おどろおどろしい描写と、主人公の陰湿で恐ろしい雰囲気ながらも、どこか深いテーマを感じられ、読むのを止められなくなるホラー漫画が「不気田くん」。すでに絶版となっている作品でありながら、強烈なインパクトも相まって未だに根強いファンがいる作品となっています。 今回はそんな本作の魅力を、結末までご紹介していきます。
本作の主人公である木田不美男、通称・不気田による女の子達に対する歪んだ愛情が詰まったエピソード、『愛の標本箱』です。彼はアラクネというギリシャ神話の登場人物がモデルになったキャラに心臓を黄泉の国へと奪われ、空虚な胸を埋めるため、本当の愛を探しています。
基本的に本作は、彼による女の子達への異常な愛、いってしまえばストーカーまがいの行動を描いたエピソードが中心の作品となっています。特にこの『愛の標本箱』と、続巻の『鏡の国のアリス』は、きわめてその傾向が強く表れているのです。
そのため、読後感はねっとり、まとわりつくような後味の悪さが残るものが多いといえるでしょう。本巻は、そんななかでも、彼の気色悪さを紹介するためか、特に陰湿で陰惨な話が中心です。
不気田くん 愛の標本箱
冒頭のエピソードは、勝気で口の悪いクラスメート、マツ子を追い掛け回した挙句、事故によって彼が死亡するという、衝撃的な展開からスタートします。
しかし、ホラー作品らしく普通でないのは、死亡したはずの彼には不思議な力が備わっており、ゾンビとして復活してでも彼女を追い回すという、異常なまでの執着を見せる部分です。
これにより、彼が単なる気味の悪いストーカーではなく、悪意に満ちた妖怪のような存在なのだと理解する事が出来ます。そして、混乱と恐怖によって逃げ惑うマツ子は、最終的にダンプカーにはねられて死亡するという末路を辿ってしまうのでした。
このように、彼に関わった女の子達は、たいていの場合は不幸な結末を迎えてしまうのです。『愛の標本箱』では、他にも隣のクラスの美少女である蝶子や、新人アイドルの中林ミコ、不気田を診察した開業医の霧崎先生、5歳でわがままな幼女マリモといった、多種多様な女性達が登場します。
しかし共通しているのは、どの女性も、どこかに人間として醜い部分を持っているということです。彼によって付きまとわれた挙句、不幸な結果となってしまう背景には、作者による彼女達の酷い振る舞いに対する戒めの意味が込められているのかも知れません。
そんな本作のなかでも、見所かつ少し毛色が異なるエピソードが、夢子という眼鏡をかけた、漫画を描くのが趣味の女の子が登場するエピソードです。
この話も、彼女が一方的に不気田からひどい目に遭わされるという点については変わりません。ですが結末は夢子が真実の愛として幼馴染のヤナセによって救われ、その愛の形によって不気田の心が揺れ動くという、これまでにない形で終わりを迎えます。
単なる後味の悪いホラー作品で終わらせない、そんな魅力の片鱗が見える展開だといえるでしょう。
前巻同様、一話完結型で女の子達に付きまとう不気田のエピソードが中心です。
不気田くん 鏡の国のアリス
美声を持つ合唱部のエースひばり、美人であるものの、顔の半分が爛れてしまっていることでいじめを受けている亜里須、幼少期に不気田と遊んでいた人形と、その人形の持ち主ドンナ、美術部の部長であるリサなど、これまたいろいろな女性が出てきます。
いずれの女性もやはりひどい結末を迎える事になるのですが、そんななかでも見所のエピソードは、ドンナのエピソードではないでしょうか。
彼女については、不気田が恋をしたのは女の子の方ではなく、なんと人形の方という少し特殊な愛情を描いています。もちろん結果として、女の子のドンナは残念な結末を迎えるのですが、この話では彼が直接手を下したわけではなく、彼女自身が勝手に破滅に向かったというところが、これまでとは異なる部分です。
人間の醜さへの制裁という観点においてはこれ以上なくはっきりしているため、読後感は意外にスッキリしているという、本作において貴重な話だといえるでしょう。
第1作目としては最終巻となる、本巻。これまでとは少し方向性が変わり、どちらかというと悲恋を描いたエピソードが中心になってきます。
不気田くん 赤い糸の伝説
登場するのはイモ虫と呼ばれるくらいに肥え太った鯛子と、編み物が趣味で、美人だが誰も愛さない九根子、そして作中で唯一、不気田を愛した女性である山田です。
全てのエピソードに共通しているのは彼との間に、少なからず愛情に関する描写があることです。特に、九根子と山田については、2作品目にも繋がる重要なキャラクターでもあります。
九根子は、不気田が死ぬことの出来ない不思議な体となってしまったきっかけの女性「アラクネ」の生まれ変わりであり、彼の想い人でもある女性です。対して山田は、好奇心から彼に近付いたものの、彼からの愛情を受ける事が出来ません。
いずれもこれまでとは違い、不気田の一方的なストーカーだけでは終わらない関係性のキャラクターであるため、彼女達2人が登場するクライマックスのエピソードは、見所といえるでしょう。
特に最終話の山田とのエピソードは、彼女の愛情によって、一瞬だけ彼にかけられた不死の呪いが解けかけ彼の素顔が明らかになるのですが、その顔がなんと、とんでもないイケメン!
これまで陰湿で不気味な印象でしかなかった彼に対し、読者もまったく違った印象を持つ事が出来る話となっていますので、必見です。
前作『不気田くん』が終了し、その続編として描かれているのが、本作です。前作から引き続き、多くの女性が登場するのですが、その多くがどちらかというとホラーよりは悲恋に重きを置いたエピソードとなっています。
真・不気田くん
特にアラクネの生まれ変わりである女性である奇子と糸子については、不気田からの愛情が決して実を結ぶ事はなく、片思いが続く事になるという、なんとも切ない展開です。
逆に、彼に想いを寄せる女性も登場します。なかでも前作で登場した山田の成長後の姿である山田博士や、初めての女友達ユキなどに注目です。しかし、ついに別れの時まで彼から愛される事はないまま、その恋を終えてしまうのでした。
そんな本巻の見所は、何と言ってもそんなユキとのエピソードでしょう。
彼女は彼から、異性としての愛を向けられる事はありませんでした。しかし、初めて友人として認められた女性です。お互いにはっきりと好意を持ちあう事がなかったこれまでと違い、良好な人間関係を構築した貴重なキャラクターであるといえるでしょう。
さて、ここまでご紹介してきた「不気田くん」シリーズ、いかがだったでしょうか。彼については、『不思議のたたりちゃん』という作品に登場するたたりちゃんとのエピソードを描いたスピンオフ作品にも出演するなどしています。
また、クラウドファンディングによって続編を制作する資金が募られるなど、制作側からもなんだかんだで愛されている作品。