5分でわかる『夢十夜』ラストの第十夜は意味不明!?名作をネタバレ解説!

更新:2021.12.8

人の夢を覗いてみたいと思ったことはありませんか?美しい夢、ゾッとする夢、頭が痛くなる夢……。本作は、幻想的でちょっと不気味な小説です。 唯一のハッピーエンドである第一夜にちりばめられたキーワード、第六夜で運慶が今日まで生きている理由、意味深な夢同士の奇妙な繋がりなど、不思議な夢の真相を考察していきます。

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まずは、小説『夢十夜』の作者「夏目漱石」について簡単に解説!

 

『夢十夜』の作者は明治から大正にかけての小説家「夏目漱石」です。『吾輩は猫である』で文壇にデビューし、『坊ちゃん』『こころ』など数々の名作を世に送り出しました。そんな中でも、『夢十夜』は朝日新聞で連載された作品です。特徴的な書き出し、「こんな夢を見た」から始まる10編の短編集となっています。

 

著者
夏目 漱石
出版日
1986-03-17

本作は、人間のリアルな心情を描いてきた夏目漱石作品にしては珍しく、幻想的で少しホラーな雰囲気が特徴です。一夜一夜の夢は独立していますが、「100年」「いくさ」「庄太郎」など、共通するキーワードもあり、深読みしたくなる物語になっています。

本作は『ユメ十夜』として、2007年に映画化もされています。不気味で幻想的な雰囲気はそのままにわかりやすく解釈されているので、こちらもおすすめです。

『夢十夜』全話の内容、魅力を簡単にご紹介!

 

第一夜

「自分」は、死ぬ間際の女に「百年待っていてください」「きっと逢いに来ますから」と頼まれます。女の墓を掘り、日が落ちるのを数えて待っていると、真っ白な百合が伸びてきて、「自分」は100年がもう来ていたことを知ります。

第二夜

「自分」は侍でした。和尚に「侍なら悟れぬはずはなかろう」と笑われ、「きっと悟って見せる」「悟れなければ切腹する」と誓い、「無」について考えますが、ついに無にはたどり着けません。

第三夜

ゾッとするような、眠れなくなってしまう怖い夢。「自分」は盲目の子どもを背負って歩いていますが、どこか不気味な彼を捨ててしまおうと、そのまま森へ向かいます。しかし子どもは、何もかも見透かしているような態度を取るのです。そうして自分は今からちょうど100年前、1人の盲人をこの森で殺したことを思い出します。

第四夜

老人が「手ぬぐいを蛇に変える」と言いながら笛を吹いたり踊ったりしています。「今になる、蛇になる」と唄いながら河に入っていった老人を「自分」はいつまでも待っていますが、とうとう河から上がってくることはありませんでした。

第五夜

戦に敗れた「自分」は、捕虜となって敵の大将の前に引き出されます。「死ぬ前に恋人に会いたい」と言う自分に、大将は夜が明けるまで処刑を待つと言いました。同時に、女が馬に乗って駆けだす情景が描かれます。女は必死に駆けますが、鶏の鳴く声を聞いて淵へ落ちてしまうのでした。

第六夜

現代(明治時代)に運慶が登場し、仁王像を彫っています。野次馬の男が「仁王を彫っているのではなく、木の中に埋まっている仁王を掘りだしているまでだ」というのを聞いた「自分」は、早速仁王を探して掘り起こそうとしますが見つかりません。

第七夜

「自分」は船に乗っていますが、どこに行くのか、なぜ乗っているのかさっぱり分かりません。船のサロンでピアノを弾く女を見ているうちに虚しくなって死ぬことにしました。しかし足が船を離れたとたん、命が惜しくなってしまいます。「どこへ行くんだか判らない船でも、やっぱり乗っている方がよかった」という言葉は、あと一歩でまったく違う物語になっていたであろうことを感じさせる危うさを孕んでいます。

第八夜

「自分」が床屋に行くと、鏡の中は別の世界と繋がっていて、女を連れた「庄太郎」、疲れた芸者、金魚売りなどが歩いていくのが見えます。

第九夜

唯一、初めから最後まで「自分の目で見た光景ではない」夢の話。今にも戦が始まりそうな時代、若い母親は3歳になる子どもを連れ、夫の無事を祈ってお百度参りを続けます。しかし、夫は浪士によって殺されていました。「こんな悲しい話を、夢の中で母から聞いた」という言葉で語られるこのエピソードは、霧に包まれたような不確かな世界に読者を閉じ込めます。

第十夜

夢のなかでも、特に不気味な話です。女にさらわれた庄太郎がふらりと帰ってきました。庄太郎は女と電車に乗って山に行き、数えきれないほどの「豚」と戦っていたと言うのです。

 

ハッピーエンド!『夢十夜』の第一夜の内容をネタバレ考察!

 

第一夜は10の夢のなかでも、特に美しい話です。

「自分」は、「もう死にます」という女から、「死んだら、埋めてください」「百年待っていて下さい。きっと逢いに来ますから」と頼まれます。そして女は死んでしまい、自分は約束通り墓を作り、太陽が昇り、沈むのを何度も見ながら女を待ちます。

しかし、いくら待っても女は現れません。「騙されたのではなかろうか」と思い始めた頃、真っ白な百合が一輪、自分の前で開きます。自分は百合の花に接吻し、遠い空に暁の星が瞬いているのを見て「百年はもう来ていたんだな」と気づかされたのでした。

「百年待っていてください」「百年はもう来ていたんだな」という名言と、夢のなかでも唯一のハッピーエンドということで有名な話です。

女の「真っ白な頬」と「真っ白な百合」。女が死ぬ間際、「長い睫の間から涙が頬へ垂れた」のと、百合に「ぽたりと露が落ちた」こと。よく読んでみると、「女」と「真白な百合」の繋がりがわかります。また、「百合」という花自体、「『百』年目に『合』う」と解釈することもできます。

 

運慶が生きている理由って?第六夜の内容を考察!

 

第六夜は、「自分」の時代(明治時代)に運慶が生きていて、護国寺の山門で仁王を彫っている話です。

運慶は平安末期から鎌倉初期に活動した仏師なので、当然ながら明治時代に仁王を彫っているはずがありません。しかし、ラストで「自分」は「運慶が今日まで生きている理由もほぼ解った」と語っています。その「理由」とは一体何でしょうか?

自分は野次馬の男の1人から「あれは仁王を彫っているんじゃない、木の中に埋まっている仁王を掘り出すまでだ」と聞き、さっそく手頃な木から仁王を彫り当てようとします。しかし、仁王は見つからず、「明治の木にはとうてい仁王は埋っていないものだと」悟るのです。

これは鎌倉時代にはあった「芸術」が、明治になって失われてしまったということを意味しているのではないかと言われています。もちろん、明治には明治の芸術があるのでしょう。しかし、それは鎌倉時代の方法では掘り当てることはできません。自分の力で方法を探さなければいけないのです。

また、周りの「下馬評」に耳を傾けず、「ただ仁王と我れとあるのみと云う態度」の運慶は、漱石が目指す芸術家の姿だとも考えられます。そして、芸術家が昔のように一心不乱に仁王を彫り続けられる時代、つまり作家が周りの声に左右されずに自分の作品を書き続けられる時代も終わった、と感じていたのかもしれません。

 

意味不明!? 第十夜の不思議な内容をネタバレ考察!

第十夜は特に解釈の分かれる話です。さらわれた庄太郎が語る、「豚」という存在はどういうものだったのか。他の夢との関連とは。さまざまな考察から、漱石の伝えたいことは何だったのかについて考えていきましょう。

「豚」=女

庄太郎をさらっていった女は、絶壁で彼に向って「ここから飛び込んで御覧なさい」と言います。これは、庄太郎を性的に誘っているとも捉えられます。そう考えると、とめどなく押し寄せてくる豚は、女の性欲の象徴でしょうか。もしこの考察が正しければ、庄太郎が豚と戦い始めてから女が一切登場しなくなったことや、ラストで健さんが「だからあんまり女を見るのは善くないよ」と言ったこととも整合が取れているのではないでしょうか。

「豚」=仕事

庄太郎は「善良な正直者」ですが、往来で女の顔を見たり水菓子(果物)を眺めてばかりいる怠け者でもあります。そんな庄太郎が大嫌いな豚は、労働の象徴とも考えることができます。そんな労働の象徴が絶え間なくやって来る……。新聞連載をしていた漱石の姿ともどこか重なるものがあるのではないでしょうか。

他の夢との関連は?

「第九夜」は、戻らない男を待つ女の話を人づてに聞いています。「第十夜」は逆に、男を連れ出す女の話で、当事者の男が自ら語った話です。七日六晩無限に現れる豚も、繰り返される御百度参りと共通点があります。

また、「第一夜」は死にそうな女の頼みを聞く話、「第十夜」は女の頼みを聞かなかったばかりに死にそうになる話と、対照的な作りになっているのが分かるでしょう。

謎多き第十夜は、読者の読解力を試すような構成でありながら、夢という設定も相まって掴みどころのない魅力があります。

難しいと感じる方は、漫画『夢十夜』もオススメ!面白い!

 

本作は映画だけでなく、漫画化もされています。その摩訶不思議な世界観は、漫画作品にもよくマッチしています。

小説が苦手という方は、まず漫画からチャレンジしてみてはいかがでしょうか。

 

著者
出版日
2017-01-20

 

漫画家・近藤ようこさんによって描かれた本作は、原作に忠実なので、『夢十夜』の入門編としておすすめです。小説が難解だと感じた方も、漫画版を読めば話を理解しやすいのではないでしょうか。また、作品の幻想的な世界観と近藤さんの絵がよくマッチしているのも魅力です。

漫画を読んで「面白い!」と思ったら、ぜひ小説も手に取ってみてくださいね。

 

『夢十夜』には今でもさまざまな解釈・考察が生まれています。ぜひ映画や漫画、そして小説で、この不思議な世界に浸ってみましょう。ぜひ、あなたなりの解釈を見つけてみてくださいね。

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