本作は孫悟空を主人公とした物語ですが、主人公とは別に、初期から「燻し銀」の活躍をするキャラクターがいました。それが、ピッコロです。今回はこの緑色の不思議な男について、さまざまな角度からご紹介したいと思います。
本作で「ピッコロ」と呼ばれるキャラクターは2人登場します。1人は大魔王ピッコロ、そしてもう1人はその分身です。今回ご紹介するのは後者。作中の主要人物の1人であり、一般によく知られている方です。
当初は悟空に敵対する悪役でしたが、正々堂々と戦って負けた結果、大魔王の化身たる魔族よりも、戦士としてのあり方が強くなっていきました。
- 著者
- 鳥山 明
- 出版日
- 1988-08-01
誕生日はエイジ753年5月9日。悟空と戦った時は、なんとまだ3歳でした。身長226cm、体重116kgで、悟空達の中で1番大柄です。
尖った耳と前頭部の触覚、緑色の肌が特徴。作者の旧作『Dr.スランプ』に出てくる宇宙人・ニコチャン大王にどこか似た雰囲気があります。当初それらは魔族の特徴かと思われていましたが、実際にはナメック星人由来のものでした(くしくもニコちゃん大王とは宇宙人繋がり)。普段はマントとターバンを着用しています。
鋭い爪を有する指は自在に伸び、作中では1度しかしていませんが、巨大化も可能です。
自他ともに厳しく、ストイックな性格。ただ、周囲のせいで苦労性になることが多く、作品中期以降には振り回される姿も。その傾向は特にアニメ版で顕著に出ており、ほとんどキャラ崩壊に近いといえる様子が描かれています。
主要人物の多くが結婚するなか、彼は最後まで独り身でした。なんだかんだで面倒見がよいので相手には困らないような気もしますが、ナメック星人の種族的問題・特性から結婚の概念がないせいかも知れません。この特性については、後ほど解説させていただきます。
初登場シーンは、先代大魔王の卵から生まれたばかりの小さな姿でした。そして3年後の第23回天下一武道会では、成長し、ピッコロ大魔王と瓜二つの姿で現れます……が、なぜか天津飯には大魔王の手下と勘違いされました。
アニメ版の声優は、古川登志夫です。
初期には魔族と説明されていたピッコロですが、実際にはナメック星に由来する宇宙人でした。
ナメック星人の戦士は非常に強靱で手足の伸縮に優れており、それに加えて驚異的な再生能力を備えています。彼曰く、頭が無事なら全身再生可能だとか。
また彼自身は実践していませんが、ナメック星人は口から卵を産むことで人口を増やす一族のようです。そのため男女というものが存在しなく、結果、結婚という概念のない種族となったのです。
作中でピッコロは2人登場すると書きましたが、生い立ちと合わせると、実はちょっと複雑。今現在ピッコロとして知られる人物は、当初マジュニアと名乗っていました。魔のジュニア――つまりピッコロ大魔王の息子です。
当のピッコロ大魔王は、かつて亀仙人の師匠である武泰斗に魔封波で封印されていた魔族です。蘇った彼はドラゴンボールを集め、若返ることで以前の強さを取り戻しました。
彼によって地球は危機に陥れられますが、幼少期の悟空の頑張りでことなきを得ます。そこで大魔王が最後の力で生み出したのが、マジュニアであり現ピッコロなのです。
彼の必殺技は、貫通力の高い「魔貫光殺砲」や爆発力のある「爆裂魔光砲」など。その特徴は技名に「魔」がついていることでしょう。先代の大魔王の技は全て受け継いでいるうえ、弱点である封印技「魔封波」を跳ね返すことも可能です。
悟空に匹敵する力量で描かれることが多く、悟飯が大猿になって暴れた時には、地球上から月を破壊するなどのとんでもないこともして見せました。
作品中期以降の戦闘力は、超サイヤ人並み。フリーザ第2形態と互角だったことから、100万は軽く越えています。
ピッコロは悟空に敗れてからは、強さを志す武人の側面が強くなっていきました。それでも悟空とは、しばらく敵対関係でした。しかしラディッツの襲撃によって、2人は初めて共闘するのです。
彼は1対1ではラディッツに敵わず、悟空と組んで戦うことになります。しかし、2人がかりでも劣勢のまま。この未曾有の窮地を切り拓くべく、悟空はラディッツを羽交い締めにして隙を作ります。そして彼は必殺を期して魔貫光殺砲を放ち、悟空もろとも貫いてラディッツを倒しました。
ピッコロと悟空という、かつての強敵のタッグ。それでも倒せない強大なサイヤ人。しかもそれ以上に強い相手がまだ控えている、というとんでもない展開でした。
ピッコロは他のキャラクターと同じく、強さを志向する戦士です。そのため弛まぬ修行を積みますが、それとは別に特殊なパワーアップをする場面が2回あります。
1度目はナメック星でのこと。ナメック星のドラゴンボールで蘇った彼は、フリーザの危機迫る悟飯の下へ急いでいました。その途中、初めて自分(神も除く)以外のナメック星人である、ネイルと出会います。
すでにフリーザと対戦していたネイルはピッコロの強さを見抜きつつ、それでもフリーザには敵わないと忠告。そしてナメック星人の特性として、戦士同士で融合すると強くなることを明かしました。
そしてネイルと同化した彼は、想像以上のパワーアップを果たします。その強さは自ら「究極のパワー」と豪語するほど。
実際に彼は、フリーザ第2形態とも互角の戦いを演じました。詳しい数値こそ不明ですが、この時点での戦闘力は100万以上(フリーザが100万なので)であることは確実です。
融合という特殊なパワーアップの2度目は、セルの脅威が迫りつつある人造人間編でのことです。
下界では17号、18号が大暴れし、彼もまた敗れた頃。地球の神は、もっとおぞましい存在(セル)を感知していました。懸念した神は、彼に同化を提案します。
地球の神も、本を正せばナメック星の戦士です。彼が神になる段階で、邪心を切り離した結果生まれたのが先代のピッコロ大魔王でした。その生まれ変わりであるピッコロは、神との同化については複雑な心境だったことでしょう。
一方神の方は、サイヤ人が強襲してきた段階で彼が魔族でなくなっていた(魔族に殺された魂は彷徨うはずが、ラディッツはあの世に行ったので)ことはわかっていたようで、わだかまりはなかったようです。
ピッコロをベースに融合した2人は、最早ただの戦士でも神でもない、不思議な男となりました。ただ、天界からの別れ際にミスターポポを案じる様子があったことから、神の一面がなくなったわけではないことがわかります。
途轍もない強さというメリットを手に入れた反面、神の属性も引き継いでしまったため、もしも彼が倒れればドラゴンボールも失われ、神龍もいなくなるというデメリットも生まれました。このデメリットについては、人造人間編後にデンデが神の任を引き継いだため、その時点でなくなります。
同化して強くなるのであれば、神と大魔王がそうしたように分裂と融合を繰り返せば最強なのでは、という見方が一部でされています。これは推測しか出来ませんが、おそらく時間をかけて分裂した個体が修練を積まなければ、劇的な成長はないのではないでしょうか。つまり分裂融合で安易なパワーアップは不可能なはずです。
『ドラゴンボール』は強敵との戦いで強くなり、大きく成長するキャラクターが多くいます。ですが変化という点では、初期から最も大きく変わったのは彼でしょう。
サイヤ人・ラディッツの出現で悟空らと共闘した頃はまだ悪ぶっていましたが、来るベジータの襲来に向けて悟飯と師弟関係を結んでからは、激変します。彼は言動こそ厳しいものの、悟飯の立派な保護者になっていくのです。彼の思いやりと優しさは、悟飯をナッパの攻撃からかばうシーンでも明白。身代わりになって死亡するほど、強く悟飯を想っているのです。
また悟飯の保護者としての一面は、人造人間編の終盤、セルゲームでも見られました。彼は滅多打ちされる悟飯を見かねて、怒りながら悟空に詰め寄ったのです。実の親よりも悟飯の気持ちを汲める、彼のかっこよすぎるシーンでした。
そして悟飯も彼の期待に応えるように、彼と同じ服をよく着用します。傍目にも彼らは親子とも違った、強固な絆で結ばれていることがわかります。悟飯が大きくなってからも「ピッコロさん」、「悟飯」と呼び合う間柄は微笑ましくも頼もしいです。
すでにご紹介しましたが彼は地球の神と融合し、とんでもないパワーアップを果たします。
それは人造人間編でのこと。未来トランクスの証言を元に、対策を練っていた悟空達は19号、20号の事件の後に現れた17号、18号に打ちのめされてしまいます。18号から手酷い敗北を喫した彼は、未知の脅威であるセルに危機感を覚えた神との同化に同意しました。元を辿れば1人のナメック星の戦士が、再び1人になったのです。
彼は莫大な戦闘経験と、老練な知識を備えた超戦士となりました。セルとの戦いも頭脳戦で戦い、以前は遅れを取った人造人間たちとも互角以上に渡り合います。
しかし1度はセルを上回ったものの、トドメを刺せなかったことが後を引きました。膨大な生体エネルギーでパワーアップしたセルに重傷を負わされ、敗北。
完全体セルのセルゲームでは、超サイヤ人以外では唯一、セルジュニアに対抗するという活躍をしました。
彼は悟空の最初のライバルにして、信頼の置ける仲間として、長らく本編に出てきます。重要な局面に関わることも多いため印象的な名言も数多くありますが、今回はその中からベスト5をご紹介しましょう。
第5位:
「父のカタキ殺す! 平和キライ!
そのうちやってやるぞ!」
(『ドラゴンボール』14巻より引用)
記念すべき初登場です。先代の大魔王の卵から生まれた彼。デンデよりまだ小さいぐらいの姿で、幼いながらも、早くも悟空を敵視する様子が窺えます。これが後に地球を見守る存在となることを考えると、何か感慨深いものがあります。
第4位:
「地球を……なめるなよ……!!」
(『ドラゴンボール』19巻より引用)
サイヤ人襲来編にて、彼は地球側の戦士として戦いました。ナッパの方は、彼の予想外にタフさに狼狽。苦戦したものの、彼は意地と底力を見せたのです。先代大魔王の影響からは、最早感じられません。
第3位:
「き……きさまといた数ヶ月……
わ……わるく……なかったぜ……
死ぬ……な……よ……悟……飯…………」
(『ドラゴンボール』19巻より引用)
第4位の後に、彼は悟飯を庇って、こう言い残して亡くなりました。あれだけ敵対していた彼が、悟飯との信頼関係で完全に味方側に付いた感動的な場面。師弟の繋がりを越えた情が感じられます。そこには、魔族の面影はどこにもありません。
第2位:
「だが残念だったな……人違いだ……」
(『ドラゴンボール』30巻より引用)
急展開を迎えた、人造人間編の一幕です。突然現れた謎の怪物(セル)からピッコロ大魔王と呼ばれるも、彼は不敵に返しました。この後挙げる第1位の出来事から、かつての大魔王とは存在も考え方も、完全に変わってしまったことがわかる、非常に格好いいシーン。
第1位:
「もう神でもピッコロでもない……
本当の名もわすれてしまったナメック星人だ」
(『ドラゴンボール』30巻より引用)
圧倒的パワーの人造人間17号、18号というピンチに、地球の神と彼は融合を果たします。彼の戦闘経験と神様の知性を併せ持った、名もなき超戦士。悟空曰く、神コロ様ですが。
いかがでしたか? ピッコロという、作品に欠かせないキャラクターの理解が深まれば幸いです。