次に読む本で迷っているという方、予想のつかないトリックで読者を翻弄するミステリーはどうでしょうか?読み始めたらページを繰る手が止まらない、そんなアガサ・クリスティーのおすすめミステリー小説をご紹介します。
ミステリー作家の代表と言っても過言ではない、アガサ・クリスティーについて紹介します。長編、短編、戯曲など100以上の作品を手掛けており、亡き後も「ミステリーの女王」として他作家の追随を許さないクリスティー。
話が面白いだけでなく、登場人物たちの性格は非常に魅力的で、生き生きとしています。噂好きな隣人、脇役一人取っても現実味のある性格で、職場や近所に「こんな人いるなぁ」と思い当たる節も多いです。
特にシリーズで度々登場するのが、「灰色の脳細胞」を駆使し事件を解決するエルキュール・ポワロと、鋭い観察眼を持つミス・マープル、二人の探偵。彼らの活躍は、多くの作品で登場しているので、はまること間違いなしです。
心の闇から生まれる犯行等、心理描写も非常にうまく、最終ページで今までの展開がひっくり返ることも多いです。その中でも特にあっと驚くどんでん返しのあるアガサ・クリスティーの作品を紹介します。
アガサ・クリスティーが、自らの自信作とした作品です。
貧しい青年・マイクは、呪われていると噂される「ジプシーが丘」で富豪の娘・エリーと知り合います。
彼女は亡き父の莫大な財産を継いだおかげで自由に使えるお金があり、恋に落ちた彼らはエリーの財産で家を建て、その地に住みますが、立ち退きを命じる老婆の存在や彼女の財産を狙う親族、エリーの付き人・グレタの存在により、不穏な空気が漂うようになります。ある日、外出したエリーが帰ってこなくなり……。
- 著者
- アガサ・クリスティー
- 出版日
- 2004-08-18
犯人の性格が非常に猟奇的です。普通の人なら満足する幸せを手に入れても、満足できず強欲をだし様々な物を手に入れます。しかしすべて自分の物になった途端、逆に虚無感に襲われるのです。そして、その時には本当に大切なものは永遠に失っているのです。
この作品は幽霊等ホラー要素を匂わせていますが、物語には直接関係ありません。
一体、「終わりなき夜」とは何を指しているんでしょうか。人間の強欲に焦点を当てたお話です。主人公ではなくエリーに注目して再読すると、また別の物語に変わります。
この作品は、ロングランの戯曲として、長年愛されていることでも有名です。
マザーグースの「三匹のめくらのねずみ」に合わせて物語は展開します。舞台は山荘。大雪の中、老若男女5人の客が泊りに来ます。しかし、そこに現れたのは刑事。凄惨な殺人事件が近隣の農場でおき、次の犯行現場はこの山荘らしいと告げられます。雪のため、外に出られず文明から切り離された閉鎖空間の中、緊張感は高まっていきます。
犯人の動機は復讐です。昔、3兄弟の孤児がある判事によって農場を営む夫婦に養子として引き取られました。そこでなら、健全に過ごすことが出来ると考えたからです。
しかし夫婦は精神異常の状態で、3人を虐待します。仕舞いには1人を衰弱死させてしまいました。残る2人は逃げ出し、消息不明となりました。刑事は、ターゲットは当時の事件に関係している人物だと告げます。一見無関係そうな泊り客と女主人の過去が、徐々に暴かれていき……。
- 著者
- アガサ・クリスティー
- 出版日
- 2004-03-16
外に出られない緊張感と疑心暗鬼に陥った不安をこの作品は良く描いています。特に仲の良かった主人公夫婦が喧嘩をする場面は、ちょっとしたことで崩壊する他人への信頼がよく表されています。「親しい人たちに囲まれていると思い込んでいたのに、はっと気がついて見ると、まわりはもうみんな見知らぬ人ばかり。親しいふりをしていただけ」という言葉が印象的です。
犯人らしい人は、全く事件とは関係なかったり、予想がつかないことが多く、徐々に隠された登場人物の過去が浮き彫りになる、味わい深い作品です。
引退した俳優がパーティを主催したところ、出席者の一人がお酒飲んだ直後、不可解な死を遂げました。数か月後、別のパーティで俳優の友人が同じく謎の死を遂げます。奇しくもパーティの出席者はほぼ同じ。友人の死因を探るため、俳優である彼を慕う娘、演劇パトロンの3人が捜査に乗り出します。
この作品はポアロが探偵として活躍するシリーズの一部です。しかし一巻ごとに物語は完結しているため、どの本から読んでも十分楽しめます。この本も例外ではありません。
- 著者
- アガサ クリスティー
- 出版日
主人公は元俳優です。物語もそれに合わせ、1部2部ではなく1幕2幕と表現されています。ポアロも登場しますが、後半まで目立ちません。物語の舞台の照明役として、陰からヒントを与えている場面が多いです。
それもそのはず、作品のテーマが老俳優とその友人である若い女性の恋愛だからです。相思相愛ですがお互い不器用で思いが通じず、共通の知人が亡くなった事件の捜査を共にすることで、何とか友人としての関係を保っている状態です。二人の世界を守るための作業には、第三者の介入は無粋なのです。
ポアロは今作では、恋のキューピッドとしての役割が大きいです。一途な愛の行方を彼と共に見守っていてください。
……最終章までは、ですが。
近代が舞台となった作品が多いですが、この物語の舞台は紀元前二千年のナイル湖畔と、かなり異色の作品です。族長の娘・レニセンブのもとに父が妾を連れて帰ってきます。権力争いから憎しみが一族の中でうまれていき、そして物語は急展開へ……。
大昔ですが人の感情は今も昔も変わらず、汚い思惑を持つ者はいるし、愛しい人を守るため身を粉にする人がいることは変わらないと感じられます。
- 著者
- アガサ・クリスティー
- 出版日
- 2004-04-16
主人公の祖母、エサが非常に魅力的です。老獪ですが茶目っ気のある老婦人で頭の回転も非常に良く、彼女の支えがなければ主人公は事件解決の糸口を掴めませんでした。
また、ある人物と主人公とのやり取りが昼ドラを連想させるドロドロっぷりで、非常に怖いです。お互いの憎悪が現実の世界まで、ひしひしと感じられるほどです。
この話の面白いところは、優しかった姉が利己主義になる等、妾が来たことで家族の性格が豹変することです。しかし、妾はきっかけにすぎません。皆、以前から心の中に悪意を隠し持ちながら家族として生活していました。それが抑えられなくなっただけで、闇は初めからあったのです。人間の汚さや毒はたっぷりと描写されていますが、読み終わった後は爽やかに感じます。
ベスト1は、アガサ・クリスティーの作品の中でも1、2を争う程有名です。名前だけでも知っている方は多いのではないでしょうか。
『ねずみとり』同様、童謡にそって物語は展開します。ある日、インディアン島に互いに面識もない、法律では裁かれない犯罪を犯した10人の招待客が集まります。しかし、招待者であるU・N・オーエンの姿はどこにも見えません。そもそも、客は全員オーエンと会ったことすら無いのです。緊張感の高まる晩餐時、彼らの罪を暴く声が響き渡り、そして……。
- 著者
- アガサ・クリスティー
- 出版日
- 2010-11-10
島から脱出する手段が無く、一人一人と死んでいきながら、犯人が誰なのか全くわからない緊張感がすごいです。結末を知れば、犯人の行動はわかりやすいのですが、再読しない限りなかなかトリックに気づけません。
「10人のインディアン」の歌に沿い、一人また一人と減っていくさまはホラーですが、人の本性もおそろしいです。「あれは仕方なかった」と自身の罪を最期まで認めない者や、罪悪感に苦しめられ発狂していく者。内面の負の部分にもしっかり焦点があてられていて、最後の一人が放心状態で自ら死に歩み寄っていく描写は、こちらまで虚無的な心理になります。
ちなみに小説と戯曲で結末は大きく変わります。救いのなさの度合いも違うので、興味のある方は両方見てください。
ミステリー作家として有名なアガサ・クリスティーですが、前述したように人の負の部分や心の闇の描写が上手いため、ホラー作品も手懸けています。巧みな人間観察眼からロマンス小説も執筆しており、幅広いジャンルが得意といっても過言ではありません。興味のあるテーマから作品を読んで、クリスティーの多彩な才能を味わっていただきたいです。