者が7人(北辰天君)いることになっています。この紋様を持つ者は、国が危機に陥った時に平和に導いてくれるとも言われていますし、逆に平和から乱世に導くこともあるとも言われている存在です。
北辰天君のなかでも抜けて大きな存在なのが「貪狼」と「破軍」なのですが、本作の主人公・岱燈(たいとう)は「破軍」の持ち主です。それに対し、「貪狼」の紋様を持つのは、とある野望を果たさんと心を燃やす、慶狼(けいろう)という男でした。
岱燈が暮らす蓮通寺には、天下を統一すると言われる覇者の剣が保管されていました。それを狙って寺に訪れた慶狼は、寺にいた人々を皆殺しにしてしまいました。
怒りをあらわにする岱燈ですが、彼はまだ16歳。35歳である慶狼に敵うはずもなく、谷底に突き落とされてしまいます……。
- 著者
- 荒川 弘
- 出版日
- 2007-08-11
本作はつまり「貪狼」VS「破軍」が主軸なわけなのですが、岱燈は10代の仲間たちと慶狼を倒しに行くので、時々年齢相応の反応を見せるところが何とも微笑ましいです。
「破軍」の紋様の力に飲まれてしまうと、最悪の場合自滅してしまいます。1度岱燈が「破軍」に飲まれて暴走してしまったとき、止めに入ったのが岱燈の妹でした。絶体絶命のときを乗り越えた兄妹の会話は、戦い前の束の間の休息といいますか、やはり和むシーンですね。
さて、慶狼の野望は、なんとも歪んだものであり、この作品を面白くしている点でもあると思います。賢帝国の武将である彼の野望とは、覇者の剣の行方とは……。本作を読み、その目で確かめてみてください。
本作は、2011年から2018年現在まで「週刊少年サンデー」で連載されている作品です。
夢もなく、学歴競争に疲れて果てていた八軒勇吾は高校受験に失敗し、担任の勧めで寮制の大蝦夷農業高等学校に進学することになります。
周囲の生徒は皆農業系の実家を持つ者ばかりです。実家に農耕馬がいることから乗馬にも長けている御影アキ、養鶏場の跡取りである常盤恵次、獣医師志望の相川進之介、高校卒業後は実家の酪農業を継ぐつもりである野球部所属の駒場一郎など……。
八軒は将来を見据えている友人たちに焦りと劣等感を感じ、慣れない農業高ならではのカリキュラムに疲れを覚える毎日です。
しかし動物たちと触れ合い、生と死を目の当たりにし、八軒は少しずつ変化していきます。一目ぼれした御影と同じ乗馬部に入部し、八軒の心を蝕むコンプレックスや傷は少しずつ和らいでいくのでした。
- 著者
- 荒川 弘
- 出版日
- 2011-07-15
荒川弘の他作品と比べると、現実的かつ非暴力描写が特徴の漫画です。しかし戦闘物の作品と同様に、本作もテーマは「命」。
高校には牛や豚、鶏、馬など、さまざまな動物がいます。一見のどかな様子ですが、八軒はある時、学校にいる生徒が目の前で産卵率の下がった鶏の頭を切り落とすというショッキングな出来事に遭遇します。またある時は可愛い子ブタたちを見て「名前を付けるなら豚丼にしろ」と、情がわかないように友人に警告され……。
私たち人間が食料に困らないのも、そういった「殺す側」の人がいるおかげです。両親や東大生である兄を疎ましく思い、勉強ばかりの日常を送ってきた八軒の目には、この現実はどう映るのでしょうか。
また、荒川弘の描く登場人物は、作風的に目つきが険しいキャラが多かったのですが、本作ではみんなが農業や動物を愛する高校生か大人たちです。穏やかな日常と、気の抜けるようなギャグシーンに、今まで味わったことのない安堵感を覚えることでしょう。
バトルだけではない、人間の温かな心理描写も魅せてくれる荒川作品となっています。
また作者自身が農家、さらには農業高校出身ということもあり、その世界を志す者にとっては勉強にもなる漫画です。ぜひ一読してみてください。
『銀の匙』については<漫画『銀の匙』で少年は命と未来を考える!14巻までの魅力をネタバレ紹介!>の記事で紹介しています。気になる方はぜひご覧ください。
本作は、田中芳樹の小説を原作として漫画化されました。2013年から2018年現在まで「別冊少年マガジン」で連載されている作品です。
主人公のアルスラーンは、パルス王国の国王・アンドラゴラス3世の息子ですが、両親からは愛を与えられず、代わりに臣下であるダリューンたちと親しくしていました。
アルスラーンが14歳の時、ルシタニアとの戦争で初めて戦に参加します。パルス王国が得意とする平地での戦い、無敗を誇るパルス軍が勝利すると思われていました。
しかし異様な天気と地表の罠、そしてバルス万騎長カーラーンの裏切りによってパルス軍は総兵力の半分を失い、のちに王国も落とされてしまうのです。
かろうじて生き残ったアルスラーンも命を狙われますが、ダリューンのおかげで九死に一生を得ます。まずは王子であるアルスラーンを生き残らせるべく、ダリューンはアルスラーンを連れて友人ナルサスの元へ訪れるのでした。
- 著者
- 荒川 弘
- 出版日
- 2014-04-09
戦国物だけあり、戦闘シーンは圧倒的迫力があります。刀剣の一筋の切り込み、弓矢による馬の陥落、生と死のはざまで戦う男たちの表情……とても見やすく、且つ読みごたえのある画力です。
また、パルス王国では奴隷制度というものがあるのですが、王子として育てられてきたアルスラーンには、「食料を与えられて最低限の生活を保障される」奴隷の身分が、差別的なものであることが理解できていませんでした。
物語が進んでいくにつれてアルスラーンは奴隷制度に疑問を抱き始めます。平等とは何なのか、ということについて、読者も考えさせられることでしょう。
ただの「かっこいい」戦闘漫画では終わらせない、幼いながらも懸命に生きるアルスラーンと彼を支える臣下たちによる、誇りをかけた王国奪取物語です。
『アルスラーン戦記』について紹介した<漫画『アルスラーン戦記』の魅力を9巻までネタバレ紹介!>の記事もおすすめです。
本作は、2001年から2010年にかけて「月刊少年ガンガン」で連載されていた、全27巻の作品です。
小柄な少年エドワード・エルリック(通称エド)と、大きな鎧そのものであるエドの弟・アルフォンス・エルリック(通称アル)は、とある理由で「賢者の石」を探し求め旅をしていました。
その理由とは、本来の身体を取り戻すこと。幼少期に母親を亡くした2人は、錬金術の鍛錬を積み、いわゆる「禁忌」である人体錬成に挑んで母親を蘇らそうとします。しかし、その結果は惨いもので、エドは左足、アルは全身を「対価」として失ってしまうのです。
その錬成で生まれたものは人と呼べる代物ではなく、もちろん母親ですらありませんでした。エドは自分の右腕を対価に、アルの魂を呼び戻して鎧を定着させます。
そして2人は、元の身体に戻るため旅に出るのでした。
- 著者
- 荒川 弘
- 出版日
遭遇する敵たちとのバトルシーンは、まさに圧巻!迫力ある描写には、荒川弘の本領が見事発揮されています。読者はその錬金術の数々に、思わず胸を躍らせることでしょう。
しかし作中では、この錬金術によって、エドたちは絶望の淵に叩き落されたのです。
本作ではエドたちの敵にあたる「ホムンクルス」という無慈悲で残酷な人工生命体が登場します。人間たちの欲望をついて罠にかけ、用済みとあらば簡単に殺す彼らを見ていると、読めば読むほど胸に真っ黒な重しを据え置かれているような気分になります。
ここまでの説明ですと、ひたすら残酷な漫画のように思えてしまうかもしれません。しかし、もちろんそれだけではなく、1番の魅力は綿密に練られたストーリーです。賢者の石や錬金術を取り巻く悪の真相を27巻という超大作でありながら、読者の期待をまったく裏切ることなく、さらに矛盾なくまとめ上げた構成力の高さは、さすがと言うほかないでしょう。
そしてエドやアルの他にも登場するたくさんのキャラクターも、大きな魅力の1つです。周りから恐れられる「焔の錬金術師」であるにも関わらず、雨の日は無能扱いされてしまうマスタング大佐、マッチョですぐ脱ぎたがるアームストロング少佐、シン国の皇子で不老不死の法を求めて賢者の石を探している、細目の少年リンなど、男から見ても女から見ても、強くてカッコイイ、個性的なキャラが勢ぞろいです。
この有名で絶大的な人気を誇る作品を、アニメや映画を見た人も見ていない人も、1度読んでみることをおすすめします。
『鋼の錬金術師』の知られざる裏話を紹介した<漫画『鋼の錬金術師』の知られざる13の裏話!登場人物たちの隠れた設定も!>の記事もおすすめです。
以上、荒川弘のおすすめ漫画ベスト4でした。1度読めば他の彼女の漫画作品にも手を出したくなること間違いなしです。巻数が多いものから少ないもの、完結ものから連載中のもの、あなたに合った作品をどうぞ手に取ってみてくださいね。