5分でわかるアノマロカリス!奇妙なエビと呼ばれた最強生物の生態を紹介!

更新:2021.11.14

三葉虫やアンモナイトと並び、古生代を描いたものには必ずといっていいほど登場する「アノマロカリス」。名前は聞いたことがなくても、復元イラストは目にしたことはあるのではないでしょうか。この記事では、カンブリア紀に登場したモンスターの王とも呼ばれる彼らの生態や体の特徴、名前の由来、化石発見の歴史などをわかりやすく解説していきます。あわせておすすめの関連本もご紹介するので、ぜひご覧ください。

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アノマロカリスの生態は?食物連鎖の頂点だった最強生物

 

約5億2500万~5億万年前の古生代カンブリア紀に生息した、大付属肢類に分類される肉食の海生生物です。

当時は「カンブリア大爆発」といわれている生物の爆発的な進化が起こり、それまでは暗い海底を這うことしかできなかった生物が鰭や肢を使って海中を自由に移動するようになって、その過程で多様な生物が誕生しました。

カンブリア紀になぜこのような異変が起きたかについては諸説あるものの、この時に哺乳類を含む脊索動物門など、分類学上の12の門の原型となる生物がすべて揃ったといわれています。この時代に誕生したものの種が絶えてしまった系統も存在することから、いかに多くの生物が生息していたかがうかがえるでしょう。

「カンブリア大爆発」で突然産まれたとされている多数の生物は、「すべての生物は長い時間を経て進化していく」とするダーウィンの唱えた進化論に反しており「ダーウィンのジレンマ」とも呼ばれています。

カンブリア紀の前時代、エディアカラ紀は、「ベンド生物」と呼ばれる植物にも似た骨を持たない生き物が存在するだけでした。ベンド生物の多くは移動する手段を持たず、水中を漂う有機物を栄養に生きていたと推測されています。

そのため狩るものと狩られるものといった食物連鎖の概念が誕生したのもカンブリア紀のこと。そして、現代の感覚からすると奇妙な外見を持つ多数の生物のなかで、食物連鎖の頂点に立っていたと考えられているのがアノマロカリスなのです。

捕食者であるアノマロカリスの登場により、獲物となる生物たちも生き残りをかけて進化していき、生物全体の身体能力や知能が飛躍的に発達していったのです。

アノマロカリスの体の特徴。想定外の大きさをした奇妙なエビ!

 

カンブリア紀の生物の平均的な大きさは、数mmから数cm程度だったのに比して、アノマロカリスは最大で1mにもおよぶ個体が存在しました。

そのためカンブリア紀の王者として繁栄することに成功し、代表的な「アノマロカリス・カナデンシス」をはじめ、「アノマロカリス・サロン」、「ラガニア」と多様な種類が誕生します。

特徴は、側頭部から飛び出した大きな目と、体の側面に少なくとも11対はあったという鰭、頭部から突き出した10cmを超える2本の大付属肢。多くの鰭を使って泳ぎ、扇状の尾で舵をとり、内側に棘が付いた大付属肢を使って獲物を捕らえて、頭部の下にあるリング状の口で食べていたとされています。

複眼には1万6000個ものレンズがあったことが化石からわかっており、現代に至るまでこれを超える性能の複眼を持つ生物はトンボのみです。主軸の付いた複眼は動かすこともできたと考えられており、眼から得た情報を処理できていたことから、アノマロカリスは運動能力だけではなく、脳も発達していた可能性があります。

名前の由来は、ラテン語で奇妙なエビ。奇妙なのは確かですが、エビとはかけ離れた外見をしているのにこの名前が与えられた背景には、化石を巡る紆余曲折があります。

アノマロカリスの化石発見の歴史

 

アノマロカリスの化石が発見されたのは、カナダのバージェス頁岩というところ。しかし、1892年に最初に見つかったのものは、腐敗して崩れた触手部分の化石のみでした。

この触手が節足動物の胴体部と勘違いされたことから、新種のエビの化石としてアノマロカリスと命名されたのです。

次いで口と顎も発掘されましたが、これもクラゲの化石として「ペイトイア」と名付けられ、胴体の部分が発掘された時には新種のナマコ「ラガニア」として発表されました。

こうした経緯を経て、最初の触手が発見されてから約100年が過ぎた1985年に、カナダ地質調査所が所有するラガニアの化石の削りだしからアノマロカリスやペイトイアが発見され、これまで別の生物だと思われていたものは規格外の大きさを持つある生物の体の一部であったことが判明したのです。

最初に発表された名前が学名として優先されるため、最終的にはエビとは似つかない姿を持った巨大な生物に対して「アノマロカリス・カナデンシス」という名前が付けられました。

アノマロカリスとオパビニアの共通点

 

1972年、アノマロカリスの近種とされる全長10cmほどの生物、オパビニアがイギリスの古生物学会で発表されました。

丸い頭部には前方に2つ、後方に3つの合計5つの眼が付いており、ノズル状の触手が伸びているという珍妙な見た目。発表時には「まるで子供の落書きだ」と会場内で笑いが起きたという逸話があります。

そんなオパビニアもれっきとした肉食動物。アノマロカリス同様に触手を使って獲物を捕獲して、頭部の下にある口で食べ、体の側面に生えた鰭を使って泳ぎ、鰭の下に生えている葉脚と呼ばれる肢を使って海底を移動していたと考えられています。

またアノマロカリスと同じく扇形の尻尾を持っており、このような類似点の多さからオパビニアが進化したものがアノマロカリスであるという説もあります。進化の過程でオパビニアにあった葉脚が退化したと考えられているのです。

ただ発見されているオパビニアの全身標本は約50体とあまりに少なく、またその生態も未知の部分が多いため、この説は確定されていません。

貴重な化石の写真がたくさん見れる

 

地球最古の単細胞生物を巡る論争からはじまり、原始生命時代に続くエディアカラ紀とカンブリア紀に存在した古生物を再現イラストとともに紹介しています。

本書の特徴は、なんといっても全体化石や復元標本などの写真資料の豊富さです。アノマロカリスも、代表種のアノマロカリス・カナデンシスとラガニア、またオパビニアの全身化石の写真が載っており、その状態の良さに、本当にこんな生物がいたのだとあらためて驚嘆させられるでしょう。

著者
土屋 健
出版日
2013-11-12

三葉虫の外骨格を噛み砕いていたとされていた顎は実は非力で、エビすら噛むことができなかったという研究結果から、一時は食物連鎖の頂点の座を下ろされかけたアノマロカリス。しかし複眼の化石から再び優秀なハンターであったと認識された経緯などもわかりやすく解説されていて、専門的な内容でも難なく読み進めることができます。
 

個別の生物を掘り下げるだけではなく、「カンブリア大爆発」とはなんだったのかという総括もされていて、敷居が高く感じられがちな恐竜誕生以前の古生物学の入門にもってこいの一冊です。

アノマロカリス以降の最強生物とは?古生代の栄枯盛衰の記録

弱肉強食時代の幕開けであるカンブリア紀以降の、生き残りを賭けた進化の歴史に焦点を置き、誕生しては姿を消していったさまざまな生物をカラーイラストとともに紹介しています。

本書ではカンブリア紀の王者として繁栄を極めたアノマロカリスの最後の種であるシンダーハンネスも紹介されています。イラストを見ると、屈強でハンターとして進化した印象を受けるものの、実は全長10cmの小型の生物だったことがわかります。
 

著者
["土屋 健", "田中 源吾"]
出版日
2017-06-14

人間のもっとも遠い祖先と考えられているミロクンミンギアや、石炭紀にはすでに今と変わらぬ姿で存在していたゴキブリの原種・エトブラッティナのイラストなども興味深く、古生物の世界に引き込まれること請け合いです。
 

ひとつ前で紹介した『エディアカラ紀・カンブリア紀の生物』よりぐっと砕けた文体で、小学校高学年くらいから楽しめる内容になっています。

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