なんとかわいそうな名前をつけられたものだと、気の毒にも思えてしまうアホウドリ。しかしその実態を知れば知るほど「アホ」とは程遠い存在だとわかってきました。そんな彼らの生態や保護活動などについて、関連書籍と一緒にご紹介していきます。
名前からは想像つかないほど美しく、愛らしい鳥です。分類はミズナギドリ目アホウドリ科。国内希少野生動植物種に指定され、特別天然記念物にもなっている貴重な生物です。
全長は84〜100cmと比較的大型で、翼を開帳したときは最大で240cmにもなるといわれています。鳩やカラスほどの大きさだろうと誤解している場合も少なくありませんが、その理由は彼らが希少であるのと同時に、そもそも間近で見る機会の少ない「海鳥」だということもあるでしょう。
アホウドリは子育てをする時以外は、一生のほとんどを海の上で過ごします。食性は肉食で、主に海洋生物である魚類、軟体動物、甲殻類を捕食しています。
陸上で子育てをする際は、群れを形成して生活。1年に1回、10月〜11月にひとつだけ卵を生み、オスもメスも交代で熱心に卵を温めるのです。雛が巣立つまでには4ヶ月強かかり、立派な羽を持つ成鳥になるまでは10年ほど。寿命は20年前後といわれています。
生息地としては、夏季はベーリング海やアラスカ周辺、冬季に日本近海へ渡って、繁殖のために伊豆諸島や尖閣諸島北小島、南小島などを住処にします。数は少ないですが、小笠原諸島でもその姿が確認されているようです。
まずアホウドリ科に属する鳥は22種います。大半が自然豊かな南半球に分布。1種のみ赤道に生きていて、3種が北半球で生きています。
日本で確認できるのはクロアシアホウドリとコアホウドリです。
クロアシアホウドリは北太平洋で2番目に大きな海鳥いわれていて、天気が荒れている時でも力強く飛ぶ姿が確認されています。その名のとおり全身が黒に近い灰色や茶色で、成鳥になると白いラインが入ることもあるようです。
コアホウドリは白が目立つ体をしています。背面や翼は黒ですが、お腹が真っ白。くちばしは淡いピンク色で、美しい見た目だといえるでしょう。最大の特徴は寿命の長さで、最長66歳という記録をもっています。
海外に生息している種のなかで、ガラパゴスアホウドリは、その名のとおりガラパゴス諸島のエスパニョラ島に多く生息しています。黄色いくちばしが美しく、求愛をする際はくちばしを付け合わせて右に左にダンスをするそう。
互いがのってくると動きが激しくなり、まるでチャンバラごっこで遊んでいるようにも見えます。その微笑ましい姿にファンになってしまう人も少なくないようです。
見た目も美しく子育て熱心で、島を渡りコロニーを形成するアホウドリ。どう考えても賢く生きているようにしか見えませんが、なぜこんな名前がついてしまったのでしょうか。それは彼ら自身に問題があるというよりも、人間との関係性に原因があるようです。
実はアホウドリは、警戒心があまり強くありません。人間が近くにいても身を隠すようなことはせず、堂々と生きています。だからといって攻撃をしてくるわけでもなく、彼らはただ共存を認めているだけ。
ところが、アホウドリの羽毛を使って商売をしようとする人間がいました。たしかにその羽毛を使った商品は美しく手触りもよいため、高級品として売れたのです。そんな人間にとって警戒心の低いアホウドリは、捕まえやすい鳥だといえるでしょう。
捕まえようとしても逃げない、という意味で「アホウドリ」という名前がつけられました。人間の傲慢さが名に表れている皮肉な由来があったのです。
改名の動きもあり、長崎県で使われていた「オキノタユウ」や、尖閣諸島の山にちなんだ「信天翁(しんてんおう)」などと呼ばれることもあります。
今でこそ絶滅が危惧されて保護対象となっているアホウドリですが、最初から貴重な生物だったわけではありません。むしろ船乗りが漁に出れば魚をもらおうとついてくる、海上ならどこでも見かけられる鳥だったのです。
ところが、彼らの羽毛はさまざまな商品に活用できることがわかりました。羽布団をはじめ、女性用の帽子や高級ガウン、クッションなどにも使われはじめ、乱獲が発生します。外国との貿易が盛んになりはじめた19世紀後半頃です。また明治20年頃に日本の業者の作業員を島へ送り、大量に捕獲、虐殺した記録が残されています。
そして第二次世界大戦後になると、その姿をほとんど見ることがなくなってしまいました。
保護の活動が盛んになったのは1993年頃のこと。財団法人が募金で1000万円を寄付し、本格的にプロジェクトが動き出しました。2005年には伊豆諸島の鳥島で新繁殖地の形成に成功します。2008年には2000羽以上の数に増やすことができました。
今後の取り組みとしては、火山などの噴火の恐れがない小笠原諸島に繁殖地を設けて、個体数を増やしたいと考えているようです。アホウドリが安心して暮らせるよう監視カメラや人工衛星を使い、関係者たちが見守っています。
- 著者
- 長谷川 博
- 出版日
- 2015-05-19
40年以上もの間、アホウドリの保護活動をしている実績を誇る長谷川博の作品です。
1949年、アホウドリは1度絶滅を宣言されています。この世から消えてしまったとされた鳥が、実はまだ生きていた……その事実を知った時の作者の熱い思いはいかほどだったでしょうか。今にも消えてしまいそうな貴重な鳥を守るため、人生を捧げて調査に挑みます。
無人島での生活など、サバイバルな暮らしっぷりも読みごたえ十分。文体も読みやすく、小学生でも読めるでしょう。本書以外にも子ども向けの作品を数多く発表している作者なので、表現や解説のわかりやすさに定評があります。
- 著者
- 馬場 のぼる
- 出版日
- 1972-11-10
人気の「11匹のねこ」シリーズにアホウドリが登場します。
このシリーズが子どもたちに愛され続けている理由は、ユーモアのセンスといえるでしょう。物語を理解しはじめるようになった年代になると、物語の「面白さ」に快感を覚えるようになります。それが読書好きへのきっかけになることも珍しくありません。
ほのぼのとしたイラストと文体でつづられる作品なので、読み聞かせにもぴったり。ぜひ最後に大きなアホウドリが出てくるところで、子供と一緒に大笑いしてください。
子ども向けですが、いわゆる「ベタさ」はありません。きちんとしたキャラクター設定と練られたストーリーが、違和感なく作品の世界観へと誘ってくれます。