臭ければ臭いほどいいじゃない【望月綾乃】

更新:2021.3.29

夏が来ます。逃げ出したい。

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今月の頭、ミツカンが自社で製造販売している納豆の一部を1~2割ほど値上げするというニュースが耳に入ってきました。実は2カ月前にも、おかめ納豆で知られるタカノフーズが自社製品の値上げを発表しています。

原因は大豆の不作、原料費や人件費の高騰など。ニュースではビールやたばこの値上げと共に、「悪いインフレに突入」「消費の鈍り」などと報道されていました。

しかし、私は思うのです。

そもそも、こんなに素晴らしい食べ物があんな安価で売られていた世の中がおかしかったんじゃないの?と。

どう考えても安すぎるでしょう! あんなに美味しくて栄養価の高いものが、3パック100円程度で買えるんですよ、正気の沙汰じゃないですよ、わたし1パック100円、いや、200円でも普通に買いますよ、だって好きなんだもん!!!!

思えば、幼いころから狂ったように納豆を食べていた私。これまでに一体何パック消費したのでしょうか。五歳から食べ始めたと仮定して、一年365日中300日は確実に食べているので、単純計算で7500個。ななせんごひゃく!! すごい数です。

移り気で何事も長続きしない私ですが、納豆を食べることに飽きたことは無いのです。むしろ、歳を重ねるごとに納豆の奥深さに魅了され、その想いは加速するばかり。常に納豆のことを考え、納豆と共に生き、納豆から納豆へ旅をして、帰る場所もまた納豆なのです。自分でも何を言っているのかわかりません。

最近は最早、「どう納豆を美味しく食べるか」という点に照準を合わせて食事をしている節さえあります。パスタやカレーに合わせるのはもちろん、ひき肉と混ぜてレタスで包んでサラダスタイルでいただいてみたり、ペーストにしてクラッカーにのせてお洒落なおつまみにしてみたり。

「この食べ方美味しいのかな……?」なんて不安を抱くことも、「美味しそうだな、楽しみ!」なんて期待に胸を膨らませることも、最近では少なくなってきました。だって、どんな食べ方をしても、納豆は決して私を裏切ることはないのだから。そこにあるのは不安や期待なんかじゃなく、絶対的な信頼。当たり前に、美味しいに決まっているのです。世の中に絶対は無いと言いますが、私は、ひとつだけ存在する絶対を知っています。それが、納豆。ナットウ。NATTOU。納豆こそ真理、神羅万象を突き詰めた先には、そう、ただ、納豆があったのです。個人差があります。

味もさることながら、私は納豆を「混ぜる」という行為にも大変に浪漫を感じています。

「たくさん混ぜると美味しくなるよ」と母親に言われ、少しのお醤油と鰹節を入れてたくさんたくさん混ぜた納豆。混ぜただけなのに、この美味しいものがまるで自分の手によって作り出されたかのように思えて、とてもうれしかった。それは小さいけれど紛れもないひとつの「達成」の体験でした。その成功体験をなぞりたくて、頻繁に納豆を食べるようになったのかもしれません。

謎のアジア納豆 そして帰ってきた〈日本納豆〉

著者
高野 秀行
出版日
2016-04-27

ミャンマーの小さな村の民家で納豆そっくりの料理を出されたことに端を発し、ミャンマー、タイやネパールなどで食されている日本の納豆に作り方も味もよく似た食べ物、通称「アジア納豆」を取材し、日本の納豆のルーツを探るノンフィクション。

日本の糸引き納豆の起源は諸説あるのですが、藁に煮豆を包んで発酵させる、なんて奇妙な行為を作為的にやったとは思えないので、おそらく放置していたら偶然的に今でいう納豆の状態になっていたと考えるのが自然なのでしょうが、すごいのは一番最初にそれを食べようと思った人ですよね。だって臭いんだよ。糸引いてんだよ。豆が。無理、絶対無理。意味わかんない。即捨てた方がいい。それでも、「もしかして美味いんじゃないか?」と思って食べたヤツがいる。すごい好奇心ですよね。

そう考えると、納豆と好奇心のみを原動力に世界中を渡り歩くノンフィクション作家の高野秀行さんって物凄く相性がいい感じがして来ます。

高野さんがレポートするアジア各国の納豆料理の美味しそうなことよ!!

ネパールの納豆タルカリ(カレーのこと)は、ただの納豆トッピングのカレーなんかじゃなく、ネパールの干納豆・キネマを野菜やスパイスと一緒に煮込んだ、本格的に納豆が主役のカレー。

納豆、ニンニク、唐辛子、パクチー、クミン(好きな人にはこの文字の並びだけで垂涎もの……)などを混ぜてペースト状にしたものを魚に詰めて焼いたミャンマーの「パー・ナンピック」なんて、もう、今すぐにあたしをミャンマーに連れてって!と叫び出したくなるほど美味しそう。

ほかにもせんべい納豆や蒸し納豆、中国の納豆ホイコーローなど、一度は食べてみたい変わり種納豆料理満載です。

それぞれの納豆に地域性や民族性が出ていてみんな違っていて楽しい。

あと個人的に衝撃だったのは、秋田県南部に、元旦にお雑煮ではなく納豆汁と米と鮭(なんで鮭?)を食べている地域があるという事実。お餅がそんなに好きではないのでお雑煮も得意じゃない私、来年の元旦は秋田県で過ごそうかしら……。