レズビアンの女の子、ノンケの女の子、ゲイの男の子など、様々な性的マイノリティを抱える人々の恋を描いた『想いの欠片』。ここでは、それぞれがそれぞれの恋を応援し、追い求めていく本作の魅力や見所について紹介します。 切なくてドキドキして、どこか勇気がもらえる、そんな『想いの欠片』がスマホで無料で読めますよ。なお、ネタバレを含みますのでご注意ください。
本作の作者は、自身もレズビアンだという竹宮ジン。デビューは、大人気百合作品を多数輩出している大手百合雑誌「百合姫」です。
以前は同人誌を中心に活動していましたが、初の長編作となる本作『想いの欠片』を執筆するにあたり、一時サークル活動を休止。現在は再開され、同人誌、商業誌、両方で活躍しています。
- 著者
- 竹宮 ジン
- 出版日
- 2011-07-30
1巻には、表題作でもある「想いの欠片」と「Love &Piece」という2つのストーリーが掲載されていて、「想いの欠片」のサブキャラが「Love &Piece」の主人公で、「Love &Piece」のサブキャラが「想いの欠片」の主人公という構図になっています。
「想いの欠片」の主人公は高岡ミカ、女子高生です。女子高生主役の百合作品というと、同性を好きなことに悩んだり、ドキドキと甘酸っぱいものも多いですが、本作の場合、彼女にとって同性が好きなのは当たり前のことで、そのため、それを変に隠したり、誤魔化すようなことを彼女はしません。
- 著者
- 竹宮 ジン
- 出版日
- 2011-07-30
「恋」というものに対して、どこか冷めているミカですが、中学時代にそうなるきっかけがあったよう。心に傷を抱え、高校生にしては達観していて冷静な印象を受けます。そんな彼女とは対照的な人物として、同級生でゲイの高田と、その妹で2人目の主人公であるマユが登場します。
マユは非常に純真で、恋に恋する乙女のような可愛らしい人物。しかしミカとの出会いで、彼女は今まで感じたことの感情、知らなかった世界に触れることになるのです。ミカとマユの出会いは、恋の始まりを感じるような胸キュンさと、想いを抱えるだけではどうにもならない切なさを感じさせてくれます。
「Love &Piece」の主人公は、「想いの欠片」でミカが通っているカフェのマスター・松本タカコ。ミカの良き理解者である彼女には、ルームシェアをしているユイという友人がいるのですが、この2人、ただの友人ではなさそうで……。
「Love &Piece」はタカコとユイの現在と高校時代を描いていますが、注目したいのは「Love &Piece」に登場するミカ。「Love &Piece」は「想いの欠片」から1、2年後を描いているのですが、別人かな?と思うほどミカが表情豊かになっているのです。
「Love &Piece」そのものを楽しむのももちろんですが、ミカを変えたのは誰か、ミカとマユの関係はどうなったのか、予想を立てたり推理をしながら読み進めるとより楽しめますよ。
2巻も1巻同様、「想いの欠片」と「Love &Piece」が掲載されていますが、2巻ではマユの兄でゲイである高田の話も番外編として収録されています。マユの兄らしく非常に乙女な高田が見られるお話となっていますので、高田ファンは必見ですよ。
2巻では、過去の傷を払拭しきれず、まっすぐなマユから逃げたいミカと、ミカがレズビアンだと知りながら、彼女ことが気になって仕方ないマユ。そんな2人の前に、「想いの欠片」の最後の主人公として、マユの友人であるサキが登場します。
- 著者
- 竹宮 ジン
- 出版日
- 2013-05-31
モブキャラかと思われたサキは、意外と主要ストーリーに絡んでくる人物。彼女は、レズビアンなのか、マユのみ好きなのかはかわかりませんが、マユにずっと片想いしていた人物です。
マユがレズビアンでないことと、彼女がゲイである兄を嫌がっていたことから、恋愛を諦め、友好的な友人関係を築いてきていたサキですが、ミカの登場に焦りを感じるようになります。
兄への偏見をなくしたうえ、さらにマユの気になる人物となったミカのことを、サキが快く思うはずはないですよね。人の気持ちの変化というのはどうしようもないものではありますが、壊さないようずっと自分が我慢していたものをポッと出の人間に奪われるのは腹立たしいもの。
ただ、ここで変に逆恨みしたり、感情任せな行動をとらないのが彼女のいいところです。マユを想う彼女がとった行動は……。
優しく真っ直ぐなサキを応援したい気持ちになりますが、どんな拒絶を受けてもミカに立ち向かっていくマユのことも応援したいですよね。読者にとっても苦しい時間が流れます。
自分の気持ちを冷静に制御できるサキと正反対な人物が、「Love &Piece」のユイ。そんな彼女の行動である事件が起きてしまいます。しかしながら、ユイが自分の感情に動かされるままに行動を起こさなければ、タカコとユイはきっと今のような関係にはなれなかったでしょう。
ビターで、胸が締め付けられるような2人の恋の行方は最後まで目が離せません。
3巻ではついに、ミカが恋愛に臆病になった原因の人物が登場。見所はやはり、彼女がトラウマに立ち向かう姿と、そんな彼女を勇気付けたマユの姿ではないでしょうか。
正直、ミカを長いこと苦しめてきた人物のやった行いというのは、いいことではないのですが、大人の世界では普通に有り得るような話でもあります。ただやはり、その行いが人の心を踏みにじっているということは変わりありません。
- 著者
- 竹宮ジン
- 出版日
- 2014-12-25
ミカのマユに対する態度もまた、一見、マユの気持ちやサキの気持ちを無視しているようではあります。しかし、彼女は決してその気持ちを利用したり、傷つけようとしているわけではありません。臆病になった彼女にとって、自分と他人の間に1本線を引くのが、自分が傷つかないための最善策だったのです。
トラウマの人物と出会ったものの、一生懸命マユが自分を励ましてくれたことで、ミカは1つ成長することができます。ミカマユ推しにとっては嬉しい展開となってきました。
2人にはぜひ幸せになってほしい、そう願う一方で、気がかりなのがサキ。恋愛は、恋が叶って幸せになる人がいれば、選ばれなかった人もいるものです。揺れ動く3人の心。彼女たちは一体どんな結論を出すのでしょうか。
また、3巻では「想いの欠片」以外に、高田兄妹や「Love &Piece」の2人の番外編のような話、「想いの欠片」の後日談なども収録されています。
タカコのユイへの気持ちは、高校時代の話ですでに明言されていますが、ユイのタカコへの気持ちは、これまで明言されてきていませんでした。3巻の話でも明らかにはされないのですが、はっきり示されていなくても、彼女がタカコをどう思っているかわかる場面が多々出てきます。
「想いの欠片」の3人の結末を見届けた方は、「Love &Piece」を振り返ってみるのも楽しそうですよ。
『想いの欠片』の魅力は、笑えるだけでなく、苦しさ、切なさ、ほの暗さなどを感じさせるシーンも多いところです。
百合ものも、作品によっては切なかったり悲しさを感じさせるものはありますが、基本的には甘酸っぱく、もしくは非常に甘く、心が暖かくなってキュンとするものが多いのではないでしょうか。
そのなかで、本作は等身大の人間、綺麗なところもあれば汚いところもある、他人を想いやりつつも自分勝手な行動が出てしまう、そんな姿をありありと描いているのです。
恋愛作品というには、あまりにもほろ苦く、真理をつかれてドキッとするような展開も多い作品ですね。ファンタジーのような「百合」ではなく、セクシャルマイノリティとしての「レズビアン」を描いているため、そう感じるのかもしれません。
恋というのは、「相手が好き」「幸せ」という綺麗な気持ちだけでなく、「嫉妬」や「憎悪」など、自分ではコントロールできない、醜い気持ちも溢れ出てくるもの。その自分勝手な想いを美化するのではなく、ただありのまま表現しているのが、本作の魅力のひとつですね。
最終回では、ミカ、マユ、サキが、それぞれに対する想いに決着をつけるのですが、おそらく多くの読者が想像する以上に平和な終わり方となりました。恋というのは成就しても失恋しても、人を成長させるのだと感じられる展開です。
「嬉しい・楽しい」、「悲しい・辛い」、「憎い・妬ましい」、様々なことを感じていたとしても、一旦区切りをつけてしまえば、次にやってくるのは穏やかな時間です。それぞれの恋の形に一区切りつけた彼女たちにも、その時間はやってきます。
気持ちが冷めるというわけではなく、すべての想いをさらけ出すことで、前向きになれるのです。ミカはトラウマを克服することで2人より先に前へと進み、それを追うようにして、マユとサキも未来へと進んでいくことに。
彼女たちが恋に一生懸命になった時間は、これからも続く日常のほんの一部であって、決して区切りをつけたからといってそれで終わるわけではありません。彼女たちの築いた関係はこれからも続いていきますし、彼女たちはこれからも恋をしていきます。
最終回は、ひとときの恋に身を焦がし、友情とは違う絆で繋がった少女たちによる、優しい終わり方となっていますよ。
- 著者
- 竹宮 ジン
- 出版日
- 2011-07-30
全体的にほの暗さがある作品ではありますが、根底にあるのは純粋な恋心。『想いの欠片』では恋愛の本質を丁寧に描かれています。綺麗なだけではない百合作品が読みたい方は、無料で読めるこの機会に、ぜひ読んでみてはいかがでしょうか。
『想いの欠片』は、同性を好きになることは異性に恋をすることと何にも変わらない、そう思わせてくれる作品となっていますよ。